008ー3 最弱のモンスターゴブリンを狩れ 3
2019年9月6日。八話を三分割しました。
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パーティーが三人になると、それぞれが勝手な行動を取ると逸れる者が出てくるだろうと翔は考えた。性格からして、アメリアは前に出て行きそうだし、メロはノロノロしそうだ。
「お前達は、俺もそうだが、人に合わせるのは苦手だろう。そこで、戦い方のルールを作るぞ」
翔が言った。
「ふぇーい」と答えたのはメロだ。敬礼している。
「戦う時はルールは当然だ」
大きく頷いていてアメリアは言った。
────こいつら。口だけは達者だな。
と全く信じていない翔だ。
「路地では俺が先頭、メロが真ん中。アメリアが最後だ。路地以外の広いところは、横列で進む。ゴブリンは、群れのボスをやられると四散する。
目的は数を殺ることだから、ボスは見つけてもなるべく殺るな。但しゴブリンがゴブリンナイト以上の強敵なら直ちに逃げる」
翔が言った。
「逃げるぅ? 嫌」メロだ。
「背を見せるのか?」アメリアだ。
(やっぱりこいつらは何も考えていない)
「ゴブリンは何匹いるかは不明だ。二、三百なら何とでもなる。五百なら手こずる。七百なら危ない。千を超えるとエンドだ。それが俺たちの実力だ。ゴブリンナイト以上がボスなら数は千を超える。分かったか」
翔が、二人の顔を睨みつけならが言った。
二人は渋々、頷いた。
しかしかなり怪しい。もしこいつらのせいで、逃げ遅れたら多分、本当の転生を行うことになるだろう。
────まぁ、それも楽しいか。
翔は難しく考えないことにした。
「とにかく、俺が命ずるまで攻撃はするな。特にメロは勝手に派手な魔法をぶっ放すなよ」
「ふぇーーい」
メロはふざけて答えた。どこまでも不真面目なメロの返答だ。
さすがのアメリアもメロに鋭い視線を当てた。喧嘩をされてはたまらないので翔は、アメリアを手で制した。
「アメリア。こいつにまともな態度なぞ望むのが無理なんだ。こいつは不真面目なのではなくそんな態度しか取れん欠陥品だ」
翔が笑いながら説明した。
アメリアは、それを聞いて、不思議そうに翔の顔を見た。
「翔は、リーダーだろう。それでいいのか?」
「お前は硬すぎるんだ。アメリア。所詮、魔物退治と言っても俺たちが好きでやってることだ。バカみたいに重苦しく軍隊みたいにガチガチで行動することもあるまい。楽しくやれば良いんだよ。逃げたければ逃げる。失敗すれば死ぬだけだ」
「死んだらダメだろう」
アメリアが叫ぶ。
「何故だ?」
今度は不思議そうに翔が聞いた。
「そ、それは死んだらダメだろう」
「どうしてだ? どうせ転生されてリセットされるだけじゃないか」
「しかし、転生が約束されているわけでも、どんな人生なのかも何の保証もないじゃないか」
「アメリア。保証が無いのは現世でも同じだろうが。くよくよ考える奴が馬鹿なんじゃないか?」
「翔の考えは突飛すぎてついて行けない」
ついにアメリアが降参する。所詮、翔の考えは彼の独特な考え方だ。
「とにかく、ゴブリン狩りだ。メロ。アメリア。付いて来い」
☆
翔は、街の廃墟地区を歩き出した。ユグドラシルは何千年も魔法と剣の時代を進歩なく続けてきた世界だ。
そのため、大きな都市は、劣化が進むと見捨てられて、その横に新たな都市を築いてゆくという日本から見れば、贅沢な都市運営を行ってきた。
この廃墟は三世代ほど前に見捨てられた街だ。
ゴブリン達は、その廃墟に巣を作り暮らしているのだ。細々と暮らしていれば良いのに、最近では、人の住んでいるスラム街にまで勢力を伸ばす勢いだ。
