045 ドラゴンの肉はいらんかえ?
ユグドラシルの地下の世界。そこは張り巡ぐらされた世界樹の巨大な根によって構成された複雑で広大な世界が広がっていた。
その世界が地下だからと言って馬鹿にしてはいけない。
惑星そのものと言っても良いほどに巨大な世界樹を支えるために巨大な根が地中を張り巡っている。ユグドラシルの地下世界は、世界樹の根が作り出した複雑で巨大な世界なのだ。
ユグドラシルの根は太いもでは半径が数百キロに及ぶほど巨大なものである。あまりにも巨大すぎるためにその中には様々な生物が生きている。
また張り巡らされた根と根の間の地下にも無数の巨大空間が存在し、その空間の総面積は地上のミッドガルドの何十倍にもなると言われている。
それらの大空間が世界樹の根のネットワークに繋がれ複雑な地底世界を構成しているのである。
その広大で複雑な空間を総称して魔界と呼ぶのだ。地下世界には、魔界以外にも妖精の世界であるニダベリルやアース神の世界であるウートガルザ、オリュンポス神の大柱の一人ハデス神の支配する冥界なども存在する。
☆
それらの広大な魔界を支配するのは悪魔達だ。悪魔達は巨大であり強大である。
悪魔の筆頭が誰か、それは誰にも分からない。定説では熾天使から堕天使として魔界に落とされたルシファーであると言う者もいるし、伝説化したサタンであるとする者や魔族の最強である悪魔皇帝ベルゼブブだとする説も根強い。
悪魔にはこの他にも七人もの魔王が君臨している。バエル、ピュルサン、ビレト、ペイモン、ベリアル、アスモデウス、ザパンであり彼らも四方に君臨する強大な悪魔である。
悪魔には爵位を有する高級貴族が六百六十六人も存在するのである。その内訳は、二十三人の悪魔公爵、三十人の悪魔侯爵、七十二人の悪魔伯爵、八十八人の悪魔子爵、百三十九人の悪魔男爵、三百十四人の悪魔従男爵である。
これらの高級悪魔貴族は、各々が悪魔軍団を支配していると言われている。
例えば大悪魔アスタロトは、悪魔公爵の高位の悪魔貴族であるが彼は四十の軍団を率いる大公爵である。
各軍団を指揮するのは、下級悪魔貴族たる悪魔騎士だ。
しかし悪魔騎士を下級貴族と侮ってはならない。悪魔騎士は配下として六千六百六十六人の悪魔を支配するといわれる悪魔の軍団長なのだ。
四十の軍団を率いる悪魔大公爵アスタロトの場合、四十人の悪魔騎士を含む二十六万六千人の悪魔を支配する大領主と言うことになるのだ。その数だけでも驚きの軍団であるが、悪魔は一騎当千の強力な戦士揃いなのだ。地上の王国の貧弱な軍隊とは全く比較にならない。
ちなみに全ての下級貴族の悪魔騎士を合わせると総数六千六百六十六人もいると言われている。そのあまりにも多い数からして眉唾であるのだが、その数から悪魔の総数を単純計算すると悪魔の軍団の総勢は、四千四百四十三万五千人となる。
しかし、実際の悪魔の総数などは数えた者がいない。
悪魔達の実際の状況は、ウコバクを例にすると分かりやすいだろう。彼は爵位悪魔の中では最下位の悪魔従男爵であり、ギリギリ上級貴族の内に入る爵位貴族である。しかしたった一人の下級貴族である悪魔騎士ですら配下に持っているわけでもなく、部下と呼べる悪魔も数百人から千人が限度。彼の上司である悪魔皇帝ベルゼブブから兵役を課せられて、慌てて大悪魔のバルバルス配下の悪魔騎士であるノスフェラトーの軍団を借り入れて体裁を整えようとした。
このように爵位貴族と言っても実情は様々なのだ。しかしあくまでもウコバクは悪魔の中でも文官なのでノスフェラトーなどの武官とは部下の数なども事情が多少違うので比較は難しい。
魔界の魔物はレベルが高い。それは地下迷宮で階層が深くなれば深くなるほど魔物のレベルが上がるのと原理は同じだ。それはユグドラシルの根から発せられる魔力が多くなるからで、ましてやユグドラシルの根の世界である魔界においては魔力の発生地点そのものであるため、自然に強力な魔物が発生するのだ。
