044 第十回、魔王討伐〜伝説にもならない伝説
英雄王ミカル・シュティクロート・ユーリは奈落迷宮の復活の天宮の少し上に野営地を作り、何度目かの睡眠を取った。
迷宮では時間の感覚がないので時間割を作り休む様に、天才軍師のイグナシオ・サイダーンから指図されたのだ。
戦場でこうやって眠れるようになると一人前と言わる。
「陛下。おはようございます」
小姓が直ぐに身の回りを整えてくれる。
「半神英雄達は休んだのか?」
英雄王ミカル・シュティクロート・ユーリが尋ねた。
「いいえ。陛下の休むようにとのお言葉はお伝えしたのですが、彼らは魔法で睡眠や休憩が不要なのだそうです」
驚くべき事実だ。
休養無しで闘い続けられるとは驚きだ。しかしMPなどは大丈夫なのだろうかと英雄王は不思議になる。そう言えば魔精結晶を持っていると言っていた事を思い出す。
何もかも規格外の七人に英雄王はため息がでた。
☆
「あれから何か有りましたか?」
戦線に復帰した英雄王が翔に尋ねた。
「ソロソロ飽きて来たので、本気で行こうかと思っている」
翔が答えた。
「ソロソロ飽きて?」
キョトンと英雄王が尋ねた。
「ああ。なかなかたくさん美味しい魔物退治ができるんでレベル上げに丁度良かった」
「しかし、召喚した魔物を魔王に持っていかれそうになるとか言われていましたが?」
英雄王が尋ねた。
「ああ。あれは本当だ。魔物を召喚しているのはレイラ一人だからな彼女は召喚や支配は得意分野じゃない」
翔が驚きの事実を知らせた。
「あれはレイラの修行の為にさせていたがギリギリだった。もちろんメロなら一人でも十分だったろうな。レイラも慣れて来て魔物の召喚も様になって来た。しかし、魔王も大したものだ。あんなにレベル差をつけて闘っているのに大した召喚量だ」
「レベル差をつけて闘っていたというのは?」
「アリス。ユーリ国王陛下に説明してあげてくれ」
説明が面倒になったので翔はアリスに全てを丸投げした。
「陛下。僭越ですがわたくしから説明します」
アリスが翔の命令に従って説明を始めた。
「陛下。あの状況はどの様に見えますか」
アリスは英雄王に魔王軍団と翔達の戦いを示した。
「際どい戦いであるが我々もよく頑張っていると」
「しかし、あれは翔様が作り出した芝居です。我々メンバーは、それぞれ得意なところと不得意なところがあります。メロさんは、魔術、召喚は得意ですが物理的な闘いが苦手です。レイラさんはその逆なのです。あの魔物達と闘っているのはレイラさんが召喚した魔物です。レイラさんは必死で闘っていて今にも魔王軍団に負けそうですが実際はメロさんが魔物を召喚すれば遥かに楽に勝てると思います」
英雄王はしばし唖然としてその話を聞いていた。
「なぜそんな事を?」
「レベルを効率良くあげる為です」
アリスが答えた。
「レベルアップ?」
「はい。レベルアップをするにはできるだけ強い敵を大勢倒す必要があります。しかし、我々よりも強い魔物はいませんから数で賄うしかありません。迷宮の噴水みたいに強い魔物をたくさん出してくれる魔王は素晴らしいプレゼンターでした」
「するとあなた達は魔王の召喚の力を利用して経験値を稼いでいたのですか?」
「簡単に言うとそうです。この数日の戦いで恐ろしい経験値のストックが叶いました。しかし皆さんも同じようにこの戦いでレベルアップできたでしょう?」
アリスが何気なく尋ねた。
英雄王は改めて自分のステータスを覗いてみる。彼も世界樹ネットの端末を持っているのだ。
「確かにそうだ。恐ろしいレベルアップをしている」
英雄王はこの戦いでレベルが20も上がっている事に気付いた。
「魔王のレベルアップの秘密は多くの魔物を召喚して多くの経験値を稼ぐことにあるようです。我々の作戦は、魔王の上前をハネると言うものです」
アリスが恐ろしい内容をサラリと説明した。
「しかし、他にも意味はあります。今の状態は魔王の成長を抑えている事になります。魔王は召喚魔物の消失で負けが混んでいて経験値の逆ざやになっているでしょう。魔王の成長はかなり抑えられてしまった事でしょう。魔王は翔様にいい様に操られているのです」
「つまりは世界制服しようとしている魔王の成長速度をそのまま吸い取っているって訳か?」
イグナシオ・サイダーンが後ろから叫んだ。
アリスがニッコリと天才軍師に微笑んで見せる。
「そうですわサイダーン宰相様」
「なんと恐ろしい作戦を考えるのだ」
イグナシオが叫んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【魔王城。魔王の間】
「魔王様。戦況が……」
「分かってる。魔王城で闘う」
魔王は部下に命じた。
どう言う訳か。優勢だ優勢だと思っていた魔王城前の戦いの戦況が一挙に変わった。魔王軍団は壊滅し、敵が一度に魔王城に雪崩れ込んだのだ。
「エロヒムさんの言っていた事と違うぞミケ」
