015ー5 イレーネ
2019年9月6日第015話があまりにも長かったので八話に分割しました。
イレーネ・ハウザーが案内してくれたのは高級そうな料亭だった。店の者がやってくるとイレーネに丁寧に挨拶している。イレーネは馴染みなのだろう。
「済まなかった。ここは、良い店だな」
翔は、イレーネに礼を言ってから、感想を述べた。
「ええ。ここは料理が美味しいことで人気の店なの。私の父が良く利用している店なのよ。女将に良く言っておくから気兼ねなく気分が治るまで休んで行くと良いわ」
「すまん。少し横にならせてもらう」
アメリアは、そう言うと小さくなって横になった。美しい青い羽が萎れて見る影もない。
「アメリア。大丈夫?」
メロも心配そうにアメリアの身体をさすったりしていた。
「俺は、ショー・マンダリンと言う。名前の方を呼び捨てにして呼んで欲しい。冒険者だ。職業は、創造師だ。君には迷惑をかけた。こいつは、メロ・アルファード。神使い。そして横になってるのが、アメリア・ラサーン。至高者だ」
「メロと呼んで」
メロがアメリアを介抱しながら言った。
「いいのよ。困った時はお互い様だわ。私は、イレーネ・ハウザー。私の事はイレーネと呼んで。騎士職をしている。実際には騎士見習いとして、ある方にお仕えしています。皆の職業は聞いた事がない職業ね」
イレーネは、可愛い眉を寄せて言った。聞いた事がない翔達の職業に驚きを隠せない。
「ああ。言うなれば希少職パーティーだ。俺は復活障害が酷くて記憶もレベルもすっ飛んでしまったんだよ」
「そうなの」
イレーネは、今度は、顔をしかめて気の毒そうな顔になった。よく表情が変わる可愛い娘だ。
「翔の創造師と言う職業は神々を連想させる尊い名前ね。芸術家ってことなの?」
「すまない。俺達の職業は職業ギルドすらない希少職で、自分達の職業がよく分かってないんだ。アメリアのはアールフヘルムの種族固有の職業らしいが、皆、一番ステータス補正が高かったので就いたって感じだね」
翔が説明した。
「なるほど。確かに彼女はエルフにしては羽持ちだし、見たことがない種族だものね。それにしても良くそれ程珍しい職が三人も揃ったものね」
イレーネは、しきりに感心した。
「それに、職業の個性はもう少しレベルが上がれば神々の恩恵が授けられてハッキリするわ」
イレーネがそうフォローしたが、顔は驚きの色を隠せない。それ程聞いたことが無い職業なのだ。
「イレーネは、騎士見習いと言うことは、お父上はどこかの御城主様か?」
今度は翔が尋ねた。
「父は、ハウザーの領主、騎士ゲルノート・ハウザー。なかなかの使い手なのよ」
イレーネは父親の自慢話が嬉しいのかそう言うと、笑いながら剣の柄をパンパンと掌で叩いた。
「俺も騎士職って聞いたことがないね。魔法と無縁な職は珍しいね」
「確かに騎士職も君達ほどじゃないけど希少職よ、騎士職は名前からは魔法とは無縁に聞こえるかも知れないけど、別に魔法が使えないって訳じゃないわ。騎士職は馬、剣を利用して攻撃しつつ補完魔法などを使ったり、盾で防御を行ったりと得意な範囲は大きいのよ」
イレーネは、なかなかお喋り好きの女の子のようで自分の職業の特徴を自慢した。
「イレーネは、若いのにランカーで大したもんだ」
自慢好きは褒めてやるのが一番なので翔は、褒めておく事にした。
「そんな事ないよ」
イレーネは形だけ否定しているがやはり嬉しそうだ。
「私の仕える騎士様が偉いだけよ。名前は控えさせてもらうけど君達も冒険者だからいつかはどこかのルートで会う事もあるでしょう。私達のパーティーは、間も無く超初心者向街道のルートをクリアーするつもりよ。たぶん、私は、最年少ルートマスターになるはずだわ」
イレーネがどうだと言わんばかりに自慢した。
「それは、大したものだ」
翔は、親切にしてもらった手前、柄にもなくお世辞を言った。しかし翔は、少々面倒くさくもなってきた。
「ああ。自慢話ばかりになったわね。君達も良く復活都市からここまで旅をして来られたわね。強いパーティーと一緒だったの?」
イレーネは、翔の気分を悟ったのか、話を変えた。中々頭の回る娘のようだった。
「ああ。ランクEの“矢羽”ってパーティーに途中まで世話になってね」
翔は、面倒くさいので、適当に話を作った。“矢羽”は、あのグアリテーロのパーティー名だ。
「翔。アメリアは寝た。小一時間も寝れば大丈夫だって」
メロが翔のところまで来て報告した。
「イレーネ。有難う。助かった」
「大事にならず良かったわね。メロはまだ小さいのに偉いわね」
イレーネが褒めた。
「私は、十六歳。貴方よりも三月もお姉さん。偉くない」
メロがぼそりと答えた。
「ごめんなさい。私はまだ、年齢まで探知できないのよ。貴方は凄いわね。年齢どころか生まれ月まで分かるのね」
即座にイレーネが謝った。
どうやら察知能力で、相手の力量が分かるらしい。
────話す相手が自分の情報を察知できるかできないかである程度の能力が分かるらしいな。
翔は二人の会話を聞いていて考えた。情報は翔の場合、アリスから知ることができる。