このあらゆる種類の生命体がなんの脈略もなく棲息している魔界では、盗み搾取強盗強姦ありとあらゆるおぞましい行為が日常化していると思うだろう。
その想像は、正しくもあり不正解でもある。魔界はあらゆる犯罪が犯罪とはみなされず、明らかな搾取や暴力が日常化する世界である。しかし無秩序なのかと言われれば一見すると平和な世界だと錯覚するほど秩序のある世界でもあるのだ。
なぜならこの世界には単純で明確なルールがあるからだ。それは強い者が弱い者を支配し、弱い者は己の肉を捧げて強い者の庇護を受けると言う鉄のルールだ。もちろん、人権などは無く弱い者は強い者にどの様な無理難題を押し付けられようが誰も助けてくれない世界だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【とんでもない魔界の深層】
どこにだって最果てはある。ヘル・ヘルムの最果ては最も地中深くの最も端っこの村だった。皆はこの辺りをマムの村と呼んでいる。海水が入り込みジメジメしているし、『光沢』の魔法を地下世界に行き渡らせる程に価値がない場所であるため年中薄暗い世界だ。
モグラや芋虫みたいな目の無い魔物ぐらいしか生きていない価値の無い土地だ。
そんなところにマムの村はある。もちろん住民も住んでいる。村にはささやかな『光沢』の魔法がかけられ薄ぼんやりとしている。
魔界の住人は、たとえどこに住んでいようと、ミッドガルドの住人と比べると遥かに戦闘力が高い。そこが人族との大きな違いであり、魔人、魔族、悪魔などと言われる理由だ。
多くは人とは似ても似つかない外見をしている。たとえ魔界の住人が人と同じ形をしているからと言っても普通の人族とは違うのである。魔物や魔人や魔族と同じような生まれ方をする生き物も多いのである。
厳密な意味で魔人は、魔精結晶から生まれた人型を指し、魔族は同じく魔精結晶から生まれた知能ある魔物を指す。しかし、ここ魔界ではあまりにも魔力が強いので魔精結晶で生まれた魔人や魔族と同じように強い個体が親から生まれた子供にも現れたりする。その違いをことさら述べても意味がない。
そんな村人の一人がそこに通りかかった時、運悪くその場にいた生命体は、絶対的強者であるドラゴンだった。レベルはおそらく200を超えている。そのドラゴンはレッドドラゴンだ。ドラゴン種の中でも特に気性が荒く炎を吐く。危険極まりない魔物である。
一般的なドラゴンは光、風などの属性を持つため、地下ではなく世界樹の枝世界に住む種が多い。しかしレットドラゴンは火山やマグマ溜りを好むため地下に住むドラゴン種なのだ。この辺にはマグマ溜りもなく火山もない。どうやらはぐれドラゴンのようであった。
ここに村人が通りかかったのだ。タダでは済まない。
体長三十メートルはあろうかという巨体だから普通ドラゴンに気づきそうなものだが通りがかりの村人は気づかなかった。
村人は、今日の糧となる獲物を狩りに出てきたのだ。手には相当丈夫そうなメイスが握られている。メイスとは先がギザギザになった鈍器、つまり金槌のような叩く武器だ。かなりの重さのメイスに見える。これなら相当な魔物を仕留める事ができそうだが、そのメイスを持っている村人も普通では無い。
身長は百五十センチそこそこととても小柄だ。体も細い。どう見ても子供か小柄な女の子にしか見えないのだ。しかし村人は、重そうなメイスを軽々と肩に担いで歩いている。さすがに魔界の住人というところだろうか。
この殆ど闇のように暗い地下に住む村人のことだ。相当に夜目は効くはずなのだが薄暗い最果ての地下深くで巨大過ぎるドラゴンが返って岩か地形に見えていたのだ。
突然、レッドドラゴンは村人の前に立ちはだかった。レッドドラゴンにしてみると村人は手軽な餌だったのかもしれない。
恐ろしい声で吠えたてた。これがドラゴンブレスだ。強い魔物には威嚇であり、弱い餌には攻撃となるブレスは普通の獲物が受ければ絶命しかねない攻撃力を秘めてる。
