12話〜名家の生徒達〜
「もー、聖夜君遅い!」
剣道場に入って早々、聖夜を迎えたのは雫のそんな声とむくれ顔だ。少し後ろを付いて来ている時雨のことはまだ意識していないらしい。
「なんでこんなに遅れたの?」
「あー、ウチのクラスに来た転校生二人に部活案内をしてまして。こいつがその一人なんですけど」
聖夜がそう言うと、時雨が雫に綺麗な一礼。そこでようやく、雫が時雨の存在に気付いたらしい。彼女も慌ててお辞儀をした。
「あっ、こんにちは。……えっと、剣道部に入りたい、ってことで良いのかな?」
聖夜と時雨が揃って頷くと、雫は顔を綻ばせた。
「そっか、これからよろしくね。私は阿良峰雫、剣道部の部長です」
「阿良峰先輩、ですね。私は風鳴時雨といいます」
「うん。時雨ちゃん、だね。私のことも名前で良いよ?」
「あっ、分かりました。……それでは雫先輩、よろしくお願いします」
和やかな自己紹介の後、雫が思い出したように言った。
「あ、そうだった。一年生の女の子が一人、聖夜君を探していたんだけど……」
「ええ、心当たりはありますよ……とにかく可愛い子でしょう?」
「うん、確かに……」
雫がそう言い切らぬうちに、彼女の後ろから一人の少女が小走りでやってきた。噂をすれば何とやら、瀬那である。
彼女はまず聖夜を見つけると、不満たらたらな表情で、
「せんぱーい、遅いですよってお姉様!?」
ついで時雨を視界に入れた途端、彼女の口から素っ頓狂な声が飛び出た。その声と、恐らく時代錯誤なその呼び方のせいで、聖夜達は剣道場全体の注目を一瞬で集める。
だが、そんなことは全く意に介さず、瀬那は時雨に飛び付いた。
「お久し振りです! お元気でしたか?」
「ええ。瀬那ちゃんも元気そうで何よりだわ」
仲睦まじく話す二人。ちなみに、聖夜以外の剣道部員は呆気に取られている状態だ。
「でもね、外で『お姉様』はやめて欲しいんだけど……」
「あっ、ごめんなさい。……えっと、時雨先輩」
「うん。それでお願い」
えへへー、と笑う瀬那。それに釣られて、時雨と聖夜にも微笑みが浮かぶ。
だが同時に、剣道部員達も我に帰った。その中でも、特に雫が真っ先に動く。
「えっと、とりあえず準備しようか」
「はい。……すみません、二人がご迷惑を」
「ううん、別に迷惑じゃないから大丈夫だよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
道具の準備、そして着替えを終えた時、雫がふと聞いた。
「そういえば、風鳴さんって剣道経験者なの?」
「あ、はい。一応は……」
「……強いですよ、時雨は」
聖夜がぽつりと口を挟む。時雨が驚いた様子で口を開こうとしたが、それより先に雫が嬉しそうに言った。
「へえー、聖夜君がそこまで言うなら相当だね」
「いえ、私はそんな……」
「謙遜すんなって。……何なら、ウォーミングアップ代わりに一戦やるか?」
時雨は即座に首を横に振ろうとして、ふと考えた。
(……今の私は、聖夜にどこまで通用するんだろう)
数年前は辛うじて互角に持ち込めるかどうかのレベルだった。時雨とて今では全国大会の常連だし、それに恥じない量の練習もしている。しかしそれは聖夜も同じであり、彼の腕前がどれほどまでに上がっているのか、久しく見ていない彼女には分からない。
だからこそ、それを見てみたい。そして、自分の実力を彼に少しでも認めてもらいたい。
「……こちらこそお願いするわ」
それを聞いた聖夜は少しびっくりしたようだった。しかし、彼はすぐに笑みを浮かべて、
「そうか。………ということで阿良峰先輩、ちょっと打ち合っても良いですか?」
「うん、良いよ。私も見てみたいし」
部長からの承諾も得られたので、彼らは早速空いているスペースへ。すると、瀬那が早速それに気付いて声をかけた。
「あっ、時雨先輩だけズルい!」
その声に、彼女の周りに居た一年生達も聖夜達に視線を向けた。何が始まるんだと期待の目で。
