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GunGirls Project ‐A man’s War‐  作者: みきちょす
2/2

A Day

いつもと変わらない朝日は、世界がまだ平和であるかのような錯覚を与える。夏の日差しに程よい潮の香、窓から外を見れば海と砂漠のコントラストが非常に良い。 ―ただ、気温の高さと母国並みの湿度の高さだけはいただけないが…



そんな平和な感傷に少し浸っていたが、視線を戻した先のPC画面がその雰囲気を否定していた。此処からは遠い地にある本社から送られてくるミッションリストの一覧は、どれもが物騒な物なものだ。 「人質救出」「潜伏中の「布教者」要人確保」「軍幹部の内偵」「××地区の感染状況の調査」etc… 本来であればそれぞれの国の軍や警察が管轄する案件ばかりだ。しかし、「布教者」との戦争に集中する軍や、先のテロでの壊滅的損害から立ち直れていないこの国の警察にはとても不可能であった。この光景は世界中の中小国や発展途上国では最早当たり前であり、故に我々の様なPMSCが必要とされこの業界が一気に活発化した要因にもなっている。


タスクを適当にスクロールしつつ、それぞれの報酬額に注目する。報酬額で仕事を選ぶの好きじゃないが、部下を食わせていくには報酬額も重視しなきゃならない。


「紅茶です。今日はアップルティーにしてみました」


唐突なリンゴ系の香りがそんな嫌気を吹き飛ばす。


「ありがとう」


紅茶を運んできた黒髪長髪の彼女は薄らと笑みを浮かべ、給湯室へと戻っていった。彼女が振り返った際その特徴的な長髪がフワリと舞い、アップルティーの香りにローズ系の香りが混じる。 黒髪長身に魅力的な体系、普通の会社であれば男性社員は確実に彼女の魅力にひかれているはずだ。や、もしかしたら自分の好みが大いに影響されいているだけかもしれない。


しかし、ここは普通の民間企業とは違う。所謂PMSC(民間軍事会社)であり、自分や彼女らは社員であり「戦闘員」だ。

…まぁ普通の民間企業を知らない自分が、普通やら何やら言うのもアレな話だけれども。


そして、彼女らはGunGirl…所謂「銃娘」と呼ばれる存在だ。


“人間であって人間でない”


自分にはさっぱりだが、生物学の専門家が言うにはそういう事らしい。確かに言われてみれば、彼女らの身体能力や回復能力はどれも常人を軽く凌駕している。身体的関係でも、彼女らは屈強な兵士をいとも簡単に捻じ伏せるほどだ。

そもそも彼女らは、あの忌々しいテロの後遺症の産物…ある意味で被害者達だ。あのテロによって確認された現象を各国の軍や研究家がこぞって研究した結果、彼女らの様な「生体兵器」が生まれた。


…まぁ、今は民間にその研究が知れ渡ったおかげで一定の地位とともに「銃娘になるか否か」といった人生の選択肢まで選べるようになっているのだから、何が正しいのかわからなくなってしまっているが。

しかし、彼女らには軍や民間で研究されていてもいまだに判明していない点が数多い。 三大欲求の顕著な増大や、特定の火器類への異常な執着心、女性機能の停止etc... 挙げていけばキリがない。 そんな「銃娘」に進んでなりたいという女性が一定数いて、彼女らを雇うのも生み出した軍ではなく我々の様な“民間企業”というのが現状だ。

…きっとあのテロによって世界的な社会的倫理観や価値観が一気に変わってしまったということが原因なのだろう。

しかし、彼女らの持つ力はPMSCにとっては、非常にありがたいものであり貴重な存在だ。タフな身体に高い戦闘力というのは、それだけで非常に価値がある。「解放者」共との戦争の影響で、五体満足な“経験者”のリクルート倍率が異常に高くなったことも影響しているだろう。…PMSCには戦う力はあっても育成する力はほぼ皆無だ。故に、同じ新兵であっても身体・戦闘力的に優れた銃娘を雇用するのは、ある意味必然的な流れなのかもしれない。


