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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第一章 レベルアップ編

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003 うへ! 呪われてる!

 転生直後、最初に翔の目に入って来たのは、金髪に青い瞳の美しい女の子だった。


挿絵(By みてみん)


「復活おめでとうございます。あなたは一度死なれましたが、めでたく復活されました。おめでとうございます。私はシスターサラ。貴方のお世話係です」


 可愛い声だが顔が近かった。


「おい。顔が近いぞ。俺の顔がそんなに素敵か?」


 こんな感じの可愛い顔の女の子は自信があるからか割とこんな大胆な事をしでかしてくる者がいた。


 一瞬、シスターサラと名乗った女の子は不思議そうに目をしばたいて「ふふふ」とお腹を抱えるようにして笑い始めた。


 今度は、シスターサラの態度に翔が不思議な物を見るような気分になった。


 エス級スーパーイケメンの翔を前にしてこんな態度を取った女の子はこれまで果たしてどれだけいただろうか。シスターサラの態度は翔にはとても新鮮に写った。


────アリス! この女の子は大丈夫か?


 翔は、分からない事が有ったら何でも聞けとばかりに『転生車輪』が言っていたのを思い出しアリスに聞いていた。


《翔様。この娘さんは翔様の今の発言がジョークだと判断したものと思われます》


────ジョーク? なぜだ?


 翔が不思議そうに尋ねた。


《ぎゅー……》


 この時、アリスが変な声を上げた。後にも先にも、これほど狼狽えたアリスは無かった。


《翔様に、転生に関して重大な説明不足があった事が判明しました。レリエル様は転生後の翔様の容姿を大変、、、酷く、、、そして無残に、おとしめられてしまったようです》


 神器『転生車輪』の分身であるアリスのこの慌てように、翔は冷や汗がでた。


────な、なんだと。どんな容姿だ?


 驚いて翔が尋ねる。二目と見られぬ恐ろしい顔になっていたらどうしようと恐怖がよぎる。


《シスターの瞳に映る翔様のお姿を元にシスターから見た翔様の容姿を投影します》


 アリスのその言葉の直後に翔の頭の中に普通の男の子が映し出された。


────これが俺か?


《申し訳ありません。さすがにレリエル様のこの行動は、予測していませんでしたので予防策を取っていませんでした》

《よほど翔様の言葉を恨んでいたのでしょう。しかし実際に容姿を変えられたのではなく、レリエル様の呪いによりその様に見えるようになってしまったようです。まさかここまでするなんて呆れます》

《ですが、呪いの効果には、限界があります、翔様がレリエル様よりも強くなれば、効果は持続できなくなります。それまで悲観されず、頑張りましょう。私も可能な限りサポートさせて頂きます》


────呪いだと。それで魔法防御が効かなかったのか。


 翔は、それを聞いてようやく納得した。


────しかし天使が、呪いとは。レリエルも面白い奴だ。俺も一度はこんな何でも無さそうな奴に成りたいと思ってたんだよ。思ったよりましな顔だし問題ないぞ。


 そう翔は言うと。「ははは」と声を上げて笑い出した。


 突然。声を上げて、笑い出した翔を見たシスターサラは少し驚いた。心配そうな顔になって翔の顔を覗き込んだ。


 翔は自分の行動が変に見えた事に気付いて、慌てて笑いをやめて咳払いををして誤魔化した。


────今後は、気をつけて話さないとだめだなアリス。


 翔が、改めて心の中でアリスに語りかけた。


《翔様。普通の復活では、復活障害が出て歩くのも辛い状態になります。ですのでシスターサラは少し驚いているのでしょう。少し辛そうに装ってください。それとシスターサラに何らかの言い訳をした方がよろしいです》


