022ー2 サクサク行くぞ!
【修正履歴】
2019年10月22日
○第22話を3分割しました。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考。
なお、この変更は、順次行っています。
表記がしばらく混在しているので、お許しください。
【スタバンゲル街道】
翔達は、復活障害を克服して、スタバンゲル街道を進んでいた。
「こいつは早くて良いが、街道のお騒がせ屋だな」
翔がそう言ったのは、翔達が乗馬として起用した、首無しの馬、コシュタバワーの蹄の音の事だった。
コシュタバワーは、 レベル50近くもある、伝説的な魔物の騎士、デュラハンの愛馬だ。
巨大なデュラハンを騎乗させて、爆走する重武装騎馬で、弱い魔物は体当たりで消滅させるほどの威力があるという。
コシュタバワーの蹄の音は、はるか数キロ先まで響き渡り雷鳴のように轟いた。
その蹄の音を聞いた者は、デュラハンから姿を隠すために、直ぐに家に入らないとダメだと言われていた。
もしデュラハンの姿を見た者は、血を浴びせられ数日以内に必ず死ぬと言うのが伝説だ。
その伝説的なデュラハンの騎馬コシュタバワーを四頭も連ねて走るのは、壮観の一言だった。
☆
翔は進行方向から、騎馬の一団が走って来るのが見えた。
翔は『遠視』の魔法で、その騎馬の一行がイレーネ・ハウザー達のパーティだと知った。
「イレーネ達のようだ」
翔は、そう言いながらコシュタバワーを街道の隅に寄せて止めた。
イレーネ達の先頭の隊長ガーハード・オレクが黙礼しつつ通り過ぎようとして、コシュタバワーを見てギョッとしている。
その次が、いけ好かない貴族様のフリンツ・フェステン子爵、エステランド公爵の公子様だ。フリンツは、翔達には一切視線さえ向けずに無視を通した。
次々に騎馬が通り過ぎて、彼等はコシュタバワーに好奇の視線を向けて行った。
イレーネは、翔の顔をみて少しはっとしてから、慌てて黙礼して道を開けくれた事に礼をしつつ、そのまま通り過ぎて行った。
『イレーネ・ハウザー。17歳。騎士。サブ職業魔法剣士。レベル30。クラン名“F旅団”。ランクC。パーティ名“Fとお供”』
「翔。イレーネ凄いね。レベル30だったよ」
メロが手放しで喜んでいだ。
「しかし、それほど強そうに見えん奴らだな。そろそろ上級だろうに。まぁ、俺達も少しは強くなったということか」
翔がポツリと呟いた。
☆
一方、翔達を通り越したイレーネは、翔達から、不思議な気迫のようなものを感じて、何か釈然としない気分を払拭できないでいた。
そんなイレーネの耳に、彼女の前を走る召喚士のリディア・シュトローメンと聖騎士のレーベン・マーズの会話が入って来た。
「驚いたわね。あの乗馬は、きっとコシュタバワーに違い無いわ」
そう言ったのは召喚士のリディアだった。
「あの首無しの馬の事か? あれは凄い迫力だったな」
聖騎士のレーベンが答えた。
「あの子達が乗っていた首無し馬は、きっと伝説の騎士デュラハンの騎馬コシュタバワーよ」
召喚士ディリアが答えた。
「デュラハンって首を小脇に抱えて闘うというあの魔物の事か? 皇帝ベルゼブブの首無し八万騎の事だよな。とんでもなく強いんだよな」
レーベン・マーズが聞き返えした。
「デュラハンはレベル50超えの大精霊よ。コシュタバワーは、そのデュラハンの乗馬。アハイシュケのような魔獣とは訳が違うわよ」
「そんな奴を使役するのは、凄い事なんじゃ無いのか?」
「信じられないわ。あの馬はデュラハン無しでもレベル35には、なるんじゃ無いかしら。私には、あの魔獣を召喚する事なんて一生出来そうも無いわ」
リディアのため息混じりの声がイレーネの胸に突き刺さった。
今では、リディアは王国召喚士として招聘されるほどの押しも押されもせぬ大召喚士だ。
────リディアがそこまで驚くなんて……
