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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第二章 仲間編

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050 勇者は村の村長さん

 恐ろしく強い戦士が何十人も集まると空気は本当にピリピリと音を立て始める。


 張り詰めた空気は光の届かないほどに深海の高圧力の水に閉ざされているかのような物理的な息苦しさを感じさせた。


 その原因は、ここに集まった戦士達から噴き出している闘気バトルオーラのためだ。その圧力が恐ろしい威圧感となってこの大広間に充満しているのだ。


 広間の後方に直立不動の姿勢で整然と並ぶ彼等は総数七十二名。サタン悪魔子爵デーモンビスカウントの直属の近衞騎士団である。


 この場に整然と並ぶ彼等は恐怖の象徴たる悪魔騎士デーモンナイト相応ふさわしい実力者ばかりだ。元は大魔王サタンに仕えた七十二名の大悪魔達の末裔達であり数多あまた存在する悪魔騎士デーモンナイトとは全く実力が違うのである。


 彼等はレベル130以上で第六グレイド暗黒魔法と第七グレイド剣技を使いこなす。かれらと実力的に対比できる軍は上位の大公爵や魔王級の直下の近衛騎士ぐらいしか無い。


 そんな彼等がこれほどカチカチに闘気バトルオーラを吐き出しているのには理由がある。それは彼等よりもずっとレベルの高い悪魔達が時々放つ闘気バトルオーラに耐えるためだ。


 これらの七十二名の悪魔騎士デーモンナイト達の前には、二十五人の悪魔騎士デーモンナイトが三列に並べられた椅子に座っていた。


 これらの着座する悪魔騎士デーモンナイト達は、背後に屹立きつりつしている七十二名の悪魔騎士デーモンナイト達とは対照的に、ある者は手足を組む姿勢の者、背筋をピンと伸ばして行儀良く座る者、足を大きく開いてだらし無く座る者など思い思いの姿勢で着座し闘気バトルオーラもそれ程だしているようには見えない。


 それら着座している悪魔騎士デーモンナイト達は、サタン悪魔子爵デーモンビスカウントの直属の軍団長でそれぞれ六千六百六十六名の悪魔の配下をようする将軍達である。


 実力的にはレベル180前後もあり普通の悪魔騎士デーモンナイトのレベルを遥かに超え悪魔男爵デーモンバロン級の実力がある、彼等は闘気バトルオーラの制御もうまく少し余裕があるのだ。


 これらの約百名ほどの悪魔騎士デーモンナイト達からは対面するようにして、部屋の前の方には、九つの大きな椅子がしつらえてあった。その椅子は中央に特に大きな玉座のような椅子がありその左右に四つず椅子が並べられている。その九つの椅子はどれも豪華な作りの椅子であった。


 中央の玉座のような椅子いすには正に地獄の君主に相応ふさわしい恐ろしい容姿ようしの悪魔が鎮座ちんざしていた。そして左右の四つずつの椅子にも魔界の高級貴族らしい高価そうな甲冑をまとった悪魔達がすわっていた。


 ここは、サタン悪魔子爵デーモンビスカウントの居城『子爵城』(ビスカウント・ハウス)の大広間であった。


 玉座にはサタン悪魔子爵デーモンビスカウントが座り、その左右に四人ずつの上級悪魔貴族ロイヤル・デーモンロードが座していた。向かって左側の四名は悪魔男爵デーモンバロンであり、右側の四名は悪魔従男爵デーモンバロネットであった。


 さらに、この大広間に連なる部屋があり、その部屋には、四人の悪魔男爵デーモンバロンとさらに四人の悪魔従男爵デーモンバロネットの直属の部下である悪魔騎士デーモンナイト三十八名が控えていた。



 彼等は今定例の会議を開いていた。


「閣下。神殺しの民(いにしえびと)などと言う世迷言よまよいごとを本当に信じておられるのでしょうか」

 二十五人の軍団長の一人が発言した。


「ハウント将軍。お主の発言ももっともだ。この『子爵城』(ビスカウント・ハウス)にはまともに神殺しの民(いにしえびと)と闘った経験のある者は皆無だからな。ワシも似たようなもんだが」

