035 クルーって?
すみません
掲載に誤りがあり二重に掲載してしまいました。
ご迷惑をおかけしました。
035 乗組員って?
【ビバ・ピーリ侯爵邸の広大な敷地の外周にて】
「翔。かなり強いよ。うーーん。“鷹目”よりも強いかも。そんなのが二組来るよ」
メロが呼びかけた。
翔は黙って頷いたが、次の瞬間には本来単体魔法であるはずの第五グレイド魔法『復活』を範囲魔法に拡張して発動していた。ユグドラシルの魔法の本来の制約など全く無視している。さらに翔は、同時に第七グレイド魔法『貫通』を重ねがけしていた。グレイドの違う魔法をこんな風に重ねがけする事は普通はできないはず。しかし、そんな制約なども翔にかかると完全無視だ。
魔法は基本的に敵の魔法防御に阻まれると弾かれてしまうのだ。第七グレイドの『貫通』の魔法は敵の防御魔法を貫通させる魔法だ。翔はいともたやすく魔法をかけるが簡単な魔法ではもちろんない。
☆
「魔法照準されたぞ。何て速さだ……。来るぞ」
“無敵”のリーダーであり、魔術師であるヤン・ヴィバカンがメンバーに警告した。
ヤン・ヴィバカンは防御魔法を展開しようとしたが全く間に合わなかった。
ヤン・ヴィバカンは、その魔法が、当然最初の魔法攻撃だと思って身構えていたが『復活』だと理解した時、頭に血がのぼった。
「くそ! 奴等敵に『復活』をかけてきやがった。ここまでコケにされたのは初めてだ」
復活の魔法は、非常に高度な魔法で、死ななくなる貴重な魔法だ。しかし、ご存知の通り、復活障害が激しい。決闘の時、死ぬのが怖い貴族が使う高価な魔法と言うイメージがある。
ヤン・ヴィバカンが咄嗟に怒ったのは、敵からそんな魔法を掛けられた事に対してだ。
しかし、ヤン・ヴィバカンは、大きな事を見落としていた。そもそも『復活』は範囲魔法ではなく単体魔法で中々使い手がいない超高度な魔法のなのだ。
しかも彼らは戦う前に防御魔法を何重も重ね掛けしている。彼らの服にも防具にも防御結界が仕掛けられているのだ。S級冒険者なら当たり前のことだ。
復活の魔法であっても敵から掛けられた魔法は、完全に、跳ね返すはずだった。
しかし、敵の『復活』は、何事もなかいかのように彼らに効いているのだ。ヤン・ヴィバカンは魔術師でありながら、それらの重要な事に気が付いていなかった。
それらは、些細な事のように見えて、実は、重大な事だ。何しろ敵の実力が計り知れない事を暗喩していたからだ。
しかし、彼ががそう勘違いしたのもやもえない事であった。なぜなら、いつもなら攻撃魔法をかけられる直前に、必ず防御魔法で、その一つ一つに対応できていたからだ。しかし今回は、翔の魔法の速度が速すぎて、どのような魔法が掛けられたかも、完全に把握されていなかったからだ。感覚としては無防備なところを攻撃されたと勘違いしても仕方がない。彼にとっても初めての経験ばかりだったのだ。
“無敵”のパーティーの後を走る“劫火”は『復活』の魔法を受けた時に、逆に何が起こったのか、どんな魔法をかけられたのかすら、全く分からなかった。白魔導師のオブラギフ・ベトーニャが『復活』だと断定できなかったからだ。
オブラギフ・ベトーニャは『貫通』の魔法が解読できなかったのだ。
そこで“劫火”は密集隊形で警戒態勢に入った。
そして、リーダーのミハイル・レベチェルは違和感を拭いきれなかった。
(どうして中級者のはすが……)
☆
「翔。あいつらやっつけたい!」
メロが叫んだ。
