052 え? 私をダシにする気?
アガサナスは、ミマール悪魔従男爵からつまらない正義感を出すんじゃないと強く戒められていた。
アガサナス悪魔騎士は戦いの一部始終を主人のミマール悪魔従男爵に告げた。その結果としてミマール悪魔従男爵はそう結論付けたのだ。
彼の報告をミマール悪魔従男爵が信じなかったのではない事は、ミマール悪魔従男爵がいきなり病になったとして使い代理を立てた事でハッキリした。
しかもミマール悪魔従男爵はそれだけでなく、戦いに備えて軍部の組織を一新すると称してアガサナスを含むミマール麾下の悪魔騎士をいきなり内部勤務に変更するとともに、実力だけの荒くれを悪魔騎士に昇進させた。
ミマールは明らかに軍事力を温存しようとしているようだった。
アガサナスは、死んで行ったハウント将軍や騎兵逹の姿を思い出しながら湧き上がってくる気持ちをどうすることもできずに悶々とした気分でミマールの辞令を受け取ったのである。
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【マム村。村長宅】
軽い戦勝祝いが行われていた。戦死者はゼロ。それは村長が夢見た結果だった。
しかし単純に喜んでばかりもいられない。悪魔逹の本隊はまだまだ健在なのだ。
この場で一番喜んでいるのはヌーブだった。しかし、今や彼女のことを『じゃこう牛』なんて言う者は誰もいないだろう。
彼女は目も覚めるような美女に変身していたのだ。レベルも一挙に上がり180になった。しかもレベルは急増中だ。身体を膨らませていた原因の闘気を翔の訓練や何度もの復活のおかげでうまくコントロールできるようになったのだ。
「ありがとうございます。翔様」
ヌーブこと、ララは手放しで喜んでいる。
「私もお礼を言います。一挙にレベルが上がりましたから」
そう言ったのはルルだ。彼女は翔に作ってもらった防具と武器を使いたくさんの悪魔を倒しレベルが上がったのだ。
「お前達はなかなか可愛いな」
翔が鼻の下を伸ばして言った。
ララだけでなくルルも美しくなっていた。それはルルも実はほんの少し膨らんでいたからだろう。レベルが上がり翔達に闘気の制御を学ぶと明らかに美貌が増したのだ。
「ルル。ララ。気を付けて。変態痴漢魔法が発動しそう。翔の変態の手がまさにあなた達の柔肌を狙ってる」
メロが警告を発した。
☆
「あんた逹は、どれほど強いんだ?」
アベル村長が尋ねた。
「鑑定で分かるんじゃないのか?」
翔が聞き返した。
「鑑定はあくまで数値化能力に過ぎんよ。貴重な情報だがそれが全てじゃない。例えば、あんたの使える魔法の名前を鑑定しても、それで本当の実力を知り得るかは疑問じゃ。あんたの今のレベルが435と分かるが、それと実力は完全に一致しないのも事実じゃからな。鑑定と全知とは随分掛け離れておる」
アベル村長が翔に答えた。
「爺さんに一つ質問がある」
翔が改めて尋ねた。
「何じゃな」
「爺さんの魔法はかなりショボい。そんな爺さんがメロの次元転移の魔法を弄ってこの村に無理やり転移させたって言っていたが、不自然じゃないか?」
翔の目がきつくなっている。
「フォフォフォフォ。あんたにはやはりバレるか」
アベル村長は、愉快そうに言った。
翔は先の話を促すように黙って頷いた。
「あんたは神代文字を聞いた途端に使いこなしていたからな。そもそも次元転移の魔法を弄ったのかどうかワシには分からんのじゃ。ワシは単にこの『石』のボタンのような所を押すように『エロヒム』様から頼まれただけじゃ」
アベル村長はそう言いながらボタン付きの石みたなものを懐から取り出した。
「どう言う事だ?」
翔が尋ねた。
「済まんな。騙した訳ではないんだが、『エロヒム』様は本当に久しぶりに夢に出てこられて、このアイテムを置いていかれたのじゃ。『エロヒム』様は、終末の角笛が鳴らされてから五日目にこのボタンを押せと申されたのじゃ。そうすればワシは大魔王サタンから解放されると『エロヒム』様は申されていたのじゃ。そこでボタンを押したのだが何も起こらず、あんた逹が村に現れたのだ。多分、このアイテムがあんた逹を呼び寄せたのじゃないかと思う」
「どうも腑に落ちんな……」
翔も考え込んでしまう。『エロヒム』は一体何を考えていたのだろう。
「あ!」
その時、魔王になり損なった半魔王の葵芹那が大声を上げた。
「何だ?」
ビックリして翔が聞き返した。
「橘君。ごめん。忘れてたわ。私は転生して直ぐに『エロヒム』が夢枕に立った事があったのよ。それによると五日後に何処かに転移されるって聞いていたわ」
「何だと。芹那お前は『エロヒム』から他に何か聞いていることがあるならきちんと言ってみろ」
翔が呆れて言った。
「はあ〜」
芹那はため息をついた。