村人もそうなるだろうと見えたが意外にも村人はブレスでは倒れることは無かった。
目に止まらない素早さで前に飛び込むと吠え立てているドラゴンの鼻先まで飛び上がって、メイスを振り下ろした。
☆
「ルル。ドラゴンは硬くて食えんぞ」
村長が文句を言った。
「いくら大物でもこいつは餌にはならんな」
「そんな事はない。うまいぞ」
ルルはドラゴンの肉をムシャムシャ食べながら言った。
「村長は、年寄りだから仕方がないぞ。ルル」
村人がそう囃し立てた。
しかし、文句を言った村長も竜の肉をうまそうに咀嚼しているではないか。流石に魔界の住人なのだ。
「ルル。こいつはレッドドラゴンって言う凶悪なドラゴンだ。いくら神殺しの民だと言っても危険だ」
「ヌーブ。ルルは別だ。こいつは先祖帰りなのさ。守り手たるお前はルルの無謀は許せないだろうが強いもんは強い」
村長がガハガハと大声で笑った。
身長が二メートルを遥かに超える守り手と言われたヌーブは、ため息をついた。
☆
「ルル。本当に危ない真似はやめてくれ」
ヌーブがルルと二人きりになるともう一度言った。
「ヌーブ。心配してくれんのは分かるけど放っておいてよ」
ルルはヌーブの話など聞こうともしなかった。
「私はもう直ぐウートガルザかヘルヘルムの首都エルューズルニルに登って強くて優しい天使か強い悪魔貴族と結ばれて可愛い子供を沢山産むんだ。あんたに指図される筋合いじゃない」
ヌーブは、その言葉に悄然と肩を落として離れて言った。
ヌーブは決して弱いわけでは無かった。体格からしても運動の能力にしても村の中でもトップクラスだ。
村に時々迷い込んで来る魔物達を退治することはもちろん悪魔貴族のサタン悪魔子爵が自治権を侵害して攻めて来た場合に前面に出て戦う事を役目とする守り手でもある。
ただサタン悪魔子爵はもう何百年も村に攻めて来ていない。
遥かな昔には、サタン悪魔子爵は毎年の様に攻めて来たと言い伝えられているが。
村の言い伝えでは、魔王サタンを村の英雄が滅ぼしたと言うことになっている。村人が『神殺しの民』と呼ばれるのはこの言い伝えと関係がある事になっている。
しかし、この伝説にはどこか不自然なことがある。サタンともあろう大悪魔がそう簡単に滅せられるのかという疑問だ。魔王の力はたった一人で世界のあらゆる物に大きな影響を及ぼす。しかもその影響力が一段落した後も執拗に消えないシミのようにいつまでも生き残る。それが真の悪魔であり魔王と言う存在だ。
大魔王といわれた大悪魔がなぜか歴史の舞台から消えてしまい、ひ弱な地方貴族がサタンの末裔などとを称して子爵などの中途半端な存在に堕するだけの伝説となってしまっているのだ。それはとても不自然なのだ。
神殺しの民の村、マム村は人口数百人の小さな小さな村だ。住人は自分達が神殺しの民であるという伝説にしがみついて生きている。魔界の最果ての薄暗い洞窟に生きていても誇りだけは高い。
ルルは、村長が先祖帰りと言っていたように特別な存在だった。身体は小さく華奢で見た目も美しい女の子だ。一方のヌーブは、本名は、ララと言う。もちろん村の者に苗字なんてない。ヌーブとはその外見から魔獣の『ジャコウ牛』に似ているところからつけられたあだ名だ。
二メートルの身長や体型が女の子離れしていて実際には気持ち悪がられている。一方が可愛い女の子で一方が怪物のような大女なのに、強さは可愛い方が上となればヌーブの立つ瀬が無いわけだ。
しかし、魔界においては強さは一番求められる素質でもある。多少の大女のヌーブも全くモテないわけではないが取り立ててモテると言うにはルルが際立ちすぎているだけだ。
昔、ルルとヌーブは仲のいい女の子達だった。ヌーブがどんどん大きくなり、ルルがどんどん強さを表し始めると二人は好対照として村の象徴のようになった。
