022ー1 シスターサラ
【修正履歴】
2019年10月22日
○第22話を3分割しました。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考) → ────主人公等の思考。
2019年10月26日
少し内容を訂正しました。
【水晶迷宮ラストトライ。第百層】
翔達は、ラスボスを倒し遂に十度目の魔精結晶を入手した。
「この迷宮はサギみたいな迷宮だな」
翔は、ボヤいた。
「どういう事?」
「俺達が強くなればその分魔物のレベルが上がると言うのはどういう意味だ。おかげで復活障害のせいでステータスばかり上がってレベルが一向に上がらないじゃ無いか」
翔は、ようやくレベル25になったところだ。しかし出てくる魔物達は最近では、レベル30を超えるのが普通で中には40近い魔物まで出だした。
さっきもレベル38のゾンビギドラがゾロゾロ出てきた。ゾンビ系は炎に弱いので、何とかなったがまたまた復活の危機だった。
「俺はくじけそうだ」
その場にへたり込んで翔はボヤいた。
「お前達みたいに目的のない俺は、絶対に不利だ。特にイリスみたいな崇高な目的なんかねぇからな」
「翔は、バカ正直ね」
イリスがクスリと笑いながら長い髪をかき上げた。理知的な瞳がキラリと光り少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あんなのは、筋肉女神と能天気女神を引き込む為の方便よ」
「はん?」
翔が疲れた視線をイリスに向けた。
「お前がどんな目的を持っていようが俺はどちらでもいいけどな。しかし、ご大層な理想とか復讐とかそんな重たいもんが無いのなら、良く俺みたいにヘナヘナにならないな? 何か考えているのか」
「私は、私みたいな出来損ないを創ったこの世界に復讐してやる……」
いきなりイリスの声が深く淀んだ。翔は、ギョッとしてイリスの方を見た。
イリスの白目に血管が浮き出ている。
「怖いって!」
翔は、慌てて立ち上がると、イリスの両肩に手を置いて揺さぶりながら言った。
はっと我に返ったイリスが翔に真剣な眼差しを向けた。
「今、私。何か言った?」
「ああ。物騒な事を口走ってたぞ。下手な事を言うと粛清されちまうぞ。お前のその真っ赤ギラギラ目は何とかならないのか?」
翔が呆れた顔をしながら言った。
「ごめんなさい。恨みや妬みのような負の感情が激しくならなければ大丈夫よ」
イリスは、頭を振って言った。
「お前のような理知的な女の子がくだらない恨みで、我を忘れるなんて勿体ないからやめた方が良いぞ」
翔が、珍しく説教するように言った。
イリスは、黙って頷いていた。
「どうしたんだ?」
アメリアが二人の様子がおかしい事に気付いたのかやって来た。
「イリス。翔にまた触られていたのか?」
「そうよ。アメリア姉からも少し叱っておいて」
イリスはそう言うと、翔から飛んで逃げるようにして、アメリアの腕に両手で捕まりに行った。
「そうか。よしよし」
アメリアは、イリスの頭をナデナデしながら言った。しかし、翔には何も言わなかった。
翔は、イリスをアメリアに任せて彼の横で寝息を立てているメロの方を見た。
少し幼い端正な顔が翔の方に向いて、とても可愛い。少し唇を開いて、白い歯の向こうに可愛い舌が顔を覗かせている。
翔は、ソッと手を伸ばしてメロの頬を撫でた。メロは薄目を開けると翔に少し笑顔を見せたが、そのまま目を閉じた。
最後のボス戦で相当疲弊したのだ。小さな体で本当に頑張っていた。
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【水晶迷宮をクリアして、三度目の試練の間にて】
水晶迷宮をクリアして『試練の間』に入るとレイラが笑顔で待っていた。
「皆さん。お疲れ様。『水晶迷宮』クリアおめでとう。イリスも、良く頑張ったわね」
レイラは、四人に走り寄りって勢い良く言った。
「レイラ。貴方との剣の試合は本当に役立ちました。ありがとう」
イリスも、礼を言った。
「今度は金剛迷宮ですね。皆さんが本格的な迷宮を、どのように攻略されるのか興味が尽きません」
「今度は五百層だからな。水晶迷宮のようにやっていたら、いつまで経ってもクリアできないものな」
「では、『試練の間』から始めましょう」
