048 俺を頼りにするなよ
さて、翔には二つの命題が課せられた。①ヌーブを使い物になるように鍛える。②サタン悪魔子爵を撃退する。
まず①だが絶対無理だ。ヌーブはどう見ても才能がない。
次に②だが、サタン悪魔子爵の勢力だがアベル村長によるとなかなかのものらしい。当主の子爵は魔王サタンが村娘に産ませた正真正銘のサタンの末裔で真の実力者だと言う。
またサタン悪魔子爵の部下も、元サタンの配下だった大悪魔の末裔達なだけにかなり手強いらし。普通の悪魔子爵の軍に比べ大きな戦力だと言う。
さらに、普通の悪魔子爵の場合なら、せいぜい十の悪魔軍団を持つのが限度なのに、サタン悪魔子爵には二十五の軍団と七十二人もの悪魔騎士の配下がいるという。しかもその七十二人の悪魔騎士がとんでもなく強い者が勢揃いしているらしい。
「おい。①は論外。②は俺達では役不足だ」
翔が首を左右にブンブン振りながら言った。
「ヌーブはああ見えてワシの直系の子孫だ。素質はあると思う」
村長の意見だ。
「サタン悪魔子爵は確かに悪魔貴族としても一流だ。実力やレベル等はさらに高級な爵位貴族と同等の実力者だ。しかしあんた達なら何とかなるだろう。村人達もそれなりに役立つはずじゃ」
「何を根拠に俺達なら大丈夫だって言ってるんだ?」
「あんた達は、皆レベルは悪魔伯爵級だろう。しかも驚いた事に九人もいる。とくに翔殿は、私の鑑定ではなかなか面白い事になっている」
村長が言った。
「おい。不用意な事を言うんじゃねぇ。俺達は一人も闘いなんぞで命を落とすのはごめんだ。絶対に勝てる時だけ闘う」
翔が宣言するように言った。
「あるいは……」
「復活作戦ですわね」
魔人イリスが翔の腕にぶら下がりながら言った。彼女は小さな体に不釣り合いな大きな胸で翔の腕を挟むようにして掴まっている。
翔はイリスの胸をチラ見してから。
「そうだな」
ニヤケ顔で答えた。
「橘君。ダメよイリスちゃんにそんな事をさせちゃ」
魔王葵芹那が翔を批判する。
「俺がさせてるんじゃねぇ。イリスが勝手にやってるんだよ。そうだろうイリス」
翔が抗弁した。つまらん指摘をするなと子供のように主張している。
葵芹那には妹分のイリスがまだ少女に感じてしまって仕方がないのだ。
「ええ。翔様以外の殿方にこんな事はしませんわ」
イリスはさらにギュッと翔の腕を両方の胸で挟み込みながら言った。
因みに翔の反対の腕(左腕)はアリスが常にキープしている。もちろんアリスはイリスのように胸で腕を挟むなんて事はしないが、腕に掴まる以上、アリスの胸は自然に翔の腕に当たっていることは無論だ。アリスも決して小さな胸ではない。
さらに一言付け加えると、翔の背後はレイラの好みの位置だ。翔が歩いている時に突然立ち止まるとレイラの胸が翔の背中に当たる形となっている。
以上は翔にとっての胸標準における美少女達の位置関係となっている。美少女達の胸が当たるとセンサーが過剰反応してしまうのは男のサガである。
「復活作戦とは何じゃ?」
村長が尋ねた。
翔は村長に復活魔法を利用した不死軍団作戦を説明してやる。
「復活障害を取り除く魔法が……。なるほど天使の特殊技を応用したのですか。それは凄いですな」
村長はしきりに感心した。
「やはりあんた達は凄いな。私はサタンを攻略するのに何千年も掛かったのに」
「いやいやむしろ、何千年もかけてでも攻略した爺さんの方が凄いぞ」
翔が逆に褒めた。
その時、メロが体ごと翔と村長の間に遠慮なく割って入って来た。メロの傍若無人ぶりはいつもの事だ。スッと翔の胡座の上に座り込む。
「村長ちょー」とメロは語尾を伸ばしてアベル村長のことを呼び。「鑑定教えて」
「いきなりだな」
翔が突っ込むが確かに鑑定は便利そうだ。
「私の依頼を完遂したらいくらでも教えて進ぜる」
村長が軽く答えた。
「メロ。今回は簡単には行かないぞ」
翔が釘を刺した。