イレーネは不安になってリディアの背中を見た。
魔獣アハイシュケを召喚したときにも驚かされが今のリディアの口調はさらに異常性を感じているようだと思った。
「俺には、魔獣の召喚の事は分からんが、少なくとも彼等の雰囲気はレベル相当じゃないな。俺の勘は、彼等とはやり合うなって言ってるね」
「そうなの? 私は非戦闘員だからよく分からないけど、強いオーラを感じるわね」
「そうなんだ。彼等はレベル25、6って感じじゃ無いんだよな。どう見ても俺達よりも高レベル者のオーラが感じられるんだよ。闘気はそう簡単に身につくもんじゃないはずだし、あの魔獣のせいなんだろうか」
聖騎士のレーベンが、首をひねりながら言った。不思議でなら無いようだ。
しかし、イレーネも同感だった。高レベル冒険者のみが纏うという闘気。それは冒険者の憧れでもある。魔力の消費なしに、魔物を打ち払う破魔の力を持ち、物理的な障壁となって身を守る。
闘気の事は、スタバンゲル街道、ベンゲル山脈をクリアし、次のストルバーゲン迷宮のガイドブックを入手して、彼等でも初めて闘気の事を簡潔に言及されているガイドブックを入手したに過ぎなかった。
迷宮を終えて『巨人の都メルダル』(巨人の都を真似て作られた、人の都市だが)を抜け、更にその先にある、迷宮アスケー大迷宮を攻略する頃には闘気の真髄を会得する事ができる。
それは、冒険者達の憧れのパーティー“大鷲”のメンバーから直接教わった貴重な情報だった。
まさか、レベル25程度でそんな伝説的な力を身に付けた訳もないだろう、とイレーネは、自分の考えを打ち消して馬を走らせた。後ろを振り返ったが翔達の姿は無かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【金剛迷宮】
「翔。今回は、サクサクと進めるね」
メロは、はしゃいだ声で言った。
迷宮に入ってから一度も死んでいなかった。
「レイラから『金剛迷宮の手引き』を貰ったからな。こいつは本当に素晴らしい本だ」
翔は、答えた。
「翔。前方にレベル32、中級悪魔十三体」
メロが警告した。
その警告と同時に翔達は、闘気を全開にした。
翔は、『金剛迷宮の手引き』をしまうと、金棒を取り出だした。そして金棒に闘気を注ぎ込んだ。
直ぐに中級悪魔達が姿を現した。
魔物達は、蝙蝠のような羽を生やし、肌もテカテカして爬虫類のようだ。体長は三メートルを超すだろう。魔物の中では、それほど大きくは無いが、それでも十分脅威に満ちているように見えた。
メロは、海精に命じて彼等の足元を沼に変えた。中級悪魔達は一瞬恐慌に陥った。
アメリアは、素早く飛び上がり、細剣を振り回しながら中級悪魔達を攻撃した。
目にも止まらぬ早さで、飛び回り中級悪魔達を切り刻んだ。
それに少し遅れ、イリスは黒い剣を手から引き出すと、先頭の中級悪魔に斬撃を浴びせかけた。
その時、翔の範囲魔法『幻覚』が発動した。魔法術式が幾何学模様を形作った魔法陣が、翔の突き出した手から何重にも飛び出して美しい花のように開いた。
『幻覚』は、精神系の第三グレイドの魔法だ。範囲魔法であり、範囲内の敵全体に物理力を伴う幻覚攻撃を浴びせる魔法だ。なかなか高度な魔法だった。
更に範囲魔法『電撃』を重ねがけした。術式展開された魔法陣が中級悪魔達の上に展開した。
「アメリア、イリス、下がれ!」
翔の指示に従って、前衛の二人が下がった。
二人が範囲魔法の圏外に出た瞬間、翔はトリガーを引いた。『幻覚』の魔法により幻覚と闘っている中級悪魔達に電撃が降り注いだ。
その時、メロが『爆発』の魔法を発動、中級悪魔の中心に巨大な爆発が発生した。
ここで中級悪魔五体が倒れた。アメリアとイリスが二度目の攻撃に入った。
翔は、二人の武器や防具に創造魔法で攻撃力強化の魔法を重ねがけしつつ、自分たちに魔法障壁をかけた。
