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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第二章 仲間編

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042 大騒ぎイン奈落迷宮

 英雄王は、目の前に広がる魔物達の戦いの圧倒的な迫力に目が離せないでいた。


 彼の後ろから天才軍団イグナシオ・サイダーンや美髯王の他何十人かの供回りの者も付いて来ているようであった。


 前方には魔王城は想像を絶するほど巨大であった。魔王城はほぼ完成しているように見えた。


「やばそうだな。この蝕は相当進んでんじゃねぇか」

 英雄王ミカル・シュティクロート・ユーリは危機感を抱いて呟いた。


 蝕で一番重視されるのはスピードだ。魔精結晶から生まれた幼生は次第に力を付けて強大化する。第九回目の蝕では魔王は退治されるまで半年ほどかかった。魔王城はその時点でも完全に完成していなかったと聞く。


 それにしても蝕が発覚してからまだ数日程しか経って無いのに魔王城の成長を見ても今回の蝕の規模が想像を絶するほど大きいのは解せない。この目の前の巨大な城がそれ程短時間で完成したとはとても思えない。


「ナシオ。この蝕は神々が危惧したとおり本当にやばそうだな。しかしどうして今回の蝕はこれほど大きかったのにここまで蝕の兆候に気づかなかったんだ?」

 英雄王が尋ねた。


「分かりません。あるいはアガリアンで起こったという不発の蝕や、その前の頻発していた蝕の兆候の影響でしょうか」

 イグナシオ・サイダーンが答えた。


「嫌な予感がするな。神々の予言のとおりラグナロクなのか?」

 英雄王は呟いた。


 巨大な魔王城の前には数えられない魔王軍団は整然と隊列を組んでいた。魔王軍団は、アンデッド系の貴族ワイト、高級魔術リッチ、スケルトンロード、ハイオーウルフ、バンパイアロードなど、普通なら迷宮のボス級の大物達が勢揃いしている。魔王は死霊使ネクロマンサーだと一般に言われているがその通りのようだ。魔物軍団のレベルは軽く100を超えているようだ。見た事もない巨大ワイトや美しい赤いローブに身を包んだリッチなどは普通の死体ではなく、多くの死体が合体しているのだろうと思われた。その恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。高級な魔物が発する恐ろしいほどのオーラを放っている。それが物理的な強風のように感じられた。


 一方、翔達の召喚した魔物は、サラマンダー、飛竜、巨鬼オーガ、ペガサス、ユニコーンなどのレベル80ぐらいの魔物達だ。レベルは翔達の召喚魔物の方が明らかに弱そうで数も断然少ない、しかしどういう訳か互角に戦っているようだ。


 それらの魔物達が広大な迷宮の大広間を埋め尽くして死力を尽くして戦っているのだ。恐ろしくもあり見た事もない光景とも言えた。


 無数の高レベルの魔物達が出すオーラは息苦しくなるほどに吹き寄せてくる。そのオーラによる威圧感は戦線に近づくに従って強く耐え難くなってくる。


「お前達、付いて来れん奴は無理をするな」

 英雄王が後ろの兵士達に叫んだ。


 その言葉を聞いて安心したのか今まで頑張って付いてきていた若い騎士が馬上から転げ落ちる。それを助けるように若い騎士達が立ち止まった。


 英雄王は若い彼らに頷いてみせた。彼らはまだまだ経験が浅いのだ。英雄王は直ぐに戦場に顔を向けた。その英雄王の顔は恐れるどころか精気に溢れている。


 闘気バトルオーラを体内で練り上げる。この時、英雄王ミカル・シュティクロート・ユーリはあるいは自分が狂人なのでは無いかと感じて薄い笑いを浮かべた。死地に赴くのに高揚感が心地良いのだ。頭がおかしいと言われても仕方があるまい。


