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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第一章 レベルアップ編

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030 そんな趣味じゃねぇよ

「翔。暑い」


「メロ。お前の暑いはもう聞き飽きた。いい加減にしろ」


「いいーだ」

 メロが端正な顔を歪めて歯を見せる。


「メロ。お前はどんな顔をしても美しいな」

 そう言ったのはもちろん翔ではない。アメリアだった。


 美しさなら、繊細で輝くようなアメリアの妖精の美しさも秀逸だ。


「うーん?」

 メロはアメリアの話には興味がないようだ。

「アメリアの方が百倍綺麗だよ」


 しかし、メロの感想はまったく外れている。メロとアメリアは種類の違う同じレベルの美しさだったからだ。メロはユグドラシルの人間の中でも飛び抜けて美しい端正な顔立ちをしていた。


 最近は翔の創造する衣装を着るのが普通になり、メロの趣味もグンと上がっている。トレードマークのつば広の山高帽子は絶対に離さないがその山高帽子も翔がデザインすると可愛いアイテムになるから不思議だ。


 メロの服のデザインも、本来なら魔術師の地味なローブが一般的なのだが、派手好みのメロの趣味を考慮してピンクを基調に可愛いパステルタッチのワピースとなっている。


 翔のデザインは、触れ合いを必要以上に推奨しいる翔が、肩、背中の一部を露出させて素肌に触れられるデザインとなっていて、メロも開放感のある衣装を歓迎して着ている。


 その開放感のある衣装でもここ南端の商都アッティーラで汗を掻くほどに暑いのだ。


「翔。暑い。暑い」

 メロが暑いを連発した。


「仕方がないやつだ」


 とうとう翔は根負けした。仕方がないので、体温の自動調整機能の付いた衣装を出してやることにした。性能を考えると生地が分厚くなるし、露出度が下がるので翔はそんな衣装は好きじゃないのだ。


 翔の魔法で体感温度を調節する服を作ってもらったメロはクルクル回って喜んだ。

「わーい! 涼しい!」

 メロが子供のようにはしゃぎだした。


「ちゃんとできたか?」

 翔は服の出来栄えを確かめるフリをしながらメロの身体を撫でました。翔は役得と心得ている。しかし挙句の果てに、メロの可愛いお尻にソフトタッチしてメロに電撃を浴びせられた。


「「「ぎゃー」」」

 翔は叫んで飛び退いた。


 その様子を見ていたアメリアが無言で翔に近づいてきた。それから少し手を広げて胸を強調した姿勢になる。無言で触れと言っているのだ。ギブアンドテイクの精神だ。「触ってもいいが涼しい服をくれ」と言っているのだ。


 直ぐにアメリアの真意を悟った翔は素直に鼻の下を伸ばしてアメリアの胸に手を伸ばそうとしてまたもやメロの電撃を受けてしまっている。


「「「ぎゃー」」」

 翔はまた叫んでいる。


 アメリアがメロにウィンクしてから翔の耳元に口を近づけた。

「後でメロのいない隙に好きなだけ触るがいい。だからさっさと服をつくってくれ。暑くて仕方がない」

 妖精王の孫らしく威厳を持って言った。


 契約成立だ。翔はエロい妄想を頭に巡らしつつ、一も二もなく服をつくってやった。


 その様子を見ていたイリスが今度はススッと翔に近づいてきて身を擦り寄せる。少女のように細く小さいイリスだが、彼女はその体格に不釣り合いな大きな胸をしている。その胸を翔の腕に押し付けてくる。


「翔。お・ね・が・い。ですわ。私にも快適な服を作っ頂きたいわ」

 イリスは利発で真面目な少女風の外見からは想像できないような色っぽい声で言った。


 鼻の下を伸ばした翔は、直ぐに服を作ってやる。


 さて最後に残ったレイラだが、彼女はモジモジして羨ましそうに、そんな皆を見ていたが皆のように積極的に出れるような女の子ではない。


 翔はそんなレイラの素肌の見えている肩に手を置くとその少し汗ばんだ肌触りを堪能した。レイラは身体を硬くして身構えているがあらがいはしない。


 翔もおとなしいレイラにはあまりソフトタッチを逸脱させる事をしないのでメロはあまり介入してこない。


 翔はレイラの場合は肩の手触りだけで我慢して。

「お前も作って欲しいのか?」

 翔がそう聞くとレイラはコクリと頷いた。


 翔はレイラと自分の分も自動温度調節機能付の服を作った。




 商都アッティーラは、神聖国アガリアンの南端の港街だ。


 この港街からグアリテーロ・デ・ミータの故郷である夢燦河むさんがには直行便がある。


 商都は、『始まりの街』と比べると亜人種の比率が多い街だった。


 翔は特にモフモフした長耳が付いたウサギ娘と猫耳の豊満な女の子が気に入ってジロジロとエッチな視線を投げかけていた。


(あのモフモフの毛皮の肌触りとはどんなものだろうか)と翔は考えると頭が熱くなってしまう。


「翔。エッチな顔!」

 すかさずメロが注意した。


(こいつはレーダーか?)

