#Ex01 Backstage-アイリーン-
閑話です。
「はー、疲れたわ…」
私はその日王都ギルドでの定例会議から帰ってきたばかりだった。
「いつもながらプフェールトの馬車は速いのに、乗り心地が最悪ね…」
普通の馬車で1か月かかるところを10日で着く。
それより速く…5日以内で着く私の馬車はプフェールトも本体も特別製だけどね。
いつも通り、ギルドの自室で一息つこうと廊下を歩いていると、資料室に探索者が居るのを発見した。
「へー、珍しいわね。久々に資料室に人が入ってるのを見たわ………久々って、利用者少なすぎよね。嘆かわしいわ…」
あーゆう人材もっと欲しいわ~
何を調べてるか聞いてみたいわね。行ってみましょう!!
ローマンに彼の名前を聞いたら「トール」と一言だけ呟いたわ…相変わらずぶっきらぼうね…
ローマンと話したあと、トール君の前に座っていたんだけど、集中してて気付いてくれなくて、待ち時間はチョット寂しかったわ…
でもそのあと、とても驚いたり、「美女」って褒めてくれたりして楽しめたから、寂しさなんて無くなったけどね!
「美女」って言われた時は正直、にやけそうな顔を押さえるのに苦労したわ…年上の女性としてなんとか我慢したけどね。
やっぱり、うぶで若い男性に言われるのは私でも嬉しいわよ!!悪かったわね!!
大声出しすぎて、ローマンに怒られたのは失敗したわね。でも、なんかトール君と近付けた感じがしたから、悪いとは思えなかったけどね。
トール君との話は実があったわ。情報の重要性やトール君への忠告とか話が楽しいと感じたのは久しぶりだったわ。強さ的にはランクDかCくらいと分かったから、もう少し成長して私と同じくらいになってくれれば、優良物件ではあるわね。気が合うみたいだし…ま、ほとんど可能性はないけどね…
これがトール君との出会いだったわね。
・・・
次に会ったのは、決闘の承認の時だったわ。
説明後に、
「キミの戦いを見てみたかったの。頑張ってね」
って言ったら、うらめしそうにこっちを見ていたわね。
でも、トール君の強さを知るにはいい相手ではあったわ。私と話した時点でもランクCと言って遜色ない強さと『看破』していたからね。ランクDなら勝てると思うわ。最悪でもちょっとした怪我で済むでしょう。
・・・
これは予想外だったわ…
決闘が始まった直後、トール君が無詠唱で魔法を使用して、ゲルドの前に出た。と思ったら、空中で回転して蹴り!?終いには、バクエンケンという新魔法でゲルドをぶっ飛ばして圧勝しちゃった!!
終わってみれば30秒くらいで決着したわね。あの動き、格闘の無駄を無くせばランクBに届くわよ…しかも、魔法の研鑽も凄い。最後の魔法はランクA並の『魔力操作』が必要なはずよ!!
決闘のあと、トール君をランクD手前まで強制的にランクアップしたけど、正直CやBでも個人的にはいいと思うわ。ランクCへの必要条件があるから無理だけど…
彼は次の日早速ランクDに成ったと報告があって、ちょっと嬉しかったわ。
・・・
まったく!!この子なにやってんのよ!!
盗賊退治!?実力があっても早すぎるわ!!
問題はトール君の心よ!
やっぱり、おかしいわ。死体を平然と見てるし、食事もこれでもかと食べてる。
時折私の顔を見てくるから、表情作るのが大変だったわ…食事中にする話じゃないものね。
彼は普通に見えるけど…無理をしてるんじゃないかしら・・・
・・・
はー、良かった…本当に良かった。
まだ、初めてだから油断は禁物だけど、彼自身がちゃんと考えて覚悟を決めたのなら…その心を忘れなければ、今後も立ち向かえるだろう。
じゃあ、心配事も無くなったことだし、トール君の秘密を暴きましょうか!!
・・・
これ…ヤバイわね…
神とか、スキルを見て奪えたり、さらにスキルLv.10がこんなにも…
レベルやスキル数だけ見れば、ランクSSもしくはそれ以上…
この力、隠し通さないと国に狙われるわ!!
トール君に『隠蔽』という力があってよかったわ。スキルも強者の雰囲気も誤魔化せるしね。
この情報の報酬どうしよう………
・・・
今、私の目の前にトール君が居るわ。昨日はやってくれたわね!!
あの『隠蔽』っていうスキル…ランクSの私でも魔力の動きが分からなかった。
トール君が敵でなくて良かったわ~。本当に狙ってみようかしら…
セレスティアさんもあれを見る限り満更でもないようね。
・・・
ハハハ…保持者…『魔人』…あり得ないわ。
もう、お手上げよ…隠し通すどころか、伝説を目にするとは…
報酬…もう出せないわ…最終手段は私ね。
でも残念ね…私に『魔人』は無理だわ…魔法適性が足りないもの。
・・・
あのあと、セレスティアさんに残ってもらったわ。
「セレスティアさん折り入ってお願いがあるの」
「何なのじゃ、ギルドマスター」
「ここからは私用しかも女同士の話だから、私のことはアイでもリーンでもアリーでも好きな愛称で呼んでちょうだい」
「・・・では、リーン殿で。我もティアと呼んでほしいのじゃ」
「分かったわ。じゃあ、ティア…貴女、トール君と一緒になる気ある?」
「な、何をいっておるのじゃ!!」
「冗談ではないのよ。彼の楔、補助、拠り所、安らぎになってもらえればと思ってね」
「そんなに主殿は危ないのかのう?」
「そこまでではないわ。でも、保険はかけておきたいの。彼が狂って色んなものを敵に回せば誰も彼を止められない。彼の心を貴女が救ってくれればその可能性は減るわ。その為には貴女も研鑽を続けてね」
「それは分かっておる。し、しかしのう、我らは会ったばかりで…」
「それは頑張って!!」
「丸投げ!!」
「し、仕方ないじゃない…私も経験ないんだから」
「え…」
「と、とにかく、頑張って!!そして、私の席を開けといて!!」
「は!?」
「ほら、彼このまま行けば確実にランクS越えるじゃない?私より強くて優しいなら、文句ないし。それに…情報の報酬…」
「ハァ…分かったのじゃ。わ、我の覚悟が出来た際には、主に伝えておこう」
そんなことを話して、ティアに了承を得たわ。ティア、ガンバ!!
・・・
次の日、私は会えなかったけど、ギルドの人にも挨拶に来たらしいわ。
ランクアップすれば私の耳にも届くから、近況が分かるでしょう。
次に会える日を楽しみにしてるわね…
2人とも。
次回、3章開始ですが、半月ほど時間を下さい。
ストックが切れました。
他人のスキルを考えるのがあんなに難しいとは…
終わりは決めてあります。最終回まで書くのでお付き合い下さい。




