025ー6 ポップ、ステップ、大要塞 6
【修行履歴】
2019年11月4日
①25話を6分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
翔達が砦を出ると、何千人もの難民が砦を囲んでいた。
彼らのリーダー格の者達に、魔法で砦を作る事を伝え、そこで難民を保護する事を説明したがリーダーは信じられ無いようだった。
翔は自分は有名な“剛腕”のメンバーなので安心するよう言ったら手のひらを返すように愛想が良くなったのには驚いた。
“剛腕“の名声がここまで通用することは翔には意外だった。
(アリス。ランクS級というのはこんなにも名声が有るのか?)
《ユグドラシルでランクS級の冒険者は百万分の一の確率です。何百万人の冒険者の中の数人なのです。彼らは有名人であり、憧れの的なのです》
(そうか。それであんなに偉そうにしてたのか)
ようやく翔は理解できた。
(そうするとサブとは言えメンバーに入れろと言うのは虫の良い頼みだったのか?)
《安心してください。彼らも一流の冒険者です。翔様達の実力が自分達よりもはるかに上回っている事は百も承知でしょうから》
アリスの翔のベタ褒めが始まった。
難民達が避難すると、翔は先ず翔の旧世界の第六グレイド魔法『大爆発』を地中深くに発動する準備を始めた。魔法の術式を展開する。
アルマはリーダーとして見守ると言って付いてきた。もちろん“賢人会”のメンバーは来るなと言っても翔の魔法を見るために付いてきた。その他にセキ・コーエンなどの好奇心の強い冒険者達が十名あまり付いてきている。
「お前達、これから使うのはさっきとは違ってかなり強い魔法だ。怪我をしても知らんぞ」
翔が付いてきた者達を叱咤するように言った。
「大丈夫。メロが皆を守る。だから、翔は思う存分魔法をぶっ放して」
メロが笑って言った。目が爛々と輝いている。これから翔の大魔法が見れると喜んでいるのだ。
翔は諦めて、魔法の発動に専念した。手に開いた魔法の術式を天に投げ上げる。旧世界の第六グレイド魔法は広範囲魔法だ。術式をあまり自分達の近くに展開すると自分達も魔法に巻き込まれかねない。
魔法の術式が花開き、巨大な魔法円になる。何重もの魔法円に複雑な図形が書き出されていって複雑な魔法陣に成長した。
「おお。これほどの魔法陣は初めてだ」
メロが呟いた。それほど今回の『大爆発』の魔法陣は巨大なのだ。
「翔。オーバーコート魔法を使うの?」
メロが心配して聞いた。
「大丈夫だ。ただの『大爆発』だ」
翔が答えた。
しかしメロ、アメリア、イリス、レイラ達の全員はそれどころてはない。さっきまでの呑気な雰囲気は消えて必死になって防御魔法を展開し始めた。
アルマはその彼女達の慌て様から翔の使う魔術がただの魔術ではないと直感したが、それよりも彼女達の防御魔法の展開の速さ魔法陣の輝きや大きさなどに肝を潰した。
(なんだ。こいつらのこの魔術の腕は……)
メロを除いた女性達全員が第七グレイド『魔法障壁』を発動したのだ。
普段見る魔法の防御は第四グレイドの『魔法防御』だ。魔力の消費の激しい防御魔法はあまり見たことがないが、アルマも第五グレイド『魔法障壁』ぐらいなら見たことがある。しかし最強バリアーの第七グレイド『魔法障壁』は見たことがない。それをいとも簡単に全員が発動したのだ。発動時間の短さも脅威だった。
(こんな奴らにどんな攻撃をしたら勝てるのだ?)