腹が鳴り、時計を見る。

時刻はちょうど正午、相変わらず自分の腹時計は正確なようだ。


リストから見つけた条件の良さそうな案件を審査リストに入れ、席を立つ。


「飯行くけど、来る奴」


待合室にて一声かける。 これが最近の習慣行事。


「…奢り?」


ソファーに寝っ転がっていた銃娘:クーがその頭の大きな狐耳をこちらに向けていた。


「お前に奢ったら僕の財布が持たないわな」

「…相変わらずケチだなぁ」


このやり取りももはや毎度の事。彼女の様なケモノ系の変異特徴が出た銃娘は、多くが食欲が異常に旺盛になる。それでいて体型が崩れないのだから、つくづく銃娘とは不思議だ。きっと彼女らの体質を知ったら、全世界の女性は嫉妬するのじゃなかろうか。


「他には?」


改めて聞くと、数人が同行するとのこと。 彼女らを連れ出し、街に繰り出した。


アフリカ大陸にありながら欧州的な佇みを持つこの街は、相変わらず人気にあふれていた。これでもテロ以前の半数ほどというのだから、かつては大賑わいだったのだろう。


十数分ほど歩いたところで、飲食店が多く並ぶ広場に入る。 ここも屋台や待ち合わせ、観光客などでごったかえしだ。


そんな中、ひときわ声が大きい場所があった。初老の男が、プラカードを足元に置き拡声器を片手に街頭演説を行っていた。思わず、その内容に足を止める。


「―つまり、我々が注視すべきなのは「解放者」共では無い!このウーニ・ウィルスこそなのだ!!」


男が掲げたプラカードに、感染者のショッキングな写真に血文字を連想させるような赤い文字で「ウーニ・ウィルス」と英語で書いていた。


ウーニ・ウィルス… 宇宙から飛来し、あのテロで用いられたウィルスは非常に感染力が強く、致死率はほぼ100%。除染方法も焼却しか有効なものがないという状況が、いまだ世界各国に隔離区域が残っている主な理由だ。


しかし、隕石の落着からすでに10年ほどたつが、このウィルスに関する開示された情報は数少ない。主に各国政府やテロリスト―「解放者」―共による情報統制がネット世界にも大きく幅を利かせていることが原因だろう。そんな統制も惨状の現場にいた当事者からすれば無意味だが、彼らもその多くが口を閉ざし、緘口令もあっていまだに話そうとしない

…自分もそうだ。 あれは言葉で説明できるものじゃない。


だからこそ世界はあのウィルスの根絶に集中すべきなのに、いまだに人間同士で争っている。


演説を行う男の周りには数人の傍聴者がいたが、きっと彼の持論を支持しているものだけだろう。真に聞くべき傍聴者らは、無関心そのものだった。


広場から離れ、1本道を外れた小ぢんまりとした行きつけの店に入る。


「マスター、今日の日替わりは?」

「やぁ、カメラード!そろそろ来る時間だと思ったよ。  今日は牛ほほ肉のソテーだ」


ややオーバーアクション気味な小太りの店主に注文を伝え、定位置の席へと座る。向かいの席にオレンジのパーカーを着た銃娘が座った。


「…この気温と湿度でパーカーねぇ。  暑くないのか?」

「暑くないわよ…?  これだからね」


彼女はおもむろにパーカーのチャックを下げる。その大きな胸の、何も纏っていない胸元が目の前に広がった。 突然のことに思わず視線をそらす。彼女はパーカーの下に下着をつけてる以外、何も着ていないのだ。


「そうだった…」


…自分の顔は薄らと紅潮してるだろう。 その証拠に彼女はクスッと笑みを浮かべてていた。


「豚のカツレツを御注文のフロイラインは~」


数分後、相変わらず上機嫌な店主が料理を持ってきた。


「はい、これが牛ほほ肉のソテーだ」


デミグラスソースとほのかな赤ワインの香りが鼻腔を満たす。 フォークでほほ肉を口に運ぼうとしたその時、店の外から悲鳴が入ってきた。同時にSMG特有の軽く速い連発音が響く。


「―ヤニーナ、クー。 店の前の安全確保。

 フーカ、レイ。 店と周囲の民間人を誘導。

 リアは僕について来い」


店内にいる同行してきた銃娘達に指示を出す。彼女らは各々が持っていたザックや服の下から銃を取り出した。つられるように、自分もザックからコンパクトサイズの小銃を取り出す。


「スー、いるか?  バウマンの店近くの広場で銃声だ。何か情報は」


耳につけた通信機に話しかける


『―そちらもですか!?

