031 そいつに触るんじゃねぇぇぇ!
とある島。とある山。
白銀の髪の毛に紫の瞳。雪のように白い肌。それが彼女の容姿だった。
髪の毛を緑色のリボンで結んでいるが束ねるのに向かない髪質の細い髪の毛が少し乱れてサラサラと風になびいていた。女の子は乱れた白銀の髪の毛を手で書き上げて耳に引っ掛けた。
可愛い顔を顰めて周りを見た。彼女の周りにはたくさんの兵士が倒れている。
「皆さん。ごめんなさい」
彼女は周りの倒れている兵士に手を合わせる。
直ぐに踵を回して山に入って行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆
【中島カマル島。ビーチにて】
「貴方。アリス?」
メロがアリスの頬を突く。
「はい。メロさん。こんにちは。アリスです」
アリスがいつものように明るく答えた。
「おお。アリスの声だ」
メロが驚いた。アリスの声は一度聞いたことがあった。
「どうしてアリスが急に?」
アメリアが翔に尋ねた。
「ああ。アリスと『世界樹の命』のコラボだ」
「コラボ? 翔の言うことは何の事か分からん」
アメリアが肩をすくめる。
「アリス強いの?」
聞いたのはメロだ。
「俺も一つだけ疑問が在るぞ。お前が俺に見せてくれていた情報が今後は見えなくなるのか」
「私は翔様と一心同体でした。なので私の今のレベルは翔様と同じです。私には様々な能力が最初から付与されているようです。特に情報系の能力はかなり高いです。その能力で翔様への情報提供は今まで通りできますし、さらに皆さんにも同じ情報を提供する事ができます。
そして、皆さんは私を通して情報を思念を使ってやりとりできます」
アリスが答えた。
アリスの説明を聞いて翔は早速、メロに話しかけてみる。
(メロ!)
翔は手を振りながらメロに話しかけた。
メロが驚いて翔を見る。他のメンバーは知らん顔をしているので他には聞こえていないようだ。
(アリス。今のような他のメンバー同士の会話をお前はモニターしているのか?)
《いいえ。モニターできますがしていません》
(全員と一度に話せるんだな)
《はい。全員でも二人でも話せます。距離にかかわらずイメージ通りに通じる筈ですし、受け手が聞ける状態かどうかは通信すれば何となく分かるはずです》
現代日本に有った通信手段と同じようなもののようだ。(これは便利だ)と翔は感心した。
「アリス。お前は俺達のレベルやパーティー名なんかを書き換えることができるんだよな」
改めて翔は皆に聞こえるようにと声を出して聞いた。
「はい。翔様」
「じゃ、俺達のレベルは20前後と偽ってくれ。俺の職業は武闘家、他の皆も適当な目立たない職業に変えて欲しい。それとパーティー名は……」
そこまで話した時、メロが話しに割って入った。
「“焼鳥”!」
今度こそっとメロは必死だ。
☆
「お前達。目障りだからあっちに行け」
そう言ったのはグアリテーロだ。
「そんなに喚いたらイケメンが台無しだぞ」
翔が茶化す。
グアリテーロが陣取っていた場所に翔達全員がリクライニングを並べて寝転んでいるのだ。
「お前達。その変なパーティーの名前だけは何とか出来んのか。一緒にいるのも恥ずかしいぞ」
グアリテーロが喚き立てる。
翔達は無視してグアリテーロの作っている大きなパラソルの陰に入ってゆったりとした。
グアリテーロはもともと王子様みたいなものだ。翔から奪ったお金や防具武器などを売って得たお金で豪遊しているのだ。設備も豪華だし場所も最高だ。
「もともと連れていた“矢羽”の女の子達はどうしたんだ?」
翔はグアリテーロが一人なのに疑問を持った。
「さあな」
グアリテーロは曖昧に答えた。
「捨てられたんだろう」
翔が突っ込みを入れた。
「こっちが捨てたんだ。馬鹿を言うな」
グアリテーロが少し声を荒げて反論した。
どうやら図星だったようだ。
「金の切れ目は縁の切れ目か」
翔が呟く。
金で繋がっていた人間関係は金が無くなると全て消えてしまうものだ。
「お前は若いのに変に老成したことを言う奴だ。気持ちの悪いやつだ」
