028ー2 ゼノ要塞城の狂騒『第二幕』シーン2 *
【修行履歴】
2019年12月16日
①28話を4分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
【翌朝】
勤勉なサラリーマンのように、ゴブリン軍は、夜明けと同時に攻めてきた。
遥かな彼方の山の背から、朝日と共にゴブリンの軍団が湧い出てくるのが見えた。
朝焼けに染まったゴブリン達は、薄い紫色に染まり、山を覆い尽くし、いっそ美しく見えた。
見ると本軍の当たりには、第四グレイドの『魔法障壁』が何重にも重ね掛けされていた。よほど翔のオーバーコート『大爆発』に恐れをなしたのだろう。
「あーあ。これで奇襲であいつらをやっつけるのは無理だな」
翔は、ため息をついて言った。
「普通は、最初から魔法防御をしているのが当たり前だもの。彼らがこちらを甘く見すぎなのよ」
イリスは、指摘した。
「いやいや。彼らには、是非とも、なめてかかって欲しいもんだ」
翔は、イリスの発言に突っ込みを入れた。
「そうよね。翔の言う通りだわ」
イリスは、翔の意見に賛成した。彼女は、めったに翔に逆らわない。翔は、ニッコリと微笑んでイリスの頭を撫でた。ついでにと背中も撫で回してた。
イリスは、お淑やかそうな外見とは裏腹に妖艶な笑みを浮かべて、翔に寄りかかった。翔が調子に乗って変なところを撫で回そうした瞬間。メロが翔の手をつねった。
「えへん」
態とらしく咳払いをして、翔は、イリスから手を離した。
イリスは、妖艶に翔に笑いかけていた。
ゴブリン軍は、いつものように翔達が守る架け橋の袂に精鋭のゴブリン達を派遣してきた。ゴブリン達は、皆騎乗していた。ゴブリンは、皆、信じられないくらいに高レベルだった。こんな怪物が、もし単体でも街にのりこんだとしたら大騒ぎになるほど危険な魔物達だった。
そんなゴブリン達が今日は、なんと二百以上の隊列を組んで行進してきたのである。その隊列は壮観な眺めだった。
「翔。あいつは大将軍よりもレベルが高いんじゃないか?」
聞いたのは、アルマだった。
翔は、アルマを振り返った。自分で分かるだろうと怪訝な表情になった。
「あいつは、ゴブリン元帥レベル72」
「他の奴の職業とレベルは?」
アルマが重ねて聞いた。
「ゴブリン元帥の後に二匹のゴブリン大将軍レベル63、レベル61。その後が普通の将軍五体。レベルは53から44まで。その後にレベル43から32までゴブリン貴族二百そんな感じだな」
「もっと正確に数を言ってくれ」
アルマが重ねて聞いた。
翔は、面倒臭そうにアリスから得た正確な情報をアルマに伝えた。
「なるほど。それほど正確な数が分かるのはやはり世界樹オンラインに接続できるというのは本当のようだな」
アルマが言った。
「しかも、 端末を操作した風でも無いのにどうやって接続するんだ?」
翔は、一瞬戸惑ったように眉をしかめて、視線をアルマから避けた。
────こいつは、やはり何か探ってやがるな。
翔は、そう考えたが。
「頭で直接繋がっている」
正直に、しかし最小限の情報だけを開示しておいた。
アルマは、目を丸くして驚きの表情だ。
「やはりお前は、普通じゃ無いな。お前が何をしても驚かないようにしようと思ってたんだがな」
アルマは、ため息を吐きながら言った。
ゴブリン達は、綺麗な隊列を組んでゆっくりと翔達に近づいてきた。翔達も今日は、増援のあった新たなC級以上の十七組のランクパーティーがここに参加していた。
ゴブリンの精鋭部隊との距離が百メートルに近づいたところでゴブリン達は、逆に速度を上げてきた。
「ゴブリン元帥は、私に」
そう言ったのはアメリアだった。
「一人で大丈夫か?」
翔が聞いた。
「な、何を言っている?」
剛腕のアルマが驚いて割り込んできた。
「大丈夫だ」
アルマの割り込みを無視してアメリアが答えた。
「じゃあ。私がゴブリン大将軍の強い方。この杖だけでやっつける」
メロだ。一度やられたことを根に持っているのだ。
「お前、復活障害でレベルが下がったんだろうが」
翔は、聞いた。
「ふふふ。皆に内緒でゴブリンやっつけた。レベル。前より二つ上げたもんね」
メロが驚くべき事を告げた。