守り手は、村の強い者達から選出される。昔は、一万人だとか百万人もいたと言われる守り手は今ではヌーブ一人だ。強さから本来選出されるべきはルルだが、日頃から村を出て悪魔貴族のお嫁さんになると公言しているので選出されなかったのだ。
そんな村にある日、旅人達が紛れ込んできた。
☆
こんな辺境に旅人など来たのは有史以来初めての事かもしれない。
「メロ。お前の『次元転移』魔法は、大雑把すぎるぞ、ここはどこなんだ」
男の子の叱る声が聞こえた。男の子の声は翔だ。
「さて。ここはどこでしょう?」
ふざけた答えはメロだ。
マムの村はいつ魔物が入ってきてもおかしくない。いわば年中臨戦態勢なのだ。
男の子の叱り声で村人達が武器を片手に集まってきた。
「おい。お前達。どうやらお客さんだぞ」
別の女の子が発言した。アメリアである。
「招かざる客はお前達だろうが」
村の暴れん坊のゴンダーが突っ込みを入れた。
「突然、現れやがって。何を騒いでやがる」
いきなりの喧嘩腰だ。
「ああ。すまんな。このバカ娘が大雑把な転移魔法を使ったんだ。進入禁止だったのなら罰金程度で許してくれるとありがたいが」
翔が謝る。
「いや。進入禁止ってわけじゃないが」
ゴンダーが正直に言った。
しかし、翔の話を聞いていた村長が前に進んだ。
「お主。こんな村だから、なんの決まりもないのは確かだが、誰でも自由に出入りできるとも決めておらん。払っても大丈夫な程度を払ってくれると村は大助かりだ。それを無断で村に侵入したことの罰金としよう。まぁ、村の滞在の宿賃みたいに思ってくれ」
さすがに村長だ。ちゃっかりしている。
「ああ。金なら構わん。いきなり『奈落の迷宮』から飛んできたから二、三日休ませてもらえると嬉しいな」
翔はそう言うと、マジックバックから金貨を出すふりをして金貨を百枚ほど創造する。
百枚もの金貨を見た村長は、目を丸くした。
「そんなに貰うわけにはいかん。三枚もあれば十分すぎるぐらいじゃ」
考えてみると翔は葵芹那と猫魔獣ミケを入れて総勢九人に膨れている。一日金貨一枚十万円なら一人一万円余りだ。妥当なところだろう。村長は正直者というより賢明な人種のようだ。
「分かった。だが騒がせたお詫びだ。金貨十枚は取っといてくれ」
翔が言った。
「そこまで言うなら貰っておく。これで村の常備食料が買える。ありがとう」
村長は屈託無く礼を言った。
このやり取りを見ていて二人の少女が興味を持った。ヌーブとルルだ。ルルは少女らしく翔の美貌に興味を持った。しかしルルの野心の強い性格から金をたくさん持っている事にも興味を持った。一方のヌーブは、翔達の不思議な雰囲気に警戒を持った。
「私は守り手として村でのこの者達と行動を共にしよう」
ヌーブが即座に宣言した。
村長もヌーブの意見に賛成だった。
「よし。ヌーブ。この者達の村での面倒を頼むぞ」
ルルは、顔に不満な表情を宿してはいたが無言でいた。彼女の視線は翔に釘付けだった。
☆
「ここは、私の祖父の家だ。だだっ広いが無人だ。祖父が他界してからは、ここは無人だ気兼ねなくしていてくれ」
ヌーブが説明した。
「ああ。泊めて貰うからには文句は言わんよ。食べ物などの用意も不要だぞ」
翔がヌーブに言った。
「いいや。任してくれ。美味しい魔物を狩って持ってきてやろう」
ヌーブはそう言うや狩に出で行くための支度をしている。
巨大な体格のヌーブに子供のようなメロが興味深そうに近づいて行った。
「ララ。十七歳。レベル128。魔界の守り手」
メロはアリスから受けた情報を口で言った。
一瞬ヌーブは何を言っているのと言う顔をになった。魔界でも相手の情報を入手する型の魔法を使う者が存在するので違和感は無いが突然だったからだ。
「私がお姉さん」
メロはそう言った。
子供的発送の自分の方が偉いと言いたいのだ。
「え? お前は私よりも年上か?」
ヌーブが驚いて聞き返す。
メロがふんぞり返って鼻の穴を膨らませた。
「小っさいから子供かと思ったぞ。お前達はどこから来たんだ?」
