027ー4 ゼノ要塞城の狂騒『第一幕』シーン4
【修行履歴】
2019年11月23日
①27話を5分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
【始まりの都市】
冒険者ギルド本部により、招集された冒険者は、ランクA“稲妻”を始めランクパーティーばかりで編成された。
この日は、残念な事にランクAパーティーが三組、ランクB級のパーティーが六組、ランクC級のパーティーが八組でその他ランクの七十二組みのパーティーの総勢五百四十八名の討伐クランが組まれたに過ぎなかった。
“稲妻”のリーダー。バッシュの願いは全面的に支持されたのだが運悪くS級以上のパーティーが不在だったのだ。
しかし逆にS級パーティー以上が不在なのにこれだけの規模の討伐クランが組まれた事がバッシュの願いをギルド側が全面的に受け入れた事の証だった。
臨時の理事会で緊急招集の発動を訴えたバッシュの願いは叶えられ無かった。この措置はその事への詫びでもある。
「バッシュ君。直ぐに主力の討伐軍を編成して援助に向かう事を約束する」
ギルド理事長のオルフ・グルブランソンがバッシュの手を握って言った。
「もしも、ゴブリンキングの兆候が有れば直ぐに知らせてくれ。ワシも討伐軍に参加してでも阻止しに行くぞ」
バッシュは、冒険者の憧れの的である世界最強の男であるギルド理事長の直々の挨拶に恐縮して身体を硬くしていた。
「承知しました」
「Aランクの君達にこの討伐軍の指揮を執るのは荷が重いだろうが頑張ってくれ」
冒険者ギルドのドワーフ理事、ライザー・アルニノンもエールを送った。
「主力の討伐軍は、我等“大鷲”が参加するつもりだ。頼むぞ」
冒険者最強のパーティー“大鷲のメンバーであり、理事でもあるジークムド・ノルドハイムもエールを送った。
「“大鷲が参加して頂けるなら鬼に金棒です」
バッシュが言った。
「その事を伝えればあちらの皆も勇気が倍増するでしょう」
こうして、冒険者ギルドから討伐クランの第一陣が出発したのだった。後にジークムド・ノルドハイムは、この時なぜ一緒にこの討伐クランに参加しなかったのかと激しく悔やむ事になるがそれは後の事だ。
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【ゼノの要塞城よりも西に存在するゴブリンの国にて】
「尊きお方よ。人間共は『始まりの街』の南に大きな城を築いていたようです」
野太い声には似合わない知的な雰囲気で、その巨大な体型のゴブリンが言った。
「大主教殿。人間と言うのは、聡い物。我等の動向も気づいていたと考えるべきでしょう」
もう一人のゴブリンがそう答えた。見た目は、ゴブリンというよりも人に近い。体型は人よりもかなり大きいが、容姿は人間の青年男子と言った感じだった。
「もしそのような事があるなら、我等は、人間共を見くびりすぎたのかもしれませぬ、尊きお方。
しかし、御身は我等が有史以来待ち続けていた尊き御身でございます。戴冠を前に、何物も御身を悩ませるような事が有ってはなりません。先陣軍も、御身への災いを己が身をもって引き受けることができる事を喜んでおりましょう。しかし、この二日の戦いで芳しい報告もできぬ状況でありますれば、本軍より援軍を差し向けて御身の露払いとさせて頂く事お許しくださいませ。本軍の精鋭を派遣すれば直ぐにでも解決いたしましょう」
「そのような事は、お前達で宜しく進めよ。しかし戦力を分けるのは戦謀においては禁忌とされる悪手であると聞く。それならば我と我戦力は、共に出陣し、先陣の軍と合流いたそう」
「でありますれば、御身は戴冠の儀式を経て、ゴブリンの世界を築かれる王となられてから世界を平らげるために出陣されれば宜しいかと」
「大主教殿。我は降誕して、ソナタより皇太子とされてより、この方、我が身を王に相応しい者とするために多くを殺し、鍛え上げてきた。そして、最後の仕上げとしての戴冠の儀式を受ければ王となるまでになった。
その身でなければ分からぬ事がある。戴冠とは、この大地の東端ガハス岬にある遺跡にて知恵湧水を戴く事であり、その場で我らの主神の祝福を受ける事である」
「尊きお方。知恵湧水は神々にお願いして既に用意しております。ガハスの遺跡にて戴冠の儀式を行わずとも王になる事は可能でございましょう」
大主教は透き通った瞳でゴブリンの皇太子を見た。
「大主教殿。それは最後の手段として持参するが良い。我は可能であればガハス遺跡にて戴冠の儀式を執り行いたいのだ。我らの主神の祝福を受けて戴冠を受ければさらなる進化を遂げることができるのだ」
ゴブリンの皇太子は頑なに戴冠の儀式を大陸の東端にあるガハス岬の遺跡で行うと言って聞かなかった。
「尊きお方のご命令でありますれば、我等。御指図に従い。全軍を率いて、東征いたしましょう。東征の末にゴブリン王が降誕すると預言も申し上げるところ。御身の心安らかなママに」
ゴブリン大主教はそう言うと恭しく頭を下げた。
本心ではゴブリン皇太子がワガママを言うと嘆いているのだがその嘆きは一切顔の外には出さなかった。
この日、この地に住していた全てのゴブリン軍が東征のため進発した。そのゴブリンの大軍は先に進発したゴブリン軍の数倍の規模があった。
翔が最も恐れていた形で進んでいるのだった。