「そうか。じゃぁメロ。お題を一つやる。お前は魔法を使わず。闘気だけで闘ってみろ。“無敵”には、強そうな魔術師がいるから気をつけろ。レイラはメロの後方支援をしてくれ」
「了解」
メロが勢いよく敬礼しながら答えた。
「はーい」
レイラは可愛く答えた。
次の瞬間、彼女達二人は、第七グレイド魔法『転移』で瞬間移動した。
「じゃあ俺達は“劫火”のオッさん達をやりに行くか」
翔が動こうとした時、アメリアが遮った。
「私が行く」
有無を言わせぬ響きがある。ジッとしていられないのだろう。
「分かった。じぁイリスが後方支援をしてやってくれ。俺達は先に行くが大丈夫か?」
「大丈夫ですわ」
イリスが答えた。
アメリアとイリスも第七グレイド魔法『転移』で“劫火”に向けて転移した。
「俺達も行くぞ」
翔は第九グレイド魔法『次元移動』を使い瞬間移動した。
『次元移動』は『転移』と違い魔法などの防御ができない高等転移魔法である。
☆
聖騎士団の団長代理であるペパロニ・アバン子爵は突然現れた三人組を見てぎょっとした。
「おいおい。『転移』は、ここでは使えないって言ってたじゃ無いか」
ペパロニ・アバン子爵はそう言いながら剣を抜いて吠えた。まさか敵が第九グレイド魔法を使うとは想像もできないのだ。
「敵襲!」
ペパロニ・アバン団長代行の号令で聖騎士団が一斉に抜刀する大きな音が反響した。
「オーラヴ! 万歳! オー!」
完璧な唱和だった。聖騎士団は全員がそう叫びながら一斉に剣を天に突き上げた。訓練の行き届いた軍団だった。
☆
聖騎士団の一斉行動を見た翔は驚いた顔で騎士団に視線を送っている。
「おお。格好良いな」
思わず感嘆の言葉が漏れた。
「はい。翔様。美しいです」
アリスが答えた。
「翔。竜に化身しようか?」
五千騎もの聖騎士団の偉業を見たセーラが聞いた。
「必要ない。ああいうのは召喚魔法が一番効率的に対応できるんだ。一対多の攻撃はどうしても穴が空くもんだ。例えば爆破魔法などの範囲魔法もどうしても効かない空白地帯ができる。それよりも多には多で対処するのがベストだ。格下の奴らには召喚魔法で対応するのが一番さ。セーラなら亜竜や竜牙兵などを呼べばうまく操れるだろう」
翔はランクA級以上の五千人もの騎馬軍団を前にしても余裕を示して言った。
「しかし、たくさんの魔物を一度に召喚なんてした事がないわ」
セーラは自信がない。
「大丈夫だ。魔物の軍団を操る召喚術式はメンバー全員に覚えてもらう。今後も軍隊に阻まれる事がありそうだからな。大勢の敵を殺すのは、精神の折れる作業だ。そんなスプラッターみたいな真似をさせたくないからな。では講義だ……」
☆☆☆
【メロVs無敵】
“無敵”のリーダー、ヤン・ヴィバカンは、更に怒りで頭に血がのぼった。相手がたった二人だけだったからだ。しかも女の子の二人組だ。馬鹿にされていると感じても仕方がないだろう。
「お前達だけか?」
声に怒りがこもっている。
つば広の山高帽子を少し持ち上げて綺麗な顔を覗かせて、先頭の少女がニッコリ笑った。
「違う。お前達の相手は魔法を封印された私一人。後ろの女の子は見学」
メロは、言い放った。
☆☆☆
【アメリアVs劫火】
“劫火”の前に突然二人の女の子の姿が現れた。『転移』だ。噂では聞いた事があるが使える者はほとんどいない。転移先の座標設定が難しいからだ。翔達が転移系の魔法をバンバン使っているのには、陰ながらの功労者がいる。アリスだ。アリスが魔法の術式に仕込む座標を皆に教えているのだ。
突然現れた少女の内の一人が背の羽を大きく広げた。それが薄く光って美しい。背中の羽に照らし出された少女のプロポーションは見事と言う他ない。
