037 メロ何をする!
メロは、第十グレイド魔法『大地崩壊』を発動した。遥かな彼方までの大地が鳴動し見渡す限りの全ての大地が音を立てて崩れ始めた。崩壊した大地の間から赤黒く光るマグマが吹き出した。
メロがその魔法で仕留めたのは魔獣や魔物を引き連れた巨大な牛の魔獣『魔牛。レベル48〜53』の群れだ。ざっと数十万頭もいるだろうか。この魔物は、この草原の支配者で数が増えすぎたと冒険者ギルドが討伐クエストを出していたのだ。一度の魔法で皆のレベルがざっと7も上がる。メチャメチャだ。
「メロさん。みんなやっつけて良かったんですか?」
レイラが心配そうに尋ねた。見渡す限り惨憺たる有様だ。
「それより、この当たりの土地はあれで問題ないのか?」
翔が呆れて聞いた。
「この人達の土地が一瞬で地獄になったと怒ってますよ。メロさん」
アリスが少々怒りながら、『転送』寄せ集めた人達を指しながら言った。
「この人達は、メロの魔法に巻き込まれたのか?」
翔は呆然としてアリスが転送してきた数百人の人達を見渡した。
いきなり転送された人達は何が起こったのか分からず唖然としているようだ。
メロの第十グレイド魔法『大地崩壊』はあまりにも広範囲魔法すぎたのだ。そもそも第十グレイド魔法など神々しか使わないような魔法なのだ。メロのような思慮分別の無い少女がそんな能力を持つと言うのは無分別な子供に水爆のスイッチを預けるようなものだ。
「メロ。良い加減にしろ。この落とし前はどうつけるんだ?」
翔が詰め寄った。
しかし結果としてメロの魔獣退治は住民達に受け入れられた。生活の全てを無くした人々だが、それ以前から魔獣に取り囲まれ明日をも知れぬ日々を送っていたのだという。増えすぎた魔獣達に囲まれて逃げる事も出来なくなっていて今にも殺されそうな毎日だったのだ。
「翔。メロの事よりも、この人達は今後どう生きてゆけば良いのだ?」
聞いたのはアメリアだ。
正にそうだ。いきなり第八グレイド『転送』魔法で着の身着のままで集められたこれらの人々を今後どうするかは大問題だ。
「おおーい。この中で代表者に成れるような者はいないか?」
翔が大声で人々に問いかけた。
☆
結論として翔は、新しい村を作ってやる事なった。
当座の暮らしの為に翔は八十六のテントを創造魔法で出してやった。メロ、アメリア、イリス、アリス、セーラの魔法で瞬く間にテントが広げられて行く。ずぐに見渡す限りのテント村が出来た。
翔が見ていると子供などはテントの方が良いと喜ぶ子供もいる。
彼等にどんな暮らし向きだったのか尋ねたところ彼等は粗末な小屋のような家に原始人のような暮らしだったようだ。
この辺りは草原が広がるサバンナ気候の土地だったがメロが退治した魔獣は全ての草を食べつくし土地を砂漠に変えてしまう恐ろしい魔獣なのだという。
少なくとも前より住みやすくする事が翔の目標となった。
いわゆる村起こしだ。確か村起こしをするには経済的に自立させる事が重要なはずだ。聞き取り調査をしたが村には産業もなく農作物もなく獲物も取れない不毛のサバンナだという。では彼等はどうやって暮らしていたのかと聞いて驚いた。ここよりも六十キロも山に入ったところで取れる銅鉱石を百八十キロも西にあるウプサラの首都バルサーンまで運ぶと言うのだ。
彼等はそうやって売れた銅鉱石で得たお金で生活物資を得ているのだと言う。
「アリス。銅鉱石を銅にするにはどうするんだ?」
「銅鉱石を砕き銅とそれ以外に分けます。比重が違うので流せば銅とそれ以外のものが分かれて底に溜まります。こうして取れた銅に石灰石やコークスを入れて強く熱すれば銅が取り出せます」
さすがにアリスが淀みなく説明した。
「うーん。そんな難しいことは彼等でできないだろうな」
翔が頭を抱える。
重い銅鉱石を遥かに遠い首都まで運ぶと言うのは余りにも無駄が多すぎる。それなら銅にしてとも考えたがこんな平原では燃やす木も取れないだろう。