先頭の翔が黙れと唇に指を当てて見せてから前方を指差した。指差す先に、ゴブリンの群れだ。翔は、手で合図して、メンバーを手頃な家屋の廃墟に導き入れた。
「なぜ隠れる? バーンとやっつければ良い」
メロが大きな声で言った。
────やはり、そんな事を思っていたんだな。
翔は呆れた。
「お前は本当に、馬鹿か? ゴブリンがたったあれだけだと限らんだろうが。まずは情報収集だ」
「ふぇぇ」と馬鹿な声を上げているメロを放置した。
翔は、壊れた建物の内部を見渡した。見ると階段のあったと思われるところから二階が見えている。
階段は痕跡もなく、二階には上がれそうにない。翔は辺りに散らばっている何かの残骸を集めて山のように積み上げて行った。
翔は、ある程度の高さになったらその残骸の山に登り、二階に手をかけて、体を引き上げ二階に上がった。
二階に上がった翔は、二階の様子を見出回ってから、窓にゆっくりと寄って行った。そして外の様子を見た。予想通りゴブリンの群れが一望できることを確認した。
翔は、二階に登ってきた所にもどり、上からメロとアメリアを見下ろした。
「お前達も来い」
翔が二階から手を伸ばして二人を持ち上げた。二人は翔の手を取って二階によじ登った。
二階に上がると、高々数メートルの高さだが、随分と見晴らしが良くなった。
☆
ゴブリンの群れが見えた。
────アリス。ゴブリンは話せるのか?
《群れの中のレベルが高く体の大きな個体は少しは話せるでしょう》
────承知した。
「アメリア。お前は、スリープの魔法は使えるか?」
アメリアが頷いた。
「よし。あのゴブリンの群れ全部にスリープをかけてくれ」
翔が無茶な命令をした。
「四十匹はいるぞ。とても無理だ」
「ああ。そうだったな、お前は知らんだろうが、俺はお前がかけた魔法に干渉し魔法の効果を上げることができるんだ」
翔が説明してやると、アメリアは目を丸くして驚いた。
「そんなことができるのか?」
「ああ。簡単だ。魔法は、一種の波のような性質がある。波には波で干渉すると自由に支配することができるんだ」
事も無げに翔が説明する。
アメリアは明らかに半信半疑だ。アメリアが魔法文字ルーンを空中に刻み、スリープの魔法を構成してゴブリンの群れに向けて発動した。
しかし、アメリアの魔法では、このゴブリンの群れ全部に魔法をかけるのはさすがに無理だ。多分、ゴブリンの群れに到達する時には魔法は広がりすぎて四散するだろう。
翔がアメリアのルーン魔法の不完全な術式を調整した。調整そのものは大した魔力は不要だ。
アメリアのスリープの魔法が調整されてより整った魔法になる。さらにアメリアが想定していたより大きな魔法となりゴブリン達を取り巻いた。
ゴブリンの群れ全てが同時にバタっと倒れるのは壮観だった。
しかし翔は、「まだ、動くな」と二人に命じた。さして翔の指示が的確だったことは直ぐにわかった。
あまり待つ必要もなく、周囲から先ほどのゴブリンの群れの倍以上の数が周囲から湧いてきたのだ。
「よし、もう一度、スリープの魔法だ」
翔がアメリアに命じた。アメリアは翔から言われた通りにした。
先程と同じ展開になった。
アメリアは、もはや茫然として翔の魔法を見ていた。あまりの手並みの見事さに驚きの視線で翔を睨み付けていた。
彼女は、この冴えない男の本当の凄さを肌身で感じた瞬間だった。
しかし、翔もメロも、この奇跡的な状況であるにも関わらず当然だと言わんばかりだ。その二人の態度もアメリアには不思議だった。
翔はアメリアの驚きなど穴もかいさず、彼女についてくるように手で合図した。
「メロ。お前はここで、新手が来ないか見ていろ。もし、新手が来たら、衝撃波を食らわせてやれ」