時雨が苦笑して言った。
「瀬那ちゃんも、私が終わったら聖夜に相手してもらったら?」
「あ、じゃあそうします!」
「おい待て、俺の意見は……ああもう、分かった分かった」
すかさず反論しようとした聖夜だったが、即座に二人からジト目を向けられてしまった。こうなれば、もう彼が折れるしか無い。そして、彼女達は分かってやっているから余計タチが悪い。
傍で見ていた雫が独りごちた。
「これから大変そうだなあ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
新入生が雫の周りに集まり、少し本格的になってきた説明を聞く。その他の基礎的な話――例えば、剣道とはどういうものかなど――は、聖夜が来る前に終わっていたようだ。
聖夜は雫の横に立ち、彼女の補佐という副部長としての仕事を全うしていた。もっとも、彼の本格的な仕事はここからである。
「先輩、ここってどうやって……?」
「ん? ああ、ここはこうしてっと……」
このように、剣道初心者の質問や、困っていることに対処するのが彼の仕事だ。今も一人、彼は男子生徒の着付けを手伝っていた。
「……ほいっと。まあ、何度もやってれば自然と慣れてくるから、今は上手く出来なくても大丈夫だよ」
「は、はい!」
……こんな聖夜の様子を、一人の男子生徒がある種尊敬の視線で見ていた。
(月影聖夜先輩……やっぱり、凄く大人びた人だ)
その少年は聖夜の一挙手一投足に注意を払っていた。しかし、別段意識を割かなくとも、周りとは違う聖夜の仕草にはすぐに気付くことが出来たのだが。
(剣道も強いし、顔も良いし……それでいて人柄も良くて、その上所作まで綺麗なんて、嫉妬すら出来ないや)
彼が聖夜のことを知ったのは一昨年のこと。彼とは別の中学校――聖夜の所属していた中学校に通っていた彼の女友達から、聖夜についての噂を聞いたのだ。曰く、バンドをやっている、とにかくカッコいい先輩が居ると。
そして、その先輩が剣道部の部長をやっているということまで聞いた時、途端に興味が湧いた。その時は彼も剣道部に所属しており、それなりに自信もあった。そこで彼は、聖夜の剣を見てみたくなったのだ。例年強豪の中学校、そこで部長を務められるような人物を。
……もう一つ付け加えれば、聖夜のバンドを見てみたかったというのもある。その頃ちょうど、彼は音楽をよく聞くようになっていた。
しかし、その機会は中々訪れなかった。寧ろ、剣道より先に聖夜のバンドを見ることになったのだ。少年がその友達に招かれた音楽祭で、聖夜は有志としてステージに立っていた。
その時の感覚を彼は忘れられなかった。一目見ただけで、普通の中学生とは何かが違うと言うことを直感的に感じ取ったのだ。
その後、その女友達が聖夜と仲良くしていたこともあり、彼は聖夜と少し会話することが出来た。近くで見た聖夜はより大人びて少年の目に映り、改めてその違いを感じたのである。
その時から、彼は聖夜に対して尊敬と羨望を抱いている。先程の聖夜の剣を見てからは、それがさらに強くなった。
しかし、果たして向こうは覚えてくれているだろうか。彼自身、自分はあまり目立つ方ではないと自覚しているので、どうにも自信が無い。
とはいえ、話しかけてみないことには分からない。彼は意を決し、聖夜に声を掛けた。
「あの、月影先輩……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ん?」
自分の名前を呼ばれた気がして、聖夜はそちらへと振り返る。そこには、どうやら彼の名前を呼んだらしい少年が居た。
顔は整っているが、どことなくあどけなさを残したその少年を、聖夜はどこかで見たことあるなと思いつつ……。
「……あっ、もしかして叶斗君か?」
言った瞬間、少年はパッと顔を綻ばせた。聖夜が思い出したその名前はどうやら正解だったらしい。
聖夜が彼の元へ歩いていくと、彼も聖夜の方へと小走りで寄ってきた。
