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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第一章 レベルアップ編

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033 アイテムの作り方って序盤に覚えるもんだろ

 コツコツとドアを叩く音が聞こえ、ゾングアルスは魔法を発動させて目の前に招かざる客の正体を映し出した。


「ライザーか」

 ポツリと呟くと小さな魔法を発動させた。


 その魔法に操られてドアが開く。ライザーがブツブツ言いながら部屋の中に入ってきた。


「あの“賢人会セージボード”とか言うやつらが夢燦河むさんがをひっくり返したらしいぞ」

 ドワーフの老人はゾングアルスの前まで来ると勝手に椅子に腰掛けて踏ん反り返りながら言った。


「ライザー。誇り高きドワーフの戦士にして我が同僚のギルドの理事よ。“賢人会セージボード”が何をしでかしたと知らせに来たのじゃ?」


「ゾングアルスよ。お主には時としてイライラさせられるの」

 ライザー・アルニノンがしわがれた声で吠えた。

「監視魔法何とかや、スパイ魔法とかでなぜ情報を収集しておらんのじゃ。そうすればこの老いぼれが入手した情報をこき下ろすのではなく、お前さんから情報をもたらしてくれるんじゃないか。本来そうあるべきだな」


「ワシは本来死ぬ程忙しいのだ。お前さんの持ってきた情報は後で精査しておこう。その辺にメモでも書いて置いておけ」


「お前さんは魔法の事しか頭にないからな。一つ面白い事を教えてやる。あいつらの一人は竜王の狂戦士化バーサクから正気に戻す程威力のある魔法を無詠唱で使って見せたと言うぞ」


「ああ。あの強力な魔力の……。あれは竜王を正気にさせるための魔法だったのか」

 ゾングアルスが初めて興味を示した。

「あれを子供がやってのけたのだな。ワシは竜王が巻き起こしたのかと……。そうか」


 ゾングアルスは宙を見ながら考え込んだ。


 ライザー・アルニノンは大きなため息をついた。友人のこの男は一旦考え込むとなかなか元に戻らない。


 しばらく黙って宙を見ていたゾングアルスは少し目を大きく見開いて口まで開いていた。冷静で表情の変化に乏しいゾングアルスがライザーに初めて見せる驚きの顔だった。


(おいおい。大丈夫か?)

 ライザー・アルニノンは不安になってくる。


「大賢者殿。お主とも有ろう者が一体どうしたというのじゃ」


 ゾングアルスは鋭い視線をライザー・アルニノンに向けた。


「ライザー。彼等は今ダブルS級“剛腕”のサブメンバーのはずじゃが。どういう訳かワシの魔法のトレースが効かんようじゃ。まさか情報操作までできるわけは……。レベルアップ・トライアル・ルートを攻略したほどのメンバーが“剛腕”のザブメンバーでもあるまいと思っておったが。ライザーの言う通りこれはワシのミスかも知れんな。奴らに監視魔法をはなっておくべきだったのかもしれん」

 大賢者と言われる世界でたった一人の大魔術師はまた腕を組んで考え込みはじめた。





 『始まりの街』には多くのギルドがひしめいている。世界でも最大規模の魔法師ギルドに最近入会した美女が二人いた。一人は漆黒の髪の毛に黒い瞳で幼女のように華奢な体に不釣り合いに豊かなバストを持っている。もう一人は白銀の頭髪に白い肌。白銀の虹彩の瞳。スレンダーな体で手足がすらりと長い少女。


