#15 バレタ!!
#12からの続きになります。
それではどうぞ!!
「ん…んぁ…ここは?」
「お、目が覚めたか?」
俺は景色が通り過ぎるのを横目に、背に居る女性へ首を傾けた。
「ああ。すまない、背負ってもらって。
その声…俺が気絶する前に会った人物で合っているか?」
「そうだ。気分はどうだ?
俺が見つけた時は相当疲弊していたみたいだが…」
「ああ、疲れも傷も無い…疲れが無い?それに傷も?
何でだ!?」
いきなり背負っている女性が困惑して暴れ出した。
「暴れるな!!元気になったのはいいが、今は大人しく捕まっていろ!!
疲れと傷が無い理由は俺が回復魔法で治したからだ!!
それと貴女が気絶する前、必死に「ギルドへ連れて行って」と言っていたから向かっているが良かったか?」
俺は背の女性が倒れた後、皆と相談して王都のギルドへ向かうことに決めた。
それにリーン曰く…
「ギルドへ助けを求めるのは危険な魔物が居た場合など緊急性の高いものが多いわ」
とのこと。
なので、背負って回復させながら王都に向かうことになったのだ。
「そ、そうだ!!今の俺が言うのも何だが急いでくれ…って何だこの速さは!!
全く風を感じなかったから変だと思っていたが!!」
答えを返した女性があまりの速さに驚愕して、首を激しく左右に振り、周りを確認している。
今気付いたのかよ!!
それと、さっきも言ったけど、暴れんなってーの!!
まあ、これ以上驚かれても困るので言ってないが、この女性が気絶してまだ10分くらいしか時間は経過していない。
『転移』で砦に戻った後、転移陣で港へ行き、また『転移』で王都の5kmくらい手前に移動。
更に『身体強化』や『アクセル』、『飛行』で速度を上げ、『風魔法』で空気抵抗を排除して走っている。
そして女性は見えていないらしいが、もう王都は目の前だ。
自分で言うのも何だが…他人から見れば相当おかしいことをやっているだろう。
それを知って更に暴れられるのも困るので、真実は教えないようにしている。
因みに、何故バカ正直に走っているのかというと、門番などを誤魔化すためだ。
出て行った人間が門を通らずに街に入っていたら、変に思われるだろう?
同じ変に思われることでも、門を通ったという事実があれば多少の誤魔化しは出来るし、門番なども勝手に想像して自己完結してくれる。
まあ、言っちゃ悪いが、日本よりも監視・管理技術が杜撰だから出来る芸当である。
閑話休題
あれからは特に何事もなく王都に到着。
門に着いた時、あまりの速さに門番に驚かれたが、面倒くさいのでスルーさせて頂いた。
門番のチェックを素早く済ませると、民衆を避けながらギルドへ直行。
背中の女性が大声を出して道を空けるように言ってくれたおかげで走り易かったのが幸いし、直ぐにギルドへ到着することが出来た。
入り口の扉を抜けると同時に、女性は転がり落ちる様に俺の背から降りて受付へ向かった。
その慌ただしさに気付いた周りの探索者が、何事かと俺たちや受付へ視線を集中させる。
「頼む!!急いでギルドマスターに会わせてくれ!!」
女性がバンッと周囲に響く程、受付台を叩き、受付の女性に詰め寄った。
「何事ですか!?
確か貴女は…ランクBパーティー「紅狼」のギーゼラ様でしたね。
急いでいるのは判りますが、もう少し考えて行動してください!!
それと、ギルドマスターとの面会を希望しているみたいですが、お約束は取り付けてありますか?」
受付の女性は突然目の前に現れた女性…ギーゼラに不作法であると注意した。
あれだけ激しく詰め寄るのは急いでいても、そうでなくても、相手を不愉快にさせるからな。
まあ、受付嬢はこういう事に慣れていたのだろう。
怒りもせずに、すぐさまギーゼラの問いに応えていた。
「そんなものある訳ないだろう!!」
「それではまた後日…」
「そんな悠長な事を言っている場合じゃないんだ!!