 同じ二十五人の軍団長の一人が発言した。


 ハウント将軍と呼ばれた男は余計な事をしゃべるなと言わんばかりに今発言した同僚をにらみつけた。


「いや。私の言いたいのはあの貧相な村人どもがそのような伝説上の存在なのかはなはだ疑わしいと言う事だ」

 ハウント将軍が意見を述べた。


 その時、玉座の左側の男爵席のほうから恐ろしい声がかけられた。

「お前と同様の意見は多いなハウント」

 発言したのは玉座から一番離れた席に座っているサバンド悪魔男爵デーモンバロンだ。彼は話しながら口から恐ろしい酸の霧を溢れ出させている。


 ハウント将軍はサバンド悪魔男爵デーモンバロンの威圧感に気圧けおされ思わず低頭ていとうしていた。玉座から一番遠い男爵のサバンドですらこれ程の威圧感を発揮する。玉座に近くなる程レベルが高いと言われていて男爵達の実力は計り知れない。


 頭をあげたハウント将軍が周りを見ると、彼の左右の将軍達がサバンド悪魔男爵デーモンバロン闘気バトルオーラの余波を喰らって体を強張こわばらせている。彼等はトバッチリを受けたと言わんばかりに忌々(いまいま)しそうにハウントをにらみつけている。


「ハウントの言うように、マム村の貧相な村人が神殺し(いにしえびと)でないというなら蹴散らせば良いだけの事だ。ハウントよ。それ程申すならお前の軍団で蹴散して来たらどうだ」

 サバンド悪魔男爵デーモンバロンが言った。


「は?」

 さすがのハウント将軍も軍団を派遣せよと言う言葉に我が耳を疑う。マム村を掃討する程度で軍団を出すのはどうかと言いたいのだ。


 この時、別室に控えていた悪魔騎士の方から声が掛かった。

「お待ちください。お歴々の皆様」


 皆の顔が発言者の方に向いた。発言したのはミマール悪魔従男爵デーモンバロネット麾下きか悪魔騎士デーモンナイトの一人アガサナスだった。


 彼は直臣じきしんよりも一段格下の陪臣ばいしんの身分だった。今風に言うなら本社役員と子会社役員の違いと同じで、悪魔騎士デーモンナイトと言っても格が下がるのだ。


「閣下。我が臣。アガサナスより発言がしたいとの申し出でございます。発言を許可してくださいますか」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットが発言の許可を求めた。陪臣ばいしん直答じきとうが許されないのだ。


 しかし、サタン悪魔子爵デーモンビスカウントはミマール悪魔従男爵デーモンバロネットの発言を全く無視した。


「ハウントよ。サバンドの言う通り蹴散らして来い」

 サタン悪魔子爵デーモンビスカウントは指向性のない闘気バトルオーラを放ちながら言った。


 大広間と別室にいる全ての悪魔貴族デーモンロード達は一挙に何倍もの重力()が掛かったかのように身体を平伏した。悪魔男爵デーモンバロンや悪魔従男爵とて例外ではない。椅子から滑るように床に降りて平伏している。それ程、悪魔子爵デーモンビスカウント闘気バトルオーラは恐ろしい圧力を持っていた。





「おい。アガサナス。いきなり発言するから心臓が口から飛び出しそうにったでは無いか」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットが言った。


「申し訳ありません」

 アガサナス悪魔騎士デーモンナイトはミマール悪魔従男爵デーモンバロネットの前にひれ伏す。


「それで何が言いたかったのだ」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットが尋ねた。


「はっ。私は考古学が趣味なのですが、今から千七百年ほど昔に先先代の子爵閣下とマム村の神殺しの民(いにしえびと)との間で行われた戦いの記録らしきものをいくつか見つけたのです」