 気を付けないといけないのはメロだ。下手な視線を流しているとメロの電撃が飛んでくる。


「どうして男はそうやって気が多いのだ? 女の身体が見たいなら私の身体をいくらでも見れば良かろう」

 アメリアが呆れて言った。


「それはそれ、これはこれだろうが」

 翔がなぜそれが分からないんだと不思議そうに言った。


 商都アッティーラに入る頃には潮の香りが鼻を付いた。翔はユグドラシルだろうが、(日本だろうが潮の香りは同じだなぁ)と思った。


(アリス。商都アッティーラって?)


《はい。翔様。商都アッティーラは、人口二十六万人の港街です。ここでは、世界中の亜人種が集まる国際的な街なので、亜人種への差別は『始まりの街』などよりも小さいでしょう》


(そうだな。異種のカップルが多いもんな)


《さすがに翔様。異種間の交配が盛んな文化は差別が低い証拠です》

 またアリスの翔賛歌が始まった。


 アリスによると、商都アッティーラは、フェロモン諸島にあるフェロモン総督で辺境伯でもあるパトリエ・バルシェが治めているらしい。


 パトリエ・ペルシエは、レベル88の戦闘士、白魔法士のダブルであり、自らトリプルSパーティー“鷹目ホークアイ”のリーダーでもあるらしい。




 翔達のレベルも今ではトリプルS級と同等レベルになっている。さらに実力で言えばオーバーS級の英雄級と言っても良いだろう。あるいは最強パーティー“大鷲グレートイーグル”に匹敵するかもしれない。


 しかし、外見は彼らはちっとも強そうには見えない。美しい少女達は、可憐かれんだったり上品だったり、魅惑みわく的だったり、美しいプロポーションだったりで人目を惹き付ける要素がタップリだ。


 その中に一人だけパッとしない少年が入っているわけだ。それが翔なのだが、彼は身長は大きくスタイルも良く目鼻立ちもそこそこなのになぜかあまりパッとしない外見に見えるのだ。


 それは、天使レリエルがかけた呪いのせいだ。呪いは強烈で翔のレベルや魔法の才能を知らなければ皆彼の事を馬鹿にして見向きもしない。


 商都アッティーラは街のあちらこちらで市場が多く開かれている。メロは興味深々で市場の売り物を見ていた。


「メロ、お小遣いをやろう」

 翔はメロに大銀貨を三枚ほどつかませる。日本円で三万円程の価値だ。市場で買い物をするには十分だろう。


 メロは喜んで市場に走って買い物に行った。


「お前達も買い物でもして来い」


 翔はメロ以外には金貨を何枚か渡す。金貨は一枚で十万円程度の価値だ。しかしメロ以外はそれほど無駄使いをして邪魔なアイテムを増やすような物はいないので各自に適当にお金を渡すようにしている。


「俺はグアリテーロの情報を仕入れてくる」

 翔はそう言った。


「何か良い案でもあるのか?」

 アメリアが聞いた。


「ギルドで懸賞金付のクエストを発行しようと思う」

 翔が答えた。


「ほう。どうしてそんな事を?」


「ああ。俺達もそのクエストに参加するのさ。そうすれば、俺達が情報の収集をしていてもその理由は報酬のためと思われるだろうし、あるいは別の冒険者から情報が入るかもしれん。一石二鳥だ」


「なるほど。翔はなかなかの策士だな」

 アメリアがしきりに感心する。


「お前達は、買い物をしたら適当に宿屋を取ってくれ。どの宿屋に泊まったかは冒険者カードの連絡先にでも登録してくれたらアリスから聞く」





 翔は一人になるとアリスに聞いてギルドに向かった。


 商都アッティーラのギルド支部は、商都のギルド支部らしく店舗が支部の周りを取り囲み、なかなか繁盛しているようだ。


 翔はそれらの店には全く興味を示さずそのままギルドに入って言った。


(アリス。このギルドの冒険者はレベルが高い者が多いな)

 翔はそう感じた。


 冒険者はレベルが25ぐらいから35ぐらいまでが多い。中には40を超える冒険者も少なくない。


《はい。ここは海に近いですから》


(というと?)


《海獣がたくさん出ます。海浜では、海獣に備えて冒険者の活躍の場が多いのです》


(海獣か。そいつらはレベルが高いのか?)


《大きな魔物が多く、レベルも高めになります》


 翔はそのような事を話しながらギルドを見渡した。新顔の翔だがさすがにレベルが高い彼に誰も因縁やちょっかいをかけてくる冒険者もいなかった。


 翔は、受付に近づいて行った。


 受付嬢はアリス付箋では次のように紹介されている。

『カーラッタ・ダミアーノ。二十四歳。レベル33。召喚師』


「こんにちは。翔・マンダリンさん」

 受付嬢はそう挨拶してきた。ギルドの受付嬢は世界樹ユグドラシルネットの端末を操作して冒険者の情報を得ているのだ。


「やあ。クエストを出したいんだが」

 翔が言った。


「翔さんは、ダブルS級の“剛腕”のサブメンバーでらっしゃるんですね。お若いのに凄いですね」

 受付嬢は端末をいじっていたがそんな情報を得たのだろう驚いていた。


(まだ、“剛腕”に入れていてくれるんだな)

 翔はそう考えた。剛腕のアルマは、翔の願いを聞いて“剛腕”のサブメンバーに入れてくれてそのままにしていてくれているようだ。


 翔は、クエスト発行の手続きの仕方を受付嬢に教えて貰い、グアリテーロ・デ・ミータの捜索クエストを出した。居所の確証に報酬金を金貨三十出す事とした。


 それから、自分達もクエストに参加登録する。これは珍しい事ではないらしい。情報を自分達が先に得たらクエスト報酬は支払わなくて済むからだ。手数料として金貨三枚を渡す。


