025ー5 ポップ、ステップ、大要塞 5
【修行履歴】
2019年11月4日
①25話を6分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
「俺もそう思ったので、ゴブリン将軍一名と、ゴブリン貴族
三名、ゴブリン騎士を数名、後は話の出来そうなゴブリン隊長を何十名か捕虜にしてある。ちなみに尋問するまでもなく奴らは『王』、『王』と、やかましく言っているのでゴブリン王でも誕生したんじゃないか。何でも一万五千の軍の何十倍もある本軍が、直ぐに来て我々を血祭りにあげるのだそうだぞ」
少年は、そう軽く答えた。
驚くべき少年の働きだ。アルマは唖然として少年のパッとしない顔を覗き込んだ。その働きも信じられないが、少年の話もにわかには信じられない内容だった。
「ゴブリン王などは奴らの御伽話だろう。かりに王が誕生したとしてもゴブリン如きは、大した事はない」
アルマが威勢良く言った。
「そんな事も無いぞ。ゴブリン将軍ですらレベル50を超えていた。見た感じでは、あんたよりも強そうだったぞ」
「小僧。私達を甘く見てもらっちゃ困るね。私は、ランクS“剛腕”のアルマ様だ。ゴブリン如きに負けてたまるか」
アルマは、力強く言ったが、明らかに強がっているのが分かる。
「俺は、高ランカーのパーティーって奴が、よく分からんのだが、聞くところによると、化物とか、ギルドの理事とか、強い奴らがいっぱいいるんだろう。ゴブリンのキングは、そいつらに任せて、この避難民を安全なところに運ぶのが先なんじゃ無いか?」
「ダメだ。ゴブリン軍は足が速い。先鋒の軍と本軍は半日も開きが無いだろう。バッシュ達が応援を呼びに行ったが、援軍が来るのは、早くても三日後になる。下手に逃げるよりもこの砦で持ちこたえた方が、生存率が高いだろう」
アルマの頭には、先程の召喚魔法により呼び出された魔物の群れが計算に入っていた。
「俺達を当てにするなよ」
翔は、アルマの考えを敏感に悟って、そう言った。
「何を言っている。国家の一大事だぞ」
アルマが叱咤した。
翔は、そのアルマの叱咤には反論せす。肩をすくめて見せた。
その時、物見櫓から見張りをしていた冒険者が叫んだ。
「森から沢山の難民が続々とやってきます。先頭の難民が堀の向こう側からこちらに手を振って入場を要請しています」
「何人いる?」
アルマが尋ねた。
「数え切れません。恐らく数千はいるでしょう」
「そんなに入りきらんし、食料なども無いぞ」
アルマは、顔をしかめて言った。
戦時中の難民ほど厄介なものは無い。弱い者は、野垂れ死ぬ。強い者は野党化する。アルマは、頭を抱えたい気分だった。
アルマは、翔の顔を見た。この少年は、何千もの難民が助けを求めていると言うのに、何も思わないのか平然としていた。
瞬く間に一万五千ものゴブリン軍を瓦解させた英雄には、とても見えなかった。
「お前が、この砦を一瞬で作ったと聞いたぞ。何とかならんか」
アルマは、詰め寄るように聞いた。
「さあな」
男の子は肯定も否定もせずに曖昧な返事をした。
その様子を見ていたメロは、アルマに近づいて来て、耳元で囁いた。
「そんなんじゃ翔は動かないよ。助けてってお願いすれば何とかなるかもしれないよ」
「なっ……。そんな事できるか」
アルマは、メロの方を見ながら言った。
「でも、翔なら何とかできるかも。アルマは、ギルドからゴブリン討伐のクエストを正式に受けたんでしょ」
メロは、もう一度言った。その目は珍しく真剣だった。
メロが言いたい事は、アルマにもよく分かった。翔には何の責任も無いのだ。他人に言われてやるような事ではない。責任あるアルマが翔を責めるのは、筋違いだ。
メロは、端正で可愛い顔を、アルマに向けてニッコリ笑った。アルマが視線を転ずると、翔以外の女の子達もアルマの方に視線を当てている事が分かった。
この得体の知れない少女達の真の実力は、不明だ。
アルマのはっきり知っている事実は、メロがダブルS級の魔物を数百も召喚するという桁違いの召喚能力に加えて、第八グレイドの魔術を使うらしいということ。