 チラリと横を向くとイグナシオ・サイダーンと美髯王ハラルドル・ユグリンドが同じような顔をして並走しているのが見えた。心の中で(こいつらもか)と頼もしい友達の顔を誇りを持って見た。



 八年前に悪魔が大挙して攻め寄せてきた時、英雄王はまだ十八歳に過ぎず、レベルは35だった。


 しかし、彼は戦士として天性の才能に恵まれていた。何度も前線で死にかけ、悪魔に占拠された街を一つ一つ解放してゆく内に、次第にレベルが上がっていった。


 彼は常に最前線で自ら悪魔を退治し続けた。


 天才の彼はある日、体内で闘気バトルオーラを鍛錬する事を覚えた。それから英雄王と呼ばれるまで何度も殺されかけ、時には殺され復活し、いくつもの街を解放して行ったのである。


 ユーリ王国もウプサラ王国の戦士達も皆似たようなものだった。実戦で鍛え上げられた彼らは屈強な戦士に成長したのだ。諦めたら国が滅ぶ。


 彼らが勝てたのは圧倒的に優勢なはずの悪魔公爵デーモンデュークプザスや悪魔騎士達が魔物達を捨ててある日突然撤退したからだ。


 その後は一つ一つ街や村を解放して行き、英雄王はレベル100を超えるまでになっていた。



 ようやく翔達のところまでたどり着いた英雄王達は頼もしい翔達、半神英雄エインヘリャルを見回した。


 英雄王から見ると彼らは人間とはスペックの違う別生物だ。レベルは変な魔法をかけているようで80ぐらいに見せかけているが、英雄王の勘は200を超えていると見ている。


 そうして見ている内にも、翔達は召喚魔法や支援魔法を次々に放って行く。どんなMPをしているのかと笑い出したくなる。天才軍師、イグナシオ・サイダーンは大魔導士だ。様々の魔法を使うことができる。しかしこの翔達の魔法の使い方は明らかに異様だ。


「凄いな。あんな恐ろしい魔物を相手にいい勝負している。これならやれるぞ」

 英雄王は翔の横に立つと明るい声で言った。


「いや。無理だな。あの城の主は、大変な支配力を持っていて俺達もこれ以上の魔物を召喚したら逆にそいつの支配力に持って行かれそうなんだ。こんな事は初めてだ」

 翔が言った。

「気をつけろよ、戦線が伸びきって薄くなっているから大将級の魔物が飛び出してくる。うかうかしていると殺られるぞ」


 言っている事は悲壮な内容なのになぜか翔の顔は明るい。


「大丈夫か?」

 ミカル・シュティクロート・ユーリは心配そうに尋ねた。


「まだ、何とも言えないな。遊ばれているだけかもしれんし」

 翔が言った。


 その時、戦線の一部が裂けた。魔王軍団がその裂け目から怒涛のようになだれ込んできた。


 英雄王は咄嗟に戦線に向けて剣を抜いて馬を疾走させた。それは反射神経みたいな素早さだったはずだが、遥かな先に半神英雄達の背中が見えた。あのひ弱そうな魔術師の女の子でさえ走りにくそうなローブを物ともせず恐ろしい速度で疾走している。


 馬よりも早いとはどんな足をしているのだろうか。この半神英雄エインヘリャル達の中で唯一の男の子は驚いた事に走りながら様々の魔法を発動しているようだった。


 その中の魔法の一つだろうか、魔王城の中腹あたりに巨大な爆発が連続して起こり、その威力の一部が魔王の防御を突破し魔王城に大きな爆発が起こった。


 翔は破れた戦線よりも魔王への牽制を優先させたのだろう。何という戦いだろうと英雄王は驚愕きょうがくした。


 そちらに見とれていた内にも眼前の半神英雄エインヘリャル達は魔王軍団と激突し、次々に軍団をほふって行く。何と言う強さだろうか。


 英雄王は、そのまま戦列に飛び込んで行った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【奈落の迷宮内、臨時の復活の天宮】