小声で翔が命じた。
「了解!」とメロは敬礼していた。
どこまでもふざけた奴だった。
しかし、アメリアは、メロの不真面目な態度を怒る気になれず、翔達とのやり取りに不思議な安心感を感じていた。
────この二人は、これ程たくさんの魔物に囲まれていると言うのにとても場慣れしているな。
メロのような怖がりキャラが全く動じていないのだ。周りには、三百からのゴブリンの群れがいることが想定されているのに凄い自信だ。
「アメリア。行くぞ」
翔とアメリアは、眠らせたゴブリン達を狩りに行った。
アメリアがゴブリンを処分し、翔がそれをゴブリンの牙と、魔核に変えていった。瞬く間に、ゴブリンが退治されて行ったのである。
「その大きな奴は殺すなよ」
翔は最初からそれが目当てだったからアメリアに注意した。
アメリアは、翔の命令を黙って聞くだけだと思い黙って頷いた。
☆
生かしておいた、大型のゴブリン以外は全て退治した。全部で百二十体だった。
「アメリア。こいつを、さっきの所に連れて行く。俺を援護してくれ」
翔よりも少し小さいぐらいのゴブリンを翔は、軽々と担ぎ歩き始めた。武闘家になった恩恵で力が付いたのだ。
翔は、窓からノンビリと、こちらを見ているメロに手を振った。
翔にしてみると周りをよく見ろという意味で手を振ったのだが、メロは勘違いして、派手に手を振り返してきた。
「本当に。目立ちやがってバカ娘が」
と翔が呟くと、アメリアがクスリと笑った。
メロのところに戻ると、翔は、アメリアに、捕らえたゴブリンに沈黙の魔法をかけるように命じた。
アメリアは、翔の命令に黙って従い、ルーン文字を空中に書く。ルーン文字は空中でネオンのように赤く輝いた。
ルーン文字の効果で魔法術式が完成しサイレントの魔法が発動した。
────良し!
とアメリアは頷いた。なかなかうまく魔法が発動した感覚があった。
ところが、翔が指から何かの術式を出している。翔が魔法を変革して、サイレントの対象を魔法ではなく音を対象にし、さらに魔法の範囲を拡大したのだ。
自分の魔法が不思議な具合に変えられるところをアメリアは目を大きくして見ていた。
サイレントの効果が翔達全員を覆うような範囲に広がると翔があからさまに大きなため息をついた。
「メロ。お前は、幼稚園児なのか? 少しは静かにできんのか」
「ふぇぇ」
とメロは頭を抱えたふりをして、舌をペロリと出して見せた。メロは、どこまでもふざけている。
メロは本当は、騒ぎを起こして派手な魔法をぶっ放したいだけだった。
「お前は、派手な魔法をぶっ放すことしか考えてないんだろう」
翔が図星を指した。
「ご明察」
メロは大声で答えると敬礼をし見せた。
アメリアもさすがに呆れ顔だ。
「群れの中心が分かれば、いくらでも好きなだけ爆裂でも、焦熱でもぶっ放すがいい。ただしMPはどんな場合でも残存の半分ぐらいまで残すのがセオリーだぞ」
「了解」
メロがまた敬礼した。
メロは、完全に兵隊のつもりになっているようだ。
翔は、メロの頭を軽く小突いて肩を竦めただけだった。
☆
大型ゴブリンは、レベル4だった。アリスによると、ほとんどホブゴブリンになりかけだと言う。見た目も他のゴブリンとは違いスッキリした外見だった。
それでも頭には角が生え、牙が口からはみ出し、胴が長く手足は短い。醜い魔物であることには違いなかった。
翔は、容赦のないビンタをゴブリンに見舞った。
眠っていたゴブリンが翔のビンタで目を覚ました。
「お、お前達。俺。捕まったか」
ゴブリンが意味不明の言葉を発した。
知恵がある。話せると言ってもこの程度だ。翔は、もう一度、強烈なビンタをかました。
「ぎゃー」
ゴブリンが喚いた。