密集隊形をとっていた“劫火”のメンバーは盾をアメリアに向けて並べた。
「あれは見たことない種族だな」
リーダーのミハイル・レベチェルが言った。経験豊富な彼らが見たことが無いということが稀な事だ。
「あの容姿は妖精種の一派でしょうがあんな羽のある妖精は見た事がありませんね」
アウスト・ラーエンが言った。
「妖精種は、魔法が得意な上に変幻自在の剣技を操る強敵です」
「何? これじゃ、無敵じゃ無いか。しかし、我々全員でかかれば何とかなるだろうがな」
リーダーのミハイル・レベチェルが皆を励ます。
「アウスト。妖精の背後の少女は?」
「分かりません。黒い髪の毛に黒い瞳。あるいは魔人では」
アウスト・ラーエンが首を捻りながら言った。
「お前の観察能力を超える奴らなど初めてだな。皆。見た目のレベルなどの情報は無視して強敵と思ってかかれよ」
リーダーが更に命じた。
“劫火”は更に密集隊形を強くした。
☆☆☆
【メロVs無敵】
“無敵”のリーダー、ヤン・ヴィバカンは、ここに来て初めてメンバーに密集隊形を指示した。
密集隊形は普通の冒険者が未知の敵と闘う場合の一般的な隊形だが、“劫火”と比べると本気度が低い。
それは、リーダーのヤン・ヴィバカンが堂々と魔法の詠唱を始めた事からも分かる。
メロは最近では翔に教えてもらい、魔法の詠唱を聞いて魔法を解析するのではなく、発動される魔法術式の軌跡を読み取って相手の魔法を分析する事にしていた。
ヤン・ヴィバカンが唱えているのは第五グレイドの『岩弾雨』の魔法の詠唱だ。岩を雨のように降らす範囲魔法だ。
逃げられないように、とでも思ったのだろう。しかしメロはふんと鼻を鳴らして杖を構えると無造作に杖を振りかぶって攻撃に転じた。
メロは動きにくそうなローブを物ともせずせずに目にも留まらぬ速さで“無敵”の前衛を守るルジオミール・ルカーナ。レベル76。重武装戦士とアナトロミー・トルロホフ。レベル76。重戦士の二人の前まで一挙に十メートル以上を飛び込んで二人の盾に次々に杖を叩き込んでいた。
その威力は“無敵”のメンバーの誰もが想像もしていなかったほどに強力だった。盾は恐ろしい音を立てて吹き飛んでしまったのだ。
必死に盾を押さえようとした重戦士達だが、盾をバラバラに破壊された上に大きなダメージを受けて吹き飛ばされていた。
リーダーの魔術師ヤン・ヴィバカンは魔術の詠唱を止め、メロの圧倒的な強さに後退った。残りのメンバーも唖然として何もできずにメロが振りかぶる杖をただ見ているしかなかった。
☆☆☆
【アメリアVs劫火】
“劫火”のリーダー、ミハイル・レベチェルはレベル88の重戦士だ。重い全身を守るフルプレートを着込んで、両手剣を振り回す剣士だ。彼は密集隊形から飛び出すとアメリア目掛けて突き進んで行った。
彼の横にはレベル81の重騎士レイバン・マナスルが重い槍を水平にしてアメリア目掛けて走りこんだ。
グレートソードの剣先と槍の穂先が丁度同じ所に来ている。
大抵はこの二人の初撃で相手に大ダメージを与えるのが彼ら“劫火”の戦略だ。
その背後からレベル75の弓師のアントニオ・ボニアンが弓を射かけ、レベル72魔術師のロール・フローエンが第五グレイド魔法『破壊』を発射した。
全ての攻撃が同時に相手に集中する。見事な連携技だ。
この時、アメリアが第八グレイド剣技『灼熱剣』を放った。剣から迸る巨大な灼熱の斬撃は“劫火”のメンバー全員を一撃で上下に切り分けるとともに彼らの放った攻撃の全てを吹き飛ばしていた。