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【天界。ブリュンヒルデの神殿にて】
「ブリュンヒルデ様。彼等は本当に強くなりました。強さとレベルが完全に一致しないのだとは理解していましたが……」
レイラが言った。
レベル50を超えるレイラとレベル25の翔達では、所詮レベルが違うので勝負になどならないはずだが、明らかに翔達は強くなった。
「レイラ。彼等の後見役は飽きたか」
ブリュンヒルデが尋ねた。
「逆です。彼等の成長は驚異的です。ガイドもない水晶迷宮の冒険で、あれだけの成果を上げた彼等は、金剛迷宮では、随分とレベルをあげるでしょう。このままでは追い抜かれるのは時間の問題です」
レイラは、真剣な面持ちで言った。
一瞬、ブリュンヒルデは、微かに笑みを浮かべたがレイラの真剣な視線を受けると、彼女は笑みを消して真剣な表情になった。
「レイラ。お前の言う通りだろうな。彼等は、金剛迷宮の三十周のなかの十周目辺りでお前を倒す程度の実力をつけるだろう。なんのガイドも無しに闘気を身につけるような才能は見た事がない。驚くばかりだ。半身英雄のニドベリルは水晶広場の全ての魔物を倒した彼等を見た時に、鳥肌が立ったと言っていたぞ」
「本当に。出会う全ての魔物を退治して迷宮をクリアしようなどと誰が考えるでしょうか」
レイラもため息混じりに言った。
「私の設計では迷宮の恐ろしさを知った冒険者が『脱出』を唱えたらその段階で、水晶迷宮はクリアとなるのだがな。まさか魔人を連れてきて、最後までクリアさせる事になるとは思っても見なかった。しかも彼等は我々の想像を超えて、出会う魔物を全て完全に退治しなければならいと勘違いしたのは幸か不幸か。彼等は、あまりにも異常だ」
ブリュンヒルデは、笑いながら言った。
「しかし、そのせいもあって彼等の今の実力は恐るべきものが有ります。本当に私も追い越されるのではないかと心配しています」
「そうだな。今の感じでは、彼等は金剛迷宮でレベル40ぐらいには、なるだろうが実力は、今のお前を完全に超えるだろうな」
「ブリュンヒルデ様の見立てでは、そんなに早く……」
レイラはそう言うと唇を噛んだ。
「そうだ。今のままではな。しかし、あの少年は、とても特殊だ。レリエルが介在した特殊な転生が原因だと、分かってはいるが、それにしても、あまりにも魔術師としての才能が傑出し過ぎている。我々の知らない何かが有るのだろうな」
ブリュンヒルデは、視線を宙に浮かせながら言った。
「それでは、私は、どれ程努力しても結局あの少年に負けると?」
「勝負は、やってみないと分からないが、今の成長を見ていると、あの少年に限らず、彼等の成長は計り知れないな」
「ブリュンヒルデ様。私に、もっと厳しく修行を付けてくださいませんか?」
レイラが改まった口調で言った。
一瞬、ブリュンヒルデの顔に笑みが広がりそうになるのを彼女は堪えて
「いい心がけだ。それでレイラは、彼等と競うつもりなのか? 彼等は本当に特殊だぞ。厳しい修行になる」
ブリュンヒルデが尋ねた。
「私達が真剣に研鑽しても……それ程、彼等は、凄いのですか?」
レイラは、ブリュンヒルデに真剣な眼差しを向けた。
「お前は、そう思うからこんな話をしにきたのではないのか? この数百年、レベルアップ・トライアル・ルートは、誰も挑戦すらしなかった。それは挑戦条件のハードルを上げたためだが、彼等は、そのハードルを物ともせずに挑戦してきた初のチャレンジャーだ。
それだけでも普通とは違う。しかし彼等は、我々の想像を超えて、はるかに特殊だった。レイラ。お前もそう思っているんじゃないのか?」
ブリュンヒルデは、レイラの瞳に強い視線を向けながら尋ねた。
レイラはブリュンヒルデのその問いには直接答えなかった。
ブリュンヒルデは、それ以上問いただしはしなかったが、戦女神として思うところがあるのは、その目の色を見ていて明らかだった。厳しい修行が始まりそうであった。
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【復活の天宮】
シスターサラは、天文官から復活の星が大きく動いたとの知らせを受け取ると、慌てて復活の広間に走って行った。誰が復活するかまでは分からない。
しかし、癖のようになった男の子の服と、女の子の服を何枚か束にして担いで走った。
彼女の後を二人の見習いシスターが付いてきた。