「助けてやろうと思って全力で作戦などを考えているがどうも依頼の難易度が高すぎる」
「翔。おかしい。アメリアの敵の悪魔バルバルスは公爵なのにやっつけるって言ってる。サタンの方は子爵。それにヌーブも私達の最初なんかよりずっと強い」
「メロ。サタン子爵の方は何とかなるとは思うがヌーブの方はな……。因みに村長。ヌーブはどれぐらいのレベルに鍛えたら良いんだ?」
「レベルでは無いんじゃよ」
「どう言う事だ。サタンを眠らすのにレベルを上げないとできないんじゃないんじゃないのか?」
「この子は、多分才能が漏れ出すタイプだと。あの膨れ上がった身体は我が故郷では肥大症と言ってな、魔力が身体を大きくする方向に働いているんだ。その点、ルルは魔力が身体の強化に回っておりそのまま強さに繋がっておるんじゃ。その調整ができるようになればヌーブはもっと強くなる」
村長が説明した。
「ほう。あいつは今より縮むのか。そうなれば相当可愛くなるな」
翔の瞳がキラリと光る。
「翔。何かムカつく。可愛い子と、そうじゃない子とで差別してる!」
メロが目を怒らせて翔を見上げる。
(当然だろう)
と、翔は心の中だけで呟いた。
しかし、チラリとアリスが翔の方を向いた。
(ああ。お前、俺の心の声は聞こえないようにするって言ってただろう)
翔がアリスを批判した。
しかし、アリスは知らぬ顔をしている。
翔が大きなため息をついた。
《殿方は美人がお好きですわね。でもララさんはあんな感じでもとても可愛らしいんです。きっと村長さんの仰る肥大症を治せば大変美しくなられるでしょうね》
アリスが言った。
(お前! やっぱり聞いてやがる)
《翔様とはこの形でお話しするのがやっぱりシックリします》
サラリとアリスは言った。
確かに心が繋がっているように感じる。
(まぁ。これも良いかもな)
アリスの返事は無かったが嬉しいという感情が伝わってきた。
(因みにアリス。この爺さんの事は世界樹ネットには何も情報がないのか)
《はい。世界樹にある情報は一万年前ぐらいまでが限界なのです。それより古いものはその後の影響で改変されていて信憑性が低いのです。村長さんが活躍されたのは一万年以上前の事ですから》
(そうだろうな。俺達の世界でも古い情報はどんどん変化して訳がわからなくなっていたよ)
《古い時代の情報は、村長さんの知識の方が正しい可能性があります》
(そう言えば、竜王の話なんか興味深い事を言ってたな。セーラのあの古代竜の事とか、葵の転生時の『エロヒム』の事とか聞いた方が良いよな)
《はい。村長さんには学ぶ事も多いでしょうね》
翔は、メロの金色に輝く頭髪を撫ぜながら考えに浸る。
「翔。アリスと内緒話?」
メロが鋭く尋ねた。
「ああ。こいつは昔みたいに話したいそうだ」
翔は隠さずに伝える。度々トランス状態になってはバレバレだからだ。
「それの方が色々都合のいい事も多い。俺はこの世界の情報が足りないからな」
「ふーん」
メロは興味無さそうに答えた。誰が誰と何をしようとそれはその人の考えるべき事。それがメロの発想原点だ。自然人らしい反応だと翔はメロの頭をまた撫でる。
見回すと他のメンバーも反対する様子は無かった。
「皆の許しが出たぞ」
翔が声を出してアリスに言った。
「ありがとうございます」
アリスが翔の真似をして皆に一礼する。
「その礼の作法はなかなか、様になって来たな」
アメリアが笑いながら言った。
「ところで、ヌーブ。いやララだったっけ。お前はどうなんだ。変わりたいのか?」
翔が尋ねた。
「ルルみたいになれたら嬉しいけど」
ヌーブが答えた。
(アリス。ヌーブの肥大症は、俺達の闘気の練成と同じような種類のものなのか?)
《たぶん。セーラさんがヌーブさんの事を古代竜みたいと言っていたことも考え合わせれば、どちらかと言えば変身系のエネルギー変換だと思われます》
(分かった。いろいろ試してみるか?)