「記録だと。そんな昔の記録を記した紙など残ってはいまい」


「見つけたのは古い石碑です。そのいくつかの石碑にはアベル・カバーロードという人物の名前が刻まれています。それは今のマム村の村長と同じ名前なのです。もちろん同じ人物とは思えないのですが……」


「村長とその石碑の人物とに関係があるのは確かだと言うのだな」


「はい。更にいくつかの石碑には大魔王サタン様を復活させる事が悲願ひがんであると書かれていました」


「そんな事が書かれているのか。我等のご先祖様は、大魔王サタン様が滅ぼされた事に大きな悲嘆ひたんを感じ復活させる事を本気で考えていたのであろうよ」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットが言った。


「そうですね。しかしそんな悲願を持って行ったマム村の襲撃は相当大規模だったに違いありません」

 アガサナス悪魔騎士デーモンナイトは呟くように言った。


「何が言いたいのだ?」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットが怪訝な顔をする。


「つまり、マム村はその時にハウント将軍の仰る通り滅ぼされて今の見すぼらしい村民どもが住むようになったのか、或いは本気で攻め滅ぼしにかかった我等が逆に撃退されたかどちらかなのです」


 しかし、村長の名前が昔の英雄と同じだという事は昔マム村は悪魔を撃退したのでは無いかとアガサナスは言いたいのだがそこまで言わなかった。


「まぁ、良いでは無いかハウント将軍が負けてもどうと言う事はない」

 ミマール悪魔従男爵デーモンナイトが不思議そうに言った。


「相手を過小評価し、軍団を逐次投入するよな事になってはと」


「どうしろと言うのだ?」


「全軍で攻める訳にはいかないですか」


「馬鹿なことを。全軍など動かせるわけがあるまい。サタン悪魔子爵デーモンビスカウント閣下は本気でマム村を滅ぼす気などは無い。お主の言っているように本当にそのマム村の村長が『いにしえの神殺しの英雄』の子孫が何で我々を撃退する力があったとして彼等はなぜあんな愚にもつかぬ土地にしがみついていると言うのだ」


「それが謎です。しかし、我々サタン悪魔子爵デーモンビスカウントや我々もこのような辺境の領主であることもせません。大魔王ルシファ様か悪魔皇帝ベルゼブブ様に願い出れば我々ほどの実力があれば中央の悪魔侯爵デーモンマーカスや伯爵の位ぐらいは頂けるのではないでしょうか」

 あわよくば自分も爵位貴族になりたいのだ。


「なかなかこのように立派な『子爵城』(ビスカウント・ハウス)を捨てる事はできぬのだろう」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットがため息混じりに言った。


 実は中央から引き抜きが来ているのだ。家臣団の中にはそれに乗る事を主張している有力家臣が多いのだ。その事は直属の二十五人の軍団長以上しか知らない秘密だ。


 ハウントがあの様な発言をしたのも神殺しの民(いにしえびと)達とのいろいろな伝説を払拭してさっさと中央に行くべきだとの主張からだ。


 しかし、悪魔達にはマム村に手を出すのは禁忌タブーだと言うものも多いのだ。


 伝説や神話のたぐいの言い伝えや家訓があまりにも多く何を信じていいのか分からないのだ。


「しかし、そんな愚にもつかぬ事を発言するつもりだったとは。そんな事を言ったらサタン悪魔子爵デーモンビスカウント閣下にくびり殺されるぞ」

 ミマール悪魔従男爵デーモンビスカウントが恐ろしそうに言った。


 アガサナス悪魔騎士デーモンナイトは不甲斐ない自分の上司の不安そうな顔を呆れて見つめた。


「閣下。戦況を見に行ってもよろしいでしょうか」

 アガサナスが尋ねた。


「それぐらいは良いだろう。私から子爵様に了承を貰っておくお前も苦労性だな」

 ミマール悪魔従男爵デーモンバロネットが呆れて言った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 マム村に伝令として走り込んで来たのは村人達が悪魔城と呼んでいる『子爵城』(ビスカウント・ハウス)を密かに見張っている村の偵察隊だ。


