026ー2 お前ら最弱モンスターだったんじゃねぇか? 2
【修行履歴】
2019年11月10日
①26話を2分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
【要塞の中にて】
翔は、アルマが連れてきたS級ランクパーティー“火神の杖”のメンバーを見渡した。
────アリス。S級って大したことがないな。
正直に口に出して言うわけにもいかないのでアリスに語りかけた。
《はい。翔様と比べたら皆、大したことが無いと感じられるでしょう。翔様が凄すぎるのです》
────しかし、俺の事よりも、メロを始め、アメリア、イリス、レイラ達はなかなか才能がある。どうしてS級なんて言ってる割にこいつらはこんなに実力が無いんだ?
《修行の質がまるっきり違うのと、皆さんの素質の問題でしょう》
────アメリア、イリス、レイラはそもそも人間じゃないから素質が違うのも当たり前だが、メロはどうなんだ?
《その事には、私も驚いています。一つには翔様から移譲された精霊魔法の効果かもしれません。あるいはレベルの低い間に摂取した魔核やその後の魔精結晶の影響も否めません》
────どちらにせよ。ユグドラシルの冒険者は、弱すぎるな。
《翔様達が異常に強すぎるのです》
「S級ランカーが二つも揃うのは魔王討伐みたいですわね」
イリスは、翔の腕に捕まりながら、半分身を隠しながら言った。
「お前。なに隠れてんだ? 冒険者が怖いのか?」
「自分が狩られるのを想像してしまったのですわ」
イリスは、翔に色っぽい眼差しを向けて言った。
「イリス。ダメ」
二人の間にメロが入ってきて、二人を引き剥がした。
「そんなに色っぽいのは、翔を獣にしてしまう」
「おいおい。俺は色情魔ですか?」
翔は、メロを睨みつけながら言った。
「西から来たそうだな」
翔達が馬鹿話をしているので仕方なしにアメリアが尋ねた。
「ああ。君らは? 凄いレベルだね」
聞いたのは“火神の杖”のリーダー、ラビノビッチ・バシコフだ。
「俺達は、今度、“剛腕”のサブメンバーに入れて貰った、元A級ランカーのメンバーでメロ。アメリア。イリス。レイラ。それと俺が翔。宜しく」
「俺は、S級ランク“火神の杖”のリーダーのラビノビッチ。それから、メンバーのヨナタン。ララ。カミーラだ。ちなみにおれの職業は、戦闘魔術師。ヨナタンが召喚師。ララが剣士・魔術師のダブル。カミーラが魔法剣士だ。君達の職業を聞いてもいいかい?」
「俺は、創造師。メロは神使いと魔術師のダブル。アメリアは至高者と魔術師のダブル。イリスは魔物使いと魔術師のダブル。レイラは半神と戦乙女のダブルだ」
「すまない。それは、どんな職業なんだ?」
「まぁ簡単に言うと俺は魔術師で槍使。メロは精霊魔法使いで魔術師。アメリアは妖精魔法使いの(治療師)ヒーラーで剣士。イリスは暗黒魔法使いで重剣士。レイラは神聖魔法使いで騎士と言った方がわかりやすいか」
「俺達も長く冒険者をやっているが君達のような冒険者は、初めて見るな。アメリアは妖精なのかい? 妖精には至高者と言う妖精の王族がいると聞いた事がある」
ラビノビッチが尋ねた。
「詮索はそれぐらいにしてくれ。それよりも、ラビノビッチはどうしてゴブリンどもの群れているところへ?」
剛腕のアルマが二人の話に割って言った。
「ああ。俺達は、偵察のためだ。西からの連絡が途絶えたって事だった。さすがにゴブリンがあれ程溢れかえっているとは思わなかった」
ラビノビッチが答えた。
「翔。ゴブリンは三十万を下らんそうだ」
アルマが付け加えた。
「“火神の杖”。あんた達の見た感じ、ゴブリン共には王が降誕したと思うか?」
翔は、尋ねた。
「分からんが、プリンスよりも大きい勢力なのは間違いない。伝説に聞くプリンスは十万の軍を率いていたと聞いた事がある。今度のは、それよりも大きい」
「俺の知識では、ゴブリン将軍は、何度か現れているらしいな。しかし、今回はゴブリン将軍が同時に二人も現れている。昔現れたという ゴブリンプリンスの時でさえ従者にしていたのは、ゴブリン貴族達だった様だ。つまり今回のゴブリンのトップは、軍の数、部下の質の二つでプリンスを上回る事が明らかなようだ。ゴブリン王が降誕したと見るしかないな」
