027ー5 ゼノ要塞城の狂騒『第一幕』シーン5
【修行履歴】
2019年11月23日
①27話を5分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
2020.6.20少し訂正しました。
翔には、村の鍛治師のくせに偉そうだ、などと言う差別意識は一切無い。親から伝授された秘法を教えるという事の意味を、翔は、良く理解していた。
翔は、鍛治師セルマを伴って、二人で別室に行き話をした。
「改めて。俺は、ショー・マンダリンだ」
「時間が勿体無いので魔法道具の製作の秘伝をお伝えします」
「宜しく頼む」
「翔さんは、鍛治の時、どのような材料を使われますか?」
「鉄のことか? 俺は何も無いところから魔法で、どんな材料でも作れるんだ。しかし創造魔法は、魔力の消費が激しいので、こうやって少しだけ材料を創造しておいて、それを増やす魔法をかけてそれを材料にしている」
「そんな魔法が有るのですか? 凄いですね」
セルマは、目を丸くして翔の話を聞いた。
「済みません。次元の違う方につまらない質問をしてしまいました。材料とは素材の事なんです。魔物が落として行く、いろんな素材には特殊な魔法の要素が詰まっているというのがウチの親父の持論でした。口での説明では分かりにくいので実演します」
セルマは、懐から魔法の金槌と魔物の素材を取り出した。
「済みませんが、金床と炉が必要です。用意できますか?」
「炉か? 魔法の炎でもいいか?」
「問題ありません」
翔は、魔法で金床と炉のような鉄の箱を作った。セルマは、何もない所から、巨大な金床と炉が出てきたので、目を丸くして驚いた。
翔は、構わず、セルマから受け取った鉄を炉の代わりの鉄の箱に入れると魔法で鉄を熱した。
「温度はこんなもんでいいか?」
「本当に驚くべき手早さですね。魔法がとても効率が良いのが分かります。ですが、それでは、熱し過ぎですね。済みませんがもう少し熱を低くしてください」
「こうか?」
「はい。それぐらいが丁度いい温度です。鉄にはゴミが混じっているので先にゴミだけ燃やして外に出すのです」
「成る程な」
「この段階で、槌で打ってゴミを吐き出させます」
そう言いながらセルマは鉄材料をガシガシ叩き始めた。
「次が秘伝です。こうやってゴミが全て吐き出された純粋な金属を玉鋼と言います。その玉鋼と魔物の素材を一緒に熱します。魔物の素材は燃えても構いません。玉鋼の中に素材の成分が入り込みます。
これからが重要です。玉鋼をもう少し高い温度で熱します。玉鋼が熱せられて赤くなったら取り出して槌で何度も打ってください。玉鋼は何度も平たくしては折り曲げてまた打ちつけてください。そうして何度も素材の成分を馴染ませるのです。
こうしてできた玉鋼は魔法の効果が染み込んでいます」
「なるほどな。金属の中に押し込めるのだな」
「そうです。玉鋼の状態で直接魔法をかける方法でも、良く似た効果があるでしょう。翔さんの場合はそれでもいいでしょう。魔法の金属素材はこうして作られます。他にも魔法の革素材や魔法の木素材のような燃える素材に魔法を染み込ませるにも、主に熱を利用します。玉鋼と違い、熱をかけると燃えてしまう素材の場合は燻製にするのが鉄則です。魔法の素材を燻したり燃やしたりして煙にします。その煙で燻すことで素材に染み込ませるのです。あるいは熱湯で茹でて魔法を溶かし込み、その水に浸けるという方法もあります。とにかくできるだけ高熱にすると魔法は良く溶け出して別の物に融合するという特性があるのです」
────これは本当に実用的な秘伝じゃないか。
翔は、思ったよりも実用的な説明に感動した。
「ここまでは、素材の作り方です。翔さんなら、熱せられた金属、熱い煙、熱湯などを魔法で創造して、素材に溶け込ませるなどの方法を取られたら良いのではないでしょうか」
────なるほどな、魔法を使えばもっと効率のよい素材の作り方がありそうだな。
「次からが重要です。この魔法陣をご覧ください」
セルマは床に魔法陣を描いた。
さすがに職人の技だ。セルマは見事な魔法陣を即座に描いた。
魔法陣の内容を見ると、確かに融合魔法陣だ。人と悪魔を合体させて、強い力を手に入れるために考案された魔法陣とよく似ていた。