グアリテーロが負け惜しみのように言った。
「どうも、お前にはイケメンの匂いがする。お前は前世から女に不自由しない男だったにちがいない。俺のその辺の勘は鋭いから間違いない。しかし何故お前のような冴えない男がそのようになったのか初めて会った時から疑問だった」
「俺がどう見えるかなんかに興味はない。俺は楽しく生きて行ければそれで満足だ。お前こそ、ここで豪遊していたわりに顔が晴れ晴れしてないぞ」
「ふん。余計な御世話だ。とは言えそう言うお前のその晴れ晴れしい顔を見ていると腹立たしくなるな。若造のくせにと吐き捨てたいが。俺はお前のように自由には生きて行けん」
グアリテーロは急に真剣な顔になって自分の話を始めた。翔はグアリテーロの独白を黙って聞いてやる事にした。彼の伯父のフォルッチオ・ガストロフィーに何となく借りがある気がしたからだ。
「俺は、幼い頃から伯父のフォルッチオ・ガストロフィーに鍛えられた。しかし俺には伯父のような才能が無かった。ガストロフィーの血が流れている者には、使命があるのだ。翔君。
つまり、この夢燦河を昔のように盛り立てて行くのが使命なのさ。
しかし夢燦河王国の現状はなんと悲惨なことだ。国土のほとんどは海中に沈み僅かに残された国土のほとんどはアース神の手先のアガリアン共に占領されている。その上、夢燦河に豊穣をもたらすはずの守り神まで封印されている」
「竜王のことか?」
「そうだ。フェロモン島に我らの竜王様が封印されている」
「そう言えば、フェロモン諸島総督のパトリエ・バルシェという伯爵に会ったぞ。彼女が竜王の封印を守っているのか」
その名前を聞いた瞬間、グアリテーロの顔が曇った。
「アガリアンの連中は、竜王を封印したとか言ってるが竜王は封印されたのではなく眠っているだけだというのが我々、夢燦河の見解だ」
グアリテーロが言った。珍しく力が入っている。
「グアリテーロ。お前、パトリエ・バルシェ女伯の話になるとムキになるな。お前らしくないぞ」
その言葉にグアリテーロは笑いだした。
「お前のような若造に見透かされるとはな……。俺も焼きが回ったようだ。パトリエ・バルシェは俺の幼馴染だ。あいつは夢燦河の貴族だったが冒険者になりアガリアンの伯爵にまでなった。凄いやつだ。俺はあいつには何もかも全く叶わなかった」
「お前はそれが理由で悪魔信仰にまで手を出したのか」
グアリテーロは力が抜けたと言わんばかりの顔で軽く頷いた。
「何とでも言え。お前達の様に才能が無かっただけだ」
「才能だと? それだけで今の俺達があると思うのか。それじゃ俺達がどんな修行をしてきたか教えてやる」
翔はグアリテーロにここに至る修行の全てを事細かく話してやった。
「……。これが俺達の一年半の修行の全貌だ。俺達の今の実力はこの修行が有ったからだと思っている。才能は二の次だったと思うぞ」
グアリテーロは黙って聞いていた。一国の王子の様な立場の若者が悪魔信仰に手を染め、更には泥棒の真似事までしたのだ。自暴自棄になって無茶をしていた。そんな彼に翔達の壮絶な修行の話は想像を絶っしてたに違い無かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【とある島。とある山。とある遺跡】
少女の前には巨大な遺跡がそびえるように建っていた。
少女はツカツカと遺跡の入口まで進むと、遺跡を守護する兵士達が阻止しようとした。
少女と兵士達では実力が違い過ぎた。瞬く間に兵士は少女に叩きのめされて全てが地面に転がされた。
一息つく暇もなく少女は遺跡の巨大な入口の前にたった。
遺跡の入口は巨大な扉が硬く閉ざされている。
少女は可愛い目を閉じて、扉の前で祈るような仕草をした。その祈りに答えるように彼女の前の扉が輝き始め音もなく左右に開いて行った。
銀髪の少女は躊躇する事もなく遺跡の中に入って行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【バカンスを楽しむ翔達】
「翔は泳がないの?」
メロが尋ねた。
「俺は、こうして見ていればよい」