 軍が出て来たら村に知らせる事になっていたのだ。


「大変だ。さすが村長さんの予言は凄い。お城から大軍が出て来たぞ」


「悪魔の旗はどんな形だった?」

 アベル村長が尋ねた。


「三角が一杯あった」

 伝令の村人が言った。


 村長はその言葉にホッと息をした。

「良かったの。それじゃ奴等はワシらを舐めきってくれているようじゃ」


「どう言うい事だ?」

 翔が聞いた。


「三角の旗という事は最強の将軍は悪魔騎士だという事じゃ。その程度ならお主達に迷惑をかけずに村人達だけでも撃退できるじゃろう」

 アベル村長が言った。

「あいつらはいつもそうだ。人間を馬鹿にしきっている。先先代の馬鹿子爵は、何度も何度も悪魔騎士を送り込んで来た。先代の子爵は一度も挑んで来なかったが」


 珍しくアベル村長が強い口調で言った。アベル村長は大勢の死んでいった村人達の事が頭に残っているのかもしれない。


「村長。悪魔達はどれほどでここまでやって来る?」


「そうじゃな五時間ほどかの」


「俺は復活都市の聖母と話をつけてくる。今回は村人から死人が出ない事を祈ろう。ただ復活は場合によったら転生できない事がある。その辺の事は村人と良く話し合っててくれ」

 翔が村長に言った。


「死人が出ないなど考えられんが」

 村長は不思議そうだ。

「ワシも若い時はそれなりに頑張ったもんじゃが」


 アベル村長は勇者と呼ばれていたまだ元気だった時を思い出していた。


「爺さん。何だか寂しそうだな」


「そうだの。長生きはしとうはないの。皆死んで行った」


「しかし爺さん。そんなにつまらなそうな顔をしてまでどうしてそんなに頑張るんだ。大切な人がみんな死んじゃったら意味無いだろう」

 翔が不思議そうに尋ねた。


「しかし、寿命だからな」

 アベル村長が言った。


「じゃ、どうして爺さんは長生きしてんだよ。自分だけ生きてたんじゃ意味無いだろう。サタンだとか世界を救うだとかそんな事よりも周りの者を救えば良いじゃ無いか。俺なら好きな人と楽しく生きれるように頑張るがな。サタンが生きていたって世界が無くなる訳じゃないだろう。爺さんがサタンを眠らせている間に八人も魔王が生まれているじゃないか。この芹那せりなも入れたら九人目だ。それが皆、『エロヒム』だかその偽物だかによって作られているとすると爺さんは良いように操られているんじゃないか」


「そうかも知れんの。今度でサタンを解放して、ワシは村人とともにもっと生きやすいところに移るのも良いかもな。『エロヒム』様がワシにサタンを眠らせている一方でたくさんの魔王を作っていると言うのはあまりにもおかしい事だ」

