028ー1 ゼノ要塞城の狂騒『第二幕』シーン1
【修行履歴】
2019年12月16日
①28話を4分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
2020.6.19
誤って別の所の話が貼り付けられていました。訂正します。ご迷惑をかけてすみません。
「アルマの姉御。申し訳ねぇ」
バッシュは、アルマを別室に誘って、二人きりなるなり、本音で謝っていた。
「いきなり何だい?」
アルマは、怪訝な顔になる。
「さっきは、皆が聞いているので、直ぐにでも援軍が来るって言ったが、実際はギルドも、王国も脅威が目の前に来なければなかなか動かないかもしれん」
バッシュは、本国の状況を簡単に説明した。
「そりゃそうだろう。お前が呼びに行ったからと言って、そうそう大軍を連れてくるとは思っちゃいなかったよ」
アルマは、笑いながら答えた。
「せめて、S級以上が何組か欲しかったが。しかし今回は偶然“火神の杖”が合流してくれているので助かった。奴らは、本当に良いチームだ」
「しかし、さっきの話じゃ、ここも長く保たないんじぁ」
バッシュが聞いた。
「ギルドは、今頃、情報収集の為、躍起になっているんだろうね。さすがにこんなになっているとは思わないだろうしね。今回のバッシュが、連れてきている連中の中にもギルドの情報クエストを担った奴らが何組かいるはずだ。ギルドは、いろんなクエストを発行して確かな情報を得ようと躍起になってんだろう」
「まぁ、そうだろうな」
バッシュもアルマの意見に同意だ。
「今回は、俺が緊急招集をかけるように強く要請したんで、俺みたいな奴をクラン長にして、これだけの人数を出してくれたんだと思う。いつ出してくれるか分からないが主力の討伐クランは、もう少し大きな編成をしてくれるはずだ。“大鷲”も出てくるかもしれない」
「是非そう有って欲しいもんだよ。あの目の前のゴブリンの大軍ってだけでも大変な事なんだが。事務所の奴らにゃ、これでも情報不足ってんだろうよ。奴らの本音は、この惨状を、ただただ信じたく無いと言うのが本音なんだよ。信じたくない事を認める時は、無意識にでも証拠を求めるもんだよ」
「ああ。そんな感じありありだった。しかし、さっきの話では、将軍を上回る大将軍なんて奴が出てきたんだな?」
「そうさ。私も実際にこの目で見たから信じられるが、そいつはレベルは62もあったんだよ。それだけじゃなく、翔が言うには、大元帥、大司祭、大賢者なんて言う聞いたこともない個体がいるそうだ。しかもそいつらのレベルは、80もある化け物なんだと。それが、もし本当なら緊急招集の理由には、十分だが。しかしそう言っているのは翔一人なもんだから今の所は、真に受ける訳にもな」
「まぁそうですね。しかし、あのゴブリン軍の陣容と大将軍の存在だけでもしっかりとアピらないと」
「そうだな。ゴブリン軍の陣容と大将軍の存在は、確証のあることだからな。まごまごしていたらゴブリンに国を乗っ取られかねん。どちらにしても一刻も早く援軍が来るように頑張ってギルドと国を説得しに行くしかない。それまでは、こちらも与えられたクエストを頑張るだけだ」
アルマは、ため息まじりに言った。疲れが顔を覆っていた。
「クエスト『可能な限り、ゴブリンを足止めして被害を最小限にせよ』だな。姉御はそのクエストがまだ有効だと信じてんのか?」
「信じるもなにも、あんな化け物だらけのゴブリンの大軍を街に近づけても良いと、バッシュは思うのかい? あのゴブリン軍は、S級のメンバーを落とすような化物なんだよ。B級の奴らなんかビビって前に出れないんだから。あんたらには期待してるよ」
「老人に無理言うなよ。姉御」
「何を言ってんだバッシュ。“稲妻”は“剛腕”のライバルじゃないか。S級に上がって来んのをずっと待ってんだぞ」
「無理言うなよ。ピークを過ぎた老人に」
バッシュは、力なく言った。
────レベル落ち……
アルマは、その事実を悟ったが、そのワードは、口には出せなかった。レベル落ちは冒険者にとっては引退の印しだ。
「しかし、まだ三十前だろう」