翔は両腕を組んで浜辺で遊ぶ少女達を見ていた。
「いつ魔物が襲ってくるとも限らんからな」
しかし、目的は別にある。少女達の水着姿を鑑賞しているのだ。
少女達は翔が出してやったビーチボールを追っかけて夢中だ。
「翔君。これはなかなかだね〜」
グアリテーロもニンマリ鼻の下を伸ばして少女達を見ている。
「そんなに鼻の下を伸ばして見ているとイケメンが台無しだぞ」
「君は自分の顔を鏡で見てから言いたまえ」
「お前と一緒にするな」
「ちなみに、翔君はどの子が好みなのだ。皆。それぞれ美しく可愛い。彼女達は翔君を好いているようじゃないか」
「俺は生まれながらに全ての女の子にモテる運命にある。そんな事にいちいち付き合っていたら身体が持たん」
「本当に、翔君はよく分からん奴だな。人のリゾートに横入りする厚かましさと言い。その平凡な容姿であんな美少女達を傅かせてるその手腕といい。恐ろしい成長速度といい。謎だらけの男だ。しかもあのアリスって娘は何なのだ。『世界樹の命』はあんなに変わるものなのか。あれでは普通の美少女じゃないか」
「俺は何も意図しちゃいないさ。天使レリエルの悪巧みで転生させられただけだ」
「その話も信じられん」
「グアリテーロ。お楽しみ中には到底見えなかったがお前の豪遊を邪魔して悪かったな。俺達はそろそろ本来の目的のレベル上げに行く」
「そうだな。お前達は『世界樹の命』が目的で来たんだったな」
「それに、俺達のお宝で豪遊しているお前を少しでも邪魔できたのでせいせいした」
「ふん。そう言うことか……」
グアリテーロはそこで話を急に止めて身を乗り出して海の方に視線を向けた。
「どうした?」
翔がグアリテーロの視線を追いながら言った。
見ると、メロ達がはしゃいでいる遥か先の沖合に船団が見える。しかしどうも様子が変なのだ。
「クラーケンだな。可哀想にあいつに魅入られたらなかなか」
グアリテーロがそう呟くように言った。
船団に大きな黒い塊がまとわりついているようだ。それが海獣クラーケンなのだろう。
「そんなに強いのか?」
「レベル100を超える。巨大モンスターだ」
「ふーん。そうか」
翔はあまり興味が無くなった。
「あっ!」
その時、グアリテーロが小さく叫んだ。
「何だ?」
「あの船団は、パトリエ・バルシェの船団のようだ」
「あんたの幼馴染のか?」
「あの旗印は間違いない。大将旗が掲げてあるからパトリエも載っているぞ」
グアリテーロが急に慌てだした。
「俺は助けに行く」
「お前らしくないな。その慌て様は。パトリエがいるなら大丈夫なんじゃないか。“鷹目”もいるだろうしな」
「いくらトリプルSの“鷹目”がいてもクラーケン相手では、万が一って事もあるし、パトリエはお人好しだから身を呈して皆を守るなんてことをしかねない」
「しかし、お前が行っても仕方ないだろう。パトリエは敵なんだろし、それにどうやって行くつもりだ?」
翔はグアリテーロの慌てぶりにおかしくなって笑いながら聞いた。
「お前に助けを求めたら何とかできるか?」
グアリテーロが尋ねた。
「ああ。あいつら全員に復活の魔法をかけるぐらいならできるだろうな」
翔は軽く答えておいた。
するとどうだろうグアリテーロの尊大な態度が急変した。
「俺が君にこんなお願いをする資格がないことは十分に承知している。無理な願いとわかってお願いする。どうか彼らを助けてやってくれないだろうか。いや、パトリエ・バルシェだけでも良い。助けてやってくれ」
グアリテーロはその場で片足を付いて頭を下げて頼んだ。
翔は助けを求められることに弱かった。
「分かった。何とかしてみよう」
☆
ペガサスに乗った一行がクラーケンと闘っている船団の上に差し掛かった。
「翔君。すまんがあの大将旗の掲げられた船に降りてくれるか」
グアリテーロが言った。
ペガサスはグアリテーロの指示の通り、パトリエ・バルシェ女伯が乗船していると思われる船に急降下して行った。
「アリス。すまんが情報を普通に戻しておいてくれ」
「はい。翔様。承知しました」
アリスは人になっても素直で明るい。言われるままに翔達のレベル、職業、パーティー名などを元に戻した。