さらに、本来魔術系の戦士が最も不得意な筈の戦闘能力でさえAランク盗賊職の渾身の突きを魔法の杖ではじき返したという。
その分かっている事実だけで、メロの表面上のレベル52に比して実力は、相当に上だと言う事も明らかだ。
もし、この少女達の全てがこのメロと言う召喚師と同等の実力があるのなら、あるいはこのメンバーだけでゴブリン王と対等に渡り合えるかも知れない。
いや寧ろ、メロがリーダーではなく、このパッとしない翔と言う男の子への絶対的な信頼感からも、あるいはこの男の子の実力が、もっとも高いのかもしれないのだ。
アルマがそんな考えに浸っている間に、男の子は、アルマに背を向けて、少女達と、きゃぴきゃぴと軽い話を始めだした。
この状態なのに、こんな軽い感じで話し合っているのは、ただの馬鹿だからと言う訳でもないのだろうとアルマは、考えた。
アルマは、翔の背後に近づいて行った。
「お願いだ。助けて欲しい」
アルマは、心から願った。
翔は「助けて」という言葉に弱かった。
背後からアルマに助けを求められたのだ。翔は、振り返ってアルマに視線を当てた。
「分かった。それじゃ俺の言う通りにしろよ」
一瞬、アルマは、複雑な表情をした。安堵、後悔、憤怒、妬み、憧れ、怖れ、喜び、そんな様々の感情がいっぺんに顔に出たような顔だった。
アルマは、剛腕と言う異名を持つが、大女の豪傑と言うタイプではない。大人の魅力的な健康そうな女性であった。
しかし、S級ランカーで、レベル50を超える新進気鋭の冒険者としての自信や気迫なども備えていた。
その彼女が完全に位負けしていた。アルマは、翔の無茶な要求を拒否できずに頭を上下に振っていた。
「よし。じぁ、“剛腕”の皆と、そっちのランカー冒険者達はこっちに集まってくれ」
翔は、呼びかけた。
翔とアルマのやり取りは、皆が聞いていた。
ギルドからゴブリン討伐隊に選抜された優秀なランカー冒険者達が集まってきた。皆、癖のありそうな連中ばかりだ。
「何でテメェに指図されないとダメなんだ?」
聞こえよがしにそんな事を呟く冒険者もいた。
翔は、その発言を無視して皆が集まるのを見ていた。皆が集まるのを待って。
「俺は、付与魔法ができるし、多少の強化魔法なんかもできる。皆の武具は、見たところあまり魔法強化がされていないようだ。これから皆の武具に魔法をかけるが反対のものは挙手してそこから離れてくれ」
翔の申し出は冒険者には、大変に有難い申し出であるはずだったが、疑い深い者は必ず存在した。十人余りの冒険者が翔の申し出を拒否して挙手もぜずに皆の集団から離れて行った。
先程、聞こえよがしに文句を言っていた冒険者も、そのうちの一人だった。
翔は、別に気にかけている風でもない。
「悪いが、こんなに沢山の武具を一度に手を加えるのは初めてだ。少し雑になるが許してくれ」
翔は、そう言いながら、魔法の術式を展開して付与魔法、強化魔法、変形魔法などを掛けた。
粗雑な鉄を硬度の高い金属にし、物理・魔法の両方の防御力を高め、武器にはランダムに攻撃属性を付与して行った。
アルマを含めた冒険者達は、翔の魔法で自分達の武器や防具が魔法の武器や防具に変わってゆくのを口を開けて唖然と見ていた。
「これは、何て凄い魔法なんだ。信じられない」
集団の中にいたセキ・コーエンが興奮したように言った。
「悪いが即席の雑な魔術で申し訳ないが、これぐらいで許してくれ」
翔が謝罪したが、その謝罪ほど無意味なものは、無かっただろう。
自分達の武器や防具が強化されて喜ばない冒険者はいない。何しろ付与魔法のついた武器や防具は高価なのだ。S級ランカーの剛腕のメンバーですら、それほど大した魔法武具は、持っていなかった程だ。
ところが、翔が即席で作った魔法の武器や防具は国宝級の付与魔法が込められた魔法武具だったのだ。
ランカー冒険者達は、どんどん変化して行く自分達の武具に、悲鳴のような声を上げ始めた。
魔法が付与された武具は、光って見える。それはユグドラシルの常識だ。その輝きが強ければ強いほど魔法の効果が高い。魔法術式の魔法陣と同じだ。