 蝕によって誕生した魔人イリス・マンダリンと竜王の末裔セーラ・ランロードの二人だった。


 彼女達は、正式に魔術を習った事が無くこの機会に魔術を習う事にしてここ魔術師ギルドに入会したのである。


「セーラ。ここではメロさんはとても有名みたいですわね」

 イリスが言った。


「火焔の魔女の伝説ね」

 セーラが聞いた。


「そう。彼女は間違いなく天才ね。彼女はギルドに入ってすぐに『爆炎フラミス』を使って見せたそうよ」


「イリス。第六グレイド魔法で最も難しいと言われる『爆炎フラミス』よね。翔と一緒にいると感覚が丸崩れだけど人族には普通に凄い魔法よね」


「そう。彼女は確かレベル20ぐらいで使えたって言うから化け物よ」

 イリスが笑いながら言った。


 メロ・アルファードは、一般的な基準で見ると何もかもが規格外の少女だ。


「貴女は、竜属の人型科とか言われているみたいだけど本当は人と竜種のハイブリッドよね」

 イリスが核心をついた質問をした。


「いいえ。私はクォーターなの」

 セーラが寂しそうにポツリと言った。


「そんな、世の中が無くなったみたいな盛大な悲哀を醸し出すのわやめてちょうだい。貴女はまだ両親がいらっしゃるからずっとましよ」

 イリスは少し強めに言った。それは彼女なりの励ましのつもりだった。


 セーラはイリスの気持ちを察して「ごめんなさい」と明るく答えていた。


「翔は私達をこんな組織に送り込んだのは何か意図が有ったからなの?」

 セーラが聞いた。


「私はいつも翔の腕にぶら下がるので追い払いたかったのよ。貴女は少し勉強不足みたいだし、私は理論と実践が噛み合わないので私達二人に基礎をやり直せと仰りたいのよ。今迄、ガムシャラにレベルアップばかりだったから少しの間、リラクゼーションしなさいって意味だと思いますわ」

 イリスが答えた。


 セーラが小さなため息をついた。

「イリスはとても頭がいいのね。翔は何を考えているのか分からないわ」


「ふふふ。貴女って可愛い女の子なのね。そうやって他人に依存する女性が私は羨ましいわ」


「何かレイラさんみたいに言うわね」


「彼女は純粋なお姫様なのよ。あの子のそういうところはメロの魔法の天才性と一緒で真似出来ないものよ。貴女のような天然系とは違うわね」


「でも、イリスだって翔に甘えるの上手じゃない」

 セーラが頬を膨らませて抗議した。


「ふふふ。武器を使ってるだけだわ」

 イリスは豊かな胸を両手で持ち上げて自慢した。


「翔ったら、デレデレじゃない」

 セーラは顔を顰めて言った。


「本当にデレデレなのは、アメリアの胸よね」

 イリスが羨ましそうに言った。


 二人はアメリアのプロポーションを思い出して大きなため息をついた。


「妖精って私のようにもっと細いものよね」

 セーラが抗議するように言う。


「そうね。貴女の方が妖精ぽいわね。でも貴女のプロポーションの方が好きって男の子も多いんじゃない?」


 二人はそんな話を楽しそうにしながら歩いて行った。


 彼女達の話を少し後ろを歩きながら聞いていた男の子がブツブツ言っている。

「何? あの子達よりも素敵な女の子が他にいるのか。見てみてぇ〜」





「メロさん。アメリアさん。やめてください」

 レイラが必死に言った。


「レイラ。大丈夫。まだ行ける」

 メロ。


「負けないぞ」

 アメリア。


 二人は食べ比べをしているのだ。二人とも想像を絶するほど食べている。


「私も本気で食べればお前に勝てるはずだ。体格が違うからな」

 アメリアが言った。


「でも、メロさんの無限胃袋の事は翔のお墨付きなんじゃ」

 レイラが必死でアメリアを止めようとして言った。

「アメリアさんのその素晴らしいプロポーションが台無しになりますよ〜」


「は? 私のプロポーション? そのなものよりも勝負だ」


「受けて立とう。かかってきなさい」





「翔様。マギクラフト《星章スターサイン》はここのようです」

 アリスが翔の耳元で言った。


 アリスの緑色の髪の毛がサラサラとなびいている。美しい琥珀色の瞳が翔だけを写している。


 翔はアリスに笑いかけた。


 二人は《星章スターサイン》に入って行った。





「と申されましても、短期の弟子入りはお断りさせて頂いております」

 金髪で整った顔立ちの青年は困った顔をして翔の方を見た。しかし直ぐに視線を外した。それが翔を見る男の正しい反応だ。翔の美しさは性別を超えているので男性は少し見惚れてから我に返ったように視線を外すのだ。