翔達が甲板に降り立つと直ぐにパトリエ・バルシェの他、“鷹目”のメンバーが集まってきた。
パトリエ・バルシェは、一行の中にグアリテーロがいる事に驚いた。
「どうしてミーロ様のお坊っちゃまがこんな所に?」
彼女はそう言うとグアリテーロに走り寄り手を掴んだ。
「島を出奔なさったと聞きました。ご無事で何よりです」
パトリエ・バルシェは目に涙を溜めて言った。
「予想外だな」
翔はパトリエの態度に驚いて呟いた。
「そんな事よりクラーケンだ。この者達を助っ人に連れてきたぞ。彼らは船団の皆に復活魔法をかけてくれるそうだ」
グアリテーロがパトリエ・バルシェ女伯の手を握り返しながら言った。翔の初めて見るグアリテーロの渋い顔だった。
(いい顔できんじゃん)
翔は心の中でエールを送った。
パトリエ・バルシェは、グアリテーロの手を離すとグアリテーロが何処かへ行ってしまうとばかりにしっかり握り締めたままで翔に向き直った。
「お前は商都アッティーラの宿で会ったな。これはお前の“剛腕”のメンバーなのか?」
「ああ。こいつらは“剛腕”のサブメンバーで“賢人会”の正メンバーの五人だ」
「みな凄いレベルだな。これはこころ強い」
パトリエ・バルシェが感嘆して言った。
「皆に復活魔法をかけるぞ、俺を魔法シールドの魔法防御対象から外してくれ。復活に影響を与えたくないからな」
「ああ。分かった」
パトリエ・バルシェは、返事と同時に魔法師達に指示をだしていた。
魔法のシールドが赤から青に変わる。その色は翔の魔法が通過できるという事を指している。
翔はその瞬間に魔法陣を展開して復活魔法を船団の全員にかけた。復活魔法は、第六グレイド魔法だがこれほどたくさんの人に一辺にかけるなどは普通はできない。
あまりの魔法にパトリエ・バルシェを始め、“鷹目”の全てのメンバーだけでなく、グアリテーロや船団の乗組員も目を白黒させている。
「驚いた凄腕だな。これ程の魔法を見た事がない」
パトリエ・バルシェは感嘆の声を上げた。
「あの時からお前の魔法には目を見張るところが有ったが恐ろしい腕前になったもんだな」
グアリテーロは目を丸くしながら言った。
「そんな事を言っている暇は無いぞ」
翔が忠告した。
クラーケンが何十メートルもあるイカの足を海上高くに持ち上げて彼らの船に一撃を加えようとしているのだ。
メロが第七グレイド魔法の『爆砕』を放った。
レイラは、第六グレイド剣技『竜巻剣』を放つ。
イリスは第六剣技『黒炎剣』を放つ。
アメリアも第六グレイド剣技『閃光剣』を放った。
最後にアリスは、手からレザー砲を発射した。
「アリス。お前。ロボットみたいだな」
翔が呆れて感嘆の言葉を発した。
「私は、世界樹に直結していますから、魔力を直接エネルギーに変換して発射できます」
アリスがニッコリ笑って行儀よくお辞儀をした。ユグドラシルではお辞儀は最敬礼である。アリスは翔を君主として崇めている事を示したのだ。
見るとクラーケンは、皆の攻撃に耐え切れず慌てて逃げようとしているところだった。
「逃がすか。第九グレイド魔法『煉獄炎』!」
翔は手を前に振ると、手から巨大な魔法陣が展開してクラーケンを補足した。直ぐに魔法陣から煉獄の炎がクラーケンを覆い尽くす。『煉獄炎』はクラーケンが存在した海面こどクラーケンを一瞬で気化してしまった。
翔のあまりにも鮮やかな魔法にパトリエ・バルシェ女伯の船内は無人のように静かになる。物音と言えば波の音と船が軋む音だけだ。
「お前。そんなに凄い奴だったのか」
最初に声を発したのはグアリテーロだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【パトリエ・バルシェ女伯の上座船にて】
「ミーロのお坊っちゃま。どうして私ごとき者の為に、身を呈して来てくださったのですか?」
パトリエ・バルシェ女伯はグアリテーロの両手を包み込むように掴みながら聞いた。
全く周りが見えないのか。本当に助けた翔達は全く無視だ。