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【ゼノ要塞城。大広間にて作戦会議が開かれていた】
「このまま撤退するという事は無いでしょうか」
そう尋ねたのは火神の召喚師ヨナタン・ピョルグンドだ。
「彼等の本軍は、ここから西に集結していて動かない」
翔が知覚したゴブリン軍の様子を説明した。
「明日の朝、また総攻撃を仕掛けてくるだろう」
それから、翔はアリスなどによって分かった敵軍の陣容を説明した。
「……と言う訳だ。数が多いし、大将が大物過ぎる。さすがにレベル80を超すゴブリンが三人もいたら飛び込んで行って捨て身の口撃でもしないと、勝てる気がしない」
翔の説明は要塞城の冒険者達には恐ろしい内容だった。ゴブリン軍はまだ三十万もいるのだ。更にそれを統率するのはゴブリン王ではなく、ゴブリン大元帥、ゴブリン大司教、ゴブリン大賢者などと言う、今までの歴史に登場したことがない、高位のゴブリンで、三人もいる上に、彼等のレベルが80を超えているらしい。
しかし、翔の発言を素直に聞いていれば、レベル80の魔物と刺し違えたら倒せるという風に聞こえた。
────そんな訳は無いだろう。
アルマは、黙っていたが、そう思った。
レベル80の魔物は天災級魔物と言われていてダブルS級パーティーでも対処不可能だ。
ギルド最強の“大鷲”なら何とか倒せるかもしれないと言うレベルだ。もし三人同時に倒すというなら“大鷲でも不可能だろう。
それをこの少年は刺し違えたら何とかなるかもと言っているのだ。要塞城の皆の元気付けと言うものだろうとアルマは解釈した。
しかし。
「五人で行けば何とかなるんじゃ無いか?」
アメリアは、発言した。
────こいつらは本当にレベル80の魔物と闘うつもりだ。
アルマが呆れ返った。
「普通の魔物のレベル80じゃないからな。五人でも無理だろう。彼等は職業から見ても共闘してくるに違い無い。レベル80のパーティーを倒すには刺し違える事を覚悟で奇襲による騙し打ちををするしか無い」
翔があっさり否定した。
皆、翔の説明を聞いてうなづいている。ところが。
「しかし、やってみるのも面白いかもしれんな」
翔がそう呟いて真剣に考えて、独り言を聞いた時、皆、震え上がった。
「まて、そんな賭けみたいな事は止めてくれ」
“火神の杖”リーダーのラビノビッチが叫ぶように止めた。
「確かにな。ゴブリンの最高レベルの三人を同時に殺れれば軍の混乱に乗じて、俺達の復活などの事後処理をしても何とかなるかもしれんが、一人でも仕損じるとこの要塞も一緒に全滅させられるかもしれんしな。地道に闘って少しでもレベルを上げてから奴らを殺れるまでになるしか無いか」
翔のその話も無茶にしか聞こえない。
「しかし、今回の闘いでメロを始め大勢戦死するはめになった。幸い皆、復活できたが復活障害の精神的なダメージにより戦線に復帰できない者もいるようだ。なかなかシビアな状況になってしまった。申し訳ない」
翔は何気なく頭を下げて謝った。
ユグドラシル世界で頭を下げるのは最敬礼だ。翔が頭を下げるのを見て、謙虚な人だと勘違いする者もいる。
「いや。君のせいじゃない。聞けば君達は、冒険者になってまだ二年にもなっていないそうじゃないか。それにレベルゼロだったとか。私は君達のその後のレベル上げを詳しく教えてもらって今後の我々冒険者の模範とする積りだ」
魔術師セキ・コーエンが皆を代表するかのように言った。
「この要塞と言い、私は最初は、なんて大掛かりなんだと思ったよ。しかし今の状況を見て心底思うよ。もし君がいなければ我々は一人として生き残れ無かっただろうと。君の恐ろしいほどの魔術師としての技量だけでなく、この要塞と言い、復活の天宮と言い。可能な限り最大の準備をする君達の姿勢に感動している」
「まだ感動は早いぞ。今日の危機は、そのまま負債となって積み重なって、次第に崩れ折れて、行くことになりかねない。このままでは、そう長くは保たん」
翔は、淡々と言った。
「ああ。我々難民の保護をしているランカー外の冒険者も同じ結論だ。そこで我々から一つ提案なんだが」
セキ・コーエンとは、別のランカー外の冒険者が発言した。
翔を始め、ランカー冒険者皆が注意を向けた。
「我々や難民の内、闘える者達向けの魔法武器や防御を作ってもらえないだろうか? 難民の中には、レベルは低いが魔力の強い一般人も多くいるのだ。魔法武器は、魔力を通すと武器から攻撃魔法が発射されるそうじゃないか。そんな魔法道具を作れないか?」
「俺は確かに創造師だが、あまり魔法道具の作り方などは分からない。誰か作り方を教えてくれるものはいないか?」
翔が逆に尋ねた。
その時、遠くから冒険者達の話を聞いていた難民の中から手を上げた者がいた。
「誰でも遠慮せずに発言してくれ」
翔は、話を促した。
「俺は、西の『エルナ』の街で一番の鍛冶屋。セルマっていう。俺は名人だった父から魔道具の製造について秘伝を受けた。役に立つかわからねぇが、翔さんに伝授したい」
「あんたのその技は、魔道具の鍛治なのか?」
「魔道具、魔法武具の両方を鍛治していた」
「興味がある。宜しく頼む。もし、良い魔道具を作る事ができるなら、先ほどの提案を考慮してみよう。ひとまず、会議は解散だ。エルナの街の鍛治師セルマ。俺に鍛治の秘伝を教えてくれないか」