先ほどより街の各所で発砲事件が発生。現在把握しているだけで5箇所、いずれも少数人数による乱射のようです。

…そちらの状況は?』

「今のところはコンディ・オレンジだ。だが間もなくレッドになるだろうな…

 警察に交戦申請しておいてくれ、後ろから撃たれたくない」

『交戦申請についてはすでに申請済み。  受諾と該当区域の一任の返事をいただいています』

「…まったく頼りになるな、この国の警察は」


彼女の仕事の速さに感心するとともに、この国の警察の対応力のなさに呆れかえる …まぁ今の彼らに銃器犯罪への積極的介入を行う戦力がない故、仕方ないといえば仕方ないのだが


「クリア!」「…クリア」

「…裏口もクリアだカメラード。手伝おうか?」


店の前の二人とは別方向からの声。 その予想外な方向に視線をやると、ドイツ製の軽機関銃と弾帯を抱えた店主が居た。

「…もう引退した身だろう? バウマン。  君の細やかな引退生活を邪魔したくないんだ」


「だがな」と反論する彼の言葉を遮るように、彼に避難者の誘導を頼む。

彼の性格からして、いやでも協力をしようとするだろう。ならばこちらのつける戦力数が多いほど良い。 案の定、その頼み事は快く引き受けてもらえた。


「フーカ、レイ。さっきの指示はバウマンが引き継ぐ。  二人もこっちに来てくれ」

「了解〜」「了解だよ」


店の裏に回った二人が合流する。 これで全戦力を集中できるようになった。


「HQ。そっちで武装勢力の戦力を確認できるか?」

『待ってください。先程ドローンを飛ばしたので、もうすぐで…』


彼女からの通信を受け、ポケットの小型端末を確認する。 オフィスのある場所から発射されたドローンが丁度上空にさしかかったことが、映し出された地図から読み取ることが出来た。


『―武装勢力を確認。

 屋外に5。武装はSMGが3、SGが1、ARが1。屋内は不明です。人質は確認できるだけでも50以上。

 また、未確認ですがバンが2台そちらに向けて暴走中との情報が入っています』


広場の奴らは問題ないだろう。気がかりなのはバンの方だ。


「了解、HQ。  バンの続報が入り次第連絡をくれ」

『了解。HQ、アウト』


物陰に身を隠しながら銃を構え照準をつける。5人は纏まっており、その周辺に恐怖でおびえる人質らしき姿がいくつも伏せていた。


…さて如何したものか。幾ら武装勢力とは言え、情報のためにもむやみな殺傷は控えたい。

そんなことを考えていると、あのセリフが耳に付いた。


「―我々“解放者”は君たちの敵ではない!真の敵は政府であり、国連なのだ!

 彼奴らによって発信される情報は全て偽りであり、我々を嵌めるためだけに捏造されたものである!!

 なぜそう言えるのか? それは私は全てを目撃したからだ!ウーニの奇跡を私はこの目で確かに見た!!

 われわれ人間はウーニによって浄化され、真の姿へと解放される必要がある。我々はそれを神に変わって代行する、いわば人類の解放者なのだ!!」


―虫唾が走る。

前言撤回、やはり殺傷を控えるのは止めよう。


貴様らはあのテロで何をした? あんな事が解放なら、これまでの歴史上数々の虐殺なんて大解放じゃないか…


…くそっ、思い出しただけで胃が痛む。


構えたHK416Cに付けた低倍率スコープのレクティルに、演説を行っていた男の頭が重なる。

この感情は、街頭演説を行っていた初老の男性が血まみれで奴の足元に倒れているのも影響してるだろう。

距離は100程


「早急に広場を無力化、増援に備える。 …3カウント」

引き金を引く人差し指に力がこもる。

カウントを始める、正にその時だった。


「―オーナー、まった」


反射的に指が離れた。


「…今、甲高い金属音…多分AK系のコッキングの音が聞こえた。  9時方向からだけど、細かいところまでは分からない」


ケモ耳帽子の耳を揺らし、側面に連なる建物をクーが凝視しながら言う。


「増援予想時刻までにやれるか?」

「余裕。  肉寿司握ってくれるなら、もっと早くできる」

「…2皿分だけな。  リア、クーのカバーに付け」

「了解」「わかった」


自分の返答に満足顔になったクーが、リアをつれて裏路地へと消えた。


「で、どうする隊長?」


レイが聞いてくる。


「二人がスナイパーを始末するまで何も出来ないさ。

 それまで奴らが“解放活動”を始めないことを祈ろう」


意識を再びレクティルに戻す。レクティルの先の男は相変わらず自分たちの“正義”を語っていた。


…その“正義”の結果を見たというのは、どうせ改編された録画か何かを見ただけなのだろう?