 正式なクエスト証明書が発行された。この証明書があれば、グアリテーロ・デ・ミータの情報を翔がなぜ欲しがっているかについては証明書を見せるだけで納得してもらえるだろう。


 クエスト受託者の恩恵として、グアリテーロ・デ・ミータの情報収集をギルドに依頼できるようになる。ある意味、個人情報など皆無な事が分かる。


 ギルドに登録されているグアリテーロ・デ・ミータのデータには彼が旧夢燦河むさんが王国の国王であるフォルッチオ・ガストロフィーの妹エレオノラ・ガストロフィー・デ・ミータの子供だと言う情報が有った。悪魔崇拝の幹部であるという伯爵令嬢のアンジェーリーナ・ゾリが明かした情報が本当であったことを証明していた。


 アリスによると、この情報は世界樹ユグドラシルネットには非公開となっているらしい。


 夢燦河むさんがの情報やフォルッチオ・ガストロフィーの事はアリスが多くの情報を持っていた。


夢燦河むさんがは古くは七王国の一つとされていた大陸でした。ところが、竜王リュガナシー・イリが降誕し、竜王とオリュンポス山の神々との激しい戦争により、大陸のほとんどが水没する大災害に見舞われました。その後、夢燦河むさんがは、神聖国アガリアンの庇護の元、王家はフェロモン公爵となっています。竜王リュガナシー・イリは南の果てのフェロモン島に封印されたと言われています》


(フェロモン島か?)


《現在。夢燦河むさんがは、フェロモン公爵となったガストロフィー旧王家と、フェロモン諸島総督の辺境伯パトリエ・バリシェ女伯の二頭統治制となっています。王宮はアッティーラに一番近い王国寄りのクナン島に有り、フェロモン諸島総督府は逆に南端の島フェロモン島の一つ北にあるカエノ島にあります》


(王家は竜王から逃げ、総督は竜王から国民を守るって位置関係だな)

 翔はそう評した。


《竜王リュガナシー・イリには再誕伝説があります。フェロモン諸島の皆はそれを恐れているのでしょう》


(逆に辺境伯は竜王の再誕を阻止するって立場だな。勇ましい限りだ。女伯だとかいっていたがトリプルS級の“鷹目フォークアイ”のリーダーとか言っていたな)


《彼女は強いだけではなく美しいとも言われています。年齢は二十五歳でまだ独身です。一方、フェロモン公爵フォルッチオ・ガストロフィーも相当強いと言う事で有名です。二人は大変仲が悪く一触即発だとも噂されているようです》


(一触即発か)