 その点、女の子は堂々と見惚れる。アリスの今の姿もそうだ。


 青年の胸元には名札が付いていた。名前はクリストフ・シーベルと言うらしい。翔にはアリスを通してレベルなども分かる。


『クリストフ・シーベル。レベル25。魔法技師』


「金なら言い値を出そう」

 翔がそう言いながら、マジックバックから金貨の詰まった皮袋を取り出した。


 クリストフはそれを見てギョッとした。

「すみません。私の一存では何ともできませんのでこのままお待ちください」

 クリストフは慌てて店の中に入って行った。





 クリストフは店の奥に入り師匠の部屋の前でうずくまる。冷や汗が背中を流れた。このまま声をかけずに戻って招かざる客を追い返そうかとも考えたが。あの客も師匠と同じように扱いにくそうだ。思い切って声をかけてみる。


「お師様しさま。変な客が参りまして短期でお師様しさまの技を教わりたいと申しており、言い値のお金をだすと申されています」

 クリストフは師匠の部屋の前でうずくまりながら言った。


 必ず追い返せと言うと思いながらクリストフが返事を待っているとしばらくして思いもよらない返答が帰ってきた。

「通しなさい」


「承知しました」

 長年気難しい師匠の弟子をしてきたクリストフはもちろん逆らうはずもなく黙って頭を下げるだけだ。見えているかどうかなどは関係ない。クリストフはどんな場合でも礼儀正しく師匠の事を敬ってきた。





 クリストフは翔とアリスを案内して未だ入った事の無い師匠の部屋の前まで案内した。


「お師匠様。お連れしました」


「構わないから部屋に入ってもらいなさい」

 無人のように静かな部屋から師匠の声がした。


 クリストフは翔とアリスにドアを示して入るように身振りで示した。





 部屋は思ったよりも広々していた。


(翔様。この方はマギクラフト界では有名な調合師です。お言葉を選んでお話される事をお勧めします)

 アリスが通信で忠告した。


『シーズ・リード。三十六歳。調合師。レベル43。“星章スターサイン”』


 それがこの部屋の主のプロフィールだった。彼女は一言でまとめるなら美女だった。二言でまとめるなら絶世の美女という事になる。


 もちろん高名なマギクラフトというだけ有り、さらに相当に高いレベルだ。普通の人ではこの女性の闘気バトルオーラに当たると気分が悪くなるだろう。


「突然で申し訳ない。俺は翔・マンダリン。こっちはアリス。俺達はアイテムの合成の知識が無くて苦しんでいるんだ。もちろん秘伝の門外不出の情報だろうが我々限りという事にさせて貰うし言い値を言ってくれればお礼させて貰う」

 翔はそう言った。


 マギクラフトは、少し翔の顔とアリスの顔を見比べた。


「あなた達は、私を見ても恐れないのね。レベルは低いのに不思議だわ。私はアイテム屋のシーズ・リードよ。貴方の申し出はお断りさせて貰うわ。代々積み上げてきた技術を私の代で金に変える権利が無いもの」

 シーズ・リードが笑いながら言った。


「まぁ。そうだろうね。我々は本当に素人でね。これを見てくれ」

 翔はマジックバックの中からアイテムを取り出した。

「ゴブリンの牙とオークの牙を掛け合わせんだがうまくいかなかったんだ」


 翔が作った調合アイテムを一目見てシーズ・リードはクスクス笑った。

「ごめんなさいね。笑ったら失礼よね。でとあまりにも酷いもんだから呆れたわ」


「そりゃそうだろう。俺はこの間、魔物から取れる素材を合成すると良いものができると知ったばかりだからな。最初は何でも合成していればその法則をつかめるかと思ってたんだが思うようにいかなかった」

 翔はそう言いながらノートをシーズ・リードに見せた。


 シーズ・リードはそのノートを受け取ってペラペラとページをめくると驚きの声を上げた。

「なになになに。ここのアイテムって考えられないような貴重品じゃないの。それをよくもまぁ皆、屑にしたわね。こんなもったい無いことって」

 マギクラフトのシーズ・マンダリンは悲鳴を上げた。


「ゴブリン元帥の角ですって? こんな伝説のアイテムなんて嘘も良いところね」

 翔のノートがデタラメだと思ったのかパタンとノートを強く閉じてノートを差し出した。


「ゴブリン元帥の角ならまだあるぞ。そんなに欲しいなら進呈するぞ」

 翔はそう言いながらゴブリン元帥の角をマジックバックから取り出した。


 ゴブリン元帥の角は長さ七十センチ程もある長大なものだ。ユニオークよりも短く小さいが重さは三倍以上ありずっと硬そうだ。一匹のゴブリン元帥から八本の大小の角が取れる。翔は一番大きそうなのを出して机の上に。