「すまねぇな。うちのリーダーは、フォルッチオ・ガストロフィー王家の甥御様の事になると人が変わっちまうんだ。二人は幼馴染らしんだけどな」
申し訳無さそに“鷹目”のメンバーであるレベル85の重戦士。ハイン・グリンが言った。
「しかし、お前達は凄いな。レベルはリーダー達トップツーとあまり変わらが実力が全然違うようだ。やっぱりレベルアップ・トライアル・ルートの威力はスゲェなぁ」
“鷹目”のメンバーであるラルフ・コローナが言った。
しかし、パトリエ・バルシェ女伯はそんな会話など全く耳に入っていない。
「お坊っちゃま。今迄どこに行かれてたのです?」
パトリエ・バルシェ女伯は、上目遣いでグアリテーロの目を覗き込んで聞いた。
「いろいろだ」
グアリテーロは曖昧に答えた。そう答えるしかない。悪魔信仰に手を染めたなどは口が裂けても言えない。
「それよりも、パトリエ。どうして船団などで航行してるんだ?」
「はい。竜王の封印を守護しているカエノ島からフェロモン島に不法侵入者が入り、遺跡を荒らしているとの知らせが入ったのです」
「しかし、フェロモン島は厳重にお総督府の部隊で守護してるんじゃないのか?」
「それが、フェロモン島の部隊からの連絡が途絶えたのです」
女総督は俯いて言った。
「まずいな」
グアリテーロも俯いて言った。
「おい。取り込み中すまんが、フェロモン島に賊が入ってまずいと言うのは、具体的にどうまずいのだ?」
翔がグアリテーロとパトリエ・バルシェ女伯・フェロモン島総督の話に割って入った。
グアリテーロが翔の方に眉間にシワを寄せながら見る。
「竜王の封印を破られると何が起こるかわからんのだ」
グアリテーロが暗鬱な表情で言った。
「そんな封印を誰が何故破るんだ?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【とある島、とある遺跡】
白銀の髪の毛の美しい女の子は、遺跡の中とは思えないほど大きな空間の真ん中に建っていた。
彼女の前には巨大な石碑が有った。
その石碑には次のように刻まれていた。
『竜王、龍尊者・西により封印されし地に墓標を建てる。不用意に荒らせば災いが来らん』
しかし、少女は石碑の忠告を無視して巨大な魔法を構築しはじめた。
「龍種の力。神聖龍力よ。永遠の眠りに着きし龍神ドラクールよ。我の前にその姿を示さん。我は西海広潤王敖閏の末孫にして、五方竜王が黄龍神玄竜が末裔。セーラが名によりて命ずる……」
少女の魔法の詠唱は淀みなく力強く続いた。
「……永久の竜王よ、我の召喚に答えよ」
少女の魔法が完成し術式が淡い魔法陣を写し出した。もし、翔がその術式を見たら事細かく手直ししただろう。
翔に言わせると魔法にすらないってない不完全な術式が魔力を魔法として具現化させてゆく。
少女は稚拙な術式とは裏腹な恐ろしい魔力を注ぎ込んだ。
少女の眼前の巨大な石碑が眩いばかりに輝き始めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【カエノ島総督府】
翔達が総督府に入った時、総督府は惨憺たる有様だった。
パトリエ・バルシェ女伯は、美しい顔を曇らせて周囲を眺めた。
「……であります」
兵士がパトリエ・バルシェ女伯に報告した。
「たった一人だったのだな」
パトリエ・バルシェ女伯は、呟く様に言った。
「パティ。直ぐに行った方がいいぞ」
グアリテーロが言った。
「はい。お坊っちゃま」
パトリエ・バルシェ女伯は答えた。
「お前達。直ぐにフェロモン島に行くぞ」
翔はパトリエ・バルシェ女伯の態度の変化を面白そうに見ていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【フェロモン島】
パトリエ・バルシェ女伯の行くところ、兵士の亡骸有りと言う感じで兵士がゴロゴロ転がっていた。
と言っても、兵士は死んでいたわけではなく失神していただけだが。
中には多少重傷者もいる様だ。
翔達は、今は急ぐので走るように山道を走った。
「翔。疲れた」
メロがわがままを言いだした。
「これしきで疲れる訳が無い」