 翔は激しく頭を回転させた。





 宿屋に行くとメロ達は、湯上りで枕投げの最中だった。


「おー。やってるね」

 翔は、部屋に入るなりサッと皆の乱れた衣装の様子をしっかりと目に焼き付けながら部屋に入った。


「キャ」

 レイラが可愛らしい声を上げて着崩れた服を整える。


「俺は別の部屋で一人で寝ても良いぞ」

 翔が着替えを持って部屋を出ようとしながら言った。本心ではないが女の子ばかりの部屋で寝るのは少し抵抗感がある。


「駄目〜」

 反対するのはいつもメロだ。一人で寂しく夜を野宿していたメロを救った翔と離れて寝るのが怖いのだ。


「まぁ、お前達が良いなら俺はどちらでもいいが」

 翔はそう言いながら部屋を出る。


 宿屋は、なかなか広い、ふーと一息付いて廊下を歩いていると向こうから派手な金属の音をさせてやってくる一団がいる。


 見るとなかなか美しい女だ。見とれていると共の者だろう、二人の兵士風の男がススッと翔に近づいてきて両手を広げると翔をトウセンボウする。


 翔は一瞬、この兵士達を蹴散らしてやろうかと思ったが思い直して黙ってされるがままになっていた。


「おい。貴様。こちらのレディは、フェロモン諸島総督様だ、控えろ」

 そう言いながら頭を押さえに来た。


 翔はいきなり頭を押さえられて頭を下げるなどはした事がない。そいつの手を振りほどいてその女性に普通に礼をした。


 頭を下げて礼をするのはユグドラシルでは最敬礼だ。兵士の力でしたのではないのでキッチリと最敬礼をした事になる。


 しかも礼をし慣れている翔がすると実にスムーズだ。


 女総督様は、翔の前で止まると。

「突然失礼したな。兵士の横暴な態度に鷹揚に対応してくれて感謝する」

 彼女は翔の耳元でそう呟いた。

「お前は、相当、るな。一度手合せしてくれ。“剛腕”は今度のゼノ平原の紛争では大活躍だったと聞くぞ」


「さあな」

 翔はしらっとボケる。

「それより、あんたみたいな貴族様がなんでこんな安宿に?」


「ふーむ? お前はただの冒険者ではないのか。ここが貴族も通わぬ安宿だと考えるとはな。どう見てもここはこの街一番の高級宿屋だろう」

 が少し驚きながら言った。


 翔はその回答に釈然とせずに回りを見回した。

「唯の安宿だろう」


「お前はどこかのお大尽だいじんの息子か大貴族の子弟なのか? ここは聖都アレイアンの宿屋と比べてもそこそこ高級な部類に入るはずだぞ」


 しかし、現代日本人の翔にはこの宿屋がとても高級には見えないのだ。


「その事はともかく一つ聞きたいことがあるんだが」

 翔が話題を変える。


「何だ?」

 パトリエ・バルシェ女伯が怪訝な顔で聞いた。


「答えにくい質問だったら、答えなくていいぞ。俺の知り合いにどこぞの国の国王だった奴の甥っ子がいる。そいつは悪魔が好きらしい。そいつを探している」


「ふーん」

 パトリエ・バルシェはキラリと目を光らせた。

「悪魔が好きな奴は結構いるだろう。中島カマルにもそんな奴がいると聞いたぞ」

 総督が答えた。


「あんた。ただのいい女じゃないな」

 その答えに感動した翔が言った。


「さあな。いい女と言ってくれた事は覚えておくよ」

 辺境伯、パトリエ・バルシェ総督は笑いながらそう言うと奥の部屋に歩いて言った。


 翔は彼女の鎧で包まれた身体の線を想像しながら鼻の下を伸ばして女伯の後ろ姿に見とれていたが、女伯達一行の姿が見えなくなると直ぐに踵を返してそのままお風呂に向かった。


 共同の風呂場は温泉が引き込まれており、なかなか繁盛している様だった。


 アリスは男達の裸に辟易したのかいつものレベルを表示する付箋を表示してくれない。


 翔が一歩中に入った瞬間に肌を締め付けてくる闘気バトルオーラが風呂場全体を覆っていることに気付いた。


 翔はそれらの闘気バトルオーラを軽く受け流しつつ掛け湯をしてから湯舟に浸かった。


「兄いちゃん。あんた若いのに大変なレベルじゃないか。どんな修行をしてきたんだ?」


 翔の横から強大な身体の男が聞いてきた。翔は一瞬だけそのオッさんを見た。


(アリス。こいつは?)


《先ほどの女総督と同じ“鷹目ホークアイ”のメンバーでハイン・グリン。重戦闘士。レベル85。です》

 そっけなくアリスが答えた。男達の裸が見たくないようだ。


(すまん。ありがとう)

 翔は礼を言った。


 アリスの情報がなければ怖くて話せなくなっている自分に改めて気付いた。


「ああ。ルートを攻略しただけさ」

 翔は軽く答えた。


「そうか? 北の方は脆弱な奴らが女神の作ったルートをチマチマ回ってレベル上げに専念していて実力が付かないと聞いているぞ」

 ハイン・グリンが重ねて聞いた。


 面倒臭くなって翔は黙ってしまった。


「ハイン。少年が困っているんじゃないか」

 もう一人強そうなのが割って入ってきた。


「そんなやわなやつじゃなかろうが」

 ハイン・グリンが笑いながら言った。

「この少年のレベルを見てみろ」


「おお。レベル80越えか。君のような若者がどうやったらそこまでになれたんだ?」

 ミイラ取りがミイラになるように仲裁に入ってきたオッさんが同じ質問をしている。


 翔は笑い出した。

「あんたら。面倒臭いな。俺は、レベルアップ・トライアル・ルートで修行した。それでいいか?」


「何?」

 ハイン・グリンが驚いて聞き返す。

「本当か?」


「オッさんらが聞いてきたから答えたまでだ。信じなくても俺は困らない。これ以上煩わしい質問は勘弁してくれ」


 しかし、翔の言葉は彼等には届かなかった。


「おい。こいつはあのブリュンヒルデ回廊を踏破してきたらしいぞ」

 ハイン・グリンが後ろを向いて叫んだ。


 一度に翔は大勢の男達に囲まれる事になる。トリプルSランクの冒険者は、修行オタクなのだろう。目の前に自分達が知らない修行方法が有るなら試したいのだ。


 仕方なく翔は“鷹目ホークアイ”のメンバー達にレベルアップ・トライアル・ルートの話をしてやった。


 “鷹目ホークアイ”のメンバーはハイン・グリン以外にラルフ・コローナ。アリアン・ジラール。バルドゥ・ブライバッハの三人のメンバーが風呂に入っていた。この他に女性のメンバーでローラ・スチアートがいるらしい。女伯を入れると六人パーティーのようだ。


 翔は自分を“剛腕”のザブメンバーだと説明すると皆は納得してくれた。無名のパーティーがレベル80を超えること自体があまりにも異例なのだ。“剛腕”のアルマ様々だ。


 “鷹目フォークアイ”は、アガリアン神聖国では有名なトリプルSランクパーティーだ。


 実力も“大鷲グレートイーグル”に比肩すると言われている。


 しかもリーダーのパトリエ・バルシェはメルトランド公爵の令嬢で辺境伯であり、フェロモン諸島総督府の総督である。他のメンバーにしても、パトリエ・バルシェの正式な部下達で将軍や高級将校である騎士達だ。そんな彼等だが翔にとても気さく話してくれていたし、翔の修行に共感とリスペクトを持ってくれた様だった。





 翌朝、翔達はフェロモン諸島に向けて出港した。先ずは、グアリテーロがいると言う中島のカマル島まで向かうつもりだったが、パトリエ・バルシェ女伯が教えてくれた中島のカマル島までの直行便は無く、商都アッティーラの港から見えるクナン島に行くしかなかった。


(アリス。クナン島はどんなところなんだ?)