 アベル村長が感慨深かそうに言った。


「そうしなよ。そんなくだらん事で村人の命を犠牲にするなんて無駄も良いとろだ。とにかくサタン子爵の先遣隊をやっつけてからだな」





 翔と聖母マザーサラが二人の復活の天宮の職員を連れてマム村にやって来た。翔が魔法で復活の天宮をアベル村長の屋敷に作った。


「ヌーブ。お前は俺達と来い」

 翔がヌーブを呼びつけた。「じゃあ、悪魔達が来るのを待つか」


 ヌーブは少したじろいだが黙ってついて来た。アベル村長とルルが彼等と一緒について来る。村人は一先ず待機させた。


 翔達は、村から小一時間ほど歩いてから悪魔の軍団が来るのを待つ事にした。見晴らしの良さそうな広々とした。空間だ。


 この辺は全く光源が無いので薄暗く前がよく見えない。


「爺さん。面倒なのでこの辺一帯を明るくしても良いか?」

 翔が尋ねた。


「こんなところで魔法を使っては魔力の浪費にならんかね」

 村長が尋ねた。


「ははは。『光沢フルライト』ごときで魔力がどうのとは大袈裟な爺さんだな。あんたもレベルが330もあるんだろう。魔力は低いのか?」


「いや。そもそもワシは『ライト』しか使えん」

 アベルが答えた。


「爺さん。そんなショボい魔法で良くサタンを倒せたな」

 翔が不思議そうに言った。


「ああ。不意打ちで眠らせた」

 アベル村長がケロリと言った。

「ワシは魔王直下の剣士として領地を貰っていたからな。用心深い魔王の警戒心が無くなるまで二千年もかかった」


 アベル村長の作戦はなんとも悠長な作戦だ。翔には信じられない。


「とにかく明るくするぞ。ジメジメして鬱陶うっとうしい。『光沢フルライト!』」


 翔の唱える『光沢フルライト』の魔法はユグドラシルの人々が唱える『光沢フルライト』とは全く別物だ。その効力でマム村のある辺境空間の全てが明るくなった。


「ほう。これは大それた魔法じゃな。こんな魔法を使えばそれこそ魔力の消費が馬鹿にならんだろう」

 アベル村長が驚愕して言った。


「だから。爺さんと一緒にするな。これしきの魔法などたかが知れている」

 翔が面倒臭そうに答えた。


「眩しいの。これだけの明かりがあればマム村も繁栄しそうだの」

 光は魔界にとっては貴重なのだ。

「しかしこの明かりはどれくらい持つんじゃ」


「分からんな。二、三年じゃないか。しかし夜になったら消さんとこんな状態じゃ眠れんだろう」

 翔が尋ねた。


「いやいや。せっかくかけてくれた魔法を消さんでくれ」

 アベル村長は必死で否定していた。


 翔が悪魔の軍団と戦うのは二度目だ。地表の縦穴フェラシオス付近で悪魔ノスフェラトー達十万と戦った。


 その時は、超階位オーバーコート魔法の『核爆発ニュークリアエクスプロージョン』で全滅させたが今度はもう少し強い悪魔が親分らしいのでそう簡単にはいかないかもしれない。


 翔は魔法で椅子を出して座って待つ事にした。


「『創造クリエート』!」

 翔が魔法を展開する。


 何も無かった地面に豪華なソファーが突然出現した。


「おお。あんたはそんな魔法も使うのか。見た事の無い魔法じゃな」

 村長が驚く。

「実に実用的な魔法だな。創造魔法か」


「いや、この魔法は名前は創造なんだが、本当の創造魔法クリエートマジックとは違う。本当の創造はなんだか分からんがメチャメチャ魔力を消費するんだ。それこそあまり実戦向きじゃない。この『創造クリエート』は、実際は物質変換魔法だな。下の石ころをソファーに物質変換したのさ」

 翔が説明した。


「物質変換か。しかしそんな魔法ができたら暮らして行くには便利そうだな」

 アベル村長はいつにもなく食いついて来た。


「金は作ってやらんぞ」

 翔が言った。

「あまり魔法で金を作るとインフレになっていい事は無いからな。俺達の生活のために必要最低限しか作らん」


「あの金貨も『創造クリエート』で作ったのか?」

 アベル村長は翔達から貰った金貨の事が気にかかるらしい。


「ああ。そうだ」


「何とも桁外れな人達だ」

 アベルが吐息混じりに言った。


「まぁ、村長も座んなよ。あんたの転生前の世界では『創造クリエート』は無かったのかい?」

 翔が尋ねた。


「ああ。ワシの世界はどちらかと言えば剣技が中心の世界だった。ワシらの世界の魔法は発動する迄恐ろしく時間がかかるので実戦向きじゃない。そこで魔法は主に武器にエンチャントする事でアイテム作りとして使われるのが盛んじゃった。ユグドラシルの魔法はワシの世界では驚異の魔法だ」