サラは、彼女達が荷物を自分達に持たせてくれと叫んでいるのにも気付かず必死で走っていた。
脳裏には疲弊した少年の顔があった。その少年は、辛い復活の障害など物ともせずに、連れの女の子達の安否ばかりを気にする。その優しさがサラには眩しかった。
その少年は、サラにまで気遣いしてくれて、冗談で笑わせてくれる。そんな男の子だった。
自分では、悪ぶって減らず口をきくがそれは表面だけで、心根は優しく、真面目で、努力家。メンバーの女の子の庇護者として、あらゆるマネージメントをソツなくこなす。そんな男の子だった。
いつも、復活障害のために、フラフラの癖に、女の子達の裸を覗こうとして失敗している。そんなお茶目な姿も可愛い。女の子達は共闘して、男の子が裸を覗けないように、うまく連携していた。
サラもその連携に参加させてもらっている。今、走っているのもその連携のためだった。
女の子達から、復活したら男の子が意識を回復するまでに服を着せて欲しいと頼まれているのだ。
こんなゲームを楽しんでいるような、ふざけた彼等の行動だが実に驚くべき事に、彼等の何度もの復活のおかげで、復活障害のいろいろな原因や結果を突き止めつつあるのだ。
彼等の実情や話から、復活障害は、簡単に死ねば死ぬほど障害が重く、頑張れば頑張るほど軽くなる事や、復活によるメリットなどを大きく浮き彫りにしつつあるのだ。
冒険者ギルドは、彼等の復活のたびにステータスの状況を詳細に研究し、復活とステータスとの関係性に強い興味を持つようになっていた。
彼等の情報から、最近はレベルアップの壁がどのような形で起きるのかについて『レベルアップによるステータスの底上げされる恩恵限界説』という難しい説が有力視されるようになったらしい。
レベルアップすると、ステータスが上がる。これはレベルアップによる神々の恩恵と言われている。
つまり実力よりもレベルアップの恩恵によりステータスの底上げがされている訳だ。その総合値の限界がどうやらレベル15程度のステータスの上昇なのだと言う。レベル20前後からレベルアップが止まるのは、その為だと言う説らしい。
難しい話はサラにもよく分からないが、簡単にレベルアップを狙う最近の冒険者の風潮に、警鐘を鳴らす説で、俄かに新人冒険者の育成計画の見直しが迫られているのだそうだ。
冒険者ギルドの研究サイドから、最近では復活の天宮サイドに彼等のステータス情報を開示して欲しいと、強く要請してきていた。
サラ達は、最大の援助者の冒険者ギルドからの要請をむげにもできずに、ステータスの概要を開示している。もちろん個人情報の保護の観点から概要しか開示していない。
情報を開示している事は、男の子達には説明していた。それでもサラはいい気分ではなかった。
しかし、そのおかげでギルドの研究機関から、情報がフィードバックしてくる事もある。例えば、『男の子達の最近のレベルは25前後を安定して上下しているが、ステータスレベルは38程度の高さがあり明らかにステータスが先行している』などの情報だ。
そのような現況の情報を、男の子に説明すると男の子は、興味なさそうに笑っているだけだったが。
☆
シスターサラは、復活の天宮に走り込むのと、彼等が復活するのとが、ほとんど同時だった。慌てて男の子と女の子の間に割って入り、女の子達に毛布と服を渡した。
「やぁ。シスターサラ」
後ろから翔の声がした。シスターサラが振り返ると馴染みの男の子の顔があった。しかし、少しいつもと違う人のような雰囲気があった。
何だろうとサラは一瞬、訝しんだが、直ぐに気のせいだと思って、彼女の方に伸びてきた少年の手を避け……。避けずにそのまま受け入れていた。
少年は、爽やかに笑って、サラの柔らかい肩をそっとさすって感触を楽しんでいた。
「いつも迷惑かけるな」
「翔。サラの肩から手を離しなさい」
メロは、スっとサラと翔の間に割って入りながら、翔を叱りつけた。パシッと翔の手のひらを叩き落とした。
男の子は、その時になって初めて自分の手がサラの肩に乗っていた事に気づいたように、驚いて手を引っ込めていた。
「翔は、見境無しに誰にでも触れ過ぎだ」
アメリアも翔を叱りつけた。
「いや。悪かった。シスターサラがあんまり可愛かったからつい」
翔は頭をかきかき謝った。
そして、シスターサラは、いつもと変わらない彼等の様子に安堵したのだった。