翔は相手にしない。
「翔。意地悪。前は負んぶしてくれた」
翔はメロを無視して走る。
「翔様。この上には、竜王遺跡があります」
アリスが翔に教えてくれた。
「そこで、リュガナシー・イリは封印されているんだな」
「はい。翔様」
「アリス。翔にあんまり優しくするとつけあがる」
メロが忠告した。
「翔様は偉大な魔術師です。私如きものの態度でご自身の態度を変えられるようなそんな偏狭な方ではありません」
アリスがメロに答えた。
「ははは。メロ。アリスの言う通りだ。翔は誰にだって公平に横柄だ」
アメリアが茶化す。
「そうですわ。翔は美しい女の子に等しくエッチですわ」
イリスまで混ぜ返してくる。
「お前は何か言いたい事は無いのか?」
翔がレイラに聞いた。
レイラは急に話を振られて少しドギマギしてから首を左右に振る。
「はい。何も。何か申し上げた方が宜しいですか?」
「そこはレイラ。翔に何か言っておいた方が良いぞ。気軽に触らないでとか」
アメリアが忠告した。
「はい。お願いします」
レイラがアメリアの言葉を引き継いで翔にお願いした。
「ほう。そんなに触ってくれとお願いされては触らんとな」
翔は無理やり話しを曲解して鼻の下を伸ばしながら手を伸ばしてレイラの素肌の見えている肩をペタペタ触った。
「「「きゃ!」」」
レイラが可愛らしく身構える。
「いつまでも初々しい奴じゃ。うへへへへ」
翔は助平爺のフリをして更にレイラに悪の手を伸ばそうとした。
そこにいつものメロの電撃が翔を直撃した。雷は大きな音を立てて、一緒に走っていた兵士達を驚かせる。
少年兵のピーターは、後にこの日の出来事を語るときにはこの山道での翔達の悪ふざけを詳細に語る事になるがそのクライマックスがこの電撃だった。
メロの電撃は単なる第一グレイド魔法の『電撃』の範囲を超えて恐ろしい破壊力を秘めている。事実、翔に落とされた電撃の影響で数本の大木が吹き飛んだほどだ。
それを冗談のように仲間に見舞ったり見舞われたりしながら冗談を言い合っているのだ。
しかも、この連中の美しい事は言葉にできないほどだ。神々が降臨したのかと思うほど皆美しいのだ。
死にそうになりながら必死に走る少年兵は、山野を散歩しているように進む翔達に、熱い眼差しを贈り続けた。
☆
「おお。凄い」
眼前の巨大な遺跡を前にメロが感嘆の声をあげた。
「森林からいきなり現れたからな」
アメリアもメロと同じ姿勢で遺跡を見る。
「こんな山奥に建てるには相当な労働力が必要だったでしょう」
神々の豪華な神殿を見慣れているはずのレイラも感嘆の声をあげた。
翔達は巨大な遺跡の前に立っていた。見ると遺跡の入口らしきものが見える。その周辺にも大勢の兵士達が倒れていた。
翔達の前を行く“鷹目”達は集合して戦闘態勢になった。さすがにレベル80超えが二人もいるトリプルS級パーティーだ。隙がなく効率の良い位置取りだ。
翔はその後、自分達のパーティーを見回してみて大きなため息がでた。
皆。てんでバラバラなのだ。改めて見てみるとこんなに酷かったかと呆れる。
メロは、翔の背中に自分の背中をくっつけて、歌いながら歩いている。つまり後ろ向きであるいている。傷は後ろを無理に振り向いて見ると、メロは空を見上げていたのを翔のほうに少し視線を寄せてニコリ笑った。これから竜王と対峙するかもしれないのに無邪気なものだ。
アメリアは少し後ろを歩いている。意識的なのか無意識なのか豊かなバストを強調するように前に突き出し、バストを腕に乗せるように両手をバストの下にくぐらせて組んでいる。彼女も翔と目が合うとニコリと笑った。アメリアの笑いは上品で威厳があった。
そのアメリアの横にはレイラが歩いている。お姫様ふうに可愛らしく上品な彼女も翔と視線が合うと嬉しそうにニッコリ笑ってきた。可憐で可愛く美しい笑いだ。
イリスは、いつも翔と腕を組んでいる。イリスは体は小さいがかなり大きな胸を翔の腕に押し付けてくる。翔はその感触を楽しむでいる。