実際に目の当たりにしたら、そんな事言えるはずがないものな。

それどころか、"真実"として彼らがネット世界などに流布してるものが1発で偽物だとハッキリとするからな。


母国で世間を騒がせたニュースを思い出す。

ある「解放者」に感化した大学生が、自分で作ったというウーニ・ウィルス――実際は培養した赤痢菌――を皇居敷地内でばら撒こうとしたバイオテロ事件。あれほどテロ実行者の馬鹿さ加減に呆れ返った事はない。

公開された聴取の映像で、「ネットでは真実が語られている」とか、いい加減で何も根拠のない論文の束を出しながら「これが証拠だ」とか声高らかに叫んでいたあのバカな大学生は、今どうしているのだろう?

演説をしていた奴の前に、子供が引きずり出された。その横では母親と思しき女性が、奴らの仲間に取り押さえられながらも必至に子供の元に向かおうともがいている。


「これが神の偉業だ!」


中心の男がポーチから一つのシリンダーを出す。中には暗いクリーム色のゲル状物体。

スコープを覗く自分の表情が一気にこわばるのがわかる。


―ウーニ・ウィルス。


「クー!リア!!」


スナイパーの処理に向かった二人の名を呼ぶ。返事の有無に関係なく引き金は引き絞るつもりだった。

だが、広場には自分の怒りに呼応するように銃声が響く。

銃声は中央の男の頭を吹き飛ばし、1発でただの肉塊へと変えた。


「やれっ!」


銃声にワンテンポ遅れる形で指示を出すやいなや、4発の銃弾が周囲にいた敵の頭を同様に吹き飛ばす。飛び散った内容物の量は先ほどとは比較にはならないが、それでも奴らをただの肉塊に変えるには十分だった。

広場に一瞬の静寂が訪れ、やがて人質となっていた人々が散り散りに駆け出す。広場に残ったのは5つの肉塊と一つのシリンダー、それといくつかの口径の空薬莢。


「スー、バンのほうはどうだ?」

『…やはり其方への増援ですね。もう間もなく広場正面に到着すると思われます。

現在把握できている敵戦力は、バン1台あたりに6人の計12人、武装は小銃がメインのようです』


スーからの返答に即座に迎撃準備を整える。「またせたな」とバウマンがやってきた。

バウマンに作戦を話し、肉塊の横に転がるシリンダーを取りに行く。


『…オーナー、遅くなってゴメン』


インカムにクーの声が入る。


「アレを出すと予想していなかった自分の責任だ。気にするな」


確かにアレを取り出すとは考えていなかった。少し考えればわかることだったのにもかかわらず、だ。そういった意味で自分に彼女らを叱咤する理由はない。まぁ彼女らならもう少し早く対処できたと思うが、後の祭りだ。


「それよりも、誰の狙撃だ?

 かなりいいタイミングだったが…」


『あら、私よ?』


リアからの返事に呆気にとられる。彼女の銃はTP-9、いわゆるSMGである。そんな彼女が狙撃銃をうまく扱えるとは思っていなかったからだ。


「…銃は何だった?」

『毎度おなじみSVD。

 …なに?私がフルサイズの銃を扱えるのがそんなに意外だった?』


自分の疑問を見透かしたような返事に、思わず「まいったな」とつぶやく。

銃娘いえども自分の銃以外―それがたとえ同形同一タイプの銃であっても上手く扱うことが出来なくなってしまうという特質をもっている。それでも並の兵士よりはうまく扱うが、口径が異なれば必ずしもそうはいかない。