 アリスが助言した。


 そこで、翔は、端的に自分の状態を説明する事にした。


「シスターサラ。俺はこんな見た目の癖にスーパーイケメンの上に天才魔術師で更に大金持ちだと心底信じている。さぞ変な奴に見えたろう。済まないな」


 翔は、言い訳のつもりで説明した。しかし、こんな翔の説明ではさらなる誤解を生むしか無い。


「ふふふ。本当におかしな方ですね。復活そうそう、そんなにおかしな冗談ばかり仰る方は初めてですよ」


 シスターサラがそう言って笑った。彼女は、翔の話をジョークと捉えたのだ。


────なるほど。これもジョークに聞こえるわけだな。何から何までこれからの人生は全く違うように進むんだろうな。これはこれで愉快なことになりそうだ。


 翔は、そう考えながら、堪えていた笑いがこみ上げてくるのを抑えられなかった。


 二人は、違う意味で互いにしばらく声を上げて笑っていた。



☆☆☆



 転生の後、シスターサラの世話を受けながら翔は、十日間ほどを『復活の天宮』で過ごした。


 その間に翔は、ありとあらゆる魔法を試したが全く使う事ができなかった。


 もともと前世ではあらゆる魔術に精通し天才の名を欲しいままにしていた翔だ。歩いていた人が突然歩けなくなるようなそんな感覚だった。


 愚かとは言え、第七級の権天使アルヒャイ。凄い能力者なのだ。右も左もわからない世界で財産・美貌・才能の全てを奪われた訳だ。


 残ったのは前世の記憶のみ。最悪の状況だった。


 普通なら不安になって当たり前なのだが翔は天性の楽天家で見かけによらずタフな性格をしていた。彼のモットーは『人生は、楽しまなきゃ損だ』と『まぁ何とかなる』の二つなのだ。


────アリス。これからどうすれば良い?


《とにかく、ここから出る事をお勧めします。翔様がここに転生された事はレリエル様もご存知です。ここにいると翔様の事をレリエル様が見に来るかもしれません。もし、翔様の記憶が無くなっていないと知られれば危険です》


 アリスのこの勧めを受けて翔は彼の世話係のシスターサラに自活をしたいと相談することにした。


 そうするとシスターサラは普通の復活では日常生活が出来るようになるまで相当な時間が必要らしくとても心配されてしまった。


 翔が復活障害で記憶を無くしたと説明していたので特にシスターサラは心配し自活できるようにいろいろサポートしてくれた。


 まず当座の生活費だが、復活の天宮で金銭を貸与するシステムがあったので翔は金貨二枚を借りる事ができた。異世界でたった金貨二枚だけの出発とは何とも心細い出発だが、翔の『まぁ何とかなる』のモットーで『人生を楽しむ』事を目指して頑張るつもだった。


 ちなみにこの世界の通貨制度は以下の通りらしい。


『金貨=大銀貨十枚

 大銀貨=小銀貨十枚

 小銀貨=白銅貨十枚

 白銅貨=銅貨十枚

 銅貨=銭十枚』


 金貨一枚は、銭十万枚の勘定だ。一銭が一円とほぼ同じ程度の価値のようなので、翔は、銭を円と頭で言い換えて考えるようにした。


 ちなみに通貨の単位はせんだ。翔が借金した金貨二枚は、二十万銭で二十万円相当って事だ。


 さらに、シスターサラは翔にギルドへの紹介書を書いてくれたりした。


 それがあればいろんなギルドで適性の検査を受ける事が出来るらしい。身元保証人がいない翔には有難い物だった。


 翔は、最初に冒険者ギルドに向かった。とにかく冒険者になって魔物を倒し、レベルアップをしないとレリエルに殺されてしまうかもしれないのだ。


 ちなみに翔が転生したのは、ユグドラシルのミッドガルドの中でほぼ中央にある神聖国アガリアン王国の復活都市と呼ばれるところだった。アリスによると人口は三十万人ほどで王国でもかのり大きな都市であるらしい。


 復活都市にある冒険者ギルドは、立派な建物だった。翔が中に入ると大勢の癖のありそうな冒険者達が翔に視線を当ててきた。値踏みという奴だ。


────アリス。奴らには俺のレベルとか分かるのか?