逆の腕にはアリスが捕まっている。アリスは生まれてから一時たりとも離れようとしない。不思議な緑色系の光沢のある髪の毛が彼女を世界樹の苗木だった事を思わせるがそれ以外は美しく可憐で真面目そうな少女だ。
翔達のフォーメーションと言うか塊はいつもそんな感じで適当に歩いている。
見ると巨大なピラミッドのような遺跡の中に“鷹目”の六人が入っていくところだ。
グアリテーロがその直ぐ後に、翔達が続いて入っていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【とある島、とある遺跡の中の巨大な空間の石碑の前にて】
白銀の髪が石碑の輝きを反射してキラキラ輝いた。
石碑がガタガタ音を立てて揺れだした。その揺れは次第に足元に広がり遺跡全体に広がって行った。
少女はその変化に目を少し大きくし口もと強く結んで石碑から下がった。
石碑の輝きは更に増して遺跡全体が目眩がするほど揺れ始めた。恐ろしい地鳴りが起こっている。
「お前。なんて馬鹿な事をしているのか?」
少女の背後から女の声がした。
白銀の髪の少女は声の方を振り返った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【フェロモン島。遺跡の中】
翔達が入って行った遺跡の中はなかなか広い。
「ここには魔物が出るので気をつけろ」
パトリエ・バルシェ女伯総督が翔達に忠告した。
翔達は相変わらず団子のようになって“鷹目”の後ろをついて行った。
“鷹目”の前に(狼・蛇・牛)キマイラ三匹、レベル78、76、75か現れた。
“鷹目”のメンバー構成は以下の通りだ。
『隊長。パトリエ・バルシェ女伯総督。総督は、パトリエ・バルシェ。戦闘士、白魔法士のダブル。レベル88』
『副隊長。ハイン・グリン。重戦闘士。レベル85』
『ローラ・スチアート。戦闘魔術師。レベル76』
『ラフル・コローナ。弓使い。レベル79』
『アリアン・ジラール。魔法騎士。レベル76』
『バルドゥ・ブライバッハ。治療師。レベル79』
翔達が知る冒険者パーティーで最強のメンバーだ。しかし、一般の冒険者達のレベルによる実力は、魔物レベルの実力とは合致していない。
冒険者のレベル50だと魔物のレベル40前後で同じぐらいなのだ。だから冒険者はパーティーを作って同じレベルの魔物を討伐するのだ。
“鷹目”とキマイラの総合力は均衡している。このまま戦うと被害は免れないだろう。
瞬間の判断で支援魔法をかけてやった。翔がかけた魔法は第八グレイド魔法の『オールステータスアップ』だ。しかし普通の第八グレイド魔法『オールステータスアップ』は単体魔法なのだが翔には魔法の制限など全く意味をなさない。『オールステータスアップ』を範囲魔法として発動した。
その翔の魔法を見てメロがそれを真似て同じく『オールステータスアップ』の範囲魔法を発動した。メロは本当の魔法の天才だ。翔の魔法を見ただけである程度その魔法を真似てしまうのだからそのセンスは普通じゃない。
『オールステータスアップ』の範囲魔法を二度もかけられしかもその魔法が一瞬で行われたのだが、“鷹目”の戦闘魔術師ローラ・スチアートとアリアン・ジラールは一瞬何が起こったか理解できずに目を白黒させている。
二つの魔法で“鷹目”の実質の実力が相当あがったのは言うまでもない。その甲斐もあり“鷹目”は間も無くキマイラ三匹を退治した。
「こんな魔物を討伐しつつ進む侵入者って、女の子とか兵隊さんが言ってたけど凄く強いわね」
イリスが翔の腕に胸を押し付けながら言った。
確かにそうだ。トリプルS級の“鷹目”が手こずる魔物レベルの遺跡を一人で入って行ったのだ。その侵入者の女の子とは相当なレベルという事だ。
“鷹目”とグアリテーロがそのまま進み、時々出てくる魔物を退治しつつ進んだ。
遺跡は全部で五層となっていてちょっとしたダンジョンだ。
翔達は相変わらず馬鹿騒ぎしながら進んだ。
翔達の後を来ていた総督府の軍人達は、騎士級の者達がギリギリ付いてきている程度でほとんどは、ここまで来るまでに魔物にやられたり、体力の限界になったりで脱落していた。さぞかし、クナン島のチサンの街にある『復活の天宮』は繁盛している事だろう。