「翔様、錬金術を使って銅鉱石から銅を作られては如何ですか?」
アリスが提案して来た。
「錬金術と言っても彼等にそれができる魔術師もいないだろう」
翔が首を左右に振って否定する。
「アイテムにさせるのです」
アリスが笑いながら提案した。
「便利アイテムの製造だな。確かにこんな村では様々な便利アイテムがあれば生活が変わるな」
村にない様々なリソースはアイテムで作れるかもしれない。火矢だってアイテムで作れるから、アイテムで銅鉱石から銅を作る事もかのうだろう。
翔は様々な試行錯誤でアイテムを作り始めた。素材には今まで貯めに貯めた魔物の素材があるので困らないだろう。
「メロ。お前が村の基礎と周辺の土壌の改良をやれ。アメリアは、妖精魔法で村の周りが食物が取れるようにできないか研究してみてくれ。アリスは村の設計図作りだ。イリスは魔王城が作れるんだから土木を頼む。セーラは水を何とかできないか研究してくれ。井戸でも良いし遠くの水脈を引っ張ってくるのもいい。場合によったら運河でも作るか。みんな頼んだぞ。俺は村起こしの便利アイテムの製造かかってみる」
☆
翔が最初に取り掛かったのは馬車作りだ。せめて銅鉱石を運ぶ馬車をと考えたのだ。しかし道無きサバンナを走る馬車はなかなか厄介だった。
ショックアブソーバー。車軸受け。車輪のクッション。馬車内の装飾。四頭だてにするとして馬をどうするか。悩みは尽きない。
そしてそれらの効果を魔物の素材を調合して作るのだ。
この日、翔は夜遅くまで馬車の設計に時間を費やした。
☆
翌朝、翔は結局うまくできなかったため魔法工房《星章》に行くことにし、第七グレイド魔法『転移』でオーラヴ聖王国の『始まりの街』に転移した。
《星章》の美人オーナーで天才アイテム調合師のシード・リードは、翔の突然の来訪を歓迎してくれた。
「今日は一人か? 珍しいな」
シード・リードの部屋に案内された翔に彼女は開口一番で確認するように聞いてきた。シードの視線は何だか肉食恐竜のティラノサウルスのような迫力を感じた。
翔は一瞬背筋に悪寒を感じたので。
「いや。アリスがすぐ後で来る予定だ」
と、嘘を言ってしまった。
シードは翔のその言葉に残念そうに舌打ちをした。
「残念……。それで今日はどんな要件なんだ?」
「実は全く新しいアイテムの製作をしたくって」
翔がイメージしていたのはタイヤとバネだ。荒地のサバンナを駆け抜けるには相当に弾力のあるタイヤとショックアブソーバーが必要だろう。
ただ、できることなら魔法を使い浮遊させるような馬車ができたら言うことがないが、あまり大々的な機構にすると相当に魔力を消費するだろうから一般人には向かないだろうなど様々な試行錯誤の中で結論が出なかったのだ。
「浮遊車か。ウプサラ王国の首都バルサーンのメラーレン盆地にある縦穴を行き来するのに使っているぞ」
シード・リードが必要以上に翔にベタベタとくっついてきながら言った。
彼女の態度は自分に自信のある歳上の女性が良く翔に取ってくる態度で翔にはお馴染みだ。なぜなら彼は女系家族でたくさんの姉と妹がいたからだ。姉の中には彼を猫可愛がりする者がいてその姉と同じ態度だ。
☆
シードは独身の美女で仕事と結婚したような女性だったが、翔は特にお気に入りだ。面白い素材を持ち込む上に調合師としての勘が鋭く教え甲斐があるだけでなくスーパーイケメンで女性の扱いに慣れている。彼女のような気難しいタイプの女性を扱うのが天才的なのだ。
ベタベタしても嫌がらず、彼女がキューンとしている時に、いろんなところをソフトタッチしてくる。それが絶妙で爽やかなのだ。女性がスキンシップが大好きな事を心得ていていやらしい意味ではなく心地よくしてくれる。
肩に置かれた手は凝った肩を優しく揉んでくれるものであったり、背中に回された手は優しく撫でてくれて血の循環を促してくれたりでとにかく癒されるのだ。
「お前は女性の扱いが上手い。かゆいところに手が届くようだぞ」