 アベル村長が答えた。


「そうかい。あんなショボい魔法がな。それじゃ、爺さんもエンチャントとか使えんの?」

 翔が尋ねた。


「このワシの剣はワシがエンチャントで作った剣だ」

 アベル村長が腰からさやごと剣を取って翔に渡した。


 翔はそのなんでも無さそうな剣を取って抜いてみた。


 アリスからの情報が示される。


『カバーロードの佩刀はいとう。レベル103。攻撃力+58。光属性』


 なるほどと翔は感心して剣を見た。今迄見た魔法の剣の中では飛び抜けて魔法の効力が高いようだ。


「爺さん。この印が魔法の定着素ていちゃくそだな。魔法陣じゃないが何なんだ?」

 翔は剣に刻まれている模様をさす。


「これはワシの前の故郷の神代文字じゃよ。文字に魔法の力が宿っていると言われている」


 アベルは何も隠すつもりはないのか、神代文字を教えてくれる。


 翔は、それぞれの文字から展開されている魔法の術式を分析しどのような魔法が発動しているのかを解読して行った。


「爺さん。この神代文字は七つ属性を持っているようだな」


「おお。この説明だけでそこまで分かるのか」

 アベル村長が驚きの声を上げた。


「俺は魔法の天才だからな。あらゆる魔法に通暁つうぎょうすることを目指している」

 翔が偉そうに言った。


「確かに、ワシがこの神代文字を使えるのも鑑定能力の賜物だがお主はそれ以外の魔法に関する能力が有るのだろうの」


「まぁ。そんなところだ。メロ。奴等はそろそろか?」

 翔がメロに尋ねた。


 最近ではメロの探知能力は翔よりも優れている。


「七キロ。七千ぐらい。みんな弱い」

 メロが即答する。


「何? そんな事も分かるのか」

 アベルが重ねて驚いた。


「爺さんは昔、レベル700もあるサタンと互角に渡り合ったんだろう。俺達がする事ぐらい屁でもないだろう」


「いやいや。ワシはせいぜいレベル500が最大だった。あんた達みたいな化け物と一緒にせんでくれ」

 アベル村長がぼやくように言った。


「二万年近く生きてるあんたが化け物だろうが」

 翔が反論する。


「来たよ」

 メロがペロペロキャンディを舐めながら言った。緊張感のカケラもないのは何時もの事だ。昔、魔法を使うのも怖がっていた姿は想像もできない。


 確かに悪魔の軍団が目の前にやって来るのが見えた。


「アメリア。レイラ。今回はお前達の召喚魔法で精霊を召喚してみろ」

 翔が命じた。


「精霊は少し難しいぞ」

 アメリアが豊満な胸を持ち上げるように腕を組みながら言った。


「まぁ、何事も練習だ。頑張れ」

 翔はアメリアの悩殺ポーズに鼻の下を伸ばしつつしかし言葉はしっかりと命じた。


「あなた達は、精霊魔法も使えるのか?」

 アベルが呆れて聞いた。


 アメリアとレイラは椅子から立ち上がると、相談しながら魔法をかけ始める。


 彼等と悪魔達の間に薄ぼんやりと光が瞬くと無数の精霊達が現れた。


「おお! あんた達。これは精霊の軍隊召喚か? どれだけ凄い魔術師なんだ。あんた達は」

 アベル村長は口を大きく開いて言った。ヌーブもルルも開いた口が閉じられないようだ。


 アメリアとレイラが召喚したのは、各属性の精霊達だ。精霊は皆美しく神秘的なたたずまいをしていた。


「少ないな」

 しかし、翔はダメ出しをする。


「しかし、精霊は気位が高いのでなかなか召喚に応じないのだ」

 アメリアが言った。


「でも、翔さん。今迄にないくらい召喚できましたよ。見てください」

 レイラは逆にはしゃいでいる。


「レイラは神格化が高まって力が増大したようです」

 アリスが説明した。


「ああ。そうだろうな。ステータスが軒並み上がっているからな。直ぐにレベルも上がり始めるぞ。しかし、あの精霊達の作る戦線では悪魔達を止められないだろうな。じゃヌーブ。お前の訓練だ。こっちに来い」

