#61 The Reverse-哀しみは憎しみに-
初別視点です。
4の月8日
6つの鐘がなる頃、信じたくない…いや、信じられない連絡が来た為、私は探索者ギルドに向かっている。
バンッ!
「ハア、ハア、ハア、そ「草原の狼」…ゲルトが死んだって…聞いて…嘘ですよね!?」
私は受付で息絶え絶えに、恋人の安否を確認する。
「あんたがドナさんかい?」
応えてくれたのはホリーという女性だった。
「は、はい。そんなことより、ゲルトは!?」
「・・・ついてきな。…告げるのは酷だね…」
ホリーさんが最後何か言っていたが、声が小さくて聞こえなかった。
私たちはギルドの治療室の前に立っている。
「ここだよ」
コンコン
「入るよ…」
ホリーさんに続いて中に入った私は息を飲んだ…
2人…横になった男性の顔に、白い布が掛けてある。
その2人の間にはゲルトのパーティーメンバー…ボビーが項垂れて座っていた。
「えっ…ウソ…」
「あ、姐さん…」
「ボビー!!そ、そこに居るのは…ゲ、ゲルトなの!?」
「くっ………はい」
ボビーは悔しそうな顔をし、残酷な返答をしてきた。
私は、白い布を取って…顔を確認した。
私はゲルトが死んだなど信じたくなかった…信じられなかった。
この時までは・・・
「ゲルト!ゲルト!起きてよ!!結婚しようって…ずっと一緒に居ようって言ってくれたじゃない!!」
何度呼び掛けても…目を開けてくれない
何度揺すっても…目を開けてくれない
何度も…何度も…何度も…
泣き続けた…叫び続けた…
それでも、彼の手は私を慰めてくれない………
・・・
30分以上経っただろうか…
この時、ホリーさんが見当たらなかった…気を利かせてくれたのだろう。
私はボビーに彼が何故死んだのかを聞いた。
「始めは普通のシューティア討伐でした。
それが無事に終わり、帰路についていると突然、変異種のフックスに襲われました。
でも脅威度ランクEの変異種です。同レベルの討伐は何度も経験していたので、返り討ちにしようと話し合いで決まりました。
予想通り、状況は有利に進みました。そして自分の攻撃でもあと2、3発で倒せる所まで追い詰めました。
ここで相手の魔法…『ボム』だったと思います。それが発動し、全員が多少の火傷を負いましたが、特に問題はない…そう思っていました。
ここでゲルトさんが怯えだしました。それこそ戦えないくらいに…ビリーと俺はゲルトさんを守りながら、戦いました。
しかし、戦闘を支配していたゲルトさんがいなくなると、押されていき2度目の『ボム』でビリーは死に、俺は気絶してしまいました。
そこからは結果しか知りません。気付いたら、フックスがゲルトさんの首に噛みつき、ゲルトさんの剣がフックスの腹を貫いていました。相討ち…でした。
そのあとは2人とフックスをギルドに持ち帰り今に至ります」
「そう…あなたたちはゲルトを守って…ありがとう…」
「お礼を言うのはこっちです!
ゲルトさんが倒してなければ俺も死んで、誰もここに帰って来てません!!だから…」
「そう…ゲルトは最後まで頑張ったんだね…」
そう言って、私はゲルトの髪を撫でた。
でも・・・
「でも、何故ゲルトはいきなり怯えだしたの?
魔法の攻撃なんて何度も見てるでしょう?」
でなければ、ランクDに成れるはずないもの…
「俺も不思議に思って、治癒医師に聞いてみました。原因は、前日の決闘で受けた魔法みたいです。心的外傷による逆行再現と言っていました。ゲルトさんは決闘で『ボム』みたいなのを受けて怪我をして気絶しました。医師が言うには、本人にとって余程受け入れられないことだったのではと…探索者に特に起こりやすいとも医師は言っていました」
えっ…
「そいつが原因なの…」
「え・・・はい!!そうですよ!!
こういっちゃなんだが、あいつはゲルトさんを圧倒していたんだ!!
あんな魔法使わなくても勝てたはずなんです!!原因はトールとか言うやつだ!!」
理不尽?そんなことはドウデモイイ
ゲルトが死んだのに、原因を作った奴は生きている…
許せる?…ゲルトが死んだのに…
許せる?…ゲルトは私の全てだったのに…
許せる?…許せない!!
「ボビー…そのトールって奴を殺すわ。手伝ってくれない?復讐しましょう!」
「やりたいです…でも、姐さんと俺だけじゃ無理ですよ…」
「そうね。だからここ最近、よく話を聞く盗賊の「バルトイェーガー」を利用するわ」
「しかし、どうやって協力させるんですか?そう簡単にいくとは…」
「報酬を500000モル用意するわ。前金で250000、後金で250000。あと追加報酬で女の奴隷を1人付けるわ」
「そんな金どこに…あ、今回の変異種の討伐料がありますね!」
「ええ、それでお願いしたいわ。討伐料で足りないなら追加で出します。出来るかしら?
奴隷は私が用意するから…」
「1日待って下さい。絶対に見つけて約束を取り付けてきます!!」
「ありがとう…絶対に成功させましょう…私たちの命に換えても…」
こうして私たちは憎しみをトールにぶつける為に、準備を始めた。
計画は案外順調だったわ。
盗賊は単純。
ボビーが有用だと分かるとすぐ信用するし、目標の誘導を引き受けたら「殺すだけの楽な仕事で助かる」や「儲け話だったな」とか言うだけで、こちらの言うように動いてくれたわ。
言うこと聞かなきゃ、私の身体を差し出すくらい考えていたんだけどね…
こうして、私は計画をほぼ順調に進めた。
盗賊のボスが「話が違う」と言っていたけど、相手をランクEと少し弱めに言っただけで、そんなに大きなウソではなかったわよ。
予想外だったのは、トールが盗賊のボスとボビーの連携を潰すほど強かったこと…
ごめんなさい、ボビー・・・
私が計画を成功させるわ!
盗賊を犠牲にし、ボビーを犠牲にし、それでもトールを殺す為、パーティーメンバーと称した奴隷の所まで誘導する。
奴隷には私とボビー以外が触ってきたら、対象を刺すように命令をし、短剣を渡してある。
・・・ふふ、土壇場で計画が変わったけど成功ね。
トールが滑稽に喚いてるわ!
最後にこの毒付きの短剣で刺しておしまい!
ビュ!
次回、通常視点に戻ります。
 