 恐ろしい苦痛で身体がバラバラになりそうだ。復活の時はいつもこんな感じだ。


 英雄王は、呻いて身体を起こした。


「大丈夫ですか?」

 女性の声だ。


 その時、英雄王の身体を温かいオーラが包んだ。不思議な感覚を感じたと思ったら身体の不快感が消えて行った。


 英雄王は頭を振って目の前の女性を見た。


「陛下。復活障害の具合はどうですか?」

 聖母マザーサラが聞いた。


 英雄王はサラの美しい顔に浮かんだ優しい笑みを心に染み込ませてマジマジとサラの顔を見た。

「これは不思議だ。復活の不快感が無くなったぞ」


「はい。これは翔さんが考案された復活障害を除く魔法です。あちらに復活者のための衣装を用意させています。着替えて直ぐに戦線へ戻ってください」


 英雄王はサラの言葉に一瞬たじろいだ。


「これぐらいで、怖気づいたら、翔さん達に笑われますよ」

 聖母マザーサラは、翔達がゴブリンの軍団と戦った時の事を英雄王に話した。


 黙って話を聞き終わった英雄王は、聖母マザーサラに聞いた。

「どうしてそんな話を?」


「見てください」

 サラは英雄王に復活の迷宮内の様子を示した。そこにはたくさんの復活した兵士達とそれを介抱するシスター達がいた。

「私と共にゼノ要塞城の戦いを経験した者が今はシスターとなってここに大勢参加してくれています。そして彼女達の誰かが、復活したあなたの部下の方にこの話をしたところ皆さん元気に戦場に戻られる様になったのです」


 英雄王が見ていると、美しいシスターに説得されている兵士達の姿が見えた。


「ああ。その話は効果的だろうな。ありがとう。勇気が湧いたよ」

 英雄王はそう言って聖母マザーサラに頷いた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 魔王軍団と翔達の召喚魔物との戦いは、膠着状態で、やや魔王軍団が優勢に進んだ。魔王は次第に強大化しているのだろう。少しずつ魔王軍団の戦力が増して行くようだった。


 戦線は何度も破綻しそうになり、その都度死力を尽くして翔達は戦線で奮戦した。彼らと共にユーリ・ウプサラ連合軍もよく戦ってくれた。


 連合軍のうち英雄王を筆頭にレベルの高い戦士は前線で翔達と共に戦い、飛竜連隊は上空から魔王軍団を攻撃した。レベルの低い兵士達は魔法や、魔法のかけられた弓矢や炎の矢で魔王軍団に攻撃した。