「…正直意外だった。

 二人はそのままそこで待機。援護は任せた」


二人からの二つ返事を聞くと同時にバウマンら5人に陣地構築を急がせる。

…陣地構築といっても手ごろな障害物の裏に隠れるという簡易的なものだが。


悲鳴とクラクション音が遠くから聞こえる。もう時間はないようだ。


身を遮蔽物に隠し、ザックから予備の弾倉と装備を出す。

バンのものと思しきエンジン音が大きくなった。

隣のバウマンが軽機に弾薬を装填、チャージングハンドルの独特な音。銃娘たちも各々が決めた遮蔽物に身を隠し、攻撃の指示を待っている。


バンのエンジン音が鮮明になり、広場にバンが二台突入する。


「やれ」


自分の声に、バウマンの構えるドイツ製軽機関銃-HK21Eが火を噴くことで答えた。

発射された弾丸は1台のバンのフロントガラスを朱に染め、横薙ぎにするようにその荷台を即座にハチの巣に変えていった。ハチの巣となったバンはそのまま街灯へと突っ込み停車、荷台の戸が開くと同時に血まみれの解放者共が数人這い出る。


「―死ね、クズ共が」


隣にいた銃娘-ヤニーナが呟き、這い出たテロリストの頭をダブルタップで撃つ。彼らの頭に咲いた血の花は、一瞬だけ咲いた後に命とともに消えていった。


「あ、やろっ!」


もう1台のバンが大破したバンの残骸に衝突。

残骸がいい具合に障害物となり、降車する解放者共への射線を遮った。

降車した解放者共は、車両を盾に牽制射を始める。典型的な戦法。

そのうちの数名が取り外したバンのドアを盾に前進と牽制射を始めた。


盾への射撃。

抗弾板に直撃し、5.56mm弾が砕け散る甲高い音が響く。


「おいおい、マジか」


バウマンの方向を見た。

頼りは彼のMGか…


―銃声


バウマンとは別の位置からフルサイズ独特の力強い打撃音が響く。


リアの鹵獲SVD…!

フルサイズとはいえ、その高威力な弾は抗弾板によって弾かれてしまう。だが、その発砲音は連続して響き渡った。

ドアを盾に前進し始めていた奴らの足が止まる。…抗弾板が割れる音。

後ろに隠れていた連中が、最早盾として機能しなくなった残骸を投げ捨てバンの後ろへと戻ろうとした。しかし、それよりも早く3人の銃娘による集中掃射が残骸ごとヤツらを貫く。


残り3人…

積極的だった銃撃は散発的になったが、接近する事だけは断固として拒否するようだった。


脇に積み重ねた予備マグの数を見る。…残り2本、刺さっているマグはまだ発砲していないから実質3本か。

これは彼女らやバウマンも一緒らしい。こっちもジリ貧か。


「バウマン、牽制射頼めるか?」

「…5秒しかもたんが、それでも良いなら」

「十分だ」


「レイ」

「ほいきた」


相変わらず陽気な口調の彼女に作戦を指示する。同時に残りの彼女達にも指示を出した。

全員から2つ返事を得ると、カウントを始める。ー5カウント。


MGが火を噴く。呼応して応射しようとする人影には5.56から7.62mm、様々の単射が牽制を行った。


―行け!