「お前達は、本当にこんな状況で良くそんなにリラックスしてられるな」
グアリテーロが引きつった顔で翔達を見て呆れたように言って肩をすくめて見せた。
「ああ。俺達には日常そのものだ。むしろ今の状態の方が慣れているほどだ」
翔が答えた。
その答えにグアリテーロは更に呆れたように頭を左右に振った。
「そろそろ終点だ。強敵との遭遇に備えよ」
パトリエ・バルシェ女伯が叫んだ。
見ると通路の先が明るく照らされているようだ。
パトリエ・バルシェ女伯は躊躇する事なくその通路に入って行った。
その時、足元から振動が伝わった。地震だ。
「こんなところで。崩れたら危ないな」
翔が緊張感のない声で言った。
「急ぐぞ」
パトリエ・バルシェ女伯が叫んで明かりがつく大きそうな部屋に入って行った。
翔達も一緒に入って行こうとすると、パトリエ・バルシェの声が聞こえた。
「お前。なんて馬鹿な事をしているのか?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【とある遺跡の大広間。石碑の前】
白銀の髪の少女は、その言葉に驚いて振り返った。
見るとなかなか強そうな女性を先頭にして数人の者達が入って来る所だった。彼女は目を細めてその者達を見た。
(大した事がないな)
心の中で彼女はそう考えた。
しかし一瞬にして彼女の顔が曇る。今入ってきた集団は危険だと全身から汗が吹き出た。
先頭の男の子の左右に可愛い女性が二人。不思議な緑色の髪の毛の女の子と珍しい黒髪の女の子。その後ろに山高帽の女の子と更に二人女の子がいる。彼らは危険だ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【竜王の遺跡。封印の間】
遺跡が雷鳴のような音を立てて揺れている。
翔は大きな部屋に入ると、輝く石碑とその前に女の子がいるのに気づいた。
パトリエ・バルシェ女伯が女の子に向かって叫んだ。
「お前。お前が手を出している竜王の封印を解くとどんな災いがあるかわからんのだぞ。その石碑に書いてある言葉が読めんのか」
「私は西海広潤王敖閏の末孫にして、五方竜王が黄龍神玄竜が末裔。セーラ・ロンラード。私には竜王を封印より解放する正当な権利と義務がある」
銀髪の女の子セーラ・ロンラードがそう答えた。
「翔。あの子好き」
翔の背後からメロが言った。
メロが好きという相手で悪い人間はいないと翔は経験から分かっている。メロがそんな事を言うのはいきなり殺すなと釘をさしているのだ。
パトリエ・バルシェ女伯は、腰から剣を抜き放った。
「お前達は常に勘違いしている。竜王様は自ら眠りに着いたのだ。我々、夢燦河が竜王様に酷い仕打ちなど取れるはずが有るまい。その石碑の銘も竜王様が自ら刻まれたのだぞ」
「何を世迷言を。お前達人族は、常にそうやって我々を虐げてきたのだ」
セーラ・ロンラードと名乗った少女はそう言ってパトリエ・バルシェ女伯の言う事を聞こうとしなかった。
「待て。私の先祖は夢燦河で竜王様の神官をしていたのだ。我が家には言い伝えが有って、竜王様はオリュンポス神の呪いを受けて狂戦士していたと言うのだ。そのまま封印を解くと古代に起きたと言う天変地異が起きかねんぞ。直ぐにお前の魔法を中止しろ」
パトリエ・バルシェ女伯が叫んだ。
「そんな話は信じられないし、もはや手遅れです」
セーラ・ロンラードがキッパリと言った。
「翔。二人を止めて」
メロが耳元で囁いた。
翔はメロにうなづくと、ツカツカと歩いて行ってパトリエ・バルシェ女伯と銀髪の女の子の二人の間に入って行った。
「お前達。とにかく竜王は封印から解かれそうだ。二人の争いは竜王とのご対面の後にしろ」
正に翔がそう言った通りに石碑は輝きを増し、遺跡は今にも崩れそうなほどに揺れている。
恐ろしい揺れはついに立っていられなくなるほどに揺れだした。石碑は太陽のように眩い光で直視できない。
次の瞬間だった。全てが闇に吸い込まれるように光一つない静寂の闇に包まれた。
031 了