シードは彼女の背中に回された翔の手が肩甲骨辺りの筋を揉んでくれるているのにあまりの気持ち良さに感嘆の声を上げた。
「シードさん。疲れただろう」
翔が心配そうにシードを見ながら本格的に両肩を揉みだした。
☆
シード・リードは本当に良くやってくれた。どうしてそこまで根を詰めて考えてくれるのか不思議なほどだ。しきりに肩を揉んでいるので相当凝っているのだろう。
翔は彼女の肩を揉んでやりながら女性の身体が柔らかいのに肩が凝りやすいのは不思議だと思った。
彼の姉達のように鍛えた身体であっても柔らかくしなやかで触っていいて気持ちが良い。シードも女性特有のしなやかさと手触りの良さに気がつけば触れてしまう。
翔も嫌がる女性にはそんな事はしない。例えばメロは猫みたいな女の子で触られるのが好きなのは他の女の子と同じだが、下手な触り方をすると直ぐに電撃を見舞ってくるなど厄介だ。
しかし、メロの可愛い顔を見ているとどうしても手が出てしまうのだ。
☆
「シードさん。ありがとう。うまく行きそうだ。また行き詰ったら教えてくれ」
翔はシード・リードに礼を言うとアイテム工房《星章》を後にした。
翔達が考えたのはお互いに反発し合うアイテムを作り、それをショックを和らげるために何段階にも仕込む事だった。磁石の反発を利用するようなものだ。リニアモーターカーの馬車版を思い浮かべてもらいたい。
発想ができたら後は作り込みだ。しかし、翔はいささかやり過ぎる。特に物作りとなれば彼の性格がモロに出てしまうのだ。寝食を忘れて熱中もする。
「できたぞ!」
その言葉に皆が飛び起きた。
「おお。神々の乗り物だぁ〜」
メロが感嘆の声を上げた。
「翔。これは何なんだ?」
アメリアが聞いた。
彼女達が見たのは正に神々の乗るような神秘的なまでに美しい馬車だった。
「こんな物を作っていたのか?」
アメリアが呆れて声を上げた。
「ああ。これは副産物だ。俺が作っていたのはこっちだ」
翔はその美しい馬車の後ろを指す。確かに大きさは三分の一くらいの質素な馬車があった。
その馬車にはどこから仕入れたのか馬まで付けられていた。
「翔。どう見てもこっちの小ちゃい方が副産物だがな」
アメリアが突っ込んできた。
☆
翔が馬車の作り込みに集中している間に村作りは、佳境に入っていた。
サバンナの遥かな土地に散らばって住んでいた人達だ。集落を作っても住むかどうか分からなかった。
そこで翔達は集落と分散した家の両方を作る事にした。住みたい方に住めば良い。
村の人々には翔の作った馬車と銅鉱石を砕き銅の成分を多く含む部分に分ける機械をマジックアイテムとして作った。それを村の共同所有として皆で使えるようにする。壊れた時はオーラヴの《星章》に依頼すれば直してもらえるように手配した。
翔は副産物と言ったが村で使えそうなアイテムをたくさん考案し様々のアイテムの作り込みをした。魔法のアイテムは一度設計し術式を完成させれば、素材さえあれば直ぐにでもアイテム精製が可能だ。
馬車以外にも、井戸作成セット。下水道セットなどのアイテムを多数作る事は造作のない事だった。
ちなみに、近くの大河(と言ってもざっと七十キロは離れているが)から水を引き込むための土木機械セットなども作った。
それらのセットの使い方を村人に教えている頃、メロが報告に来た。
☆
「ほう。メロ。頑張ったな」
見渡す限り、豊穣な土地が広がっていた。あの荒れ果てたサバンナはどこにも無かった。
「これなら、作物も取れるかもな」
翔が何気なくつぶらいた。
「翔。世の中はそんなに甘くない。ここでは雨が降らない。幾ら耕しても雨は降らない。雨は魔法で降らせたが。ずっと降る雨はここには無い」
いつもには無いメロの暗い声だ。
「メロ。ここでは農耕は無理だ。しかし七十キロ西に行けば大河が流れておりそこからここまで運河を結べばここの住人ぐらいなら賄えるくらいの畑は作れるだろう。お前のした土地改良は無駄じゃない」
