027ー3 ゼノ要塞城の狂騒『第一幕』シーン3
【修行履歴】
2019年11月23日
①27話を5分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
この夜のゴブリン軍との戦いは、翔達が圧勝した。しかし、翔達も全く無傷と言うわけには行かなかった。
剛腕のメンバー、預言者のホリス・カースと“火神の杖”のメンバー、剣士・魔術師のララ・メッセの二人がゴブリン貴族に殺されて、即席で作られた復活の天宮により、復活した。
デュラハンは、十五騎も殺されて、その他の召喚された魔物や精霊達も相当数を失った。
「初戦から予想以上にシビアな戦いだった」
アルマが殺されたメンバーのホリス・カースの枕元に座りながら呟いた。
「翔。本当に良く復活の天宮を作ってくれていたな。感謝するぞ」
「まだまだ、始まったばかりだ。アルマ。そこを退いてくれ。復活障害を取り除く魔法を掛ける」
「本当にそんな事が可能なのか」
アルマは、衰弱しきって死んだように気を失っている仲間の顔を、心配そうに覗きながら直ぐにその場を翔に譲った。
「任せておけ」
翔は、そう言うと両手を広げ、魔法術式を展開した。魔法陣が完成し、魔法陣から魔法が発動した。
光が預言者のホリス・カースを包み込んだ。効果は直ぐに現れた。意識を失っていたホリス・カースが直ぐに意識を回復させたのだ。
「姉御。お、俺は、殺られたちまったのか? すまねぇ」
ホリス・カースは、呻きながらベットの上に身を起こした。
「怖えぇ。姉御。死ぬのは、心底怖えぇ……」
顔は、憔悴しきっているが何とか頑張れそうな顔をしていた。
「ホリス。レベルは少し下がったろうが、ステータスは、あまり変わってないだろう」
翔は、笑いながら尋ねた。
「ああ。その通りだな」
ホリスは、翔の指摘を受けて、慌てて自分のステータスを確認したが、少しほっとした顔になった。
ステータスの下がり方が思ったほど酷くなかったのだろう。
翔は、その顔を見て。
「復活障害は、リスクが無いわけじゃない。俺は三つ四つレベルを下げられた事もある。しかし、レベルは魔物を倒せば直ぐに戻る。気持ち良いほどにな。レベルが元に戻ったときにステータスは、ずっと高くなっている事に気付くだろう。それが復活のメリットだ。本気で上を目指す冒険者に取って見逃せないメリットだろう」
翔のその説明にホリス・カースの瞳に輝きが戻った。
「ああ。何とかやってみる」
ホリス・カースは、そう言った。
彼は、翔達がなぜ強くなったのか。どれくらいの回数復活したのかを聞いていた。この要塞の冒険者は、皆、聞いていた。
彼は、死の恐怖を知り、登りたいと言う欲求と死にたくないとの本能との葛藤が頭の中で戦っているのだ。
しかし、さすがにS級まで登ってきた冒険者だ。向上心も上への渇望も、普通の冒険者とは比べられないほどに強いのだ。
「じゃぁな。アルマ。俺は、“火神”ララ・メッセの復活者障害を和らげてやりに行ってくる」
☆
翌早朝、物見からゴブリン軍が攻撃してきたとの知らせが入った。
ゴブリンは昨夜の戦いの結果、夜間の戦いは大軍の方に不利だと悟ったのだろう。
すでに要塞の架け橋の袂に、翔達によって召喚された魔物達は集結していた。
ゴブリン軍は、見渡す限りの土地全てに旗印を立てて、陣容の大きさを鼓舞していた。更にラッパを大きく吹き鳴らして威嚇した。
「威嚇してくるなぁ」
翔は、見える限りの風景の左の端からゆっくり首を回して、右の端まで見渡した。ラビノビッチが言っていた通り、この日攻撃に参加しているゴブリンの数は十万は下らないだろう。
ゴブリンの様々な戦旗が、数えるのも馬鹿馬鹿しい程、たくさん、はためいていた。大角笛のブォーンという低く腹を震わせるような音があちこちで鳴り響き、地を震わせた。
「壮観だな。メロ。強いのはどの辺にいる?」
「うーん。分かんない」
「さすがのお前でもこれほどいては分からんのか」
────アリス。キングの位置は分かるか?