メロは、復活障害で元のレベル52から51に下がっていたのだ。それを一日でレベル54まで上げたというのだ。一日でレベルを三つ上げたことになる。
「昨日の晩の何発もの大きな爆発音はお前の仕業か?」
「へへへ」
メロは、鼻高々だ。
「お前、今日は召喚魔獣の数かぐっと減っているな。昨夜魔力を使いすぎたんだろう」
翔は、メロの自慢を打ち砕いた。
「一流の魔術師は、魔力を四割までしか減らさない」
またメロは、変な自慢をするように言った。
「バカが、今日の戦いの終わったところで四割残してから自慢しろ」
翔は、追い打ちをかけた。
「メロ。バカなことを言っていないで魔精結晶をのんで魔力を回復しておけ」
「嫌だ。まずい」
メロは、翔の言うことを聞こうとしなかった。
さすがのアルマも要塞全ての作戦を壊しかねないメロの独断に呆れ返えった。
「アルファード殿。それは、あまりの独断専行と言うものでは?」
“火神”のリーダー、ラビノビッチ・バシコフが柔らかく指摘した。
「へへへへ。殿だって」
メロは、嬉しそうに言った。
「ラビノビッチ。こいつに何を言っても無駄だ。そもそもこいつは単独で好きにさせるしか使い道がない半端者だ。すまんな」
翔は、頭を下げて謝った。
それをされるとラビノビッチも何も言えなくなった。
「じゃあ。残りの大将軍は私が受け持つわ」
イリスが言った。
レイラは、昨日の打ち合わせ通り、今日は、戦いの場にはいない。今頃、難民を脱出させているはずだ。
「ラビノビッチ。今日は、空中の魔物が不在だ。苦しい戦いになる。お詫びにメロの分まで俺に任せておけ」
翔は、力強くそう言った。
「こちらそこ、負んぶに抱っこなのに言い過ぎた」
ラビノビッチは直ぐに謝った。
翔は、ラビノビッチに笑って頷いた。これでわだかまりはスッキリ解消だ。
翔は、アメリア達に、戦いの合図を出した。
合図に従ってアメリア、メロ、イリスの順に前に飛び出して行った。
アルマは、その様子を見て、気合いを入れようと、下腹に力を入れた。
見ると、ゴブリンの精鋭達は、昨日までと質が全く違っているようだった。ゴブリンの一番強い個体を全て集めてきたのだということが、一瞬で分かった。
翔が言うように、今日はペガサスやワイバーンの援護も無いようで、デュラハン達と精霊達は、その場を動かず防備に徹する作戦のようだった。
護衛となる召喚魔獣の数がかなり少ない。冒険者だけで、あのレベルのゴブリン達と対等に渡り合えるのかと、アルマは、決死の覚悟をした。
その時だった。翔の体から大きな魔法陣が出現したのだ。
直ぐに、魔法陣は、大きな家ほどの大きさまで広がった。
アルマは、その見事な魔法陣に見とれてしまった。翔の出す魔法陣は、誰よりも鮮やかで複雑で整っていた。
魔法陣は、一際輝くと、扉が開くように左右に開いた。魔法陣のあった所は、異次元の不思議な暗闇だ。そして、その暗闇から無数の魔獣が出現するではないか。
翔が出現させたのもイリスと同様にデュラハンだった。ただ数が全く違う。二千は下らないだろう。
いきなり現れたデュラハンの大軍に、ゴブリンの精鋭部隊は立ち止まった。
しかし、デュラハンの部隊のほとんどは、翔達から離れて橋の袂に向かって行った。
残ったデュラハンは少し前に出た翔の後ろに付いた。
「翔。召喚までできるのか?」
一部始終を見ていた“火神の杖”のラビノビッチ・バシコフが驚きの表情で聞いた。
「まぁな」
翔は、ラビノビッチの質問を軽く流した。
「来たぞ、闘いに集中してくれ」
☆
翔は、召喚したデュラハンを伴って、ゴブリン将軍に突っ込んで行った。
アルマも離れずについて行こうとしたが、翔達の速さについて行くことが出来なかった。
アルマの横を風の速さでデュラハン達騎馬が駆け抜けて行った。翔は、遥か先のデュラハンの騎馬隊の先頭の騎馬よりも前を、馬のような速度で走っているのが見え、アルマを驚かせた。
「姉御。ここまでやってくるゴブリンを仕留めましょう」
重武装戦士リーザ・リンガーは、必死で走っていたが、遂には、顎を上げながら叫んだ。皆は、アルマの速度にすら、追随出来なかったのだ。
「すまん。我を忘れていた」
アルマは、周りの状況を見て、素直に謝った。
後ろを見ると、さすがに、“火神の杖”の四人は、アルマの猛進に追随する事無く、冷静に、魔法の詠唱を始めていた。
「立て直すよ!」