 シーズ・リードは何かに取り憑かれたような目をして慌てて角に掴みかかった。

「これは正しく古代の遺跡から出てきたゴブリン元帥の角。私はこんな完全な一本など見た事もちろん無いが。一度見たらその素材の本質は見誤らぬ。私が見た角は既にほんの一欠片のとなっていた。あの時私が入手したのは小さな小刀で削り取っただけだった。それでも値はなんと八百万金貨もしたんだぞ」

 シーズ・リードの目はハート型に変わっている。


「これをくれるというならなんだってしよう」

 シーズ・リードは金切声で言った。


「そんな物でそれ程嬉しいなら、このゴブリン大元帥の角もやろうか?」

 翔はそう言いながらさらに大きく重い角を取りだしてシーズの前に置いた。


 しかし、シーズはゴブリン大元帥の角を見た瞬間に気を失ってしまった。





 シーズはマギクラフトとしては超一流だった。一流は教えるのが上手だ。素材の目利きからどのような素材を調合するとどのようなアイテムができるかについての基礎を教えてもらった。


 飲み込みの早い翔はシーズの説明を素早く吸収して行った。


「お前は凄い奴だな。これ程見事に調合の技術を吸収する奴は見た事がないぞ」

 シーズ・リードが感嘆して言った。


 翔は調合の講義の中でユグドラシルの魔法の根本的な現代魔法との違いを理解した。今迄調合がうまくいかなかったのは現代魔法が分子や原子などの素粒子論で構築されているのに対してユグドラシルの魔法が地水火風の四つ精霊魔法が基本になって構築されている為であることが改めて分かった。


 サラマンダー、ウィンディーネ、シルフィード、ゲノームの四大精霊を操ることを基本とする魔法である。元々、現代魔法になくユグドラシルでも一般の魔法使い程度では使いこなせない魔法であり、能力の等価交換として四大精霊魔法の能力値の一部をメロの魔術の能力と交換した事もある。


 もちろんお互いの能力は等価交換されたが全てを交換した訳ではなかった。さらに後に水晶迷宮で『試練の間』の試練を乗り越えた褒美にブリュンヒルデから女神の恩恵としてステータスの補正を受けた時に四大精霊のステータスも大きく改善されており能力そのものは有ったのだ。


 しかし現代魔法にない術式であるため翔はうまく扱えなかった。


「元々、古い魔法術式でね。まぁ効率の悪い魔法だよ」

 シーズ・リードはそう説明した。

「一々、精霊を呼び出してその精霊に仕事をさせるんだからね。召喚魔術の一種にしか思えないだろね。ところがそもそも世界の本質たる四大元素そのものを操る原初魔法でもあるのさ。だからいかなる事情を創り出す事も可能なのさ。そこがただの召喚魔術と違うところでさらに難しいところさ」


「四大精霊というのは精霊というよもエレメンタルなんだな」


「そう。エレメンタル。元素。一番の成り立ちの素だよ。そこが直ぐ理解できた奴は今迄いなかった。あんたは大したもんだ」


 この時、翔は百十八あると言う原子を操る現代魔法と四大精霊魔法との相違を正しく理解した。


 現代魔法においても、物質の構成要素たる原子がさらに単純な素粒子に分解されるとする説が根強い。百十八もの原子を操るのは至難だしさらなる元素に分解できるなら魔法がかなり単純化できるはずなのだ。しかもより強力な魔術が展開できるはずだ。


 原子爆弾があれほど大きなエネルギーを出せるのは原子を操るからだ。さらに素粒子を操る事ができればもっと大きなエネルギーを創り出す事が可能なのだ。


「シーズ。すると四大元素をうまく操る事が調合のコツなんだな。俺は今迄、ユグドラシルの高位魔法と四大元素魔法の中間的な魔法を使っていたようだ。だから調合がうまくいかなかったんだな」