翔がそう言うとメロは顔を明るくした。
「お前がそこまで考えていたのは驚きだな。ここの人々の生活の基礎は銅鉱石の採掘だ。それで生計を立てている。俺はその銅鉱石の採掘を今より効率良くできる様に工夫した。それだけでも彼らは随分暮し向きが楽になるだろう。馬車もそのシステムの一つだ」
もちろん、直感型のメロには全貌を説明しなくとも翔の意図も今後村人の暮し向きがどう変化して行くかも直ぐに直感で分かった。
☆
村はその後、運河を引いて大きな街にまでなるがそれは後の話だ。村の名は『マンダリン』と名付けられた。
ちなみに村の産業は銅鉱石ではなく馬車のショックアブソーバーを作る事となる。もちろんショックアブソーバーなどと言う名前ではなく『マンダリン』という名前になる。それも後話だ。
ちなみに即効性のある変化もある。それはメロの魔法の使い方が変わった事だと思うかもしれないが、実はその逆だった。それは翔達の魔物狩り仕方が変わったのだ。
レベルアップのための魔物狩りの方法を変えたのだ。翔達はそこそこのレベルの群れでいる魔物を中心に狩る事にしたのだ。草原の多い、ウプサラやユーリの東の国境付近には群れている魔物が多く、翔達にはちょうどお手頃だったのである。
翔達は魔物が大量発生しているところに行っては土地をひっくり返して魔物を退治して回った。
ゴブリン退治で味をしめ、魔牛で完全にハマってしまったのだ。
翔達は自分達が単にレベルアップするためだけと考えてウプサラとユーリの東の国境付近で魔物狩りをしてたがその為に実は大騒動が持ち上がっていたのを知らない。その一つには翔達の恐ろしいレベルアップだ。
そして、ウプサラ、ユーリの東の国境付近の経済的発展。
そして最後に、ウプサラとユーリの東の国境付近に群れて住む強力な魔物達の逃避だった。
ウプサラとユーリのこの辺りの草原には魔牛だけでも数千万頭も生息していたが、翔達の急激な乱獲によって何百万頭も退治されたと同時に無数の魔牛やその他の魔物が西に逃避行を始めたのだ。
☆
翔は、何も考えず、作った馬車で悠々と旅を続けていた。そこに女神ブリュンヒルデからレイラに知らせが入った。
「翔さん。魔牛の大群が何故か西に大移動しているらしいのです。ちょうど近くにいる私にブリュンヒルデ様から急いで退治して欲しいと依頼が入りました」
レイラが翔に女神の依頼を伝えた。
「退治の報償として皆さんにまたサブ職を授けてくれるそうです」
「最近、魔牛の数も減ってきたと思ったら西に移動していたんだな」
自分達が原因とは知らない翔が呑気に言った。
「分かった。皆、別れて魔牛共を退治するぞ。本気で退治しろよ今度はブリュンヒルデさんからの依頼だからな」
☆
レベルが50以上もある魔牛の数百万頭もの群れがウプサラ、ユーリの経済的拠点である西部地区に怒涛となって移動し始めた事を『終末来る』と題して大々的に報じた。その知らせはユーリ王国、ウプサラ王国を恐慌に陥れた。
それが歌姫の予言の成就であったことは誰にも知られ無かった。なぜなら魔牛達は、豪華な馬車で西に旅する翔達に全て狩り尽くされたからだ。
結果、翔達が恐ろしいレベルアップを成就した事も誰も知らない。化け物級からさらにレベルアップしてしまった彼らが、今後思い付きで何をしでかすのか……
子供に水爆のスイッチを持たせてはいけませんよ。
【翔達のレベル】
○翔
レベル315
職業 魔術師、創造師、槍術師、『幻妙流』相伝者、調合師
○メロ
レベル298
職業 神使、魔術師、魔女、杖術師
○アメリア
レベル280
職業 至高者、魔術師、聖騎士、妖精使
○イリス
レベル275
職業 魔物使、魔術師、魔騎士
○レイラ
レベル288
職業 戦乙女、魔術師、大魔導士、神聖魔法師
○アリス
レベル305
職業 魔法情報師、弓師、調合師
○セーラ
レベル268
職業 竜騎士、魔術師、召喚師
037 了