魔法障壁が現れた瞬間に、翔達の頭上に範囲魔法の魔法陣が複数展開された。中級悪魔の魔法陣だ。
翔は次々に中級悪魔の魔法陣に干渉し魔法を無効化する。第二グレイドの魔法は無視した。
中級悪魔の第三グレイドの魔法は全てキャンセルされ、第二グレイドの魔法だけが発動された。
炎、稲妻、鋭い氷柱が翔達を襲ったが、魔法障壁がそれらの魔法を悉く粉砕した。
その間にもアメリアとイリスは、中級悪魔に攻撃をかけていた。
アメリアは、目にも止まらぬ早い攻撃を何度も中級悪魔達に浴びせ、その間に、イリスも、黒剣を極大化して横に薙ぎはらった。
中級悪魔達は、それで全滅した。
「翔。レベルが28になったわ」
イリスが理知的な瞳をキラキラさせてサラリと言った。レベルアップした者の高揚感などは全く感じていないかのような、冷たい言い方だった。
「やったな」
翔は、一番遅れてレベルアップしたイリスにエールを送った。
魔王候補として本来の素質は相当高いが、生まれたばかりと言うハンデがあるのだろう。しかし理性的なイリスは淡々と状況を受け入れている様子だった。
この理知的なイリスに、狂気の本質がある事を翔は承知している。それは魔王候補の素質でもあるようだ。その狂気が彼女にとってどのように影響するのかは全く未知数だ。
翔は、中級悪魔の死骸を魔核と素材に分解した。中級悪魔からは『悪魔の皮』が取れた。
「翔。最近また素材を集めているようだな。急にどうしたのだ?」
アメリアが翔の精製の様子に興味を示した。
「ああ。折角取れるもんを無駄にする必要も無いからな。素材と俺の創造魔法で何かできないか試そうと思ってな」
翔は、考えている事を説明した。
「お前は、魔法の事に関しては飽くなき探究心を発揮して尊敬すべきマホオタぶりだな。最近のお前の魔術師としての腕は恐ろしい程なのに、まだ研究するのか? メロの様に突飛な伝説魔法を追求しているわけでも無さそうだが」
アメリアは、半分呆れて言った。
「マホオタはメロだろうに。あいつの魔法袋には愚にもつかぬ伝説魔法の魔法書が腐るほど入っているぞ」
翔が言った。
「確かにそうだな」
アメリアは、そう言うと、豊かな胸を揺らしながら笑った。なかなかの壮観さに、翔は、思わず涎が流れ出しそうな顔になった。
「エッチ翔」
メロが警告を発した。
翔は慌てて首をすくめ、アメリアの豊かな胸から視線を外した。メロの警告を無視していると電撃が飛んでくるからだ。
メロの見事な電撃は流石の翔も避けるのが一苦労だ。メロも最近腕を上げた。
────こいつは本物の天才だ。
翔は、振り返って端正なメロの顔を見ながら思った。
魔法の発動に伴う察知能力は翔とメロでは同じぐらいだろう。メロはフェイクが上手だ。もちろん翔に下手に魔法をかけても直ぐに対処されてしまうので最近では相当複雑なフェイクを多重にかけて魔法を発動しているようだ。
うっかりしていると、闘気を突き破る程、過激な電気系の攻撃が炸裂してくるのだ。
翔は、メロの発動した魔法術式の展開を押さえ込んでニヤリとほくそ笑んだ。
しかしそれは、フェイクだった様だ。逆の方向から電撃が翔を襲うのを闘気を調整して受け止めた。酷い電撃のショックが翔を襲い、翔が悲鳴をあげた。
メロが「よろしい」と言って満足そうに鼻をヒクヒクさせているのを、翔は恨めしそうに見た。
アメリアが胸の下に手を回して腕を組んで胸をそらした。翔はその胸につられそうになる視線を、グッと堪えた。
その仕草は、翔の視線を誘う為に、態とした仕草だった。
「おい。俺をはめるのはやめろ」
翔は、アメリアの頭に軽くチョップを入れる真似をしてから、彼は、アメリアに背を向けた。
見るとメロが胸を強調する様に両手で胸を寄せている。
翔は、わざとらしくメロの胸に視線を落とすと何かを探すふりをする。
メロがぷくりと頬を膨らますと翔の首に捕まってきて首筋に齧りついてきた。
翔の本気の悲鳴が木霊した。




