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すきと~る -えっ!視えるの?-  作者: 守りの神殿
第6章 迷宮災害(メイズディザスター)
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#14 回想~更なる喪失と繋がる出会い~

評価人数が増えました!!

ありがとうございます!!


回想の続きです。

今回でこの回想は終わります。


それでは、続きをどうぞ!!

~side ギーゼラ~


 行程の2/3程まで来ただろうか…

俺たちは次々と襲い来る魔物を殺し、時には無視しながら一目散に走り続けた。


だが、それも体力の限界に達しようとしていた。

迷宮に寄って来る魔物と溢れ出る魔物が多過ぎたのだ。


「仕方ありませんね」

突然ザカリーがその状況を重く受け取ったのか、足を止めてそう呟いた。


「ザカリー!!」

俺はこいつが何故足を止めたか大体想像は出来ている。

だが、それを認めてしまったら…


「リーダー、あなたも判っているはずです。

ここで逃走への道を開き、同時に足止めを行わなければ全員が死ぬ。

その役目は殲滅魔法が撃てる私が適任なのですよ」


「くっ…」


「そうね。そういうことならザカリーと私が適任ね」


「アラーナ!!」


「リーダー、忘れた?

私も一応1つだけ殲滅魔法が使えるわ。

2人で道を開けば退路を確保するなんて簡単よ!!」

そんなこと…そんなこと判っている!!

確かにこの2人が魔法を使えばどうにか転移陣まで行けるだろう。

だが…


「ぃゃ…イヤだよ!!

皆で行こうよ!!私たちが協力すればどうにかなるはずだって!!」


今まで黙っていたイリーネが突然叫んで駄々をこね始めた。

内心では取捨選択しなければ生き残れないことが分かっているのだろうが…

既にヤニクとトレーシーの生存が絶望的な上、さらにザカリーとアラーナも俺たちを逃がす為に礎になろうとしている。

その事実のせいで心が耐えられなくなってきているのだろう。


「いい加減にしなさい、イリーネ!!

貴女も探索者なら割り切りなさい!!

このままじゃ、私たちは全滅なの!!

そうするとこの事を知らせる人が居なくなってしまうのよ!!

そのせいで今までお世話になった人たちをも死ぬ危険に(さら)してしまうわ!!

だから1人でも生き残る可能性を考えて動かなくちゃいけないの!!」


アラーナがイリーネの両肩をガッと掴み、大声で、しかし諭すように話しかける。


「ひぐっ…で、でもぉ…」


「でも、じゃない!!

判っているんでしょう?

私たちが生かそうとしているのは貴女よ!!

貴女はパーティーの中で一番足が速い!!

逃げの一手に(てっ)すれば一番生存率が高いの!!」


「そうです。

今、私たちの意思を託せるのは貴女だけなのです。

だからイリーネ、どうか私たちの「守りたい」という想いを皆に伝えて下さい。

伝えてこの危機を乗り越えて下さい。

そして貴女自身は生きて私たちが羨む程、幸せになって下さい。

いいですね?」


アラーナの言葉を引き継ぎ、ザカリーが笑顔で、しかし真剣に自分を含めた4人の願いをイリーネへ放つ。

それを受け取ったイリーネは涙をゴシゴシと拭うと、何かを決意したようにキリッとした表情を見せた。


「っ…わかった!!」

イリーネはその一言だけを言うと、2人に背を向けて突然走り出す。


「おい!!イリーネ!!」


「まったく、そそっかしいんだから…」

「まあそれも彼女の持ち味ですよ。

さて、頼みましたよリーダー。必ず伝えて下さいね。

そして出来ることなら貴女も生きて下さい」


「難しいことを言う。だが、頑張ってみようか。

さて、離される前に行くとしよう。

では…な」


「では」

「ええ、じゃあね」


俺たちはいつものように素っ気なく別れの挨拶を交わした。

それが俺たちらしかったし、何処かで再会を願っていたんだと今になって思う。

そして別れを済ませた俺はイリーネを全速力で追った。

イリーネ同様、俺も振り返ることをせず、未練を振り払うかのように…




俺たちは2人と別れ、脇目も振らず、転移陣へと駆けて来た。

イリーネの邪魔をする奴らを薙ぎ払って進んでは来たが、そろそろ俺も武器も限界を超え始めていた。


そんな最中、やっとのことで転移陣を目視出来る位置まで辿り着くことが出来た。


「リーダー!!見えましたよ!!