「村長。ヌーブをもう少しスマートになるぐらいに強くする事も悪魔子爵の事もできる限りの事はやってみよう。しかしどうなるか分からんぞ。そして力を貸す代わりに、爺さんの鑑定能力の事を含めてあんたの一万八千二百七十六年間の知識を貰いたい」
「お安い御用だが。何を知りたいのだ」
「先ずは鑑定の事だが、その他は『エロヒム』と爺さんの関係だ。俺達の中にも『エロヒム』に仕事を頼まれた奴がいるんだが」
「ああ。『エロヒム』様か。ワシが転生した頃は、悪魔達の世界と言って良いぐらいの世界だった。それは魔王サタンが強すぎたからだろうな。ワシが魔王サタンを眠らせてからは『エロヒム』様からは何のメッセージも来なくなったな。それまでは度々、『勇者、カバーロードよ……』って干渉して来ていたもんだったが。それに魔王を倒してからは見ての通りレベルが下がり始めたからな。幾ら修行しても効果がない。、これも『エロヒム』様の思し召しだろう」
(どういう事だ。『エロヒム』はこの爺さんの頃は悪魔を退治しようとし、葵の時は魔王を創ろうとしたり終末を起こそうとしたり)
《パワーオブバランスでしょうか》
(なるほど。そいつはいっそ神様らしい行為だな)
《しかし、人類滅亡とかはさすがに》
(逆に俺たちの元の世界では終末好きの神様が多いぞ。この爺さんの話からは『エロヒム』は敵か味方か分からんな)
「どうも、イリスも葵も『エロヒム』をターゲットにするのは早計みたいだぞ」
「橘君。でも『エロヒム』はこの世界は魔王が正義だって嘘ついていたのよ」
葵芹那が怒って言った。
「それに事故の女の子を助けて欲しいって言ったのに私の転生のための囮に使うなんて最低よ」
葵は相当怒っているようだ。それにイリスへの仕打ちはあまりにあまりだ。確かにそんな奴をタダで放っては置けない。
「しかし、村長を転生させた『エロヒム』とイリスや葵を転生させた『エロヒム』が同一だと言う証拠もないしな」
翔が指摘した。
(俺の転生の時の事を考えれば転生なんぞはあのバカ天使ですら可能なんだからな)
《そうです。天使レリエル様も何故か転生の作業にこだわりを持たれていました。もしかしたら『エロヒム』様が関与されていた可能性も否めません。そもそも運命女神フォーチュナー様が転生車輪と言う大切な神器を一介の天使に任せたのも不可解です》
(考えても答えは出なさそうだな)
翔が結論付けた。
「もう一つは、夢燦河の竜王神話だが、爺さんの記憶では、アース神・ヴァン神連合軍とオリュンポス神・龍神連合軍との戦争でオリュンポス神が裏切って炎の土地に封印されたと言う事だな」
「その事は、そこのお嬢さんの方が詳しいんじゃないか」
村長がセーラを指して言った。
その指摘に少し離れて座っていたセーラが皆の輪に入って来た。
「すみません。翔。実は私は、その炎の土地から来ました。私の両親は、母が人間と古代竜のハイブリッドで父が純正の龍神でした。つまり私の血の中には人間が四分の一流れているクォーターなんです。しかし私では弱すぎて炎の土地では生きて行く事が出来ず古代竜の祖父から竜王リュガナシー・イリの封印を解いて力を分けて貰うように言われ、封印の解き方なども教わり夢燦河で封印を解いたのです」
セーラが初めて身の上話をした。
「すると、お前の古代竜への変身はまだ未完成って事か。お前は龍神の力を得る事が最終目的なんだな」
「はい。でも皆さんのおかげで古代竜になる事までは出来ました。つい最近まではもっと中途半端なドラゴンにしかなれなかったのです。本当にありがとうございます。それに夢燦河では全て私の個人の利益のために皆さんにご迷惑をかけてしまい、皆さんに真実を語る事が出来なかったのです。本当にすみません」
今度はセーラがサラサラの銀髪を前に垂らさんばかりに深々とお詫びと感謝のために一礼した。
「お前らの身の上話はもうたくさんだ。なんだか次から次に難題を押し付けられて息が詰まりそうだぞ」
そういうと翔は両手を広げて大きなため息をついた。
☆
酒盛りは一旦中止し、翔達は、村長の屋敷を出ていた。大魔王サタンの封印の状態を確認する事になったのだ。
マム村の集落の中心には櫓が建てたられていてそこが魔王サタンの封印の塚だという。
狭い集落なので、櫓には直ぐにたどり着いた。櫓は石が積み上げられたもので見るからに見すぼらしく手作り感が半端ない。
翔が櫓を見上げていると。
「どうじゃ。わしがまだ若い時に積み上げて作った塚じゃ」
村長が自慢するように言った。
(まぁ。時代物としては化石級なんだろうが。これではサタンも収まらんよな)
翔は心の中でバカにするが黙っている。
塚には入り口があり、中に入れるようだ。
入り口を見ると中から独特の威圧感が感じられる。これが本物の魔王の威圧感なのかと驚いた。
「葵。お前のチンケな闘気とは桁違いだな」
翔が指摘した。
「本当ね」
しかし、葵芹那は素直に認めるだけだった。
「ここからは、村人は入れん。村でここに入れるのはワシとルルだけじゃ」
村長が言った。
「分かったよ。ヌーブをこの中に入れるようにし鍛えろって事だな」
翔はげんなりして言った。これはなかなか厄介そうだと思ったのだ。
「この中はどうなっているんだ?」
翔が尋ねた。
「入ってみよう」
村長が何事でも無いように言ったが、その中は翔の想像をはるかに超えていたのである。
048 了
ドラゴンの住む炎の国はヨートゥンヘルムではなくムスペルヘルムでした。訂正しました。2017年2月12日