セルマは、次々に魔法陣を書いて行った。二つの融合から始まり、七つの融合までの魔法陣を書いて見せた。
「セルマ。だいたい分かった。それ以上は不要だ」
翔が止めなければ、二十四種類までの素材を融合する魔法陣を描くつもりだったらしい。
セルマは、秘伝として、代々伝え聞いた魔法陣だ。
魔法陣の意味が、分かるのかと翔が尋ねてみると、セルマは、全く分からないと答えた。
翔は、魔法陣の意味をセルマに教えてやり、どのように接続すれば素材の数を増やして融合させる魔法陣となるかを逆に教えてやった。
それだけでなく、セルマの魔法陣には、存在しない、道具に魔法の属性を仕込む術式を加えてみせた。
セルマの祖先は、魔術師ではないので、魔法を道具に仕込むと言う発想が無かったのだろう。現代魔法では、魔法陣ではなく、魔法の効果を物体に仕込む、物理効果付与の方法が研究されていて、魔法陣なしで魔法道具を作成する事ができるのだ。
その方が魔法を使える魔術師には、簡単で汎用性があり、便利なのだ。
その術式を魔法陣に組み込んだのである。惜しげも無く家宝の秘伝を伝授してくれた、セルマへのお礼のつもりだった。
セルマは、翔の魔法陣の説明に大変感動していた。
セルマは、次に魔法道具の精製を実演して見せてくれた。
幾つかの魔法素材を融合魔法陣に乗せると、魔法陣に魔力を流し込み、融合の魔法を発動させた。すると魔法道具が出来上がるという寸法である。
職人の使う魔法は、超ベテランの魔術師が発動した魔法のように滑らかで上品であった。
翔は、セルマの展開する魔法術式を見て魔道具の精製方法を大まかに理解した。
かつてブリュンヒルデが、翔が出した魔核を見て、良い使い方があると言っていたのは魔法の素材として魔核を評価していたのだろう。
セルマの父親のような職人が魔法を素材に溶け込ませる方法を追求しようとして、研究しなければ、このような方法を考えつきもしなかっただろう。魔法に熱を加えて一緒にしていると素材に溶け込ませる事ができるという知識は、実は、とても貴重な知識で秘伝中の秘伝のはずだ。
「セルマ。感謝する。君の伝授してくれた技術や知識は、本当に貴重なものだ。ありがとう」
翔は、本当に心から頭を下げた。セルマはとても恐縮してくれた。
「セルマ。例えば魔力を爆発力に変換する魔法陣を備え付けておき、鉄の球を筒から吐き出させるというような道具を作る事は可能だろうか?」
翔の質問は、魔法陣に魔力を注げば誰でも魔法が発動する鉄砲をイメージしての質問だ。
「魔法を道具に閉じ込めるのではなく魔力を込めれば思い通りに魔法が発動するタイプの魔道具ですよね」
「これは魔核という物だ。魔力の素のような素材なんだ。これを詰め込めば動力になるんじゃないだろうか?」
「面白いですね。確かに魔道具は魔法の詰め替えを時々しないと魔法の効力がなくなって行きます。良い道具は、いつまでも魔法の効力が無くならないものですが所詮作った時の魔法の力を上回る訳では無いですからね。翔さんの発想は、その魔核を燃料として動く機関を想定しているのですね」
「その通りだ」
「こんなのは、どうでしょうか」
セルマは、そう言うと鍛治を始めて、瞬く間に筒を作り出した。秀逸なのは、筒の根元に、先程、セルマが書き出した魔法陣に、翔がレクチャーした属性魔法を統合する魔法陣を刻み込んだところだ。
「この穴に魔核を入れてみてください」
筒の根元に魔核を入れる穴がありそこに魔核を入れて蓋をするとその筒は魔法を帯びて輝き始めた。
「どんな仕組みなんだ?」
「はい。魔核を入れた穴は炉になっています。魔核を入れると高熱を発し熱で魔核を魔力に変換し、爆発の魔法が発動する仕組みです。そこのボタンを押せば筒の中で爆発が発生します」
翔は言われた通り筒の根元にあるボタンのようなものを押した。筒の中で爆発が発生し筒の出口から炎が勢いよく噴き出した。
翔は鉄の球を創造魔法で作ると筒の出口から落とし込んだ。
翔は壁の方に筒を向けてボタンを押した。ドカーーンと大きな音を立てて壁が弾けた。
「改良の余地はあるが使えそうだな」
翔が言った。
一番驚いたのは作った張本人のセルマである。
「筒に鉄球をいれて爆発させると、あんなにも破壊力があるのですね」