 時として、魔王軍団の強い個体は戦線を破り、ユーリ・ウプサラ連合軍の本隊を蹂躙した。大勢の死者が出たことは言うまでもない。


 しかし、彼らの数は全く減ることはなかった。なぜなら死んだ兵士達のほとんどが復活し直ぐに戦場に戻って行ったからだ。


「半信半疑だったが、あなた方の理論は正しいようだ」

 英雄王が翔に言った。


「ああ?」

 何のことだと翔はわからずに曖昧な声を上げた。


「いや。復活を何度も繰り返すと強くなる」

 英雄王が笑いながら言った。


「死ぬ時の恐怖は耐えられないがな。あんた達の兵士は勇敢だ」

 翔が答えた。


「翔殿でも恐怖心を感じるのか」

 美髯王が目を丸くして聞いた。


「いやいやいや。あんたら勘違いしてんじゃ。俺はこの中で一番臆病だって」

 翔が首を思いっきり左右に振った。


「そう。翔は臆病で、エッチ」

 メロが割って入る。


「エッチは関係ないだろうが」

 翔が突っ込む。


「翔さんはエッチですけど、臆病ではありませんわ」

 レイラが真剣に意見を述べた。


「エッチ肯定。レイラもか?」

 途端に翔が落ち込む。


「翔がエッチなのは確定だ。しかし臆病かどうかは、分からんな。危ない所からはサッサと逃げるし、しかし死んでもやる時もある」

 アメリアが首を傾げながら言った。


「翔様は臆病なはずがありません。世界一勇敢です」

 アリスが翔を必死で持ち上げる。


「いや。アリス。それは言い過ぎだ」

 翔が今度はアリスを抑えにかかる。あまり言われると嘘っぽいしそれより恥ずかしい。


「あなた方は、本当に……」

 イグナシオ・サイダーンが呆れ顏で呟いた。




 首無馬コシュタバワーに騎乗した赤い鎧のデュラハンは、普通のデュラハンではない。将軍など上級の騎士だった死霊を蘇らせた場合に蘇った場合に首が無かったらこのような姿で蘇ると言われている。普通のデュラハンよりも体格もふた回り以上大きくさらにレベルもずっと高く200を超える。デュラハンジェネラルだ。


「メロ。杖術で勝負してこい」

 翔が命じた。


「ウィ」

 メロがどこの国の人と言うようなノリで答えた。


 召喚魔法で強大なグリフォンを呼び出し、自分も魔法で少し大きく変身する。


 英雄王達一行は、巨大化したメロを見て驚いて見上げている。


 メロはグリフォンに跨ると、戦線を突破したデュラハンジェネラルに近づいて行く。


 少し巨大化したメロだが、やはりデュラハンジェネラルに近づくとその巨大さには及ばない。


「一人で大丈夫でしょうか」

 美髯王ハラルドル・ユグリンドが尋ねた。本気で心配している。


「あいつはああ見えても杖術は相当なもんだ。あいつの杖術の鍛錬にはあれくらいの魔物がちょうどお手頃だ。ようく監視して魔法を使ったらとっちめてやってくれ」

 翔が衝撃の事実を明らかにした。


「では、皆さんはあの魔王軍団の将軍級の魔物ですら練習台ぐらいにしか考えていないのですか」

 ユーリ王国の兵士の一人が驚いて尋ねた。


「折角の機会だからな。レベルアップするにはちょうど良い相手だ」


 翔のその言葉に悲壮感が溢れていた兵士達の顔に光が差す。


 その時、メロがデュラハンジェネラルの斬撃を杖で払った音が戦場に響きわたった。


 一瞬その音とオーラの迸りに戦場が凍りついたように停止した。


「おお」

 英雄王は、全身に響いた衝撃波に一瞬たじろいだ。


 見ると、弱い兵士はその闘魂バトルオーラの衝撃に耐え切れずその場に崩れ折れた。しかし、それは味方の兵士だけではなかった。敵の魔王軍団の後尾に控えている弱小魔物も乾いた砂山が崩れるように消えていった。


 それ程、恐ろしい闘魂バトルオーラの応酬だった。


 この後もメロとデュラハンジェネラルとの間には同様の激しい剣戟の応酬が何回も繰り返された。


「これは凄いですな」

 美髯王はメロとデュラハンジェネラルの闘魂バトルオーラの応酬に耐えかねたように言った。


 その時、メロがフェイントを交えて突き出した杖がデュラハンジェネラルの胴に激しく当たった。


 それはただの一撃ではない。杖の先には闘魂バトルオーラが込められている。


「第七杖術技『闘魂打オーラアタック』!」

 メロが叫んでいる。


 このように遠距離技の豊富な魔術師が使う杖術では接近技が中心となるのだ。


 杖の先が闘魂バトルオーラの奔流で輝いたように見えた。その光がに打ち払われるかのようにデュラハンジェネラルがけし飛ばされて行く。


 メロがドヤ顔で翔達の方に戻ってきた。


「メロ。そんなに鼻の穴を膨らませて俺達を見下ろしていると穴の中まで丸見えだぞ」

 翔が揶揄やゆするように茶化した。


 もちろん翔はメロの強烈な電撃を見舞われたことは言うまでもない。


042 了

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