 翔は目からウロコが落ちような気分になった。精霊魔法が原始的だと決めつけていた自分が恥ずかしい。


「シーズ。四大精霊の基本を教えてくれ」


 マギクラフト、シーズ・リードと翔の調合の勉強会はこの日から約二か月行われる事になる。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【冒険者ギルド本部。理事会】


 冒険者ギルドの理事長の秘書で今年24歳のリナ・カルミィコフは、理事会のメンバーを見渡した。“大鷲グレートイーグル”が退任して“火神マルスの杖”が新たに理事に就任して多少年齢が若くなったかもしれないが、そもそもの年寄り組に変化がなく若手の“大鷲グレートイーグル”が少しばかり若手の“火神マルスの杖”に変わってもあまりに平均年齢に変化が無いとも言える。


 ただ、リナ・カルミィコフにしてみると自分と同格と思っていた“火神マルスの杖”がいきなり理事に昇格したことには驚きを禁じ得なかった。


 しかし、“火神マルスの杖”のメンバーを一人一人見て行くと明らかな自分との格の違いを感じるのも事実だった。


 そんな思いを振り払いリナ・カルミィコフは理事会の進行を進めた。


「最初の議題です。夢燦河むさんがは過去の七王国の一つとして正式に認められました。アガリアン神聖国は夢燦河むかんがの復建にできるだけ援助をする事となりました。各国もアガリアン神聖国に倣う模様です。この案件でどなたか質問は?」


夢燦河むさんがの竜王を目覚めさせたのが誰か分かっているのか?」

 ライザー・アルニノンが尋ねた。


「確定情報は有りませんが、“剛腕”が何らかの形で関与したとの情報が入っております。世界樹ネットの情報では“剛腕”のサブメンバーの六人が関与していることが分かっています」


「やはりそうか。そいつらは今どうしておるのじゃ」

 ライザー・アルニノンが重ねて問うた。


「情報がありません」


「どういう事だ? 世界樹ネットで分かるのだろう?」


「“剛腕”のサブメンバー達はアッティーラ支部でメンバーの凍結登録をしてから行方が分かりません」


「つまり彼らは冒険者ギルドから離脱した形になっているのだな。しかし彼らは“賢人会セージボード”という別の名前があったのだろう」

 ゾングアルスが珍しく興味深そうに尋ねた。


「“賢人会セージバード”としては、ここ『始まりの街』で活動中となっています。しかしその所在は不明となっています」


「おかしな話だの。これからもトレースを続けさせろ」


「はい。承知しました。それでは次の議題です。蝕の兆候です。水晶迷宮に発生した蝕はブリュンヒルデ様の知らせですが、沈静化したとの情報です。ブリュンヒルデ様によりますと蝕により魔人が誕生しましたが不完全な幼生であり退治するには及ばないとの事です。然るべき者に管理を委嘱したとの事でラグナロクに繋がるべき兆候は無いとの事です」


「次の議題です。ゴブリンの大量発生と駆除についてです。この案件については今回理事に就任された“火神マーズの杖”リーダーのラビノビッチ・バシコフ理事が詳しいと思いますのでバシコフ理事から説明してください」


 ラビノビッチは、ゼノ要塞城でのゴブリンとの戦いを詳しく説明した。話を聞き終えた理事達は皆、顔をしかめたり首を捻ったりしていた。


「バシコフ君。お主の話は完全に信じられんな。君の言う“剛腕”のサブメンバーは話だけでは君らよりもずっと強そうだし、“剛腕”の正メンバーが君らよりも弱いのは変だろう」

 指摘したのはドワーフで理事の一人ライザー・アルニノンだ。


「そこは私も分かりません。“剛腕”のアルマ・ベストや“稲妻スパーク”のバッシュ・コーエンに聞いても要を得た説明は有りませんでした。ただ、一つ言えることは要塞城でのゴブリンとの戦いで我々“火神マルスの杖”メンバーと“稲妻スパーク”メンバーは飛躍的にレベルが上昇したのも事実です。“剛腕”の正メンバーは、一番厳しい時に難民を連れて離脱していましたからレベルが上がっていなかったのかも知れません」