翔は、キッパリと断言した。
「それで、この城には、どれほどの軍が駐留しているんだい?」
“火神の杖”リーダー。ラビノビッチ・バシコフが尋ねた。
「ここの戦力は、人でなく召喚した魔物や妖精が中心だ。今、ギルド本部には応援を頼んでいるが、ゴブリン軍は足が速いので戦端が開かれるまでに、応援は、間に合わないだろう。今の戦力で戦うしかない」
「ここに来るまでにデュラハンの部隊を見た。あれが召喚した魔物か?」
ヨナタン・ピョルグンドは、興味津々と言った雰囲気を漂わせていたが、尋ねたのは、それだけだった。
このメンバーは、S級に相応しく、統制の取れたメンバーのようだと、翔は、感心して、‘火神の杖’達を見た。
「そうだ」
翔は、短く答えた。
「教えてくれ。あれほどの高レベルの魔物をどうやって召喚するのだ?」
ヨナタン・ピョルグンドは、我慢できないと言う感じになって、言いにくそうにして、尋ねた。
彼は、国でも最も優れた召喚師の一人だ。彼はイレーネ達の召喚師のリディア・シュトローメンなどよりも格上の召喚師なのだった。
「あいつらの召喚はイリスだったな。お前の知りたいのはイリスの『魔物使い』の技か、デュラハンの召喚の方法か?」
「ま、待ってくれ。お前の言ってることがさっぱりわからん」
ヨナタン・ピョルグンドは、遂に悲鳴を上げた。
「俺にもイリスのやっている魔物の支配という奴は良く分からん。そいつが知りたいならイリスに聞くしかない。しかし、召喚魔法を教えろと言うのであれば容易い事。今は戦時中なので教えてやろう」
「君も召喚ができるのか?」
「つまらん質問はするな。時間の無駄だ。そもそも召喚とは……」
こうして翔の定評のある教授が始まった。
見ると彼らの仲間であるはずの女の子達の四人が一番熱心に聞いているようだ。
ヨナタン・ピョルグンドは、この日、本当の召喚魔法とは何かが初めて理解できた。この少年の説明は驚くほど分かりやすく実践的だった。
「……と言うわけだ」
翔は、そう締めくくった。
しばらく、ヨナタン・ピョルグンドは口もきけず黙り込んでしまった。ある日を境にして世界感が全くちがうものになる事があるがヨナタン・ピョルグンドには、それがこの日だった。
「そんな!」
“火神の杖”のメンバーの一人、ララ・ラッセはメロから話を聞いていたが、あるところで叫び声を上げた。
「どうした? ララ」
リーダーでもありララのパートナーでもあるラビノビッチ・バシコフが走り寄った。
「この子達、レベルアップ・トライアル・ルートのルートマスターらしいわよ」
ララが恐るべき事実を伝えた。
その声で、“火神の杖”のメンバーだけでなく、“剛腕”のメンバーまでもがララ達の方に走り寄った。
「誰が、ブリュンヒルデルートのマスターだって?」
剛腕のアルマが走り寄りながら尋ねた。
「アルマ。あなた達のサブメンバーはあのルートのマスターなのよ。知らなかったの?」
ララは、メロの肩を抱きながらアルマに説明した。ララは、翔の授業に飽きてフラフラしていたメロを捕まえていろいろ話していたのだ。メロとララは、すでに相当仲良しになっていた。メロがララに笑いかけていた。
「何をそんなに騒いでいる?」
今度は翔が、彼らの傍まできて怪訝な表情で尋ねた。
「お前達は、レベルアップ・トライアル・ルートのルートマスターなのか?」
アルマが少し興奮して翔に詰問するかのように尋ねた。
「そうだが。それがどうしたと言うのだ?」
翔は、怪訝な顔になって、冷めた口調で聞いた。
「何を言ってるのだ。私達、S級以上のランカーの者は皆、レベルアップ・トライアル・ルートのサバン魔峡で魔精結晶の採取を許されている。お前達は、あそこの恐ろしい魔物を全部狩り取ったのだろう。それでは、私達などが敵うわけがない」
アルマは、そう説明した。S級と言う、冒険者の頂きにいる彼らだけが、サバンナ魔峡での魔精結晶の採取を許されているのだと、翔は、初めて知った。