☆☆☆
【セーラVs聖騎士団】
翔達三人は広大な広場に転移してきていた。聖騎士団五千騎との距離は半キロメートルほどだ。
直ぐに聖騎士団は一斉に翔達に向けて突撃してきた。これが騎馬軍団の攻撃の特性みたいなものだ。怒涛の攻撃という奴だ。
翔は一瞬で『復活』と『貫通』を構築し魔法対象範囲を広げると魔法を発動した。魔法術式を編み上げ魔法が発動されるまでの時間は僅かなものだ。
二つの超広範囲魔法は敵の五千の聖騎士団だけでなく、残り三千のピーリ侯爵領の家臣団の全てを飲み込み『復活』を有効化した。
この時、魔法をかけられた聖騎士団や家臣団の方は攻撃魔法をかけられたと勘違いした者が多かった。彼らは自分達の陣営の防御魔法で魔法が無効化されたのだと解釈していた。
翔のその偉大な魔法を前に、正しく驚いたのは味方だけだった。セーラは大きなため息をついた。
「それでは次に召喚魔法陣を出せ……」
翔が命じた。
「ふぇぇーい」
セーラは元気無く頷くと、迫り来る聖騎士団達を怖そうに、顔をしかめて見た。騎士団はかなり迫って来ていた。
セーラは、迫ってくる聖騎士団五千を前にして焦って翔から伝授された召喚魔法の術式を展開し始めた。
頭で魔法の詠唱をしながら術式をイメージしつつ魔法陣を紡ぎ上げて行く。
「火の属性に水が入り込んだぞ」
翔がセーラの誤りを指摘する。
「ふぇぇー」
セーラが悲鳴を上げながら魔法陣の構築を急ぐ。
聖騎士団は一斉に三人に向かって突き進んできた。その距離はもはや百メートルもないだろう。
「俺は最後の奴らをやっつけてくるからアリス。セーラの術式の完成のための後方支援をしてやってくれ」
そこまで様子を見ていた翔が大丈夫と判断したのか、そう言った。それから翔は、セーラとイリスの二人に手を振って『次元転移』した。
その後少ししてからようやく、セーラの魔法が発動した。
少し間があったが、魔法陣から数え切れないほど無数の亜竜と竜牙兵達が大津波になって飛び出してくると怒涛になって聖騎士団を飲み込んで行った。
☆☆☆
【翔Vs家臣団】
翔は『次元転移』で家臣団の前に姿を現していた。彼の背後では聖騎士団五千騎に向けてセーラが丁度魔物の群れを召喚し始めたところだった。
翔は目の前の約三千騎の家臣団達を見回した。彼等は眼前に繰り広げられている五千騎もの聖騎士団が一挙に崩壊してゆく姿しか目に入っていないようだった。
翔がした事は、ゆっくり歩きながら闘気を全力で全方位に放つ事だった。強力な闘気は物理力を持つ。翔の激しい闘気は魔法の『爆発』のような威力を放って瞬間的に三千の家臣団達を微塵に砕いて消し飛ばしてしまった。
翔の闘気に耐えたのはたった一人、家令のハイン・デブリだけだった。
ハイン・デブリは辺りの惨状を狂気のような視線で慌ただしく見渡していたが肩を落として大きくため息をついた。
見ると遥かな前方では、魔物に喰らいつくされてゆく聖騎士団の断末魔の叫び声が木霊していた。
急いでハインは、敷地にかけられている警備魔法をモニタリングして“劫火”と“無敵”を探す。しかし国家が誇るトリプルS級“劫火”と“無敵”の消息も消えていた。
ハインは彼の前まで必要以上にゆっくりと歩いてくる男を黙って見ていたがその恐ろしい闘気に少し気が遠くなりそうになった。
「お前。その黒髪に黒い瞳。その力。そしてその美しさはなんだ。お前は伝説の世界を滅ぼすという大魔王なのか?」
ハイン・デブリが恐る恐る聞いた。