しかし、メロもアメリアも翔ほどではないがいろんな情報を察知しているようだ。世界樹ネットの機能が能力と言う形で人々に影響しているのだろうと思われた。
「貴方たちのパーティー名を聞いても良い?」
イレーネが尋ねた。。
「パーティー名か? とくに……「賢人会!!!」」
翔の話に、メロが話に割って入った。
「賢人会。凄いパーティー名だね」
イレーネが呟くように言った。
────メロらしく無い名前だ。
と翔は思ったが、黙っていた。
「イレーネのパーティーはランクもDと、とても高いし、相当強いんだろう?」
「私のパーティー“Fとお供”は、私のお仕えしている方のご子息とその供回りのパーティー。供回りの騎士達は手練れぞろいよ」
イレーネの自慢癖が前面に出てきた。
「パーティーでは、私のレベルが一番低いわ。とくに隊長のガーハードは、レベル23の魔術騎士。副隊長のレーベンは、レベル21の聖騎士で、この二人は秀逸よ」
イレーネは、頬を紅潮させて説明した。相当、メンバー達が好きなのだろう。
「イレーネ。羨ましい。うちの隊長はレベル8の口の汚い平凡な男。尊敬に値しない」
メロだ。
「おい。そんな隊長とは誰のことだ?」
翔が突っ込みを入れた。
「うちのパーティーにレベル8は一人しかいない」
メロは、目を細くして翔の顔を見ながら言った。
翔は、メロの頭をコツリと叩く真似をする。
「暴力隊長!」
メロが叫んで、イレーネの背中に隠れた。
「君達は、仲良しね。でも、三人の中で一番レベルの低い翔が隊長なの?」
「当然だ。こいつらなんかに隊長が務まるはずが無い」
翔は、一刀両断するかのように言った。
「しかし実力者が隊長になるものよ」
イレーネが不思議そうに言った。
「イレーネ。翔は、口は悪いが腕は確か。元々武闘家だったが結構強い。しかも、復活前はかなりの魔術師だった様。魔術の腕も相当。総合力では、三人の中で翔が一番の実力者」
メロが説明した。
「そうなの。翔は三度も職業を変えているのね。それでレベル8と言うのは何らかの事情があるの?」
イレーネは、また驚いて尋ねた。聞くこと全てが普通ではない。
「特殊な魔法で、ステータス操作をしたのだ。その為、見掛けのレベルが低くなってんだよ」
翔が説明した。
「そんな事が可能なの?」
またも、イレーネが目を丸くして驚いた。
「まぁいろいろ説明できない事もあるのさ。俺達は、何も悪い事はして無いが、仇がいるんだ」
翔が簡単に説明した。あまり隠すのはイレーネの親切に対して失礼だと感じたからだ。
「そうなの? どういう理由かはわからいけど……本当に不思議な人達ね」
「イレーネ達は、どんな目標が有って冒険者をやってるんだ?」
逆に翔は、聞き返してみた。一般的な冒険者が何を目標としているのか興味が有ったからだ。
「私達は、まず超初心者向ルートをクリアして、ルートマスターになることが当面の目標よ。君達もそうじゃないの?」
どうやらアリスの言っていた通り、ルートマスターになるのが冒険者の目標のようだ。
「俺達は、古いルートを目指すつもりだ。そいつは遥か昔のルートで、とても困難だが、素晴らしい成果が期待できるんだそうだ」
翔は、今考えていることを説明した。
「そんな良いルートがあるなら話題になってるはずだけど。何か勘違いしていない?」
イレーネがもっともな質問をしてきた。
「何でも、制覇できいる冒険者がいない過酷なルートなんで今では使われないルートになったとか聞いた」
「それはたぶんリレハンメルルートのことね。あそこのルートは、難しいって評判で人気が無いって聞くわ。君達は勇気があるわね」
「そのルートはそんなに、難しいのか?」
オリンピック名みたいなネーミングに少々ビビる翔だ。
「何でも、魔物の数が生半可じゃないらしい。しかし、もしリレハンメルルートをクリアしたとしたら大したものよ。期待しているわ」
口ではそう言いながらイレーネは心配そうだ。
イレーネの心配そうな顔に翔は不安がよぎった。しかし、ここで怖がっていても仕方がない。
「イレーネ達は、最年少でルートマスターになるという目標が直ぐに達成されそうなんだな。大したもんだ。俺達も君達に追いつき追い越せと頑張るよ」
「翔。メロ。アメリア。“賢人会。何だか強烈な印象のある人達ね。また会いましょう」
そう言ってイレーネ・ハウザーは去って行った。
☆
「メロ。アメリアを見ていてやっててくれ。俺は、サッサと『レベルアップ・トライアル・ルート』とやらのクエストの登録を済ませてくる」
翔も、メロにアメリアの世話を任せて冒険者ギルドに行く事した。
「翔。ここは『料亭』。何か食べて良いぃ?」
メロが上目遣いで聞いてくる。
「分かった。これをやる」
翔はメロに金貨を三枚渡してやる。こんな高級な料亭でメロが食べれば幾らになるか分からない。
「しかし、さっき食べたばかりだろうが」
「妖精さんが食べにくる」
メロは、嬉しそうに金貨を受け取りながら言った。
「ホイホイ。お前まで腹を壊すんじゃないぞ」




