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12:「青色」

作者: 郡山リオ

 それは、桜舞う4月、入学式での出来事だった。

 初めての高校生活、その始まりに僕は緊張していた。

 右を見ても、左を見ても、知っている人は誰もいない。すんと澄んだ空気が、ただでさえ緊張している僕の体をこわばらせていた。


 少し早く来たからか、集合場所の教室には人がまばらだった。ぎこちない挨拶をお互いに交わし、無言。また一人、また一人と人が来るごとに、周りは知っている人同士で集まり、話し始め、盛り上がっていた。良いな、と心の中でつぶやきながらも、その輪の中に入れてもらおうと行動できない自分に、自己嫌悪。みんな、それぞれ知っている人同士楽しく話している。もし、僕自身が、高校を地元に選んでいたら、今頃輪の中に入って、入学式前の緊張でもほぐせていたのかもしれないな、と机に一人座りながら僕はぼんやりといろいろなことを思い返していた。


 先生が教室に来てから、入学式を行う会場に行くまでは早かった。軽く流れを説明された後、名前の順に座った席のまま一列に教室から出て行って、体育館の並んで置かれたパイプ椅子に順に座っていく。始まる入学式。何度か一斉に立ち上がり、一斉に座り、を繰り返す。友達が隣同士になったところから、緊張するね、だね、と小声で聞こえてきた。日の差し込まない体育館の窓を見上げると空は清々しく、雲一つなかった。

「制服慣れないね。」右に座った女の子が、突然、話しかけてくる。僕がそっと振り向くのと同時に、左から声が聞こえた。

「うん、やっぱり、ちょっとぶかぶか」

 なんだ、と僕は前を向く。少し、安心からなのかよくわからないため息が出た。出入り口にかかったカーテンを風がはためかせながら、入学式は続いていった。

 左に座っている子も女の子で、自分越しに会話しただけのこと。名前順で座った席だと、ちょうど後ろに座っている人が、この席では隣になっているらしかった。

「あ、カメラが来てるよ」と右の女の子に「本当だ。やだなぁ」と左の子が返す。

「注目されてるねぇ」

「そんなことないよ」

 ふと、風が吹いた。桜の花びらが視界を過ぎる。僕は自然と風の行き先へと振り向いていた。

 ぶかぶかと言っていた制服を着た同じくらいの背の女の子が、桜を運ぶ風に髪をなびかせながら、小さく笑っている。

 一瞬の胸の高鳴りを感じた僕は、今思うと、その時、その子に一目惚れしたようだった。


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