アルマは、立ち止まると、叫んで、長剣を抜いて構えた。ようやく追いついた、メンバー達がいつもの戦闘体型についた。
☆
一方、アメリアは、高速度で飛んで、ゴブリン元帥との距離を縮めていた。
さすがのゴブリン元帥もアメリアの素早さに戸惑ったようで、慌てて、身構えようとしたが、全然動作がアメリアの攻撃に付いて行けていなかった。
アメリアは、剣を抜き放つと同時に魔法を発動し、ゴブリン元帥に第四グレイド魔法『遅延』をかけた。それから光の矢のように素早く、体長三メートルを越そうかと言う巨大なゴブリン元帥の周囲を旋回しながら何度も切りつけた。
ゴブリン元帥が、防御態勢に入ったのはこの時だった。
ゴブリン元帥は、HP、攻撃力、防御力が非常に高い、いわゆる戦士系のステータスを持つ魔物だ。ゴブリンは総じて戦士系が多い。しかもレベル72ともなると様々な技スキルを使うことができる。
それらの技スキルをかけられる前に、できるだけHPを削ぐ事が重要だ。
これまでのタイミングで、アメリアは、ゴブリン元帥の体力を少しだけ削ぐ事ができた。
「女。素早いな。しかし俺は、奇襲程度では、大してダメージは、受けないぞ」
ゴブリン元帥は貴重な時間を、それだけ言うことに費やした。
その間に、アメリアはもう一度『遅延』の魔法を発動し、ゴブリン元帥の素早さを、さらに一割ほど遅くするとともに、自身の腕力を強化する魔法をかけていた。
ゴブリン元帥は、巨大な両刃の剣を抜くと、アメリアめがけて切り込んだ。
アメリアの『遅延』の魔法の効果で、高レベルの魔物とは思えないほど遅い攻撃だった。アメリアは、容易く回避することが、できた。
ゴブリン元帥は、空振りしたために、大きくバランスを崩した。その間に、素早いアメリアは、自分に『攻撃力アップ』『防御力アップ』の魔法を、ゴブリン元帥に『防御力ダウン』『遅延』の魔法を掛ける事ができた。
ゴブリン元帥は、これ程沢山の魔法をかけられたのは、始めてだったのだろう。
さすがに、これでは、ダメだと悟り、自身に『魔法防御』の魔法をかけ、これ以上不利な魔法を封じようとした。
しかし、これは、悪手であった。ゴブリン元帥は、魔法下手な上に、アメリアの『遅延』の魔法を掛けられていたため、素早いアメリアが、攻撃するのに十分過ぎる時間を与えてしまったのであった。
アメリアは、ゴブリン元帥の不器用な魔法詠唱を唱えている隙を狙い、最近覚えたばかりの、第五グレイト剣技『旋風閃』をお見舞いしたのである。
「「「旋風ぅぅぅ閃!」」」
気合いもろとも、アメリアは、細剣を、横薙ぎに振った。
技スキルの効果で、剣先から鋭い衝撃波が発生し、ゴブリン元帥めがけて飛んで行った。
ゴブリン元帥は、この瞬間まで、アメリアを格下と見ていた。この時のアメリアのレベルは53で、実力的にも70を下回るので、彼が、アメリアを格下と見てもやむ得なかっただろう。
その為、アメリアの攻撃に対処しようとはせず、攻撃をまともに受けたのであった。
要は、ゴブリン元帥は、アメリアを舐めていたのだ。
しかし、翔が言うように、格上の存在は、舐めてかかってくれないと、勝つ事は不可能なのだ。
しかし、ゴブリン元帥の常識では、人間と自分達を比較すると人間は、レベルに比して実力がかなり見劣りするというのが常識であった。
格下のアメリアのレベルは、格上であるゴブリン元帥からは、丸見えであった。そして、相手のレベルを簡単に見る事が出来る事も、相手よりも自分が格上である事の証だった。
だから、ゴブリン元帥は、レベル53のアメリアの実力を過小評価していたのであり、自然な事であった。
しかし実際のアメリアの実力は60台の後半ほどもあったのである。
ゴブリン元帥の実力と、それほど大差ない実力だったのだ。
アメリアの剣技『旋風閃』は、まともにゴブリン元帥に激突し、ゴブリンは、凄まじい勢いで、吹き飛ばされたのであった。
その威力が高かったため、後ろに控えていたゴブリン貴族数騎を巻き添えにするほどだった。
アメリアは、ゴブリン元帥の反撃を予想し、この間、防御魔法、第五グレイド『魔法障壁』を発動し、闘気を最大限に上げた。
予想外通り、ゴブリン元帥の本気の反撃が、アメリアに襲った。