「お前達の世界では奴隷を解放する奴を魔王って呼ぶのか。魔王がどうしてそんな面倒な事をするんだ?」
翔が冗談めかして聞いた。
「ふふふふ。確かにそうだな。こうなっては、お前達の『復活』に心から感謝する。ビバ・ピーリ侯爵様も生命だけは助けて欲しい」
ハイン・デブリが嘆願した。
「お前の御主人様の命運を決めるのは本人の日頃の生活態度次第なんじゃないか?」
翔が冷たく言い放った。
ハイン・デブリは小さく嘆息した。
「正直。数匹の獣人の生命ごときで御主人様の残虐な嗜好が満足させられるなら上出来だと思わんかね」
「そうかもな。あんたはうまく御主人様を操縦していたのかもな。たまたま取るに足りない筈の亜人の中に、俺に助けを求めた奴がいただけの事だ。しかしその取るに足りない亜人は、お前などよりもずっと成長して帰ってきたがな」
翔が答えた。
ハイン・デブリの表情が動いた。
「あの妖精の娘だな。美しい羽をちぎられてもあの娘は強情にも御主人様の手が触れると呪いがかかると脅していた。しかしその後に分かったが、彼女の言う通り、彼女に触れた男達は全て呪いで死んで行った。あんな娘は最初で最後だったよ」
「そうだろう。あの娘は強い意志を持った良い娘だ」
翔はマジックバックから金棒を取り出して二、三度振った。
「お前は剣豪なんだって。レベル143はなかなかだな。俺は本来魔術師だがこっちで相手してやろう。かかってこい」
翔はそう言うと金棒を構えた。
ハイン・デブリは薄く笑うと剣を抜いた。
「こいつは、二度と使うまいと決心してたんだがねぇ」
「どうしてだ?」
翔が尋ねた。
「御主人様を切りたくなるからだよ。しかし御主人様は我が先祖からの大恩ある御主人様。家令として、できる限りのご奉公をするだけだった。御主人様の不肖は、全て家臣団たる我々の責任だ」
「お前は極端な奴だな。俺の元いた世界の昔話だが、お殿様におかしな奴が出てきたら座敷牢に閉じ込めて同じ血筋の男子に跡目を継がせたとかそんな話があるぞ」
「成る程。それは進んだ考えの世界だな。参考になるよ」
「いやいや。全然進んでないぞ」
しかし翔は、こんな石頭の親父に何を言っても無駄だと考えて現代日本の民主主義などの説明は諦めた。
「お前は魔術師と言っていたな。しかしランスの構えも大したもんだ。誰に習ったんだ?」
ハイン・デブリが尋ねた。
「俺の金棒の師匠は巨鬼だ」
ハイン・デブリは目を丸くした。
「そう言えば巨鬼の半神英雄に恐ろしい剣豪がいると聞いた事がある。成る程。そんな師匠に」
二人は無言になって構えた。先に攻撃して来たのはハイン・デブリだった。目にも止まらぬ斬撃が翔の眉間を襲った。
闘気を込めた金棒に強い衝撃が走った。
「さすがに世界最強と言われた剣豪だな。鋭い斬撃だ」
翔が褒めた。
「いやいや。フェイクを用いた最強の斬撃を軽く受け流すお前の方こそ世界最強だ」
ハイン・デブリが嬉しそうに言った。
「まだまだ、老いるには早いですな。血がたぎって来た。良き機会を作ってもらった事を感謝するぞ。お前も武闘家の端くれなら良く私の剣を見て技を盗むがいい。これが私の最後の全力の剣舞だ」
そう言うとハイン・デブリは剣を縦横無尽に振り回し切り下げ突撃させた。全ての斬撃は恐ろしく力が入っていた。
翔はハイン・デブリの言葉がなくても敵の攻撃を体で覚え込んでいた。そうする事が死線を越えた戦いでは重要になるものだ。
ハイン・デブリは一度も同じ攻撃をかけてこず、あらゆる型で攻撃してきた。それら全ての型は研ぎ澄まされ研究された究極の型なのだと理解できた。あらゆる戦闘に向けた特別な剣技のようだった。