「少し早過ぎると俺も思う。しかし人によるのも確かさ。俺の知り合いで二十二でレベル落ちした奴もいる」
「そんな奴らは生温く生きてきた奴らだろう。お前はそんな奴らとは違ってギリギリ生死の中でやって来たんじゃ……」
「そのつもりだったんだがな。今回のクエストは想像を超えたもんになっちまったが、俺は神に感謝してるよ。姉御と一緒にこんな重要なクエストに関われて」
「バッシュ。それは私を口説いてるのか?」
「バカ言え。そんなはずがあるか」
バッシュは、子供のように自分の肩にかけられたアルマの手を払い除けた。
「ははは。それでこそバッシュだよ。そんなウブなのがバッシュの良いところさ」
アルマは、払い除けられた手をヒラヒラさせて大笑いして見せた。
「あんた。引退ん時は、必ず言いなよ。身体で引退祝いしてやるよ」
「今回、生き残れて引退する時は、お願いするかもしれんぞ。そうなったら面倒臭い事になるぞ」
バッシュは、生まれて初めて、アルマの誘いに乗る返事をした。
アルマは、少し目を見開いてバッシュを見た。
「あんた。本当に老成したのかもね。あんたにならいっぱい、すんごいサービスしてやるよ」
アルマは、豊かな胸を両手で持ち上げるような格好をして妖艶に身をくねらせて見せた。
「ああ。楽しみにしてるよ」
バッシュが軽く流す。しかし、少し頬の辺りが赤くなっていた。
それを見たアルマがクスリと笑った。剛腕と言うあだ名の女性に似合わない少女のような笑いだった。
「話は、変わるが、姉御のとこの新人さん達は、皆すごいって言ってるが実際どうなんだ?」
「あの子達には驚かされっぱなしさ。無茶苦茶っていってもいいね。あの翔って子は、あれで頭も切れる。事態の先読みも大したもんだ。この要塞を魔法で立ち上げた時も実力を見せつけているとしか思えなかった。蓋を開ければあの子の慧眼だったよ。この要塞でもあの難民を守り切れるか不安だらけだ」
「あいつは、何でそんなに目立ちたくないんだ?」
「その理由が笑っちまうのさ」
アルマは、鼻で笑って、翔が彼女に説明をした内容を話した。
「……て理由なんだよ。笑っちまう。あんまりバカバカしい話なんで、こいつの頭は変なのかと疑ったほどだよ」
「その話は、信じられないな」
バッシュもアルマに同意した。
「そうさ。とにかくあの子達は滅茶苦茶さ。あんたは、知っているかい。戦女神のフリュンヒルデ様が古代に作ったって言う滅茶苦茶な冒険者ルートのことを?」
「聞いたことがあるな。確か、あまり厳しすぎるってんで、誰もクリアしたことのないルートだって?」
「あの子達は、そのブリュンヒルデルートのマスターなんだと」
「つまり史上最強の冒険者になる可能性があるってことか?」
「ダントツの最年少のAランクパーティーだが、実力はダブルS以上だろう。そんなチームが今までに有ったかい?」
「つまり、あの少年はアルマの姉御よりも強いのか?」
「あの少年だけじゃないさ。皆が私よりも断然強い。唯一勝てるとすれば魔法を抜きにしてあのメロとかいう魔法少女と勝負したら勝てるかもしれん」
「勝てるかもしれんって、弱気な」
「あいつは、レベル60を超えるゴブリン大将軍と、暫く杖だけで打ち合いをしたんだぞ」
「レベル60のゴブリンか。想像するだけで寒気がするな」
「明日の朝になれば、会いたくなくっても、嫌でも会えるかもな」
「脅かすなよ。俺もサッサと逃げ出したくなった。姉御も無理してんじゃないか?」
「あの子達がいると大丈夫なような気になる。この戦況なら撤退というのも一つの選択肢だ。ゴブリンは、どうも東に行くことに固執しているようだからな。あちらにはそれほど大きな街はないし。放っておくのもいいかもしれない」
「目的があるなら、我々を迂回して東に行けばいいのに」
「奴らは、軍の進行上を完全に掌握したいのかもしれん」
「つまり、このゴブリン軍は、後で来る本軍。ゴブリンキングの露払い部隊だと?」
「翔は、そう考えているようだ」
アルマは、そう答えた。
「これだけの大軍のさらに上の軍があると?」
「翔は、こう予想した。ゴブリンのトップは大元帥、大司祭、大賢者の三人で、レベルが拮抗していて80ぐらい。彼らのさらに上の実力者の存在がなければ彼らは決して共闘するはずがない。それが翔の意見だ。正論だと思うよ」