 翔が命じる。


 先程からの翔達の魔法に驚いているヌーブは、ビクリとして翔の呼びかけに駆け寄る。


「はい。何でしょうか翔様」

 アリスの真似をして翔様と呼んでいる。


「そのままじっとしていろ。お前にさっき爺さんから教えて貰った神代文字を使った武具を作ってやる。多少は戦いの足しにはなるだろう。見た所、お前はあの悪魔達よりもずっとレベルは高いが、闘気バトルオーラがうまく使えないのであいつらの中級以上の奴らと渡り合うには少しきついだろう。とにかく死ぬ気で頑張ってみろ。頑張っているうちに闘気バトルオーラの使い方をマスターできるかもしれん」

 翔はそう言うと見事な武具をヌーブに作ってやった。

「そいつは、自動で体にフィットする武具だ。お前が縮んで綺麗になってもフィットするはずだぞ」


 ヌーブは翔が作り出した魔法の武具を見て目を輝かせた。


「わぁ! 私にも作ってくれたんだね」

 座っていたルルが叫んだ。


 ついでにルルにも魔法の武具を作ってやったのだ。


「本当にあんた達は」

 アベル村長は呆れて二の句が告げられないようだ。



騎兵大佐(カーネル・キャバリエ)様。敵の戦力はいかほどでしょうか」

 尋ねたのは悪魔軍団の中隊長である騎兵中佐ルテナント・カーネル・キャバリエだった。


「マム村の戦力など、高が知れておろう」

 騎兵大佐(カーネル・キャバリエ)が吠えるように言った。


「しかし、我が家の家訓では『サタン様殺しの《勇者》に関わるな』と……」


「迷信だろう。どちらにせよ、俺達近衛騎兵の出番は無いだろう。戦うのは最前線の騎兵キャバリエ歩兵ウォリアーどもだ」

 二人の会話には全く緊張感が無かった。


 二人の会話はハウント将軍にも聞こえていた。

 悪魔騎士デーモンナイトとして軍団を預かる彼は、レベル180で軍団長の中でもレベルが高い方だ。自信と実力のある自分に誇りを持って生きてきた。部下達もレベル100超えがかなりいる。魔界(ヘル・ヘルム)の最強種としての魔族の長の一人として絶対的な自信を持っていた。


 今回の遠征は彼にとっては兎狩うさぎがり程度の意味しかない。


「おい。騎兵大佐カーネル・キャバリエ。この辺はこんなに明るかったか?」

 ハウント将軍は、空間の天井のあたりにある光源を眩しそうに見ながら言った。


「さて。薄暗くて見すぼらしいという印象でしたな」

 騎兵大佐(カーネル・キャバリエ)が答えた。


 ハウントは首を傾けながら周りを見た。


「閣下。前方に人影です」

 部隊の前から伝令が叫びながら報告した。


 ハウント将軍があぶみに立ち上がって前方を透かし見た。遠視魔法で見る。


「何だ。椅子に座っているようだな。そこそこレベルは高そうだが。あの大きいのがリーダーか。レベル100は超えているな」

 ハウント将軍には闘気バトルオーラをダダ漏れさせているヌーブが一番強いと見えるのだ。

「確かに、人族としては最高の戦士だろうな。しかしあの人数でどうするつもりだ、馬鹿どもが」

 ハウント将軍は口に嘲笑浮かべて呟いた。そして興味を無くして馬のくらに坐り直した。


 ハウント将軍は面倒臭そうに手を挙げると振り下ろした。

「蹂躙してこい」


 その時だった。突然、軍の前に光がさすと、精霊達の群れが出現したではないか。この数はざっと数千もいる。


 突然の出来事に馬が驚いて棹立さおだちしていなないた。


 慌ててハウントはあぶみに足を突っぱねてくらつかまる。


 一瞬、先程聞いた部下の話が頭をよぎった。それは『サタン様殺しの《勇者》に関わるな』という家訓だ。


 嫌な予感を振り払いハウント将軍は馬を立て直して、叫んだ。


「全軍。あの精霊どもを蹴散らせ!」



050 了

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