魔の森で、迷宮災害が始まってしまったんだ!!」
ギーゼラのその叫びにギルド内に居た全員が口を閉ざした。
迷宮災害って確か…
俺がそのことについて考えていると、周囲はせき止めた水が溢れ出るかのように騒がしくなった。
話の内容が物騒でなければ、音楽フェスに来ていると勘違いするような騒がしさだ。
だが、ギルドの階段から降りて来た人物により、その喧騒も収束を見せることになる。
「騒がしい!!静かにしろ!!」
『威圧』が込められた言葉がギルド内に響き渡る。
おいおい…一部の人が腰を抜かしたぞ。
騒ぎを止めたいのは分かるが、少しは加減してやれよギルドマスター…
そうこうしている内に、いち早く『威圧』から抜け出した先ほどの受付嬢がギルドマスターの下へ駆け寄り、耳打ちをしている。
多分、状況説明をしているんだろうが…マズイな、更に面倒事に巻き込まれそうな予感。
あ、ギルマスと目が合った。
「はぁ…ギーゼラ、話を聞くから付いてこい。
それから入り口で佇んでいる「日月」も事情を聞くから付いてこい。
それと、ギーゼラが言ったことが正しければ、緊急依頼を出す。
ここに居る探索者は指示があるまで依頼を受けないように。
職員は対応を頼む。判ったな」
ギルドマスターは受付嬢の説明で緊急度を理解したのか、素早く探索者と職員に向けた指示を出した。
普通だったら不平不満が多少でも出るはずだが、全く無い所を見るとギルドマスターは相当なやり手だな。
場を完全に支配出来るほどの実力を示してきたんだろう。
だが、俺を見て溜息吐いたのは何故だ!?
失礼だな、あのギルマス!!
にしても、「日月」の名もあの大会から広がったみたいだな。
さっきは迷宮災害の事で騒がしかったのに、俺たちの名前が出た途端、「大会で全員本選に出たっていう…」や「あれが【心滅の無限者】か…」とかのヒソヒソ話が聞こえて来たんだから…
うん、さっさとギルマスに付いて行こう。戦略的撤退だ。
何処に居ても面倒なことになりそうだからな。
そう思い俺は、皆を促してそそくさとその場を後にし、ギルドマスターの執務室へと向かった。
…
「さて、話を聞こうか」
執務室に着いた俺たちは早速彼女…ギーゼラの言った迷宮災害の発生についての説明を聞くこととなった。
因みにこの話し合いの参加者は、俺たち「日月」に当事者のギーゼラ、そしてギルドマスターと途中で合流した副ギルドマスターだ。
こんな面子が揃うと、面倒事に巻き込まれそうな感じがビンビンするのはなんでだろうか…
ギルマスが言った「事情を聞く」だけじゃ済まない気がする。
「あれは…しまった!!あれからどのくらい時間が経ったか分からない!!
すまない「日月」のトールだったか?
俺は倒れた後どのくらいでこのギルドに着いたんだ?
通常なら3日は経っていると思うが…」
…しまった!!この状況じゃ誤魔化したら迷惑が掛かるぞ!!
でも、正しい時間を言ったら…うん、断固秘密として通すか!!
「あ~…あれから1時間も経ってないぞ」
俺はギルドマスターやギーゼラから目線を逸らすように顔を横に向けると、多少口ごもりながらそう言った。
「は!?そんな訳ないだろう!!
俺が倒れたのは砦近くの転移陣だぞ!!
そこから砦に戻るまで最低でも30分~1時間、その後転移してあのバカみたいな速度で走っていたとしても1日も経ってないというのは…」
ギーゼラが感情的になり、椅子からガバッと立ち上がる。
あー!!やっぱりこうなった!!
誤魔化せるか!?
「『転移』だろう?」
俺が心の中で悶えていると、突然答えを言ったのはギルドマスターだった。
「なっ!?」
俺は驚きのあまり、誤魔化すことも忘れ、驚愕の顔でギルドマスターを見た。
「あのな、魔闘技絢爛大会であれだけ使っていたら予想はつくぞ。
長距離の『転移』は魔力的に出来るかどうか分かってなかったが、大会で使っていたバカげた技のことを考えれば、出来なくはないだろうと思っただけだ。
あとはトール君の今の反応で全て判ったという訳だ」
しまった!!きちんとスキルを使っていれば…いや、後の祭りか。
流石に行き当たりばったりは駄目だよな。
それで門番は誤魔化せても、ギルマスを誤魔化すには杜撰だったと…
自業自得だよ。
「あーはい。その通りです。
『転移』を所々用いてここまで帰ってきました。
正直、自分の家に『転移』していれば、もっと時間短縮出来ましたよ」
俺は開き直り、正直に説明した。
「はぁ…便利なんだが、おいそれと人には話せんな。
今の事項はここでの守秘事項とする。
これを破った者は重い処罰が下るので覚悟しておくように」
ギルドマスターは俺が秘密にしたかった理由を推測したようで、副ギルドマスターとギーゼラに対して命令を行い、『転移』の件を秘密にしてくれるみたいだ。
頭が上がらんなぁ…
「さて、ギーゼラの話に戻ろうか。
今聞いたように、時間の遅れはほとんど気にしなくていい。
予測はいらないから見たことをそのまま話せ」
「…分かりました。
では…」
ギーゼラは『転移』の件を未だに理解できておらず、納得までには至ってないみたいだ。
だが、現在求められているのは迷宮災害の情報である為、自分の欲求を飲み込み、迷宮災害が発生した当時の状況を話し始めた。
次回は迷宮災害について(予定)です。
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