《はい。翔様。クナン島は別名、夢燦河むかんが島とも申します。フェロモン諸島の領主であるフォルッチオ・ガストロフィー公爵の居城はこの島の北端に位置します。フェロモン諸島の最も大きな島です。人口は島全部で二十五万人ほどでしょう》


(フェロモン諸島は昔、夢燦河って王国だったんだよな)


《その通りです。竜王リュガナシー・イリと夢燦河むさんが大陸の中央にそびえていたと言うオリュンポス山に住んでいた神々との争いにより大陸が沈没して、陸続きだった所が多くの諸島になったのだと神話は語っています》


(神話か? 真話じゃ無いよな)


世界樹ユグドラシルネットの記録によりますと、竜王リュガナシー・イリは一種の魔王で、神々と竜王との戦いはしょくの大きなものあるいはラグナロクの小さなものであったと推定されています》


(ラグナロクって何度も起こるものなのか?)


《もちろんどこまでが本当か分かりませんがラグナロクはユグドラシルでは何度も起きているとする説もあります》


(説ね。じゃ神話ではどうなってんの?)


《竜王による大陸崩壊神話は少し矛盾があります。大陸崩壊神話では竜王リュガナシー・イリは魔王のような蝕で降誕したあと魔物を操り破壊の限りを尽くしたとされています。そしてオリュンポスの神々の主である雷神ゼウスが一騎打ちで竜王を討滅するのがクライマックスとなっていてその戦いの余波で大陸が崩壊したとされています。しかし夢燦河むさんがのさらに古い神話には竜王は古くから存在し、神の一員となっていて尊崇されていたようなのです》


(神話の矛盾? 神話の改ざんなんてあるの?)


《もちろんあからさまな改ざんはしません。しかし割愛や倒置は良くある改ざんの手法です》


(ユグドラシルでは神話は神が作ってんだよな)


《翔様。神々は人間よりも人間的です》


(つまり、神話では竜王リュガナシー・イリが悪役で神々が善とされているが実際は大陸崩壊の原因は神々に非があるかもって事か)


《その辺の事は私からは何とも……》


(そう言えば、この大陸の崩壊でオリュンポスの神々はどうなったんだ?)


《オリュンポス神は、アース神より世界樹ユグドラシルの天界の中にオリュンポス枝という場所を分けてもらい今ではアース神の一部となって住んでいます》


(なるほどな。分かったよ。アース神はオリュンポス神を取り込んで勢力を増したって事か。レリエルと言いアース神もなかなか奥が深いって事だな)


《はい。大変深いと申し上げねばなりませんが、私には神々を評する機能は有りません》


 アリスはそこまで言うとプツリと黙ってしまった。アリスのその雰囲気から彼女がかなり無理をして翔に必要な情報を話してくれた事が分かった。





 フェロモン諸島の最もアガリアン神聖国に近いクナン島の港町チサンへの海路はアッと言う間だった。


 クナンの港町チサンには、フェロモン諸島の領主であるフォルッチオ・ガストロフィーの居城があった。港から見上げるような高台に城が見えた。


(アリス。あの城は竜宮城みたいだな)


《その通りです。あの城壁は竜を模しており、城の尖塔げ竜の頭頂部を模していると言われています》


(なるほどな。この島の統治者は竜と関わりが深かったって事だな)


《こちらの神話で登場する竜は、胴体が蛇の様で空を飛び風を呼び雨を降らせる神です。あの城壁に模された様な姿でした》


(今ではあの形の竜はいないのか?)


《フェロモン島に封印された竜王は恐らくあの城壁の竜と同じ姿だったと思われます。神話では五大竜王と四海竜王などの竜王がいたとされています》


(お前の話を聞いていると、あの形以外の竜王もいるみたいだな)


ドラゴンは普通あの様な蛇の姿ではなく、胴体が太く四つ足で大きな羽が生えています。その様なドラゴンは今でも棲息しています》


(そうなのか。ドラゴンが実在するのか)


《はい。ドラゴンには種類がありますし様々な異名を持つ強いドラゴンなどもいます。異名の中に竜王と呼ばれているドラゴンなどもおりますが夢燦河むさんがの竜王神話の竜王はそれらのドラゴンとは様子が違うようです》


「翔。アリスとばっかり話してつまんない」

 メロが翔の腕にぶら下がるように掴まりながら言った。





 冒険者たるもの、先ずは旅先では狩場を探すものだ。自分達のレベルに合った魔物が棲息する場所を探しそこで狩りをするのだ。翔達もグアリテーロ探しだけではなくレベルアップを目指して魔物の狩りも行う事にした。


 冒険者が最初に行うのは、復活魔法の準備だ。翔達は、チサンの街の天宮の神殿に立ち寄り復活の魔法を掛けてもらいに行った。そうしなければ『復活都市』に復活してしまうのだ。


 この魔法は復活の始点マーキングと言われている。冒険者の最初に行うべき儀式のようなものだ。


 翔は結構な額を天宮の神殿に寄進をしておいた。普通は寄進するだけで復活する事は少ないはずだが翔達は頻繁に復活する事が想像されたからだ。


 ちなみに復活系の魔法は、神聖魔法の部類に入るため、レイラは得意だ。白魔法系のメロとアメリアは問題なく使える。黒魔法系のイリスは得意ではないがイリスも他のメンバーと同様にレベルアップ・トライアル・ルートの『試練の間』攻略者の恩恵で多少の白魔法、神聖魔法の能力が付与されたので全く使えないと言うわけではない。魔法の術式を読み解く天才の翔は不得意などありえない。