「久し振り。この学校に入学してたんだな」
「はい。……俺の名前を覚えてくださってたなんて、光栄です」
「まー、名前はな。それに『光栄』なんて大げさだよ」
言った瞬間、聖夜はそうかと思い出して、
「そういや、叶斗君の苗字は聞いてなかったな」
「えっ? あっ、それどころか自己紹介すらしてない……」
と、叶斗が目に見えて落ち込み始めた。それだけに留まらず、「なんて失礼な事を……」という呟きまで聞こえてきたので、聖夜は慌ててフォローする。
「や、別に気にしてないから。聞かなかった俺も悪いんだし」
努めて柔らかく言ったせいか、叶斗の表情も安心したように和らいだ。
しかし、こうも聖夜の発言に影響されている叶斗を見ると、彼の聖夜に対する尊敬や憧憬は少々過剰なようにも見える。ともすれば(無論そんなことはないのだが)、叶斗がそういう趣味を持っていると捉えてしまう人もいるかもしれない。そう見えるくらいには、叶斗は聖夜を慕っているのだ。
もちろん、聖夜だってそれには気付いている。ただそれが何故なのか理解出来ていないのだが。
「それじゃ、改めて自己紹介かな。教えてくれるか?」
聖夜が仕切り直すと、叶斗は背筋を伸ばして言うのだった。
「黒写叶斗です。よろしくお願いします!」
……その元気な声を聞いた時、聖夜は微笑をもって返したが、しかしそれは内心の驚きを隠すためだった。
(黒写って、まさかあの……?)
思考に入った聖夜。だがそれを訝しく思い、叶斗が控えめに声をかけた。
「……先輩、どうかされましたか?」
「ああ、いや……」
聞いていいものなのか、聖夜は悩んだ。所謂『家柄』に関係する事だ。自身の家系を誇りに思う人もいれば、嫌う人もいる。迂闊に聞けるものではない。
……しかし、やはり好奇心には勝てなかった。また聖夜は、彼ならば例え失礼であったとしても許してくれるだろうとも思っていた。
「……叶斗君のその苗字、もしかして『色家』か?」
しかし、その言葉を聞いた叶斗は、思わずぽかんとした表情のままで固まった。聖夜がしまったと顔を微かに歪めたが、叶斗が感じたのは聖夜の懸念するものでは無い。
(えっと、なんで先輩が『色家』のことを知ってるんだ? 普通は知らない言葉なのに……)
叶斗が感じていたのは純粋な疑問。今のご時世、日本では『色家』という言葉はある程度名家の人間からしか聞かれない。少なくとも、一般高校生が知っている可能性は低い言葉だ。歴史好きか、あるいは……。
(……ん? そういえば『月影』って苗字、どこかで……)
その可能性に至った時、叶斗はふと何かを思い出した。昔、どこかで聖夜の苗字を聞いたことがあったような、そんな記憶が引っ張りだされてきたのだ。
だがその思考は、聖夜の申し訳無さそうな声に遮られた。
「いや、すまん。少し気になっただけなんだ。迷惑だったよな」
「いえ、別に迷惑ってわけでは無いですよ。ただ先輩から『色家』って言葉が出てきたのが意外で……」
「……ああ、そりゃ確かに。普通の人達は知らないもんな、『色家』っていうのは」
納得顔で聖夜が頷くのを待ってから、叶斗は質問に答えた。
「先輩のご指摘通り、俺は色家『黒写』の人間です。……って言うと偉そうに聞こえますけど、特別何かに優れている訳ではありませんけどね」
それよりも、と。
「先輩こそ、どうして『色家』なんて言葉をご存知だったんですか?」
聞かれると、聖夜はしばし悩む素振りを見せたが、
「まあ、叶斗君なら大丈夫か。実はね……」
微笑みを浮かべ、聖夜は驚きの言葉を口にした。
「……俺は五行師族の一つ、『月影』の人間なんだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「五行師族……!?」
あまりに突然過ぎたおかげで、驚きのあまり叶斗は逆に声が出なかった。
(五行師族っていったら、色家よりも上に位置する一族じゃないか……!)