「お前のご主人様は、卑怯者だな。お前ら小物を前線に放り出して、自分だけ雌とよろしくやっているのか?」
「俺。大きい。ボス怖い。雌は良いな。お前。羨ましい。雌いっぱい」
どうやらこいつでは、話にならないようだ。
「翔。気持ち悪い」
と、雌呼ばわりされたメロが抗議の叫びを上げた。メロは、そんな話が一番嫌いだ。
アメリアも憎悪の視線をゴブリンに向けた。
「分かった。アメリア。忘却魔法は使えるか?」
アメリアは、返事の代わりにゴブリンに忘却魔法をかけた。
その魔法に翔は手を入れなかった。
「アメリア。オプティマスは皆お前と同じように魔法が得意なのか?」
「人族よりは魔法は得意だ。我らは古の魔法文字を知っている」
「ルーン文字のことか?」
翔が尋ねた。
「何故、ルーン文字の事を知っている?」
アメリアが驚きの声を上げた。
「さっきから空中に書いていただろうが。十六文字しか無いのだ直ぐにルーン文字ぐらいはわかるぞ。お前達の一族のやり方なのだろうがなかなか面白いと思って見ていた」
翔が呆れて言った。
「ルーン文字は、神々の神聖な文字だ。お前が何故知っているのだ」
「だから、俺は異世界で魔法の総本山みたいな家の出身だと言っただろう。ルーン文字ぐらい知っているさ」
ルーン文字は全部で十六文字。古ノルド語で書かれた碑文などは読めないと魔術師としては失格だ。
ルーン文字は普通だと、それだけでは魔法術式になら無いのに、この至高者が使うルーン文字には添字がつけられ、それが術式を構成する要素となる様だと翔は理解した。
「だいたい、お前達が使っているルーン文字の術式は理解した」
翔がそう言うと、今度は彼が知っている理論を展開してルーン文字魔の術式を空中に書き出して見せた。
それは魔法の効果の発動しない単なる術式の羅列だったが美しい文字には強い力が込められ今にも爆発しそうな威力を秘められているかのようだった。
「お前は、本当に驚いた奴だな」
そのルーン文字の魔法術式を目の前にしたアメリアは、驚きのあまりその場に座り込んだ。
「何と言う凄い理論体系なんだ。これは、全く理解できないが凄い事だけは分かるぞ」
「しかし、あくまで理論だ。これを発動させるセンスも能力も今の俺には無い」
翔は、自嘲気味に、評価した。
「何が何か私には分からん。これだけの魔法を展開できながら発動できない奴がいる事が私には、意味がわからない。それならば先程みたいに魔法に介入できるのは何故だ?」
アメリアが尋ねた。
「あれは、俺ができる能力の範囲でちゃんと魔法を発動させているんだ。俺のしょぼいMPでは、たかがしれているけどな。ここに書いたルーン文字魔法には恐ろしく大きなMPと各属性のステータス値が必要だ。書くのは容易いが使えんのだ」
「何を言のうか。こんな恐ろしく長い術式を間違えずに書けるだけでも恐ろしい才能だ。翔が言っていた異世界の話がだんだん信じられるようになってきたぞ」
アメリアが大きなため息を漏らしながら言った。
「そうでしょ。この子はやれる子だよ」
メロが訳の分からない事を言って来た。
「とにかく、これ位の魔法は、俺だけじゃなくお前達も使えるようになって貰わないとな。天使や悪魔なんかに太刀打ちするなど夢物語だ」
翔は、キッパリと言った。
「無理だ〜」
メロが悲鳴を上げた。
見ると、忘却魔法をかけられたゴブリンがフラフラと出て行こうとしていた。
「あのゴブリンを尾けるぞ。おそらく巣に帰るだろう。ゴブリンの群れを平らげてやる」
翔が宣言した。
「ああ「うん」」
アメリアとメロが力強く答えた。
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