 アリスの案内でレベルアップのための狩場は直ぐに見つかった。彼らはできるだけ強い魔物が群れているような場所を選んで攻略した。海獣は相当強敵でレベル70〜90の高レベルな魔物も少なくない。そのような魔物が頻繁に現れる狩場は、この辺の村人は絶対に近づかない場所のはずだ。


 クナン島でも懲りずに何度も復活し復活の天宮のシスターに驚かれた。しかし翔達にかかってはクナン島の狩場は約一月足らずで狩り尽くされてしまう。


 クナン島の狩場を狩り尽くすと次は一つ南のヨハ島に向かった。ヨハ島は航路が無いので漁民に頼んで渡してもらう。


 彼等がヨハ島を選んだのは殆ど無人で魔物狩りのために島民に迷惑をかけないからだ。


 彼等がヨハ島に入島して数日は、ヨハ島から巨大な爆発音がしてクナン島の住民を怖がらせるなどの事が有ったがその音も五日も続かなかった。


 翔達はペガサスで次々に群島を南下して行ったからだ。





「翔。グアリテーロの島はまだなの?」


 どうやらメロが単純な魔物狩りに飽きてきたようだ。


「お前は飽き性だな」

 翔が突っ込みを入れる。


「だってここの魔物。弱い」


「弱いと言って……。あまりにも強敵すぎて、この辺の島はランカー冒険者も寄り付かないんだぞ」

 とは言ったが確かに弱い。


「一旦、クナン島に帰り、グアリテーロの島に行こうか」

 翔が言った。


「どうして、ペガサスで行かない?」

 メロが不思議そうに聞く。

「それの方が断然早い」


「そんな事をしたら、強い魔物が飛んできたと勘違いされて迎撃されかねん。防空線のある場所に空路で近くなどできるか」

 翔が一蹴した。





 翔達は最初にヨハ島までペガサスで行き、クナン島の見えるところで、合図の魔法を放った。


 予め決めておいた合図で、ヨハ島に運んでくれた漁港から迎えの漁船が来るようにしていたのだ。


「翔はいろんな事を良く考えているな」

 アメリアが感嘆して言った。


(お前らが考えがなさすぎんなんだ)

 翔は頭だけで考えて何も言わなかった。


 漁港に着くと漁村の村長と言う男に思わぬ事を伝えられた。


「国王様がお呼びらしい。竜宮城に行ってくれ」


「俺はそんな偉い奴に用事は無いぞ。直ぐに中島カマルって所に行きたいんだが」


「国王様の命令は、南の方じゃどうか知らんけどクナン島では絶対だよ。あんた達は何をしたか知らんが中島カマルに行きたきゃ国王様の許しを貰ってからにしないと誰も連れて行ってくれんぞ」

 村長はそう気の毒そうに言った。


 翔は無理やり飛んで行くかとも考えたが、“剛腕”の名を使わせてもらっている以上、アルマに迷惑をかけることになると思い直して竜宮城に行く事にしたのだった。





 竜宮城は翔の想像したものとは完全に違う物だった。城は相当古いもので痛みが激しい上に巨大な城の規模に比較して人の姿が殆ど無いのだ。


 クナンの港町から望んだ竜宮城の偉容とは全く裏腹だった。


 翔達が通されたのは、比較的真新しい修繕が施された区画の一室だった。


 今回も翔、イリス、レイラの三人でやって来た。アメリアとメロは街の市場に買い物に行かせた。


 待たされることのなく国王は直ぐにやって来た。


「やあ。君達が噂の“剛腕”のメンバーたちかい?」

 完全に意表をついていた。国王と言うからどんな奴かと思っていたが非常に人当たりの良い初老の男だった。


 しかし、アリスの付箋には驚くべき情報が書かれていた。


『フォルッチオ・ガストロフィー。レベル125。竜騎士ドラグーンナイト


(おお。このオッサン腰の低さとは逆にすっごい実力じゃん)

 翔は驚いた。


《気を付けてください。翔様の情報もあちらには筒抜けです》

 アリスが忠告してくれた。


 翔は普通に立って礼をした。本人的にはあまり気を遣ったつもりでは無いがユグドラシルでは最敬礼だ。


 イリスとレイラも翔にならう。彼女達も翔の礼には慣れっこになっているのだ。


「おお。久しぶりに最敬礼なんてされたよ。こんな老いぼれにそこまで礼を尽くす必要はないぞ。さぁ、座って寛いでくれ」

 フォルッチオ・ガストロフィーはカラカラと声を上げて笑った。


 翔は言われた通りに応接椅子に座る。


 フォルッチオ・ガストロフィーは、身長二メートル、胴回り一メートル、体重百キロを軽く超すだろう。重厚な胸郭きょうかくには美しい胴着を着ており、竜を模した美しい胸プレートを着用していた。