アルマが唖然として考えていると最も魔術師みたいな格好をしたメロが魔法を発動した。
メロが発動したのは第八グレイド魔法『魔法大障壁』だった。
「初めて見る。幻の魔法だ……」
アルマの背後で魔術師のセキ・コーエンが呟いていた。アルマも口を大きく開けて驚いている。もはや言葉も無い。
その時だった。彼らの遥か彼方の池面が盛り上がりどんどん大きくなり山のようになって上空に向けて全ての土砂が吹き上げられていった。
その光景はアルマには、魔法と言うよりはラグナロクが始まったとでも言うようなそんな感覚だった。
黒々とした計測不可能なほどの土砂がいつまでもどこまでも空高くに向かってスローモーションのように持ち上げられて行った。
次の瞬間、地面に恐ろしい揺れが襲いアルマは思わずその場にしゃがんでしまった。
慌てて視線を足元から前方に戻したアルマは恐ろしい光景を見た。黒々した土砂が彼女の視界全てを覆い尽くして恐ろしい速度でどんどん迫っているのだ。
それから起こった混乱をアルマは一生忘れられなくなるがそれは後日の事だ。爆風と土砂や巨岩が恐ろしい速度で彼女の頭上を飛び越して行った。振り返ると、メロが張り巡らした巨大なバリアーに砦全てが守られていることが分かった。
アルマの眼前にいる男の子は彼女の想像を遥かに上回る魔術師だったのだ。この破壊力はなんだろう。大きな山を吹き飛ばす程の威力だ。
これはもはや大災害だった。天地が逆転するかのような酷いあり様だ。
アルマは必死で頭を抱えたくなるのを堪えて立ち上がった。周りを見ると“剛腕”のメンバーだけがアルマを見習って立ち上がったがその他の者は地面に手をついて頭を抱えていた。
「メロ。喧しいから音も遮蔽しろ」
翔が、大声で命じていた。
「ヘーイ」
メロがふざけた返事をして敬礼している。
直ぐに轟音が遠ざかるように小さくなった。
皆が恐る恐る顔を上げて周りの惨状に目を丸くした。あまりの爆発により、巨大な火花や雷が彼らの周囲を取り巻いた。
アルマが振り返ると砦の櫓に大勢の人が上がってきて周囲の惨状を見て騒いでいた。中には気を失う者もいる。
この巨大な惨状をここにいる少年一人で起こしているのも驚きだが、砦や周囲の人々を防御している魔法にも驚きだった。
その惨状が収まるのはそれから一時間以上が必要だった。その後も空に舞い上げられた土砂が空を覆い薄暗くなってこの地方に寒冷をもたらすがそれはずっと先の事だ。
「何という魔術だ」
セキ・コーエンが震える声で言った。
「アルマネェ。こりゃ本当に“剛腕”に正式入会して貰った方が良いんじゃないか?」
“剛腕”の魔術師ゲルマン・ソホォフがアルマの耳元で言った。
「こいつらは、我々とは次元の違う奴らだ。高嶺の花を求めるんじゃないよ」
アルマが笑い流した。彼女は今の魔術を見てもはや自分達と比較する気持ちは吹き飛んでしまっていた。
見ると彼等の足元の直ぐ前から凄まじく巨大な底なしの縦穴が開いていた。そこは奈落の様に見えた。
奈落の縦穴は半径が何百メートルもあり、底は見えないほどの深さだった。
その大穴は、見るものにその大きさだけで畏怖心を抱かせるほどに巨大だった。
しかし、翔の魔術はそれで終わらなかった。
次に翔が発動したのは、第八グレイド魔法『大地創出』であった。
「翔が『大地創出』!」と叫ぶと、遥かな向こう岸まである大きな縦穴の見えない底の方からみるみる、縦穴の直径の半分ほどもある巨大な円柱状の大地が盛り上がってきた。その大きな円柱状の大地は翔達の視線の高さを超えてかなり高い崖の高台だとなるまでどんどん上に伸びて行った。
こうして、巨大な底なしの縦穴の中央付近には巨大な塔のような円柱状の垂直の崖が立ち上がっていた。
「おお。翔。巨大な崖の高台と奈落の堀ができたね」
メロが高台を仰ぎ見たり、足元の奈落の大穴を覗き込んだりしながら感嘆の声を上げた。