 ラビノビッチはそう説明したが、要塞城の戦いの最初から翔達のサブメンバーの方が遥かに強く感じたのは事実だ。

「詳しくは“剛腕”のアルマ・ベストに聞いてください」


「アルマもバッシュも逃げおったよ」

 世界最強の冒険者であり冒険者ギルドの理事長オロフ・グルブランソンが嘆息しながら言った。


「ブリュンヒルデ様の話とお前達の話を総合すると“賢人会セージボード”のメンバーはレベルアップ・トライアル・ルートを攻略した後、ゴブリン軍を平らげ。さらにその後に夢燦河むさんがに行き“鷹目ホークアイ”を絡め取って反乱軍に仕立て上げてフェロモン諸島の反乱を成功させた事になるの。正に英雄だの。どうして彼らの名前すら世に知られていないのだ」

 そう指摘したのは理事長のオロフ・クルブランソンだ。


「ワシは想像したのじゃが、“賢人会セージボード”は多くのメンバーの存在する秘密結社じゃないかと思う。メンバーのほとんどは女性の結社じゃろう。わしの得た情報によると、ショウというリーダーは夢燦河むさんがとお前達の話で人相が変わるところから複数いる事は確かだ。この結社は場合によるとブリュンヒルデ様の関係のある者が含まれているように思うのだがアデル・メイシー殿。いかがしゃな?」

 尋ねたのは大賢者ゾングアルスだった。


「ブリュンヒルデ様のお館に、レイラ・リンデグレンと申されるお姫様がおられます。彼女は曙神デルング様のお子様であらせられます。彼女が最近ある冒険者達と旅に出られたと聞いております。レイラ様が何という冒険者とご一緒されているのかは分かりません」

 半神英雄エインヘリャル戦女神ヴァルキューレの代表でもあるアデル・メイシーが答えた。


 それを聞いてゾングアルスは大いに満足したような顔をした。ゾングアルスだけでなく少し不安そうにしていた他の理事会のメンバー達も納得したようだった。


 軍隊級の戦力がどこの誰とも知れぬよりも女神が陰で操っていると知る方が納得もし易いし安心なのだ。


「とにかく、その“賢人会セージボード”達はこれからもトレースし何らかの情報が入ったら理事会の議題にする事とする」

 理事長オロフ・グルブランソンが宣言した。


「続いて、次の議題です。高ランクパーティーの異動状況です。“鷹目ホークアイ”が我々のギルドを脱退しました。もともとメンバーは全て夢燦河むさんがの出身者ばかりでしたから夢燦河むさんかの独立に合わせての行動のようです。夢燦河むさんがにはブリュンヒルデ様から冒険者ギルドの支部の設立を要請して頂いており彼らが復帰する可能性もありますが、夢燦河むさんがは神々から隔絶した政治思想を持っているので、オーラヴ聖王国やユーリ王国のように別の冒険者ギルドを設立する可能性もあります。今後も働きかけを続けます」

「“大鷲グレートイーグル”及び“剛腕”、“稲妻スパーク”などのパーティーは軒並みレベルアップ・トライアル・ルートを挑戦しています。ブリュンヒルデ様の宣伝もあり、レベルアップ・トライアル・ルートへの挑戦者が増えています。イレーネ・ハウザー率いる“隼”は金剛迷宮の第百二十六層を攻略中だそうです。皆さんもご存知の通り“隼”は空前の人気を博しており今後も大勢の冒険者が増えるでしょう。ブリュンヒルデ様の宣伝の発想は大きな成果を上げられています」


「大したものだな。さすがは女神様だ」

 理事の誰かが呟いた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「成る程。アイテムにはそれぞれ属性があり、その属性を生かして調合するのだな」