「君達の活躍は聞いているよ。島民は君達のおかげで最近は安心して漁に出れると喜んでいるんだ……」

 フォルッチオ・ガストロフィーはそう切り出して、要は翔達の魔物狩りのおかげで魔物の被害が激減しているので礼を言いたいという事らしい。


「何だ。急に呼び出すから何事かと思った」

 翔が正直に言うとイリスが肘で黙れと合図を送って来たが翔は無視する。

「礼を呼びつけられて言われても嬉しくとも何とも無いぞ」


「それは悪かったな」

 フォルッチオ・ガストロフィーは翔の失礼な態度に気にもかけず大笑いした。


 漁村の村長がフォルッチオ・ガストロフィーの命令は絶対的だとか言っていたがどうもそんな雰囲気はない。


「公爵さんの命令だから絶対に断っちゃぁダメって聞いたんで出頭したがそうじゃなかったみたいだな」

 翔はそう言った。


「ふーむ。私はそんな横暴な事は言わぬ。しかし、私の家臣どもは少し行政庁として厳しいとの噂は私にも届いているな」

 フォルッチオ・ガストロフィーが申し訳無さそうに言った。


「そうなのか?」


「家臣どもには、自分達はただの公爵の家臣じゃないとの気分が強くてね。夢燦河むさんが王国の直臣との気分があり、我々には実際には権力も経済も軍事力も何も無いというのにな」


「しかし、公爵様としては正式なんじゃないのか」


「君の質問は厳しいね。私の公爵というのも名誉職なんだよ。夢燦河むさんがには古くは竜王の加護が有ったが今ではその竜王も封印されてしまっているからね。民も兵も財政も全て破綻状態だよ」


「しかし、竜王は蝕で生まれて夢燦河むさんが大陸を海没させたって……」


「そのような話を主張している者もいるようだね。我々、夢燦河むさんがの者は、オリュンポス神とアース神の闘いで崩壊した夢燦河むさんが大陸を竜王リュガナシー・イリが守ったという事になっている。大昔の事だからな」

 フォルッチオ・ガストロフィーが説明した。


「公爵さん。俺はこのフェロモン諸島にはある悪魔崇拝の冒険者を探しに来たんだが」

 翔は本題に入る事にした。竜王にしても、オリュンポス神にしても翔にとってはあまり興味のある話では無かった。知りたいのはグアリテーロの居場所だ。


「ああ。その質問はあるだろうと思っていた。あいつは……」

 フォルッチオ・ガストロフィーは嘆息した。


「彼には、大切な武具を預けたのでそのお礼をするつもりだ」

 翔が笑いながら言った。


「あいつを許してやってくれんか」

 フォルッチオ・ガストロフィーが小さな声で言った。


「公爵さん。俺は悪魔崇拝だとしても何の感慨も無い。むしろ彼には駆け出しの時にお世話になった気分しかない」

 翔は本心で答えた。


「私は後継者と目して彼を鍛えようとして少し厳しすぎたのだよ。あの頃は若かったからね」

 フォルッチオ・ガストロフィーが過去の情景を回顧するような視線を宙に彷徨わせながら言った。

「あいつは骨のある良い子だったが、才能はあまり無かったのだろうな。ついには将来を悲観して悪魔の甘い汁に飛びついたのだ」


「悪魔の甘い汁?」


「悪魔は、かなり強い魔物を捉えて冒険者の餌食にさせてやる事で経験値を稼がせるそうだ。魔法も剣術も手取り足取りで教えるそうだ。しかし彼らの指導は確実に成果を上げている。最近では悪魔方式と読んでその教え方を真似て子弟のレベルを上げる者も多いそうだ。嘆かわしいことだ」


(なるほどそう言う事か。詰め込み教育みたいな奴だな)

 翔は呆れた。


「彼から重要な情報が知りたい」

 翔は、目の前のフォルッチオ・ガストロフィーの人格から見て全てを話しても大丈夫と判断して話してみる事にした。

「……。まぁ、信じられん事が多いだろうが、俺達は身分を詐称して冒険を続けないと身が危ないのさ」


「信じられん話だが、少なくともお前さんはその話を信じている事は分かる。グアリテーロが使ったのは我が家の家宝だ。正確には『世界樹ユグドラシルの命』と呼ばれるアイテムだ。もし、あのバカ甥の命を見逃してくれるのなら『世界樹ユグドラシルの命』はお主達に譲ろう」


 フォルッチオ・ガストロフィーによると『世界樹ユグドラシルの命』は、言わば世界樹ユグドラシルの子供のような物で意識を持ち世界樹ユグドラシルの情報を自由に捜査できるらいい。


「しかし、神々も馬鹿じゃないからユグドラシルにとってどうでも良いような内容しか捜査できないぞ。あまり有効なアイテムでは無いな」

 フォルッチオ・ガストロフィーはそう言って高笑いした。

「ちなみに、お主達の今回の働きに褒美を取らせるべきなんだがその『世界樹ユグドラシルの命』でいいな」





 レベル125と言う驚異的なレベルの老人との会見はそんな風に終わった。


「いいお爺様でしたわ」

 レイラが言った。


「しかし、竜王には興味があります。魔王とどう違うのでしょうか」

 イリスが呟いている。


「いつか逢えるかもな」

 翔は冗談めかして言った。



「竜王リュガナシー・イリって人の名前みたいですね」

 レイラが言った。


「それよりも、メロとアメリアを探して来い。直ぐに中島カマルに行くぞ」





 カマル島は、フェロモン諸島のちょうど真ん中辺りにある観光地だ。周囲にフェロモン諸島が取り囲むため波が小さく、危険な魔物も少ないので南国の観光地になっている。


 海路もクナン島のチサンの港から大型の帆船が出航していて安全なのだ。


 クナン島は、白砂のビーチが海岸線を際立たせており、南国の大きな葉の木々が浜辺にまばらに生えており青い海とのコントラストが美しい。


 帆船から島へは小型のボートで運ばれた。砂浜に立った瞬間メロは海に走って行った。


(アリス。奴はいるか?)