魔王がペットに聞いた。
「これはおかしいにゃ。魔王の成長速度も想定より遅いにいゃ。本当はもっともっと恐ろしい速度でレベルアップするはずなんだったのょに」
「ウコバクは?」
魔王は意見を聞こうと思って悪魔貴族を見回したが姿が見えない。
ウコバクは魔王が不利と見るや直ぐに逃げたのだ。
「もっともっと魔物を出さないと」
魔王は焦って魔物を召喚していった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔王は雪崩れ込んでくる軍に魂を懸命に浴びせて威嚇した。
軍は魔王の魂に気圧されて魔王の間に入ってくることができなきようだ。
魔王の横にはミケしかいない。ミケは変身して巨大な魔物になって威嚇の牙を向いている。凄い迫力だ。
しかし、数人の戦士が魔王の間になんの恐れもなく入ってきた。
見ていると美しい女性ばかりだ。しかし美しいだけではないようだ。
「魔王様。こいつら恐ろしいレベルですにゃ。ステータスも信じられないくらい高いにゃ。なゃ、なゃんだこいつらは?」
ミケが驚いた声を上げた。
魔王も彼らの闘気を感じた時に、これは負けると確信した。転生して前に『エロヒム』はたくさんチートな能力をくれたって言うのに。
こんな奴らに殺されるのかと悔しい。
魔王は敵を見つめていると、後ろから一人のイケメンの男の子が出てくるのが見えた。その顔を見た瞬間に魔王は驚きでその場に膝を崩れ折れていた。
「た、橘君?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「いやぁ。びっくりしたなぁ。本当僕」
魔王が明るい声で言った。
「橘君が出てきた時には。神様か仏さまかエロヒム様かって」
「エロヒムも神も同じだろうが」
翔が突っ込んだ。
「いやいや。魔王がこんなに美少女だなんて思わなかった」
そう言ったのは美髯王だ。
「こいつは、俺のクラスメートの葵芹那って娘だ」
翔が説明した。
「まぁ、クラスで一番可愛いと評判の女の子だったな」
「いえいえいえいえ。橘君と比べたら太陽とホタルみたいなもんです。はい」
魔王事、葵芹那が答えた。
「まぁ。こいつはこんなもんだ。お人好しだけが取り柄の魔術もろくに操れない落ちこぼれ」
翔は手厳しい。
「お前は俺が転生した時とは違って魔王になって転生したんだろう。転生後瞬殺で世界征服ぐらいしてみろ」
「てへへへへ」
葵芹那は笑いながら頭をかいた。
「何とも不思議な事ですな。翔様も転生勇者様だったのですな。転生前のクラスメートと一緒になるとは」
英雄王もしきりに関心している。
「少し宜しくって?」
イリスが割って入る。
「あっ!」
イリスを間近に見て驚いたのは猫魔獣ミケだ。
「ご主人様にゃ」
「?」
イリスが不思議そうな顔でミケを見る。
「ああ。あなたはミケの飼い主なのね。あの時車に跳ねられた」
葵芹那が叫び声を上げた。
イリスはこうして自分がなぜ水晶迷宮に出生の一部始終を知る事になる。イリスはミケを追って道に飛び出した女の子だったのだ。葵芹那に助けられそうになった少女だったのだ。
イリスが小さかったのは無理やり小さいのに転生され魔精結晶で成長させされたからだ。
☆
「おい。お前達。『エロヒム』に復讐などと言うんじゃないぞ。彼は聖書にも出てくる由緒ある創造主なんだぞ」
話を聞き終わった翔が釘をさす。
「でも、何だかとっても軽い感じだったよ。そんな偉い神様には感じなかった」
葵芹那が言った。
「確かに『エロヒム』ともあろう創造主がお前ごときを転生させて、失敗するのも、その前からの失敗続きなのもおかしな事だらけだな」
「だ・か・ら。お願い。翔。助けて。一緒に偽『エロヒム』をやっつけて」
イリスと芹那が頼んでいた。
こうして翔の目標はますます高くなるのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【魔王討伐の結果】
○翔
レベル432
職業 大魔術師、創造師、槍術師、『幻妙流』相伝者、調合師、半神英雄
○メロ
レベル418
職業 神使、大魔術師、魔女、杖術師、半神英雄
○アメリア
レベル408
職業 至高者、魔術師、聖騎士、大妖精使、半神英雄
○イリス
レベル395
職業 魔王女、魔物使、魔術師、魔騎士、半神英雄
○レイラ
レベル403
職業 戦半女神、魔術師、大魔導士、神聖魔法師、半神英雄
○アリス
レベル412
職業 魔法情報師、弓師、調合師、魔術師、半神英雄
○セーラ
レベル382
職業 竜王女、竜騎士、魔術師、召喚師、半神英雄
○葵芹那
レベル435
職業 魔王
○ミケ
レベル250
職業 猫魔獣
○英雄王
レベル138
職業 王、魔法剣士
○イグナシオ・サイダーン
レベル123
職業 宰相、魔術師
○美髯王
レベル88
職業 王、魔法剣士
044 了