「良く受けきっなな。私の剣技は全て一子相伝の技。最後まで生き残った者が相伝すると言う流派なのだ。この流派では実戦の中で技を伝授するのが慣わしとなっているのだ。これが我が最高の奥義『幻妙剣』だ。受けてみろ」
ハイン・デブリはそう言うと渾身の闘気を込めて剣技を放った。
『幻妙剣』は錯覚と幻覚魔法を多用した複雑な技だった。あらゆるフェイントが織り混ざりあらゆる角度とあらゆるタイミングで斬撃が繰り出された。そしてその最高のフェイントは時間魔法と次元魔法を取り入れたフェイントだった。
最後の斬撃の鋭さに、翔は、危うく受け損ないそうになった。ところが次の一瞬、ハイン・デブリの切っ先の鋭さが鈍化し、彼は「相伝」と一言呟いた。その一瞬の遅延のおかげで、翔は、ハイン・デブリが放った『幻妙剣』を受け流すことがだきた。
「どういうつもりだ?」
翔が呆れて聞いた。
「自分より強い剣士に出会った時、この『幻妙流』は相伝されるのだ。『幻妙流』はそうして強くなる。相伝の時が死の時なのだ」
ハイン・デブリが笑いながら言った。
「安心しろお前にも復活魔法はかかっているぞ」
翔が指摘する。
「老人には感傷に浸る時間が必要だ。この『幻妙流』は私の代で途絶えるのかと危惧していた。これで全てやるべき事はやったぞ」
ススっとハイン・デブリは一旦下がると最初から同じ型をもう一度繰り出し始めた。翔は二度目の型なので軽く受け流して行く。
「『幻妙剣』!」
最後にハイン・デブリは秘奥義をもう一度放ってきた。翔はそれを見極めて反撃の斬撃をハインに放っていた。
「我相伝『幻妙流』」
ハイン・デブリはそう言うと消滅し復活の天宮に飛んで行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【ビバ・ピーリ侯爵邸内】
「誰か有るか? 誰か有るか?」
ビバ・ピーリ侯爵は叫びながら邸宅を走り回った。全ての使用人が逃げ去ったみたいだった。
「誰か。あの音は何だ? 大勢の悲鳴が聞こえるぞ。獣の鳴き声もじゃ。誰か。ハイン・デブリはおらんのか」
ビバ・ピーリは何を思ったのか、奴隷達の監禁部屋に向かった。慌ててドアの閉鎖魔法を解除する魔法を唱えるが、うまく解除できない。
ビバ・ピーリは、どうしたのかと思ってドアを触って初めてドアが開いている事に気付いた。
よせばいいのに慌ててドアを開いて中に入った。
「ここで貴方とは、会いましたね」
女性の声だった。
見ると十名ほどの奴隷達の前に美しい羽を生やした女性が立っていた。それはアメリアだった。
「おお。お前だ。私の求めていた最高の奴隷だ」
ビバ・ピーリは両手を突き出してアメリアに近づいて行った。
手が触れそうになった瞬間、ビバ・ピーリは恐ろしい衝撃を受けて床に這いつくばった。
恐ろしい衝撃だったはずだが、直ぐに意識が戻った。頭を振りながら立ち上がろうとして足が滑った。見ると床一面が血だらけだった。
恐ろしそうにその血を見ているビバ・ピーリ侯爵の耳に信じられない言葉が投げられた。
「その血は全て貴方の血よ」
怪訝な顔をして声の方を見たビバ・ピーリは恐ろしい光景を見た。
血まみれの美しい少女が手に血まみれの大きな肉を持っているのだ。
その光景の恐ろしさに思わず後退りするビバ・ピーリ。
「この臭い肉は貴方の内臓よ」
血まみれの少女がニヤリと笑いながら言った。
その少女はケタケタと嬉しそうに笑いながら少女の後ろに居並ぶ奴隷達に合図を送った。