 と言うのも、翔には彼らのレベルが一目で分かるようになっていたからだ。名前、レベル、職業が吹き出しみたいに見えているのだ。


《この人》


 とアリスが言うとその人の上にビックリマークが現れた。


『トマス・クリル、魔術師、レベル30』


 と吹き出しに出ていた。見渡す限りで一番レベルが高い。


《この人は、翔様と同じような情報が見えています。その他……》


 それからアリスは何人かの人の上にビックリマークを出してくれた。


《この人達もレベルが見えています。この他にも私には分からない能力を持つものもいるでしょう。見え方は魔法による効果だとか特殊技能スキルだとかいろいろです》


 アリスの説明から、レベル感知の能力がある人は皆レベルが高い事が分かった。


────レベルゼロなんて他にいないな


 見渡したところ、最低でもレベル10はある。


《もともと、レベルは1からですからレベルゼロなんてありえません》


 何とも嫌な感覚だ。レベルの見える奴らが翔を見ると少し驚いた後、誰もがバカにした様に薄笑いを浮かべてからそっぽを向くのだ。


────なかなか、スリリングだねぇ。ゲームみたくこの中から仲間を探すなんて絶対に無理だな。


 翔はそう思いながら受付の方に向かった。


 冒険者ギルドへの登録カウンターは簡単に済んだ。


 翔は職業を武闘家とした。


 職業は何でも良かったが魔術師は適性外で弾かれてしまった。


 剣士は金がかかるので諦めた。剣だけでも二十金貨もするらしい。安物なら金貨一枚程度からあるらしいが安物は安物。魔物と一度戦うと大体折れるらしい。


────アリス。いよいよレベル上げか?


《とにかく、冒険者ギルドが発行しているクエストを見に行ってください。そのクエストの中でレベルの縛りがない仕事を受けてください。薬草採取でも素材探しでも良いでしょう。生活費も稼がねばなりません》



 冒険者ギルドのエントランスの広大な広間にクエスト掲示板があった。


 複数のクエスト掲示板には、それぞれの上部にランクが掲げられていた。翔はその中で一番低いランクの掲示板の前に立った。


 その掲示板の前には、危険を避けて安易なクエストをこなし、日銭を稼いでいるいわゆる落ちこぼれ冒険者達がだらしない無気力ぶりを半端なくさらけ出しながら掲示板を見ていた。


 彼らは、少しでも割の良い仕事を探しているのだが、なかなかそんなクエストがあるはずがない。


 見回すと、彼等のレベルは12、3と言うところだった。


 翔は、そんな彼らを縫うようにして前に出た。彼らは自分をすり抜けて行く翔に気づくと、小声で悪態をついたり、肘で小突くような嫌がらせをする者すらいた。なんとも面倒な奴等だった。


 翔は、完全に無視して掲示板の近くまで来ると掲示板に貼り付けられているクエストカードをざっと見渡した。


 たくさんのクエストがあるのかと思いきや掲示板に貼られているクエストカードは少なかった。


────アリス。どれが良いんだ?


 内容を見ても何も分からない。『薬草採取』『コノリトの羽採取』『大量発生ゴブリン討伐』『毒消草採取』


《翔様。採取系のクエストを全て取ってください》


 アリスに言われたまま、『〜採取』のクエストの貼紙を全て剥がして取る。


 そして、何気なく翔が振り返った瞬間だった。魔法が発動される術式が薄っすらと感じられたのだ。翔はそちらに意識を集中して術式を見た。


 転生前の翔なら、遥かな彼方からでも、その術式を見分ける事ができただろう。しかし、今の翔では、魔法の術式を必死で見ても薄っすらとまだらにしか見えなかった。


 自分の魔法に対する感知能力の鈍感さに半端ない違和感を覚えた。しかし、天才魔術師だった時の記憶のおかげで断片的で薄っすらとしか見えない術式でも、翔には十分に発動者とその魔法がどの様なものかを想像する事が出来たのである。


 その魔法は、小さなラップ音を発生させる魔法だった。衝撃波の一種だがこの至近距離で撃たれるとかなり痛そうだ。


 発動者は、愚鈍そうな剣士だった。魔法のレベルも低く恐ろしく下手くそな魔法だ。魔法が発動されるのに結構な時間がかかっていた。


 それよりも何故、翔が攻撃されるか理由が分からなった。攻撃を仕掛けようとしている奴も意外な事に、女だった。


 そいつの顔を見ても見覚えなどある訳がない。その女の顏には、レベルゼロの翔を痛めつけてやろうと言うドス黒い意図が気持ち悪いほどに浮かびあがっていた。


 そいつの魔法は、論外なほど不出来な魔法だったが、今の翔にはこんなクズ魔法ですら使うことができないのだ。さらに、情け無い限りだが魔法で防御する事もできないのである。