国内はもちろん海外でも強い影響力を持つ、国内にたった五つの家系。それが五行師族だ。色家もかなりの権力を持っているが、五行師族はそれを凌駕する。
と、叶斗はようやく思い出した。
(そうか。五行師族の苗字なら、いつぞやに聞いたことがあるのも当たり前だ)
色家でなくとも、由緒正しい家柄の人間ならば間違い無く知っているだろう。寧ろ何故今まで気付かなかったのか、叶斗はそこを不思議に思った。
(それにしても、あの『月影』の人だったなんて……。五行師族といえば、他にも『風鳴』とか『雪宮』とかが)
そこで思い至り、再び驚愕。その二つの苗字は、ほんの数分前に聞いたものだった。
「せ、先輩!」
「どうした、そんな驚いて?」
澄ました顔で聖夜が聞き返す。叶斗が驚いていることについては、特に何も思っていない様子だ。
それでも、叶斗は聖夜へ早口に言った。
「さっき先輩と戦っていた人達も、まさか五行師族ですか!?」
おお、と聖夜が呟いた。感心したというより、まるで褒めているような口振りだ。
「よく気付いたな。誰かから苗字を聞いたりしたのか?」
「ええ、周りの人達が言ってたのを聞いて……」
そんな事よりも、と詰め寄らんばかりの叶斗を手で制し、聖夜が穏やかに言った。
「ご存知の通り、あの二人は『風鳴』と『雪宮』だよ。つまり、俺も含めて『三音の一族』の本家がこの学校に居るってことになるね」
さらりと聖夜は言ってのけたが、これは中々の重大事項だ。特に、叶斗のような『色家』にとっては。
「五行師族が三家もこの学校に居るなんて……」
「まあ、そりゃ驚くよな。……でも俺も驚いたんだよ。この学校に居る『色家』のことで」
唐突に言われ、叶斗は自分の思考もそこそこに疑問顔を向けた。今考えていた重要事項よりも、今の聖夜の発言の方が気になったのだ。
「『色家』のことで……ですか。一体何に?」
「……この学校、随分と『色家』の人間が多くてね」
質問に答えたというよりは、どちらかといえば独り言のような言葉。故に、そこに何か深い意味があるのではないかと探った叶斗だったが、その様子を見て聖夜が苦笑しながら言った。
「そのまんまの意味だよ。俺の知る限り五人……いや、あの子もこの学校に入学してたから、そうすると六人か」
「あの子?」
「仁美ちゃんだよ。今さっき気付いたんだけど……あの子の苗字は確か『白銀』だったはずだから、あそこも恐らく『色家』だろう?」
そうか、と叶斗は気付く。聖夜に自分を紹介してくれたあの少女……白銀仁美のことだ。彼女が色家であることは随分前から知っていたが、それに聖夜も思い至ったということだろう。
「はい。仁美も色家の人間です」
「やっぱりな。……それでだ、そうするとこの学校には、色家が六人、五行師族が三人も居ることになる」
すると、聖夜の声のトーンが一つ落ちた。それを不思議に思い、叶斗が表情で先を問うと、聖夜はゆっくりと言う。
「……だけど、そんな状況下で、各家の間に何も問題が起きないとは言い切れない。寧ろその可能性の方が低いだろうね」
そこでようやく、叶斗にも彼の言わんとすることが理解出来た。
「ここは学校だ。……でも、この学校では生徒の自由度が高い。家の諍いが、生徒会や風紀委員、部活なんかにも飛び火したとしたら……まあ、かなり面倒なことになる」
面倒な、とあえてぼかして言ったのは聖夜の些細な気遣いだ。