翔が魔法を付与すると、彼らは、見たことがないほどに鮮やかに輝いてみえたのである。それは、あたかも伝説の武具のようにだ。
しかも翔は、惜しげも無く冒険者が身につけている全ての武具に魔法を付与していった。
さらに見た目や材質もかなり変化した。例えば革製品ならより滑らかで手触りの良い革製品にし、細部の作り込みをより高級な物にするとともに色合いを深みのある物にするというような変更だ。
金属なら、より軽い硬い金属に変更した。飾り金具は金や銀に、宝石はより大きく美しく高価なものにだ。
しかも、宝石は、魔法の優良な触媒にもなる。素早く、宝石に、属性を付与していった。
ユグドラシル世界では、魔法の武具は希少品で市場に出回っているものは、粗悪品しかない。付与魔法士の名前が付いたような、真正の魔法アイテムは、セレブや貴族しか持てないほど高価なのだ。
冒険者達は、自分が愛用してきた武具が見たことがないような高級な魔法の武具に変えられてゆく事に驚愕した。
「この中で、特にオーダーがあるなら言ってくれ」
翔が聞いた。
「すまん。こんなに良くしてくれて有り難いんだが料金は払えないが」
冒険者の中から誰かが言った。
「ああ。それは、これからゴブリン王との戦いで様々な局面で君らに課せられるワークへの報酬と考えて欲しい。命がけのワークにしては、対価が低いと思うかもしれないが許して欲しい。他に何かオーダーは、無いか」
「すまん。私は、この武器は前々からもう少し長くできないかと思っていた。しかし強度も重さにも無理があるとな。しかし、今試しに振ってみてこの強度があって軽くできるならもう少し長くしてもらえたら有難い」
そう願い出たのはアルマだった。
「何センチぐらいだ?」
「できれば五十センチぐらい長くできないか?」
答えの代わりに翔は直ぐに、言われた通りの長さにアルマの剣を長くした。
「おお。これだ! レベルが五つほども上がった気がするぞ。感謝する」
アルマが叫んだ。
アルマの様子を見ていた冒険者達が、口々にオーダーを叫びだした。喧しくって仕方がない。
「分かった。一人ずつ聞いてやろう。ここに早い者順で並べ!」
翔がそう言うと、冒険者達は我先に翔の前に長い列を作った。列の中には、先程、武具を変えられるのが嫌だと言った者達や難民として入場してきた者達も混じっている。
「翔。大丈夫か」
その様子を見ていたアメリアが聞いてきた。
「ああ。人をうまく使うのは気前の良さも大切だからな。人手は多いほうが良い」
翔の前の行列も、瞬く間に短くなり直ぐに、全ての者が個別にアレンジした魔法武具を作ってもらい、彼らの興奮は、天井知らずだった。
「もし、ここで逃げたい者がいるなら先に逃げ出してくれ。やる気のない者は、寧ろ邪魔だ。申し出てくれ」
最後に翔が聞いた。
数組のパーティーが前に出た。
「無理を言って済まなかった。或いは、ここから逃げるのも危険が無い訳では無い。その魔法の武具は餞別として受け取ってくれ」
翔は、そう言ってそれらの冒険者を去らせた。
「もういないか? 勇気ある撤退は恥ではないぞ。命がけで戦う事に生き甲斐を感じるものだけが付いてきてくれ」
その翔の言葉でさらに数組のパーティーが去って行ったが、翔は止めようとはしなかった。
残った冒険者達は約百名ほどだった。
「これから皆には、様々な任務を言うので聞いてくれ……」
翔は、アルマ達“剛腕”メンバーを頂点とする階級制を取り入れた組織を瞬く間に作り上げた。
彼らには、捉えたゴブリン達の尋問、難民達の救護、食料調達などのワークを依頼した。
次に外の難民達の受け入れだ。
「どうするつもりだ?」
剛腕アルマが尋ねた。
「ここよりも規模の大きな砦を作るしかない。アルマ。あんたは、この近くに天然の要害になりそうな場所を知らないか?」
「草原か森林しか無かったな」
アルマは、答えた。
「分かった。じゃあゼロから作るか」
翔は、ため息を付きながら言った。
────あまり大きな魔法は使いたく無かったが……
