邪神去りし地に吹くのは、センチメンタルな風
過去作「お口の邪神を封印し続ける巫女巫女な俺。」を投稿した後、我が口腔内を揺るがす異変が起きた。
邪神まします奥歯の被せがグラつきだしたのだ。
指二本でつまむと、ユラユラと揺れ、抜けはしないが、銀歯は明らかに緩んでいる。
早速歯医者に行った私に、
「これは被せの内部で歯が割れてますね、抜きましょう」
という診断がつき、一週間炎症を抑えた後、抜歯とあいなった。
傷口は閉じ辛く、かさぶたが取れて血を飲み続け、寝起きの枕が血に染まって、嫁に渋られる……のは良しとして。
左奥歯の邪神様はすっかり空き地となってしまった。これで巫女巫女なる俺の封神の祈りも必要なくなり、口腔内平和が保たれるようになったのだが……
その空虚感たるや、人生を振り返ってみて、
『一体俺は今まで何をしてきたのだろう?』
と五分ほど考えてしまうくらいに深く、浅かった。対をなす上奥歯は存在意義を無くして、呆然自失の廃人状態。その無意味な歯の表面を舌でなぞると、邪神と化してしまった相方の歯の形に窪みが刻まれている。
こいつは一生このままなのだ、少し前まで大活躍していたこいつは、自身に全くの非が無いにも関わらず、相方を失ったがために食の最前線から引退せざるを得ないのだ。
その思いから、少し前に女子校に忍び込んだお笑いコンビのことを思い出した。
キングオブコントまで取ったコント師の相方は、この間見たら俳優という肩書きになっていた。
あの見事なコントはもう見られないのだ、相方を失うとは、そういう事だ。
形を変えて生き続けるだろう、俳優の彼も、捕まった彼も。邪神様は……ゴミ箱に捨てられた。
最後に臭いを嗅いだ、変態的だが、今生の別れの儀式と思っていただけると有難い。
それは不思議と他人の臭いがして、もはや私では無くなったのだという納得とともに、心の落ち着き所となった。
片割れ……私の場合は奥さんか。いつか来る別れまで、大切に、仲良く過ごそう。いつか他人として、納得とともに火にくべられるまで精一杯。