 しかし、魔法が使えなくても、魔法を避けるには幾つかの方法がある。


 体ごと避けるのも一つだがそれは面倒だ。そこで、翔は魔法が物理現象になる一瞬前のタイミングを捉えて、その中心部分を軽く指先でチョイと突いて物理現象が発生するのを阻害する事にした。


 もちろん素手で魔法に影響を与えるなどは、天才の翔にしかできない事だ。


 翔の軽い突きの影響で、魔法力は指向性と収束性を失いボヤンと変な音を立てただけで効力を失った。


《お見事です。さすがは翔様です》


 アリスが感嘆の叫びをあげた。


────お世辞を言うな。こんなクズ魔法ごときなんでもない。


 尊大男翔は、偉そうにそう答えてチラリと魔法の発動者に視線を移した。


『ミラ・エルナイド、レベル13、魔術師」


────魔術師なんだな。剣士にしか見えないが。


《カモフラージュでしょう。魔法が封じられたことに驚愕しているようです》


 翔は、陰険そうな剣士のなりをした女魔術師をそのまま残してその場を離れた。


 魔物に対して変装をしても意味は無い。この女は、人間を騙して先程のような奇襲により金でも脅し取っているのかもしれない。直ぐに翔はその女に興味を無くした。


────アリス。これから、どうするつもりだ。何か考えがあってクエストを取らせたのだろう?


 冒険者ギルドから出た翔が尋ねた。


《翔様の先程のお手並みを見て良い発想が浮かびました。翔様はレベルゼロの最低能力者ですが魔法の扱いは恐ろしく優れています。先程の魔法程度なら翔様の機転でどうにかされるでしょう。ならば、その能力を活かさない手はありません。つまり魔力は強いが、戦闘力の弱い魔物を相手にレベルアップを図りましょう》


(どこに行けばそんな魔物はいるんだ?)


《お任せください》


 アリスに連れられてやって来たのは街の郊外だった。


《この辺はあの赤い羽の蝶々の縄張りです》


 翔は、その赤と言うのかピンクというのか見るからに禍々しい感じのする蝶々の一群を見た。その蝶々から電波のような魔法の術式が流れ出しているのが、ぼんやりと見えた。


────なるほど。精神干渉魔法を垂れ流してるな。


《あれは、コノリト蝶と申しまして、かなり強い精神干渉力を持っている魔物です。レベル2です。戦闘力がほとんどない弱い魔物ですが精神魔法の強さと群れで行動するためレベル2が与えられています》


────あれを退治すれば良いんだな?


《翔様なら容易たやすいでしょう》


 アリスの言うように上手くいくのだろうか。


 翔は、手頃な棒を拾うと蝶々に近づいて行った。蝶々は体長三十センチほどもある。この大きさだとなかなかグロテスクだった。


 しかし、蝶々が発している精神感応の魔法は幼稚で思わず笑ってしまった。


 これでは、ただの音波みたいな感じだ。蝶々の魔法は、一匹で人を精神浸食できるような代物ではない。複数の蝶々の魔法が集中し、波の干渉を起こして、危険な強さになる場所ができるのだ。その場所に、偶然ハマってしまうと意識を失うと言う、なんとも相手任せな魔法だ。


 翔は、精神干渉の影響が薄くなったところを縫って歩き、棒をビュンビュン振って蝶々を仕留めて行った。数十匹が纏まって飛んでいたが端からどんどん落とした。


 蝶々は次第に数が少なくなると、身の危険を感じたのか空に飛んで去って行った。


 足元には赤い羽の蝶々が百匹程度が落ちていた。


 フーと一息ついた時だ、パパパパーンと音楽みたいな音が頭の中に響いた。


(アリス何だ?)


《翔様のレベルが上がったようです》


 翔のレベルの変化の状況をアリスが頭の中に投影して見せてくれる。


 レベルがゼロから1になる。レベルアップの影響で変化した様々な属性のステータス群が表示されてゆく。


 ところが魔法系の属性ステータスは全く変化しないようだ。変化するのは精霊魔法と付与魔法の熟練度ステータスだけだった。魔法能力の属性が全く変化しない事にレリエルの悪意が感じられる。


 最後に『魔核の精製能力』を得たと表示された。神器『転生車輪』が特典でくれると言っていた能力だ。


 その途端に、地面に落ちている蝶々にビックリマークが出る。


(何だこのビックリマークは?)