《はい。ここです》

 アリスがグアリテーロの居場所に派手なビックリマークを表示してくれる。


 翔はメロを追いかけて波打ち際に走って行った女の子達を残してグアリテーロに近づいて行った。


 グアリテーロは派手な水着を着て大きな傘の下にリクライニンした木の椅子に横たわっていた。


『グアリテーロ・デ・ミータ。二十五歳。魔法騎士。レベル32。ランクE“矢羽”』


 アリスが付箋にグアリテーロの情報を見せてくれた。しかしグアリテーロは情報を好きに書き換えられるのだ。


 翔は昔の仕返しに闘気バトルオーラを全開にしてグアリテーロに放った。


 グアリテーロがその闘気バトルオーラに驚いて翔の方に顔を向けた。


「おお。翔君じゃないか。よく来たね」

 グアリテーロは翔に気付くと半身を起こした。


「あの時は世話になったな」

 翔は闘気バトルオーラを全開にしながら言った。


「僕達の仲じゃないか。そんなに怒るなよ」

 グアリテーロは少し顔を顰めて言った。


「叔父さんが帰って来いって言っていたぞ。お前がガストロフィー家の跡継ぎなんだろう」


「それは余計な御世話だ〜な。お前達のくだらん鎧兜は俺が処分しておいてやった。俺はもう散財したから返せんぞ」


「お前には借りは返してもらうとハッキリ宣言していたぞ」

 そう言いながら翔はオーバーランク魔法の術式を展開している。巨大な魔法陣が翔の手から上空に向かって飛んで行く。


 グアリテーロは慌てて半身になって起き上がる。

「どうするつもりだ?」


「自分の行動には責任を取るのが大人だろう」

 翔は冷笑を浮かべてそう言った。


 見るとグアリテーロの見せかけのレベルが58に変わっている。


「グアリテーロ。随分頑張ったみたいだな。レベルが一変に上がったぞ」


「ちっ! 分かった。済まなかった。さすがにこんな短時間にそこまでになってやって来るとは思わなかった。しかし無いものは無いぞ」


「分かっている。あんなモンはどうでもいい。お前の叔父貴に『世界樹ユグドラシルの命』を貰うと約束した、それでチャラにしてやるともな」


 グアリテーロは上空に浮かぶ魔法陣をチラリと見てから大きなため息をついた。


「分かった。分かった。これが欲しいのか」

 グアリテーロは浜辺に置いていたマジックバックに手を伸ばし中から不思議な物を取り出した。


「何だそれは。オートマトンか?」

 翔は怪訝な顔でそれを見る。


 グアリテーロが取り出したのは殆ど人間大の女の子の人形だった。しかも取り出されると一人で立っている。


「こいつが『世界樹ユグドラシルの命』だ。何でも『人型外部接続ユニット』って言うらしいぞ」

 グアリテーロが説明した。

「こいつには心が無いが普通に喋り普通に動く。少し気色悪いがな。僕の趣味じゃないんで何時もはマジックバックにしまっておくのさ」


「よし。じゃあ貰って行く。後は好きにしろ」

 翔はグアリテーロが出した女の子に手を置いた。肌触りは本物の人間と変わらない。違うのは瞳に意識の光がない事だけだ。


 顔は美しいしスタイルは抜群だ。外見は申し分ない。翔は感心して女の子の人形のあちこちを触った。


「お前はそんなオモチャが好きなのか?」

 グアリテーロが気持ち悪そうに聞いた。


「いや。よく出来ているな。本物の女の子と違うところがあるのか?」


 グアリテーロがさらに顔を顰める。

「興味があるなら自分で確かめてみろ」

 グアリテーロは呆れた顔で手を振ってあっちに行けとジェスチャーで追い払おうとしている。


 翔はグアリテーロに言われるままに人形の手を引いて歩き出した。顔は満面の笑みだ。


 しかし、翔の名誉の為に言うが、本物の女の子と見紛うような人形が手に入ったから、ムフフな事ができると翔が満面の笑みをしたわけではない。翔は面白い事を思いついたのだ。


(アリス。お前にこの身体を譲ろうか?)


《翔様。それはあまりにも勿体無い事と思われます》


(なぜだ。お前は一人の人間になりたくないのか? この人形は絶好のしろもんだろうが)


《仰る通りです。この人型は本来は私達のような自立型思考端末とセットになって初めて『世界樹ユグドラシルの命』つまり一人の人間型端末となります》


(なら躊躇せずに入ったらどうだ。俺はお前がメロのように自由にしているところが見たいんだ)


 その一言「お前の自由にしているところが見たい」がアリスの背中を押した。


 翔の頭から何かが消えた感触があった。次の瞬間、人型人形がビクリと動きさらに光始めた。


 向こうの方でグアリテーロが不思議そうに人形を見ている。


 しばらくすると人形は一人で話し始めた。

「初めまして、『人型完全端末』アリスです。よろしくお願いします」


030 了

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