次に翔が手を上げると、高台の崖に階段が形作られた。それから、巨大縦穴の外縁から、縦穴の中に佇立した巨大な高台の外縁まで長い長い階段状の架け橋が渡された。架け橋は金属性で美しく光っていた。
現代建築を見て来た翔だから作れる美しいフォルムの架け橋だった。
それから翔は、高台の上に巨大な建造物を造った。外側は、土魔法で、硬いブロックを積み上げ、光取りのための分厚いステンドグラスを随所に配置した。
それから、外縁には巨大な擁壁を作り、その擁壁の上には軍が配置できるほどの広い通路を造った。
「翔。こんなに凄い創造魔法が使えるんだね」
メロが翔の耳もので呟くように言った。
「ああ。お前も派手に精霊魔法を使ってみろ」
翔がそそのかした。
「分かった。やってみる」
メロは端正な顔を引き締めてキッパリと言った。
両手を広げ、ユグドラシルから精霊の魔力を集める。次第にメロの身体が光り始めた。美しい光は範囲を広げてゆく。
「妖精さん。助けて!」
メロが叫んだ瞬間、メロの周りを取り巻いていた妖精の魔力が周囲に広がって行き、その光に誘われたように無数の魔物達が姿を現した。
レベル52キマイラ。レベル49巨鬼。レベル53カトプレパス。レベル48黒曜犬、レベル49。泣女、レベル52、龍牙兵、レベル48食人馬、レベル51巨牛、レベル47大猪などなどの魔物が数え切れない程出現した。
次にメロが召喚したのは、魔獣ワイバーンだった。レベルは61だ。トリプルS級の魔物だ。体長は15メートルほど、首が長く顔は龍に似ている。炎とブレス攻撃を行う恐ろしい魔物だ。そのワイバーンが三十体ほども地面に降り立ってメロの方に頭を下げている。
見ると、要塞の外周を取り巻く擁壁の上に無数の巨大な魔物が配置された。
「サラマンダー!」
見物に来ていた者達から悲鳴が上がった。
火蜥蜴スリーS級魔物のなかでも最も恐れられている竜の種族。火属性の魔物の中で最も強い炎を吐くと言われている。レベルは65だ。
「頑張ったな。要塞に取り付いたゴブリン共をサラマンダーとワイバーンで焼き尽くすつもりだな」
翔が珍しく褒めた。
「アメリアも召喚してくれ」
翔が言った。
アメリアは黙って頷いた。彼女の召喚は少し変わっている。羽を大きく広げて羽でユグドラシルの妖精の魔力を集めるのだ。
アメリアが召喚したのは妖精達だった。
海精ネーレーイデス、水精ナーイアデス、 木精ドリュアデス、山精、オレイアデス、森精アルセイデス、谷精、ナパイアイ、冥精ランパデスなどが勢ぞろいしている。
精霊達は、もちろんレベルは45以上とレベルが高く、それよりも魔法力が高い存在だ。魔術師ではない一般人には見えない場合もある実体のない物理攻撃の効かない種族なのだ。
物理攻撃専門のゴブリンには最適と言える種族だ。
「次はイリスだ」
イリスは黙って頷くと、少女のような丸くて大きな瞳を開いて虚空を見つめた。彼女に暗黒の魔力が集まる。それに呼応したかのように地中から無数のアンデッドが召喚された。
首無しの馬コシュタバワーに跨った首無しの騎士デュラハンだった。レベルは55。コシュタバワーに乗ったデュラハンはレベル58相当だ。その最強の戦士をイリスは百騎も召喚した。
イリスの前に全デュラハンが美しい隊列を作りまるで女王に対するように一斉に敬礼した。
「レイラも」
翔がレイラに命ずる。
レイラはその場で、天に手をかざした。祈るように目を閉じる。
次の瞬間、天から光の線が降りてきた。
それは光の梯子だ。その光に沿って無数のペガサスが降ってくる。レベル55〜60の若いペガサスのようだ。その中には翔を驚かせたレベル100を超えるペガサスはいないようだ。
無数のペガサスは美しい隊列を作り天から舞い降りてきた。
「アルマ。準備はできたぞ。難民達や集めた食料を要塞に」
翔が命じた。
剛腕のリーダー、アルマ・ベストは痴呆のようそれらの光景を見るだけで直ぐには返事もできなかった。
025 了