「もちろん、そうなったら五行師族が止めるけど……後腐れなく、とはいかないだろうし」
名家間の争いの厄介さは、聖夜はもちろん叶斗もよく知っている。中には何年も前からそういうのが続いているところもあるのだ。それらがこの学校に持ち込まれないとは限らないし、もしそうなれば生徒の間に余計な軋轢が生まれかねない。
「そう……ですよね。俺と仁美だって、親同士は仲悪いですし」
「ああ、そっか。『黒写』と『白銀』は昔から仲悪かったもんな。……逆に何で君らは仲良いんだ?」
面倒な諍い、その一例を嫌というほど知っている叶斗は、それを思い出して内心で辟易。だがそれでも、聖夜の質問にはすぐに答えた。
「俺達は最初、お互いに『色家』だって知らなかったんですよ。知り合って少ししてから気付いて、でも別に俺達には関係無いや、ってな感じで仲違いはしなかったんですけど」
それを聞いて、聖夜は素直に感心した。ずっと昔から続いている確執を「関係無い」と言い切り、その相手の子と仲が良いままでいられるのは、彼らがそれだけ互いを大事に思っているということだ。逆に言えば、そういうのが今まで両家には無かったということでもあるが。
「……そりゃまた、凄いな。そんな簡単にはいかないよ、普通」
聖夜がそう言うと、意外なことに叶斗も同意見だったようだ。
「俺もびっくりしましたもん、あの時。まさかあんなにあっさり話が終わるなんて思ってなかったから」
「そりゃそうだ。……つまり、仁美ちゃんも大人だったってことだな」
確執をものともしないのは、ひとえに彼らの考え方が大人だったからであろう。あるいはその逆で、とことんまで純粋だったのか。照れ隠しにはにかんだ叶斗の雰囲気からは、そのどちらとも取れた。
「せんぱーい!」
と、そこへ元気な女の子の声。聖夜が振り向いてみれば、こちらへ歩くやはり瀬那の姿があった。
「おー、どうした?」
「いえ、特に何がってわけでは無いんですけど……」
そこで彼女は叶斗に気付き、笑顔を見せて言った。
「あっ、私と同級生なんだ。はじめまして、私は雪宮瀬那といいます」
「俺は黒写叶斗です。よろしく、雪宮さん」
「ええ。よろしくね、黒写君」
そして、両者とも名家の名に恥じない綺麗な礼。聖夜こそ見慣れているが、他の人ならば見惚れてしまったに違いない。もちろん、所作の綺麗さだけでなく、互いに整い過ぎている容姿も含めて。
だが、それ以上踏み込むような話題は、そのどちらからも無かった。もちろん、互いに所属クラスを聞き合うなど、一般的な話題で盛り上がってはいたが。
「へえー、黒写君って仁美ちゃんと知り合いだったんだね」
「名前で呼んでるってことは、雪宮さんも?」
「うん。中三の時クラスメートだったから」
その様子はごく普通で、良い意味で名家の人間だとは見えない。
(つーか二人共、同級生と話す時は大人びてるんだな。俺と話す時は年下感満載なのに)
そんな些細な、しかし意外な点を発見したところで、聖夜は二人に声を掛けた。初心者の生徒達が準備を終えたのを察したからである。
「ほら、そろそろ次にいくらしいよ。戻ろうか」
「「は、はい!」」
すると、彼らはすぐさま振り返って返事をした。軽量NAエンジンのような、驚くべきレスポンスの良さである。
ここまで慕ってくれていることを、聖夜はちゃんと気付いている。ありがたいことだ、と思わず呟きながら、彼は二人を連れて雫の元へ戻るのだった。