ヌーブは田舎者の遠慮の無さで尋ねた。
「私達、ミッドガルドのアガリアン神聖国の冒険者だ」
答えたのはイリスだった。
「何だ。地表人か。そんでそんなに皆、か弱そうなんだな。女の子ばかり。誰がリーダーだ?」
ヌーブが尋ねた。
「俺だが」
翔が答えた。
「お前か。お前も女みたいな奴だな。綺麗な顔をしている」
ヌーブが顔を赤らめて言った。
「お前は皆にヌーブと呼ばれていたが、ルルが本名か?」
翔が尋ねた。
「ああ。ヌーブはあだなだ。こんな身体だからな」
ヌーブが答えた。グルリと身体を回して巨大な身体を皆に見せた。
「お前は、古代竜みたいな奴だな」
そう言ったのは竜族のセーラだ。
「どう言う意味?」
ヌーブが聞き返した。
「うまく言えないけど……。なんか身体が大きのは古代竜もあなたみたいな感じだから」
セーラが曖昧に答えた。
「そう言えば、村人達も相当な魂を放っていたな。魔界の住民は皆こんなに強いのか」
翔が感心して言った。
「俺達もまだまだだなあ」
翔は住民ですらこれほど強いなら悪魔公爵バルバルスや悪魔貴族のウコバクはもっと強いのだろうと言う意味でそう言ったのだ。翔の勘違いである。
ヌーブは、最初から翔達のレベルは自分達よりもずっと下だと思っているので翔の発言を額面通り受け取っている。
「地表人はなかなかレベルが上がらないらしいな。まぁ、焦らず修行しろ」
ヌーブが偉そうに説教する。
「ああ。そうする」
こんな時の翔は妙に素直だ。
翔は自分達が二度もウコバクと急接近している事を知らない。ましてやウコバクがレベル100程度と全然弱いのだとは知る由も無い。
アリスだけが翔の発言に違和感を感じて首を傾げたが何も言わなかった。アリスは確信も無いのに無駄な発言はし無い。知識としては情報があるが、悪魔達の本当のレベルなど知ら無いのだから。現に知識として知っている魔界の住民のレベルと目の前の住民のレベルは全く隔絶しているのだ。
☆
結局、魔界の探索と言う名目で翔達もヌーブと共に狩に出ることになった。
途中、ルルも巨大メイスを持って付いて来た。
すすっとメロがルルに近づいて言った。
「ルル。十七歳。レベル245。魔界戦士。私がお姉さん」
メロが言った。
ルルがギョッとしてメロを見る。
「何? あんた。私より年上って言いたいの?」
ルルが気の強さを発揮して挑むように言った。
「それだけが上じゃ無い」
メロはそう言って偉そうにふんぞり返る。
気の短いルルは頭に血が上った。
「私よりも強いって言いたいの?」
もちろんルルは本心でそう言ったのでは無い。ルルも容姿では自信があったが端正な顔立ちのメロには明らかに負けている。なのでそんな言い方をしたのだ。
「ふふふふふ」
メロが変な笑い方をしてさらにふんぞり返った。
「いい加減にしろ」
翔がメロを叱責した。
「村のお嬢さんと喧嘩などしたら村から追い出されるぞ」
「翔様。この子達は、普通の魔界の住民では無さそうです。少しレベルが高過ぎです。メロさんに戦闘させてデータが欲しいです」
アリスが翔の耳元で囁いた。さすがにルルのレベルは異常だ。
☆
メロとルルは軽く戦う事を約束に試合をする事になった。
翔が特設のリングを作ってやる。翔の魔法にヌーブも驚いている。
「ルールは一つだけ。相手を殺してはなら無い。まぁ復活魔法をかけた。死んだら『奈落の迷宮』に飛ばされる」
翔がそう説明した。
ルルは復活魔法など知らないから復活するだったらルールを無視して思いっきりやっても良いと受け取った。
メロは準備体操していると翔から魔法禁止と半分の力に制限の魔法をかけられてしまった。
メロは、プーと頰を膨らませる。
「それぐらいで戦わないと不公平だろう」
翔が言った。顔が笑っている。
一方、ヌーブはルルに大反対している。
「ルル。そんなに強そうに見えないけど何があるか分からないからバカな決闘なんてやめろ」
「あんたに指図されるいわれはないわ。黙ってて」