急ぎましょう!!」


人は目的が達成される直前が最も油断し易い。

イリーネにも口うるさく言っていたはずだが、心と身体が疲弊してしまっていたせいで安心感が俺たちの教えを頭の隅に追いやってしまったのだろう。


この時、俺の体調が少しでも良かったら…

イリーネを無理矢理掴んで引き留めていただろう。

だが、先ほども言った通り、俺も限界だった。

そんな簡単なことすら出来なかったのだ。


「駄目だ!!止まれ、イリーネ!!」

手が空を切ったのを確認した俺は、唯一イリーネに注意を促すことの出来る声を用いて、止めに入った。


「えっ…?」

その言葉にイリーネは足を止め、俺の方を振り向く。

止まってくれた…その安堵感がこの時私を支配していた。


だから、この後の悲劇に連なる反応を見逃してしまった。

上空から急降下してくる魔物を…


ウィンドラーベ…ラーベ(カラス)の変異種。

魔の森の深層ではたとえこいつの様な変異種でなくても、上空の警戒は必須だった。

上空からの奇襲が飛べない私たちにとって、とても厄介だからだ。

ウィンドラーベの風を纏った突撃は鋼を易々と貫く為、こいつを見付けた時は回避主体で戦わなければならない。

だがこの時、イリーネの意識は転移陣に釘付けな上、俺が突然呼び止めたことで完全な無防備になっていた。


だから…


「あ…」

目の前でイリーネの頭が弾ける所を見送る事しか出来なかったのだ。


「あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

俺は叫んだ。

叫んで自我を無くそうとしていた。

それだけ守ろうとしたものが目の前で奪われたのはショックだったのだ。


だが、皆の顔が、声が私を止めてくれた。

今思えばアレは幻視・幻聴だったのだろう。

皆が転移陣を指示しながら、ただ一言「「「「「頼む」」」」」と俺に語り掛けて来たんだ。


俺は叫ぶことを止め、転移陣を見据えると、無理矢理身体に魔力を送り、走り出す。

件のラーベはイリーネを殺したと同時に再度上空へ上がり、今度は俺を殺そうと真正面上空から突撃してきた。

だが俺にそれを回避する(すべ)は存在しない…だから!!


俺は手に持った大剣を大きく掲げると、突撃してきたウィンドラーベに向かって振り下ろした。


バキィッ!!


衝突で俺の大剣が根本から折る。

だがそれを代償に、ウィンドラーベも後方へ吹っ飛ばすことが出来た。

俺はそのまま速度を緩めず、吹っ飛ばされて体勢を立て直すことが出来ないウィンドラーベの首を右手で掴む。

多少風を纏っていた影響で、掌が裂けたが痛みなど感じなかった。

俺はそのまま俺の血に濡れたウィンドカーベを己の全体重を以って地面に圧しつける。


ゴキィ!!


その瞬間、奴の首が折れた感触が手に伝わってきた。

確実に殺したそれ(・・)を俺は無造作に横へ投げ捨て、転がりながらも転移陣に向かう。


「畜生っ…畜生っ!!…畜生ー!!」

俺は悔しさを隠すことなく、転移陣へ全速力で走る。


「俺以外、全員()られちまった!!

アラーナ、ヤニク、トレーシー、イリーネ、ザカリー……

お前たちが居てくれたから今の俺がある……ありがとう。

必ず…必ず俺が知らせるから!!」

俺は流れ出る涙を無視して、更に駆ける。


「この迷宮災害(メイズディザスター)の危機を!!」

俺は言葉に出すことで、心に使命を刻み付け、使命感で疲労を誤魔化しながら走った。


そしてやっとのことで辿り着いた転移陣。

俺は魔石を取り出し、叩き付ける様に転移陣に置くと、すぐさま転移を行った。


転移は問題なく成功。

あとは砦まで向かうだけ。

俺はこの時それしか頭になかった。


俺は走る事も出来ない状態で歩を進め、茂みを抜けた。

だが、やはり限界は来てしまった。

俺は茂みを抜けると同時に倒れてしまった。


何か遠くで人の声が聞こえるが…動けない。

ごめん、皆。

皆の願いを叶えられそうにない。


「もしもし!!大丈夫ですか!?」

気絶しようとしていた矢先、見知らぬ男に俺は肩を揺さぶられているのに気付いた。


幸運だった。

皆の想いが繋いだ幸運…そうとしか思えなかった。

だから…


ガッ


俺はその男の腕を掴み、ゆっくり顔を上げながらこう呟いた。


「ギルド…ギルドへ連れて…行って」

そう言って俺は全ての気力を使い果たし、気絶した。

プロローグの回収がやっと終わりました。

次回からトール視点に戻ります。


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