二人の武器製造人はその日、誰でも使える魔法の武器の製造を行っていた。
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【バッシュ・コーエンside】
始まりの街から、駆けに駆けた。既に、夜になっていた。バッシュは、砦の有った場所のそばに巨大な要塞が出来ていた事に驚いた。
「ラルフ。遠目の技で見てくれ」
バッシュはラルフに頼んだ。
「ああ。もう見てる。あの要塞には人間とサラマンダーがいるようだ」
ラルフが答えた。
「ランプで遠話をしてくれ」
バッシュが命じた。
ラルフは盗賊職なので、そのような技を持っているのだ。ランプを明滅させる一種のモールス信号による合図の送受信だ。
「了解」
ラルフは、そう言いながら、ランプで要塞に合図を送った。
物見から返事の合図があった。
「リーダー。物見の奴も盗賊職のようです。緊急で救援を要請しています」
「こちらの人数や目的を伝えてくれ。それと剛腕の姉御がいるか聞いてくれ」
バッシュが命じた。
「へへへへ」
ラルフは変な笑いをしてから。合図を送っている。
「姉御は無事らしいですぜ。ってぇ言うか、死んでも死なんでしょうけど……。要塞には、近づくなと言ってます。ゴブリンの大軍が取り囲んでいるみたいです。迎えを寄越すそうです」
「へんな笑い方をするな」
バッシュは少し強く言って聞かせた。
「へいへい」
ラルフは、にやけつつ答えた。
暫くすると空から多くの影が降りてくるのが見えた。
「リーダー。今度は、ペガサスのお出迎えみたいですぜ。しかもなんて大きさだ……」
☆
バッシュ達は、巨大なペガサス達によじ登り、要塞に向かった。
ペガサスには、美しい女騎士のレイラ・リンデグレンと剛腕のアルマ・ベストが乗っていた。
「バッシュ。助かるぞ。早かったな」
アルマが笑顔で言った。
「姉御。またレベルが上がったようだな。それにその装備は……凄いな」
バッシュがアルマを見て目を丸くした。
「これは、この要塞の制服みたいなもんだ。お前達も恩恵に預かれるかもしれんぞ」
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バッシュ達は、要塞で大歓迎された。
「これだけのランカー冒険者が来ればもう大丈夫だ」
誰かが喜びの声を上げた。
翔は、顔をしかめてその発言者を見た。
「わざわざ遠方から援助に来てくれて感謝する」
アルマが皆を代表して言った。
「これから、現状を説明する」
S級パーティーのリーダーであるアルマとラビノビッチが交互に説明を担当した。厳しい状況に、新しく入った討伐クランの皆は、驚いて説明を聞いていた。そもそも、三十万を超える格上の軍を相手に、百名あまりの冒険者と難民達だけで三度の攻撃を、よくも持ち堪えたものだと驚いた。
翔達は、発言せず隅から見守っていた。説明の中で、翔は、剛腕に新メンバーとして入った事が紹介された。その時だけ翔達は、起立して皆に手を振った。何も知らない冒険者達の中には、サブメンバーとは言え、無名の冒険者がS級パーティーに入った事を羨望や嫉妬の眼差しでみる者も少なくなかった。
要塞城に、召喚された復活の天宮の事は、シスターサラから説明された。シスターには既に難民の中から若い女性が数人介助しているらしい。
復活障害を和らげる魔法は、シスターサラがある程度使えるようになって来た。彼女は、今回、バッシュが連れてきたメンバーからヒーラーを募り、復活障害を和らげる天使の魔法の修得を、最優先で行うと説明していた。
全ては、翔が企画し、実行に移させている内容だった。
「翔。本当にみんな剛腕の手柄になっちゃうよ」
メロが残念そうに言った。
「それでいいのさ。今回は、オーバーコート魔法を使い過ぎた。レリエルに気付かれないか気が気でない」
翔は、おどけて首をすくめて見せた。
「翔の弱虫」
メロが歯を見せてイーをしながら言った。
次にアルマから、皆に武具が配られた。あらかじめ、皆の要望を取り入れて翔が作った武具だ。今度は皆共の意匠にした。あまりたくさんの種類の武具を作るのが面倒だったからだ。
大きさの違う何種類かの防具を、先に作り、各人に一番良さそうなサイズの防具を選ばせる方法で、サイズと個数をあらかじめ算出させたのだ。