「そうだ。お前は本当に飲み込みが早い」

 シーズ・リードは翔にしなだれかかって顔と顔が付きそうになるくらい近づけている。


 アリスがわざとらしく咳払いをした。シーズ・リードはちらりとアリスを見て薄く笑った。


 その時、翔が火の属性をアイテムに練り込んでゴブリンの角とユニコーンのたてがみを合わせ弓の形状を意識して調合した。


 『炎の弓』が完成した。


「おお。見事ね」

 シーズはそう言いながら、弓を手にとって弦を微かに弾いてみた。小さな火の矢が打ち出されて壁に当たって消えた。


「なかなか良いわね。火の属性が入り込み、弦を弾くだけで『火矢ファイアーアロー』の術式を発動するわね」

 シーズ・リードはニコニコ笑いながら言った。彼女は根っからのアイテム好きなのだ。

「自然界の魔力を吸収してリードタイムは約三十秒ね。良い性能よ」





「イリス。基礎魔法は面白くないわね」

 竜王の末裔のセーラ・ランロードがため息まじりに言った。


「魔法の詠唱に、属性の確定、魔法陣の繁栄、エトセトラね。どれもいちいち考えずにできることをいちいちって気もするけど、改めて習ってみると勉強になるわ」

 イリスが答えた。


「そこの二人。授業中に私語は慎みなさい」

 壇上の女教師がたしなめた。


 セーラが舌を出してとばっちりで怒られたイリスにごめんなさいをする。





【ある山中で、メロ、アメリア、レイラの三人】


「翔の話では精霊魔法の真髄は四大精霊をいかに操るかって事ではなく、四大精霊の特性を良く理解する事とだって言っていたわ」

 レイラが言った。


「そんな事はいい。魔法は打つだけだ」

 メロはそう言うと無詠唱で火炎の巨大な球を手から打ち出した。


 火炎の球は遥かな峰を通り越して着弾し大きな炎の柱を吹き出した。


「メロさん。貴方は考えなしに魔法を使いすぎです」

 レイラが少し怒りながら言った。


「えへへ」

 メロが頭をかきながら笑う。


「良いですか。私の神聖魔法もアメリアさんの妖精魔法もメロさんの精霊魔法も根本は同じなのだと翔は言っているのよ」

 レイラが真剣な眼差しで言った。


「レイラ。怖いよ」

 メロが顔をしかめて言った。


「メロ。お前はふざけ過ぎだぞ。翔以外の者に教わるのも大切な事だ。レイラは天界で女神に魔法を教わった由緒ある魔術師だ。良く聞け」

 アメリアがメロの頭をコツコツ叩きながら言った。


「ふぇーーい!」

 メロは元気良く敬礼の格好をして見せて言った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【三ヶ月が過ぎそれぞれの休養期間が終わった】


○翔

レベル196

職業 魔術師、創造師クリエーター槍術師ランサー

 アイテム調合を習得


○メロ

レベル182

職業 神使セオマスター、魔術師、魔女ウィッチ

 爆発系の攻撃魔法のコツをつかむ。四大精霊魔法について考え始める。


○アメリア

レベル171

職業 至高者オプティマス、魔術師、聖騎士パラディン

 妖精魔法と四大精霊魔法の違いについて考察を始めた。


○イリス

レベル174

職業 魔物使モンスタータイマー、魔術師、魔騎士

 魔法の基礎を改めて習得し実技を経験した。クラスメイトできて喜んでいる。


○レイラ

レベル181

職業 戦乙女ヴァルキュリー、魔術師、白魔導師

 メロの天才的な魔法に影響されて感覚的魔法について考察を始めた。


○アリス

レベル182

職業 魔法情報師マギインホマスター弓師アーチャー

 翔にべったり。


○セーラ

レベル165

職業 竜騎士ドラクーン、魔術師

 人間のマナーや考え方を学ぶ。基礎魔法を習得しただけでレベルが上がった事に感動。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【これから】


「翔。これからどうするの?」

 メロが尋ねた。


「レベルアップ邁進だ」

 翔が冗談めかして答えた。


「で、どこに行くの?」

 アメリア。


「そうだな。復活都市の奴隷商人に会ってアメリアを二級奴隷に貶めた貴族様を探してみようと思う」

 翔が答えた。





 復活都市に行くと奴隷商人は店を畳んでいた。


 奴隷商人の甥である道具屋に消息を訪ねたところ、隣のオーラヴ聖王国に移転したとの事だった。


 こうして翔達はアガリア神聖国の西隣のオーラヴ聖王国に向けて旅立つ事になった。


033 了

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