アルマは、答えた。
「しかし、翔という少年がどうしてそのような情報を得れたのさ?」
「ユグドラシルのオンライン情報から入手したと彼らは、言っている」
「バカな。あんな子がそんな貴重なものを持っているはずがない」
「国宝級の鎧を魔法で作ってしまうような奴がか?」
「確かに。底が知れないな」
「そうだろう。私もどこまで彼らを信じていいのかわからない」
「あいつらは、援軍がなかなか来ないと知ったら逃げ出しそうなのか?」
バッシュは、次第に心配になってきた。
「あの翔って子は、何を考えているか分からない。あの子は、ギルドや王国なんて、そんな枠を超えたところにいるって気がする。そんな子達に頼らないと乗り切れ無いのが情けないね。どちらにせよ、ギルドとの情報は、あまり彼らには知られない方がいいと思う。あの子達もギルドもうまく操縦して一刻でも早く援軍を来させるのが今の我々に取りうる最善手さ」
「承知した。この要塞から出るには、彼らの了解が必要なんだろう。彼らに知られずに要塞から出るのは無理だな。外に出なくても要塞の外に幾らかは残してきたから、あの子達に知られずにギルドに情報を流すのは、大丈夫だぞ」
バッシュは軽く答えた。
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【翔side】
「翔。あんな応援だけってどういう事?」
メロは、不満そうに聞いた。
「ああ。大人の事情って奴だ。あの大軍と恐ろしい奴三匹を前にしているのに、あいつらは表面しか信じちゃ、いないのさ」
翔は、半ば呆れて説明した。
「その三匹の事は、アリスから知ったんだな。彼らはアリスの事は、知らないから仕方が無いな。でも目の前のゴブリンの大軍だけでも本気で対処すべきだと思うがな」
アメリアは二人の会話に入って来て、不思議そうに言った。
「俺達だけで持ち堪えているのがかえって良く無かったのかもな」
翔は、面倒そうに答えた。
「そんな。身も蓋も無い。殺られていたらそれで終わりじゃない」
イリスも会話に入って来た。
「あの剛腕のアルマは、何を考えているかよく分からない。逆に“火神の杖”のラビノビッチの方が正直なのかもしれない」
メロは、率直な感想をポツリと言った。
────こいつの勘は当たるからな。
翔は、メロの端正な顔をまじまじと見ながら思った。
「援軍は、期待せずに、やれることはやろう。できるだけ強いゴブリンをたくさんやってくれ。少しでもレベルを上げないと、彼らには勝てないだろう」
「翔。こんだけ高レベルの魔物の群れって、ありえない。これは我々にとっては、ラッキー」
メロは、能天気に言い放った。
「お前もサッサと元のレベルに戻れ。明日もバンバンやっつけてバンバンレベルを上げるからな」
もし、アルマがこの話を聞いていたらこの厳しい状況で、翔達がレベルを上げを楽しんでいることに本気で驚いただろう。
難民救済。ゴブリン討伐などの課題は大人たちの課題であって、自分たちは自分たちの人生を謳歌する。それが翔の本質なのだ。
「お前達。不謹慎な発言はするなよ。難民の皆さんは、本気で怖いんだからな」
アメリアが呆れて注意すると、皆は、無言で頷いた。
「明日から私の主導で老人子供から『始まりの街』に搬送する予定よ。ペガサスは戦いには使えないけど」
レイラが報告した。
「ペガサスよりお前の稼ぐ経験値の方が惜しい」
翔は、そう言うと皆から白い目で睨まれた。
「翔は、本当はレイラの綺麗な姿が見えないのが寂しいんでしょ」
イリスが突っ込みを入れた。
図星だったのだろう。翔「ぐ!」と奇妙な声を喉の奥から出してソッポを向いて、表情を読み取れないようにした。
しかし、翔の手は、休みなくレイラの背中を優しく摩っている。レイラは、されるがままだが、時々翔の手が背中から脇にすべるように移動するとくすぐったいのか身をよじって避けていた。
「翔。また触りすぎ」
メロは、目ざとく見つけてレイラの後に回ると、翔の手を掴んで思いっきりつねった。
「い、痛!!! いっ」
翔は、悲鳴を上げた。