武器も、剣、槍、斧、鎖鎌などの複数の武器を試しに使ってもらってから、それを選んで貰う方法にした。
後は、選んで貰った武器の種類を集計して、大きさ形、色、重さ別にまとめて、いっぺんに作ると言う、方法を取った。
これらの武器や防具は、効率性を重視し、魔法のエンチャントも全部で七種類に限定、それを複数組みあわさせて選ばせた。エンチャント時には、あらかじめ作られたエンチャントの魔法陣で、まとめて魔法をエンチャントすることで、作成の効率を向上させたのだ。
既製品的な作り方をしたと言っても良い。前の組にしてやったようなオーダーメイド志向の作り込みは一切しなかった。
しかし、バッシュ達、“稲妻”のメンバーだけには個別に望みを聞いて、できるだけ望みの武器や防具になるように手を加えた物にした。わざわざ援助を連れて死地に戻ってくれた者へのプレゼントだ。
ところで、翔が、現状に対して、悲観的なのには、理由があった。アリスから刻々と事態が予想を上回って悪い事を一々説明してくれていたからである。
ゴブリン大将軍の存在だけでも想定の脅威を超えているのに、それが何人もいる事など、誰が予想しただろうか。しかも、それよりも上の存在が複数存在することなどからアリスは、既にあらゆる情報や計画を大きく上方修正すべきだと訴えていた。
新手の冒険者に、翔の作った魔法の防具と武器を配った後、今度は、エルナの街の鍛冶屋セルマが皆に新しい武器を配布する事を説明した。
「この武器は、剛腕の鍛治職の方と協調して作った素晴らしい武器です。これがあれば、魔法が使えない者でもそれなりの攻撃が可能です」
彼はそれを百数十丁作ったと説明し、順次非戦闘員にも配布すると説明した。その説明は非戦闘員まで戦う必要がある事を意味していた。
「新手の冒険者さんが沢山入ってきたのに、こんなモンは不要だろ」
村人の誰かの発言に対して、鍛冶屋のセルマは、うまく説明をしていた。
「この筒を持って戦うのは、前線の召喚師が倒れて召喚獣が全滅した場合に時間稼ぎのために使われることを想定しています。しかし、戦況が悪化すれば皆、筒を持って戦って頂きます……」
鍛冶屋のセルマは話し続けている。
「あの筒は、堀の向こうを攻撃するほどの射程が有るのか? それに破壊力は、どれほどあるんだ?」
アメリアが興味深々で尋ねた。
「射程は、結構あるんだ。しかしそんなにうまく飛ばないんだよな。当たれば相当な破壊力があるんだが、思ったところには全然飛んで行かない。まだまだ実用には程遠い代物さ。しかし今回のように標的が、どこにでもいるような場合は、少しは役に立つだろう」
翔は、答えた。
「いろいろ考えてるね」
メロが偉そうに評した。
「あのセルマって鍛冶屋には、いろいろ教わってね。今迄、役に立つかどうか分からず捨てるに捨てられなかった魔物から採取した素材をいろいろアレンジして、魔道具の製作をする方法なんかも教えて貰った」
「へえ。どんな物ができるんです」
イリスは、興味を示しながら聞いた。
翔は、マジックバックから、実験で作った、魔道具を出して見せた。それらの魔道具は触ると震えるだとか、振ると色が変わるだとか意味不明な魔道具ばかりだった。
直ぐに、イリスを含めた皆の興味は、無くなった。
「おい。お前達。おれのショボい錬成能力でできた物を見て、その知識を評価して馬鹿にするなよ。鍛冶屋セルマは、この職人技で見事にあの筒を作って見せたんだからな。それにあの筒の原動力はずっと貯めていた魔核なんだ。何が役に立つかわからんだろう」
しかし、女性軍は欠片も興味が無いようだった。翔は、過去に、化学の実験に全く興味を示さない女子達に温度差を感じた事が有ったが、あらためて女性との距離を感じた瞬間だった。
────しかし、この何かと何かを掛け合わせるとどんな物になるかを解明する事が面白いんじゃ無いか。
翔はのめり込んで行く興味の本流に身を任せて探求を始めたくてじれったいぐらいであった。
【魔道具の精製日誌】
○○八番。
(素材)
ゴブリンの牙×オークの牙
(結果)
融合の結果は、原型をとどめない汚く不気味な小さな牙
(メモ)
何故こうなったかは不明。今後に役立つ情報もなし。鬼、つかえねぇ!
027話 ゼノ要塞の狂騒『第一幕』終わり