「何でも魔力の塊が用意されているところまで転移させるので、そこに言ったらカバーロードとか言う人に『エロヒム様から預かったものは何処か案内しろ』と言えって」
葵芹那が説明した。
「ああ。カバーロードはワシの事じゃ」
「ええ? あなたアベルじゃなかったっけ?」
「ワシはアベル・カバーロードじゃ。わしもあんたの言うように『エロヒム』様からそういう者が来たら魔王サタンのところに案内しろと聞いておったよ。そうすればその者が羽を生やすはずだから。この『石』をその者に渡せと。そう言えばあんたサタンの所で羽を生やしていたな。その時に気づけば良かったが。レイラさんと二人も羽を生やすから訳が分からなくなっていたのかも」
「確かに『石』を受けたらボタンを押せと私も聞いたわ。そうすれば魔力の塊を受け、一変にレベルが上がり、世界を征服するためのチート能力が授かるとも言っていた。忘れてた」
「芹那。お前どんだけ大事な情報を忘れてんだ」
翔が呆れて呟いた。
「ごめん。橘君」
芹那はシュンとなって謝った。
「とにかく。魔王の魔力を芹那が取り込んで強くなると俺たちの未来の希望が少し近づく。お前は、エロヒムのお膳立ての通り魔力を取り込め」
翔が無茶な事を言い出した。
「嫌よ! あんな化け物になるのは」
葵芹那が叫んだ。
「大丈夫だ。俺達とパーティー登録しているからな。魔物をやっつければ効果は九等分するはずだ。だからあそこまでエゲツない化け物にはならんはずだ。俺が保証してやる。それよりもサッサとサタンのエキスを取り込むぞ」
翔は無理やり芹那に自分の考えを押し付けた。
何しろレベル700の超生物のサタンを取り込めると言う美味しすぎる話だ。これに便乗しない手はない。
「でも、何が起こるか分かんない訳じゃない。たとえばサタンが復活してしまってもいいの?」
芹那が必死で反論した。
「お前は魔族化するのが嫌なだけだろう。もともとお前は魔人ですらない人ならざる魔物の王に転生したんだから今更、取り返しがつく訳ないだろう。諦めて俺達のレベル上げの礎になれ。それがあれだけ俺達に迷惑をかけた魔王のなり損ないのお前の最後の仕事だ」
冷たく翔が言い放った。
「え? え? え?」
芹那が涙目になりながら何度も聞き返す。
「大丈夫ですよ。芹那さん。翔様は、冒険してでもレベルを優先させようと言ってらっしゃっているのです。芹那さんのリスクは九人全員が同時に負うリスクなのです」
アリスが説明してやる。
「パーティー登録しているメンバーは魔物を狩った効果を等しく受けるというのがユグドラシルのルールです」
半泣きの芹那がアリスの言葉にようやく落ち着いてメンバーを見回すと皆が芹那を安心させようと笑顔で見てくれている事に改めて気づいたのだった。
「芹那。お前には悪いが俺達は多少のリスクが有ってもレベルが早々に上がるなら冒険してもいいかもと考えている。結局お前次第だが」
翔がダメ押しをした。
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【大魔王サタンの前】
「あんた達。もし私一人がこんな化け物になったら覚悟しときなさいよ」
葵芹那がキツイ目をして皆を脅した。
「安心しろ。そん時は綺麗さっぱり屠って俺達の肥やしにしてやる」
翔が茶化した。
「橘君。あんたみたいに性悪なイケメンは本当に仕方ないわ。いつかバチがあたるわよ」
葵芹那は憎々しげに言ったが翔のイケメンの顔を見ると強く出れないのが悔しい。
「もう。バチはそこそこ当たっているぞ」
翔が憮然とした顔で答えた。
「もういい。行くわよ」
そう芹那は叫ぶと『石』のボタン部分を強く押した。
次の瞬間、サタンの目がパッチリと開いた。
想像を絶する闘気が竜巻のように荒れ狂ってサタンの首の間を吹き荒れた。
さらに次の瞬間、サタンが光の粒になって消えて行った。その光の粒はその場に居合わせた者たちに降り注ぎ彼等の身体に取り込まれて行った。
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【サタンの魔力を取り込んだ翔達のレベル】
○翔
レベル582
職業 大魔術師、創造師、槍術師、『幻妙流』相伝者、調合師、半神英雄
○メロ
レベル568
職業 神使、大魔術師、魔女、杖術師、半神英雄
○アメリア
レベル558
職業 至高者、魔術師、聖騎士、大妖精使、半神英雄
○イリス
レベル545
職業 魔王女、魔物使、魔術師、魔騎士、半神英雄
○レイラ
レベル553
職業 戦半女神、魔術師、大魔導士、神聖魔法師、半神英雄
○アリス
レベル562
職業 魔法情報師、弓師、調合師、魔術師、半神英雄
○セーラ
レベル532
職業 竜王女、竜騎士、魔術師、召喚師、半神英雄
○葵芹那
レベル585
職業 大魔王、大魔術師
○ミケ
レベル330
職業 猫魔獣、賢猫
052 了