《すみません。翔様。実際に見ないと誰がキングかわかりません。今、翔様の見渡した中にはキングの姿は有りませんでした。しかし見渡した限りでも翔様よりもレベルの高いゴブリンは何名かおりました。ゴブリン大主教。ゴブリン大元帥。ゴブリン大賢者の三体はレベル80を超えています》
────80超えが三匹もいるのか。そいつはキツイな。
《今、キングの姿が見えないという事は、もっと強い個体が複数いると考えるべきです。しかも目の前の軍が、本体の軍ではないのか、先ほどの三人が今回の最高指導者のゴブリンなのか、不明な事ばかりです》
────こいつら、よりも強い奴らがいない事を祈るよ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【始まりの街。冒険者ギルド本部にて】
その日の未明。A級ランク“稲妻”リーダー、バッシュは、ギルドに駆け込んで、ゴブリン将軍の出現とさらなる危機について報告した。
ギルドで彼の話を聞いてくれたのは、ドワーフの長老、ライザー・アルリノンだった。彼はレベル165。鍛治師、武闘家、戦術魔術師のトリプルであった。アガリアン神聖国ギルド本部の理事である。
「バッシュ君。剛腕リーダーの援軍要請についてはギルド内で検討中だ」
「検討中だなんて悠長な事を言ってる場合じゃないでしょう。可能な限り早く多くの援助をしてくれ」
「私の一存で可能な限りの招集はしておこう。しかし、アガリアン神聖国の方は、今の情報だけでは動いてくれるかどうか。南西地区防衛の責任者のエステランド公爵クリストファー・フェステン殿には伝えておくが、直ぐに動いてくれるかどうかは分からん……」
「しかし、歴史の中でゴブリン将軍は、それほど何度も現れたわけじゃないでしょう。ゴブリン将軍が出現したら国を挙げて戦うのが常識では?」
「もちろんだ。ギルドは可能な限り、大規模な討伐クランを編成して救援に向かわせる予定だ。直ぐでもランカー冒険者には招集をかけるつもりだ。しかし、直ぐに招集に応じて貰えるランカー冒険者は、それ程の数にはならないだろう」
ライザー・アルリノンは大きく頷いて答えた。
「我が故郷。ニドベリールの軍も招集する事を約束しよう。しかしニドベリールの軍が到着するには半月以上はかかるだろう」
「そんなに……」
バッシュは悄然として呟いた。
「緊急招集をかけてください」
「それは無理だ。緊急招集はラグナロクに通ずる大きな出来事、例えば蝕などが起きた時だけに招集できるという条件だ」
「しかし、緊急招集するべき時なんじゃないですか」
バッシュは食いさがった。
「緊急招集はもう少し待て。ゴブリン共が大挙して攻めてくるとの確かな情報があれば直ぐにでも緊急招集する」
「それじゃ、ゼノ平原の砦に保護されている難民を見殺しするんですか?」
バッシュは諦めずに言った。
「うーむ。お主は、それ程言うのは何が理由だ?」
「分からんのですか? 俺は、今までに見た事がないようなルーキーを見ました。そんな時は、何かが変わる時だと思うんです。剛腕の姉御が虎の子の俺達を、支援要請に出したのも冒険者の嗅覚というもんです」
バッシュは、ニドベリールのドワーフの英雄であるライザー・アルニノンの顔にぶつかりそうな程顔を近づけて叫んでいた。
「現場の空気は現場のもんしかわからんからな。分かった。直ぐに緊急理事会を招集する。お主は理事会で緊急招集の発令をするように理事共を説得してみろ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【ゼノ要塞城にて】
ゴブリン軍の総攻撃が開始されたのは午前五時五十八分。夜明けから五分後だった。
ゴブリン軍の大群は、要塞の渡り橋を守る召喚獣や召喚精霊めがけて殺到した。
翔達とSランク冒険者“剛腕“、“火神の杖”だけでなく、その他のランカー冒険者の半数が最前線に参加した。
ゴブリン軍は、そこだけでなく、堀の外縁から要塞を魔法で攻撃したり、要塞城の擁壁に取り付こうと、堀を超えるためのあらゆる試みを行った。
要塞側も、ただ見ていたわけではない。メロが召喚し、外周の擁壁に配置したサラマンダーは、強大な火炎放射の攻撃を行い、外周に陣取るゴブリン達を焼き払った。
ゴブリンからも魔法の攻撃が放たれたが、要塞に残った冒険者や難民達の魔法防御により、防御した。