「この臭い豚の肉を切り裂き内臓をぶちまけてやりなさい。ははははははははは」
血まみれの少女はけたたましく笑いながら奴隷達に指図した。
奴隷達も狂気の笑いを浮かべながらビバ・ピーリに走り寄って行った。
☆
「翔。貴方にお願いしていながらごめんなさい。私はどうしても二度とあの醜い顔を見たくなかったの」
アメリアが独白した。
「それで良い。あいつには強力な精神魔法をかけておいた。今頃は恐ろしい悪夢に気が狂いそうになっているだろう。あいつは二度と安心して眠れる日はないだろう」
翔が優しくアメリアの背中をさすってやりながら言った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【転末】
その夜。オーラヴの侯爵邸が崩壊した。侯爵は蓄えた財貨が盗まれその財貨は奴隷だった人々に配られた。
アガリアン神聖国の『復活都市』にある復活の天宮には何千人ものオーラヴ国の住人が復活し、シスターサラを驚かせた。
この夜、オーラヴ聖王国では全ての奴隷が解放された。解放された奴隷達には、高価な魔法の武器が支給され、彼らは次第に、大きな勢力に育って行った。
その後、オーラヴでは奴隷制度は、廃止され人種差別は強く禁止されるようになる。
ミネアとミーアの二人はその後、村で同じような奴隷として売られ今回解放された男性と結婚し、たくさんの子供を作った。
オーラヴでは奴隷解放の同志をなぜか乗組員と呼ぶ。しかしなぜそう呼ぶようになったかは誰も知らない。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【翔達のレベル】
○翔
レベル205
職業 魔術師、創造師、槍術師
一子相伝の伝説の流派『幻妙流』を相伝される。
○メロ
レベル190
職業 神使、魔術師、魔女
杖術に目覚める。
○アメリア
レベル188
職業 至高者、魔術師、聖騎士
○イリス
レベル178
職業 魔物使、魔術師、魔騎士
○レイラ
レベル185
職業 戦乙女、魔術師、白魔導師
○アリス
レベル188
職業 魔法情報師、弓師
○セーラ
レベル170
職業 竜騎士、魔術師
召喚魔法の真髄を教えられて少しレベルが上がる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【これから】
「翔。次はどこに行くの?」
メロが尋ねた。
「時計回りで行こう」
翔が答えた。
「しかし、それは、北に行くって事だな」
アメリアが尋ねた。
世界樹を中心として、アガリアン神聖国から時計回りの西側はオーラヴ聖王国だ。世界樹を中心にさらに時計回りなら北に行く事になる。
「オーラヴの北側にはカナン高原があり、さらに北には嵐海がありさらに北には巨人の国ガルガンチュアがあるぞ」
アメリアが説明した。
「ここから西側は何があるんだ?」
翔が尋ねた。
「西には英雄王のユーリ王国とハラルドル美髯王のウプサラ王国があります。ちなみにウプサラ王国のメーラレン盆地には『奈落の縦穴』と呼ばれる大きな穴がありそこには悪魔崇拝者が多く住んでいます」
アリスが答えた。
翔達は、メロの育ての母のカロンを殺したと言う悪魔崇拝者達の暗殺者集団《音無》の情報も得る必要があるのだ。
場合によったらアメリアの宿敵である悪魔の悪魔皇帝ベルゼブブの外交官ウコバクの情報も得る事が出来るかもしれない。
「よし。ハラルドル美髯王の国ウプサラ王国にしゅっぱーつ」
翔が元気よく宣言した。
035 了