ルルはいつものようにヌーブの話など歯牙にもかけない。
物珍しそうにリングに入るとメイスを片手でブンブン振り回し始めた。
「翔様。彼女の力は普通ではありません。筋肉補正がかかっています。あれならドラゴンも一撃で倒せるでしょう」
アリスが分析して言った。
「あんなに美味しそうな少女がドラゴンを一撃か」
と翔が不用意な発言をして、アリスに睨まれてしまう。
「翔様。あの子のお肉は少し硬いかもしれませんよ」
珍しくアリスが翔の失敗に追撃をかけていた。
イリスがおかしそうにアリスと反対側の腕にぶら下がるようにしてアリスの方を覗き込んだ。
アリスは無表情を通している。
「アリスでも焼きもち焼くのね」
イリスがクスリと笑う。
「イリスさん。翔様は一体何人の美女を手元におけば気がすむと思いますか?」
アリスが聞いた。
「それは、全人類の美少女全てに決まってますわ。私としてはこの位置をキープできれば何人来ても構いませんわ」
イリスが答える。
その答えに全ての美少女達が顔をしかめて頷いている。
「おい。試合を始めるぞ」
翔が二人の話を打ち切るように宣言した。
☆
翔の合図で、試合が始まった。最初に攻撃を仕掛けたのはルルだ。
メイスを力一杯、メロに振り下ろした。鉄の塊のメイスを恐ろしい速度で振り下ろせば普通ではひとたまりもない。
「あれは、第六グレイドの剣技『必殺斬撃』ですね」
レイラが解説した。
いきなりいちげき目から剣技の応酬だった。
しかしメロは杖で軽く受け流した。
「メロさんの方が技のキレがいいですね。剣技の基本の『受け流し』です。グレイドは第三グレイドです」
レイラが解説した。
全力で重いメイスを振り下ろせば慣性がついて直ぐに体勢を整えられない。ルルは酷くバランスを崩してしまう。
メロが軽くルルの肩を打った。
しかし、闘気を込められたメロの杖術なので恐ろしい破戒力が秘められていた。
ルルは思わずメロの一撃の衝撃で身体が地面に叩きつけられた。
ルルは打たれる瞬間を見ていないので、メロが渾身の一撃を振るったと勘違いした。
遠のきそうになる意識を無理やり引き戻して立ち上がる。
「あの一撃を受けて立ち上がるとは凄いタフさです。武闘家の受け技『闘魂防御』がかかっているようです」
アリスが解説した。
しかし翔はアリスの解説など聞いておらず美少女二人の闘いに意識が集中していた。もちろんヨダレを流さんばかりに鼻の下を伸ばしているところから考えているのはエッチ事だと想像はつく。
アリスはため息をつき、イリスはクスリと笑った。
「翔。視線がエッチなところに集中しているぞ」
指摘したのはアメリアだ。
翔が慌てて視線を避けて、首を左右に振って否定する。
「何をバカな事を」
「ヨダレを拭いてから言え」
アメリアにさらに指摘された。
本当にヨダレを垂れている翔だった。
ルルは今度は慎重にメイスを構える。
その時、メロが動いた。まずタンと一足飛び込むと同時に頭に杖を叩きつける。がしかしそれはフェイクだ。ルルがメイスで頭を庇おうとした瞬間、ルルの腕を軽く打ち付けた。
今度こそメロが軽くステップしながら打っている姿を確認しつつ腕に恐ろしいような衝撃が走るのをルルは知った。
これは反則のような技の差だ。メロは一流の剣士達に技を教わり技術を磨いたがルルは身体能力だけで我流で鍛えて来たのだ。実力差と言えば簡単だが技のキレの差となるとレベルを超えた真の実力の世界の事でルルには本当の実力の世界など今迄見たことも無いのだから何が起こっているのかすら理解できなかった。
あまりの激痛にメイスを取り落としてしまう。涙目になっている。
「それまでだ」
翔がストップをかけると同時にルルの腕を治癒魔法直した。
「大丈夫か?」
翔はそう言いながらチャッカリとルルの腕を取っている。
しかしイケメンに腕を取られたルルは嬉しそうだ。そんな二人をヌーブは羨ましいそうに見ていた。
045 了