今回のゴブリン達にも、ゴブリンシャーマンやゴブリンプリースト等の魔法を操る上位ゴブリンが想定以上に大勢いた。
この為、有効的だったサラマンダーの火炎放射攻撃も、ゴブリン達の集団魔法による防御結界で防ぎはじめるなど、各方面で、一進一退の攻防が続いたのであった。
サラマンダーの火炎放射の攻撃は、ゴブリン軍に甚大な被害をもたらしたが、一方の要塞の冒険者達の方も倒れる者が続出していた。
一方、召喚獣や召喚精霊達と共に最前列で戦う翔達も、ゴブリン群の精鋭部隊との白兵線で苦しい戦いを強いられていた。
ゴブリン達による、要塞の渡り橋への攻撃には、最初から、かなり高レベルのゴブリン貴族以上を中心とした精鋭部隊が大量に注入されたからだ。
ゴブリン軍は、翔達が守る、全線に、ゴブリン将軍級の指揮官まで、惜しげも無く、投入して戦局の主導権を握ろうとした。
翔達が召喚したレベル50を超える召喚獣でさえ、複数の高レベルゴブリンの一斉攻撃を受けては、ひとたまりもなかった。
召喚獣が退治されると、メロ達は、新たに召喚するため、数は一定の数が保たれていた。一方のゴブリン軍も、豊富な戦力を惜しげも無く投入してくる為、翔達も予断を許さない厳しい闘いとなった。
このような戦いの膠着状態は暫く続き、ゴブリンの死体が山のように積まれていった。
翔達には、もう一つ、空からの攻撃が有った。ワイバーンとペガサスの攻撃だ。ワイバーンもペガサスも体長は数十メートルを越す大型の魔獣と聖獣だ。ワイバーンには空中からの炎の攻撃があり、ペガサスは第五グレイドの魔法を使う。空からの攻撃は大きな成果を上げた。
しかし、空からの攻撃もゴブリン達の魔法攻撃のため全くの無傷というわけには行かなかった。
戦いは、日没の直前まで続いた。日没になるとゴブリン軍は、前線を要塞城から下げて森林の方まで引いて行った。
こうして第一日目のゴブリンの総攻撃は終わった。ゴブリン軍の被害は甚大だった筈だが、そもそもの総数からすれば、この被害を甚大と言えるのかは微妙なところだ。
一方の要塞側は、総数が少ない割には死傷者が多く、勝ち戦であるとはどうしても思えなかった。
翔は、戦いが終わると復活者の障害を和らげる魔法をかけるのに忙しく。多くの魔力を消費した。翔は要塞にいるヒーラーに復活障害を和らげる魔法を伝授したが、翔のような強力な効果は無かったため復活者が直ぐに戦場に戻る為にも翔の魔法は、欠かせない物となっていった。
翔は、最前線で戦い。復活障害の治療を行わなければならず、大きな負担が双肩にかかる事になった。
メロ、アメリア、イリス、レイラの四人も、召喚の為に大きな魔力を消費していた。召喚魔法は、多くの魔物を召喚すると、魔力の消費が大きくなる。更には召喚獣の入れ替え、補充なども大きな魔力の負担となった。
一日で大きな負担を彼等は強いられたのだ。
☆
翌早朝。ゴブリンの第二日目の総攻撃が開始された。
この日、昼過ぎに最悪の事態が発生した。メロが戦死したのだ。
メロを殺した相手は、レベル70を超えるゴブリン大将軍だった。さすがのメロもゴブリン大将軍の鋭い攻撃には耐えられず戦死してしまったのだ。
そのゴブリン大将軍は、翔が怒りにまかせて発動させたオーバーコート魔法『次元転送』で一瞬で消してしまった。
アルマやラビノビッチは、翔の見た事もない魔法に目を白黒させていたが、それよりも次の瞬間に事態が急展開した。
メロの死によって、術者死亡によりメロが召喚した魔物が、一斉に失われてしまったのだ。
要塞を守るサラマンダーやワイバーンなどの魔物達が一瞬で消失した。攻防の鍵を握っていた魔物達の消滅で、攻防は一気にゴブリン軍が優勢になりそうになった。
翔は、止むを得ず、手持ちの切り札を使わざるを得無かった。
オーバーコート魔法の特大『大爆発』を発動したのだ。
翔のオーバーコート魔法は、ゴブリンの本軍を含む広範囲を吹き飛ばした。しかし翔の巨大な魔法は、ゴブリンの司令部において、ゴブリンの高レベル大司祭、ゴブリン大元帥、ゴブリン大賢者の三人の連携した魔法防御により防御されてしまったようだった。
危機一髪だったのだが、この時、翔のギリギリ放った二つのオーバーコート魔法の威力にゴブリン軍は恐れをなしたようだった。
全軍が退却し始めたのだ。