《蝶々を手にとってからそのマークに意識を集中してみてください》


(やってみよう)


 アリスの言う通りにすると、蝶々が分解される。手のひらには、赤い羽と何かキラキラする小さな米粒のような宝石が残り、後は灰になって消えた。


(アリス。これは?)


《コノリトの羽と魔核まかくです。魔核の精製能力は魔核を精製するだけでなく、副次的に魔物から取れる素材を入手する事ができます。その素材はギルドで買取ってくれます。クエストがあれば買取価格は少し高くなります》


(コノリト羽の採取っていうクエストの完了だな。そしてこの米粒が魔核なのか)


《その魔核を飲み込んでください》


 翔はアリスに言われた通り魔核を飲み込んでみる。しかし特に何も起こらない。


《魔核が小さすぎるのです。もう少しレベルの高い魔物から取れる魔核なら効果も高くなるでしょう。魔物の死骸を全部魔核にして飲み込んでください》


 アリスの言う通りにする。


 三十個飲み込んだところで、魔法能力の中の火属性が活性化しそれと同時に火属性の攻撃力ステータスがゼロから一つ上がった。さらに、MPが1になった。その影響か元々あるはずだった『精霊魔法』と『付与魔法』の能力が発動できるようになった。魔法能力が開花した瞬間だった。


 魔核は全部で八十個取れた。全部を飲み込んでみて、火属性の攻撃力ステータスが2となり、光属性の攻撃力ステータスが1となった。それだけでなく、それぞれの属性の魔法耐性ステータスが2になる。


 コノリトの魔核まかくのお陰でいろんな能力が一度に開花した。


 コノリトの羽もたくさん採れたのでクエスト完了の手続きのため冒険者ギルドに帰る事にした。


(軽いもんだな)


《翔様だからです。コノリト蝶は集団で生存する魔物です。レベルの割に危険な魔物なのです。精神を侵害しそのまま餌にするのです。コノリト蝶は、設定レベルが低すぎるというのが冒険者の評判なのですよ》


(あんな幼稚な魔法に殺られる奴なんているのか)


 翔は呆れる。


《幼稚と仰るのは翔様だけです。たった一日でレベルアップするなんて前代未聞なのですよ》


(レベルゼロが駆け出しに戻っただけだろうが)


 翔は自嘲気味に言った。


《それでも、凄い事です。それほど魔物のレベルも危険度も高かったという事です。普通レベルゼロの最低能力者の翔様では、レベル2の魔物は倒せません。それをいきなり百匹ですからありえない成果です》


(最低能力者、最低能力者言うな)


 翔が突っ込んだ。


 アリスの言った通り、冒険者ギルドでクエスト完了の報告とコノリト羽の買取を依頼すると受付の女性が驚いていた。


「コノリトの羽を八十セットもですか? ショーさんは今日、ギルドに入られたばかりのレベルゼロの復活者さんですよね」


「まぐれだよ」


 翔は女の驚きには頓着せずに買い取りを待っていた。


「はい。翔さん。買取価格大銀貨八枚になります」


(八万円か。まぁまぁの儲けだな。アリスの助言があったからだ。ありがとう)


 翔は、珍しく感謝の言葉を述べていた。


 次の日、翔は、別のクエストに挑戦した。これも攻撃力の弱い穴トカゲという魔物だった。レベル3の魔物で多少殺すのに手間取る事を想定して、ナイフを買った。武闘家がナイフと言うのも変なもんだがレベル1の翔が殴るよりも効率的だろうと思ったのだ。


 穴トカゲは、長い尻尾を入れても体長が五十センチ程度の小さなトカゲの魔物だった。地面にたくさん開けた穴から突然飛び出して毒を飛ばしてくるのが厄介なので意外に高いレベル3が付けられている。


 穴の中に潜り、魔法で隠蔽いんぺいをかけるている。しかし、その稚拙な隠蔽魔法のせいで、翔にはかえって場所を教えてしまうことになる。何しろその部分だけ隠蔽魔法がかかっているのだから。