ハンドサイン、レイとフーカの二人が走り出す。

相変わらずMGは火を噴いている。


残り2秒。

バンの元へと駆け抜け、レイを土台にフーカがバンの上へと跳び乗る。

着地音をごまかすように、バウマンがバンの付近を重点的に撃つ。


残り0秒。

MGの音が途切れる、単発的な発砲音だけが残った。

MGによる牽制射のストレスから解放された奴らは、ホッと胸をなで下ろしているだろう。

しかしー


「お疲れさん。そして、さようなら」


バンの端に立ったフーカが、腰だめで自分の銃を横に薙ぎ払う。

無線越しに、銃声に紛れて小さなぐぐもった声。


銃声が止み、バンの天井から落ちた薬莢が地面に落ちる金属音のみが広場に木霊する。数秒後、重傷を負ったであろう弱々しいうめき声がそれに加わった。


「フーカ、レイ。そのまま車内の捜索を。

 ヤニーナはボウマンと周辺を警戒」


マグを換えバンへと近づく。銃はロウレディポジション。

すでにバンを制圧した二人は、その荷台を調べていた。


「バウマンのおっさん~、一体なんの弾頭使ったのさ…

 荷台の中がスプラッターな惨状になってるんですけど」


フーカが口端をヒクつかせながボヤく。


「ん?唯のFMJだ。

…まぁ大方貫通した弾が中を跳ね回ったんだろう。何せ毎分900発だ、抗弾板なんてあって無いようなものさ」


腰から大口径のリボルバーを引き抜いたバウマンが答えた。


「レイ、ウィルスを摂取した奴がいないかを探せ。末端のやつらまでウィルスを所持させるような奴らだ、何をしでかすかわからん」

「もう確認しておいたけど、隊長が殺った奴以外持ってないみたいだ。使ってたとしてもこの惨状じゃあねぇ~」


蜂の巣になった荷台の中を見る。

死体の他に壁や天井に脳髄やら臓器やらの残骸―なる程、これだけ損傷していたら感染しても無駄だな。


抗弾板に手が触れる。

安物を使ったのだろうか。触れた抗弾板の内面は所々剥がれ、岩肌状になっていた。


7.62mmの他に内面剥離による破片の雨か…スプラッターな状況になったのも肯ける。


「生きてる奴さんはどうだ?」

「こいつはもうダメだな、肺と肝臓を貫通してる。

 …あとはその二人だけだが、被弾の具合からじゃこっちのほうが余裕はあるな」


バウマンが一人の男を指す。


「…ちくしょう、痛ぇよ、ちくしょう!

 なんで…なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだ…!」


その男は足の傷口を抑えながら悶えていた。その周囲を彼女たちが囲っている。

すでに戦闘力はないとはいえ、彼女らの指は引き金に指が掛かっていた。


「おい、貴様。因果応報って言葉、知ってるか?」

「あぁ、知ってるよ!俺が解放者共と戦った、その報いだってんだろ!?

 …チクショウ、俺だって好きでこんな奴らの仲間になったわけじゃねぇってのに」


半分自棄になってこたえる男の眼には涙が浮かんでいる。様子から察するに痛みが原因というわけではなさそうだ。


「…まぁ“引き取り手”が来るまでは時間がある。

 その間好きに嘆けばいいさ。自称“解放者”さんよ?」

「俺は好きでこんな奴らに―「裏切るのか貴様!!」…!」


男が口を開く。その瞬間、もう一人の男が間に入った。


「黙らせろ」

「ほいさ」


口を挟んだ男はフーカにその鳩尾を蹴り上げられたことで悶絶し、黙り込む。


「続けろ」

「…兄弟が…妹と弟を人質に取られなきゃ、俺だってこんなことはしねぇさ!

 …頼むよ。あんたらPMCなんだろ?俺の…たった2人の家族を助けてくれ…!」


男が自分の足元ですすり泣く。

…この男の話が本当だとすれば、なるほど、どおりで奴らの人員が豊富なわけだ。


「HQ、こちらは制圧。敵の捕虜はふた…いや、たった今”全員死亡”した。死体袋とゴミ袋を”1つずつ”用意しておいてくれ」

『HQ了解。

 警察はまだまだ時間がかかりそうです。社の回収車のほうが早く着きそうですね。

 …まったく、貴方には困らされてばかりです』

「言ってくれるな。これも仕事さ」


無線を切る。2人の捕虜がそれぞれに自分の顔を睨み、表情をゆがめる。


「フーカ、そっちは“死体袋”こいつは“ゴミ袋”に入れる。…処理は頼んだ」


彼女から2つ返事。

その足元の男が騒ぎ出そうとするが、彼女の拳を鳩尾とアゴ下に喰らったことで完全に沈黙した。

ザックから1つの黒い袋を取り出し、フーカへと投げる。

彼女はレイと協力し、沈黙した男を袋へと入れた。


「貴様はこっちだ」


自分の足元にいた男を、ハチの巣になったバンの荷台へと投げ入れる。口にはテープ、両手足は縛った状態だ。男の表情は完全に恐怖におびえたソレとなっていた。


「…さっきの話、もし本当なら考えておいてやる。

 もしウソなら…その時は、まぁ、そういうことだ」


荷台の戸を閉める。


…2種の尋問に裏付け調査、身元捜索…あぁ、拠点攻撃の可能性も考えておかなきゃな。

小遣い稼ぎのような、平和的な日常とはしばらくお別れだ。



…明日からはそこそこにハードワークな日々が始まる。

面倒くさくもあり、そして変わらない日常だ。

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