翔は、頭を抱えたい思いだ。
────しかし、これだけの人がいる所では、レリエルも現れないだろう。
「アルマ。実は、お願いがある」
翔は、アルマを人気の無いところに連れていって、声を低めて話した。
「何だ? 私の体が欲しいのか?」
アルマが怪訝な表情で尋ねた。
一瞬、翔は、たじろいだ。
「ははは。初めて狼狽えたところを見たな」
アルマは、楽しそうに言った。
翔は、自分達があまり目立ちたくない理由をアルマに話した。自分とレリエルとの確執やメロの義理の母カロンと壊滅党の暗殺者集団《音無》との事件や、アメリアと貴族による奴隷紋の事などなどをアルマに説明した。
「そう言うわけで俺達は、あまり目立ちたく無いんだ」
「それは分かった。それでお前達ほどの者達があまり知られていないんだな。ちなみに私は、お前達が、“賢人会”だと思ったが間違いか?」
「ああそうだ」
「やはりな。最近“不死身の賢人”というパーティーが、復活都市に現れたとの噂が有ったが、お前達の事だな。数え切れない程復活しても諦めずに、過酷な古代のクエストに挑戦していると聞いた」
「まぁ、今の所、その情報は、世界樹ネットの情報にアクセスされたら隠しようが無い。しかし、あまり宣伝して回る事も無いのでな」
翔は、そう答えた。
「それで、頼みとは?」
改めて、アルマは、尋ねた。
「ああ。俺達を“剛腕”の一時的なメンバーにして欲してくれないか?」
「何だと?」
アルマは、驚いて叫び声を上げた。
「調べたら、パーティーメンバーにも正メンバーと補助メンバーと言うものがあるらしいな。俺達はもちろん補助メンバーでいい。しかし、もちろん、正式のメンバーに入れて欲しい。できたらギルドへ事後的な登録もして欲しい、ここでも、周りの皆に俺達をメンバーとして紹介して欲しいのさ」
「“剛腕”のメンバーとなったとしたら、なぜ目立たないって言えるんだ?」
アルマは、疑わしそうに問いただした。
「もし、無名のパーティーが大きな成果をあげたらとしたら、皆強く記憶に残し、それが誰か、確かめたくなるだろう。しかし、有名なパーティーが大きな仕事を成し遂げたとしても、それほど目立たないもんさ。少なくとも有名パーティーの補助メンバーなんかに、気を配る奴は、皆無だろう。目立つのはリーダーと正メンバーだけだ」
「まぁそうだろうが、それで良いのか? 冒険者なんてのは、名声でメシを食ってるって言ってもおかしく無い。目立ってこそって、もんだろう」
「ああ。もう少し強くなったら幾らでも目立つさ。今回のゴブリン騒動は、全て“剛腕“とここにいるクエストを受領した者達の成果としてギルドに登録してくれ。報酬も俺達は不要だ。俺達はその後に正式に“剛腕”から外してくれて結構だ。しかし、できたらしばらく“剛腕”のメンバーとしていてくれたら有難いね。
調べたら、二つ以上のパーティーに所属した場合、上位のパーティーが正式パーティー名になるようだから有名な“剛腕”のメンバーと言う事で行動できたら目立たなくって有難い」
それから、翔は夢燦河のグアリテーロが所持しているというレベルを詐称すると言うアイテムを探している事やそれが見つかったら隠れてレベル上げに専念する事などを説明し、アルマ達に迷惑をかけない事を約束した。
「それは私達“剛腕”にもいい話かもな」
アルマは最後にはそう答えた。
その直後に翔達は、“剛腕”のサブメンバーと皆に紹介された。それだけで、皆は大きな安堵感を持ったようだった。得体の知れないメンバーが実は“剛腕”のサブメンバーで隠密任務に付いていたと説明したのだ。
その説明は皆を納得させ納得すると皆は安堵したのだった。有名である事に大きなメリットがあることが改めてアルマは理解した。
翔はレリエルのために大きな損失を被っているわけだ。本当にレリエルを倒せるレベルになったらあの天使に思う存分エッチな事をして懲らしめてやるぞと黒い気持ちがもり上がってきて翔の頬にいやらしい笑みがこぼれる。
すかさず、メロが翔の腕をつねった事は言うまでも無い。