「そうなのか。確か神々もサバン魔峡で魔精結晶の採取をするとか言っていたな。邪魔をするなと警告された」
翔は、魔峡での様々な事を思い出しながら言った。
「あそこは、魔精結晶のおかげでみるみるレベルアップして楽しかったな」
その言葉にS級ランカー達全員が絶句した。
「お前達。あそこを楽しんで攻略したってのか?」
ラビノビッチ・バシコフは、叱責するかのような勢いで言った。
「あそこは、S級以上のランカーにとっては恐ろしい思い出しかない。魔精結晶を採取しても大抵は全滅させられるのが普通だ。復活障害を考慮に入れて魔精結晶との効果と比較考慮してあそこに入るのが普通だ。それほど魔精結晶は魅力的だが」
「これがそんなに魅力的か?」
翔は、マジックバックから魔精結晶を取り出して見せた。
「それは、魔精結晶なのか?」
震える声で剛腕のアルマが尋ねた。
翔の掌には直径五センチ程の魔精結晶が握られていた。
「こんなのは飲むのも辛いので袋に入れていたのさ」
冒険者達は、翔の掌の魔精結晶を食い入るようにジッと見入った。
「翔。私はあんたらよりも弱いから我慢するが、そんなものをチラホラ見せたら命がけで奪おうとする奴らが絶対にいるぞ」
アルマは、忠告した。
「目の毒だからさっさとしまっておくれ」
「そんなに欲しいならやろう」
翔は、そう言うとマジックバックを両手でゴソゴソして次々に魔精結晶を取り出すとS級ランカーの冒険者達に投げて渡した。
魔精結晶を投げ渡されたS級ランカー達は目を白黒させて、それを見つめている。
「俺達は、そいつを採取しすぎたんだろうな。今では、ちっとやそっと飲んでも何の変化も出なくなったな。マジックポイントの補充ぐらいにしかならん」
翔がそう言ってる間にも五センチもある魔精結晶を皆、慌てて口に含んでいる。あまりにも大きいので飲み下せず口の中でガリガリ飴のように噛んで飲んでいる。目が何かに取り憑かれたようだ。
「おお。これは凄い!」
アルマは、絶叫を上げた。
「力が漲る」
ラビノビッチも絶叫を上げた。
その他のメンバーもそれぞれ叫び声を上げたり、吠えたりしていた。
魔精結晶には、レベルアップした時と同じようにステータスを底上げさせるという効果がある。それだけでなく肉体の強化や精神の強化など根本的な強さを底上げさせるのだ。
S級ランカー達は、翔に涙を流さんばかりに感謝した。それほど魔精結晶は、上を目指す冒険者には貴重品なのだ。
“火神の杖”のラビノビッチ・バシコフは、夢のような心地でメンバーと翔達、“剛腕”サブメンバーを見回した。
ほんの三十分前には、考えられなかったことが次々に起こっていた。中でもヨナタン・ピョルグンドなどは、召喚魔法を根底から変えると狂気のように叫んでいる。
その時、彼らの狂騒に感心を持った冒険者達が集まって来た。彼らを見たラビノビッチ・ピョルグンドは、違和感がその時に最高潮に達していた。
ここにいる冒険者達は、何故これほど装備が凄いのか。ラビノビッチ達S級ランカーなど足元にも及ばない、見事な武具ばかり身につけている者ばかりなのだ。
ラビノビッチは、どの冒険者達の武具をみても欲しくて仕方がないような武具ばかりなので頭が混乱した。
「おい。お前達! 彼らの武具を見てみろ」
ラビノビッチの指摘に、他のメンバーの注意が、周りに集まった冒険者達の武具に向けられた。
“火神の杖”のメンバー達は皆が皆、素晴らしい武具を付けている事に初めて気付いたようで、彼らの武具を見て、ため息を吐いた。
「お前達は、魔王城でも攻略してきたのか? 何て武具を付けてんだ!」
ヨナタン・ピョルグンドが涎を流さんばかりに叫んだ。
そして、彼らの疑問はその後直に解消される事になる。
この日“火神の杖”のメンバーは一生物の武具を手に入れたのだった。
後になって、ラビノビッチ達はこの日のこの瞬間を何度も語ることになる。この日を境にして彼らの冒険者人生が大きく変わることになったからだ。そのきっかけは、無名の五人のサブメンバー達、つまり翔達だった事は言うまでもない。
歴史に名を連ねる『ゼノ要塞城の狂騒』が始まっていた。
026 了