 翔が魔物の動きから、飛び出してきそうな穴にナイフを突き立てておくと、魔物は自分からナイフに飛び込んでくる。なんとも間抜けな魔物だった。


 この日、翔はアリスから教わった生息地にいたほとんどのトカゲを狩り取ってしまった。山のように積み上げられた穴トカゲの死骸。


 翔は、魔核まかくの精製能力を使い、トカゲをトカゲ肉と魔核に分解したが、トカゲ肉すべては持てない。


 取れた魔核は全て飲んだ。魔法能力の空属性と風属性の攻撃力・耐性ステータスがどちらも2になった。MPは3になった。


 そしてある瞬間。レベルが2に上がった。例のファンファーレが鳴り響く。そしてレベルアップの恩恵でステータスが上昇した。


 こんどの上昇にはレベル1に上がった時とは違う変化があった。前には全く上がらなかった魔法能力の属性ステータスが少しだけアップしたのだ。


 これは魔核まかくのおかげで魔法能力の属性ステータスが少し上がったからだろう。転生時にいくらレベルが上がっても魔法能力の属性が発動しないように仕組まれていたレリエルの呪縛の一つが無効になった瞬間だった。


 一挙に熱、雷、土、水の属性が活性化し攻撃力・耐性ステータスが1つ上がった。


魔核まかくを飲んだ成果が現れているな)


 ため息混じりに翔が独りごちる。最近ではアリスは翔の気持ちを汲んで独り言には答えなくなった。


 この日は、トカゲ肉は随分な量を放置しなければならなかった。小さなトカゲの肉でも蝶々の羽のような訳にはいかない。勿体無いがしかたがない。


《翔様。マジックバックを買われる事をお勧めします》


(魔法の袋だろ。いずれ自分でつくれるだろうしな)


《ですが、今日の様な損失は勿体無いです。今回のように安物の肉程度なら良いですが宝石などなら勿体無さはマジックバックの比ではありません》


(分かったよ。じゃ、ギルドの帰りに買いに行こう)



 トカゲの肉は全部で大銀貨1枚にしかならなかった。1万円って勘定だ。たくさんやっつけた割に渋い仕事だった。もっとレベルを上げないと食べて行くのも大変だと思った。


 アリスによると、上手な細工の技能があればトカゲからは皮が取れるらしい。こちらはもう少し高値で売れるらしい。しかし、魔核まかくを精製する事が元々の目的だから仕方がない。


 これでは財布のひもを締めなきゃって気になる。こんな気持ちも生まれて初めてで新鮮で楽しい。


 アリスが推薦する道具屋があると言うのでそこに行った。マジックバックは、何と金貨1枚と大銀貨六6枚だ。


(十六万円だよ。でも魔法付きなら安いぐらいか)


 大きな出費だがアリスの推薦だから素直に従った。ナイフの購入費用大銀貨6枚とギルドの登録費用大銀貨3枚、この二日の宿代大銀貨2枚などもあって手持ち資金が一挙に少なくなった。


(アリス。なかなか厳しいな)


《翔様の素晴らしい魔法の知識があれば、お金など気にする必要はありません》


 魔法道具の方が豪胆だ。


(そうだな。何とかなるか)


 翔もそう答えておく。金など天下の回り物だ。


 その日も冒険者ギルドで事件が起こった。冒険者の一人にまた魔法の攻撃を仕掛けられたのだ。今度はかなり危険な炎の爆裂魔法だった。


 少しだが魔法能力を得た今の翔には、魔法が構築される遥かな前から魔法を感知することができた。あまりに幼稚な魔法で、あっけないほど簡単に魔法を避けることができた。


 魔法を発動した奴は、レベル15の渋い感じの中年の召喚師だった。


(どうして、どいつもこいつも俺を目の敵にしやがる)


 翔は呆れた。


《嫉妬でしょう。長年努力してそろそろ限界が見えてきたところに翔様のような有能な新人が現れると嫉妬が先に立つものです》


 アリスがそう言った。


 しかし翔には、どうして話した事も無い無関係な人間に嫉妬の感情など持てるのかが信じられない。バカを通り越して愚かだ。


 とにかく、冒険者ギルドでは十分な注意を払う事だ。魔法攻撃だから避けることができたが、物理攻撃は素早い武闘家でもレベルが違えば避けられない事もあるだろうし、複数で囲まれたら避けることもできない。


003 了

2019年8月7日読みやすく訂正しました。

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