遥か彼方からジェット機のような速度でアメリアめがけて走ってくると、そのまま両刃の大剣を振り上げてアメリアに凄まじい斬撃を浴びせかけたのだった。
アメリアの構築した『魔法障壁』は、その攻撃で弾け飛ばされ、斬撃はそのままアメリアの眉間めがけて振り下ろされた。
アメリアは、レイピアを斜めに振り上げてゴブリン元帥の剣圧を抑えて半身を斜めにして避けた。
ゴブリン元帥の凄すぎる斬撃は、それでも勢いが止まらず剣先は地面に激突し、剣先から飛び出した衝撃波で地面が断ち切られた。
「第六グレイド剣技『大地斬』!」
その姿のままゴブリン元帥は、剣技の名前を叫んだ。
恐ろしい攻撃力だ。当たれば終わりだ。
「第五グレイド剣技『旋風閃』!」
ピンチの裏にはチャンス有りだ。
アメリアは、ゴブリン元帥の至近距離から剣技『旋風閃』を浴びせかけたのであった。
二発目の剣技がゴブリンを襲った。アメリアは、容赦なく脇腹の防御力の弱い場所に剣技を叩き込んだのであった。
ゴブリン元帥の横腹に爆発が起こり、ゴブリンを地面に叩き込んだ。ゴブリンは、地面に激突し、その衝撃で、もう一度爆発が起こったほどであった。
アメリアは、魔法障壁を剣に張りめぐらせ、さらに闘気を、剣先に乗せて、可能な限り攻撃力を上げに上げると、地面に倒れているゴブリン元帥に、まるで大刃の大剣のような大振りで、細剣を両手で大上段から叩き込んだ。
しかし、さすがにレベルの高いゴブリン元帥は、アメリアの大振りの隙を付いて、剣を振り上げると、アメリアの渾身の攻撃を跳ね上げていた。
アメリアは、弾きとばされたが、態と大きく飛び退いて、バランスを保つことに成功した。
次の瞬間には、ゴブリン元帥が起き上がり大剣を片手で切り込んできた。
アメリアは、それを避けたが、ゴブリン元帥は、片手でも驚くべき膂力を示して剣を翻したのであった。
その翻った斬撃がアメリアの肩の防具を打撃した。
「あ!」
アメリアは、小さく叫んで崩れ折れそうになるのを、必死で耐えた。
ゴブリン元帥が残忍な笑みを顔に広げた。相手の苦痛が嬉しいのだ。
「女。俺の苗床になるなら許してやるぞ」
ゴブリン元帥が醜い顔をいやらしく歪めて言った。
アメリアは、きつく口を噛み締めて、ふわりと宙に浮いた。
その隙を狙って、ゴブリン元帥が剣を切り上げてきたが、最大加速で、アメリアは、空気が裂かれる音を響かせて、空中高く舞い上がっていた。
アメリアは、この時、決意を持って、空中に舞い上がっていた。
彼女の攻撃は、明らかに、威力が足りないのだ。ゴブリン元帥は、確かに格上の存在だが、アメリアの最大の弱点は、ゴブリンに大きなダメージを与える一撃必殺の攻撃が無い事だった。
攻撃力をつけるには、アメリアの最大の強みである速さを攻撃力に変える必要がある。
上空高くまで飛び上がる間、アメリアは、第五グレイドの『魔法障壁』をレイピアにかけた。今度は自分の防御など度外視し、『魔法障壁』を剣先に集中して攻撃力を増したのであった。
さらに召喚妖精に回していた魔力を全て回収して、闘気を最強に練り上げると、剣に集中させて、可能な限りの攻撃力を上げた。
高い頂点に達すると、今度は降下を開始した。その間、ゴブリンはボンヤリと遥かな上空にまで飛んで行った、アメリアを見ているだけであった。
アメリアは、可能な限りの加速をしつつ、急降下していた。彼女は、頭では、自分の未熟を痛感し、今まで以上に、翔に、多くを学ばなければならないと決意していた。
そして、更に、どんどん加速した。そして更に、もっと加速したのであった。
ゴブリンは、この瞬間、少しだが、逃げよかと悩んだ。しかしアメリアのスピードからは、逃げることは叶わないと悟り、防御の魂を、極限まで強めて、防御に徹する事にしたのだった。
「防御技『岩石』!」
ゴブリン元帥は、叫んで技を発動していた。
アメリアは、剣を後ろに引くと「剣技『旋風閃』!」と叫び、力の限り剣を前に突き出しつつ、ゴブリン目指して突き刺しのであった。
アメリアとゴブリン元帥が激突した時、巨大な爆発が発生した。
その大きな爆発音と地響きは、強い衝撃となって周囲に広がっていった。この爆発により、土砂が飛び上がり、キノコ雲を作った。
いやー。ゴブリンの軍団の絵。ようやく出来ました。
結構、難しかったです。下手な絵ですみません。イメージを壊したらごめんなさい。




