#8 筆頭料理長とソースの材料
予想以上に長くなったので2話に分けました。
今回は材料と色の情報についてです。
それではどうぞ!!
「陛下、命により、レイモンド・オカムラ参上致しました。
お待たせして申し訳ございません」
あれから10分ほど経過して、件の人物が部屋へと入ってきた。
年齢は50~60代で料理帽を被った白髪の男性。
背筋がピンッとしているので立ち姿は料理人というよりは、騎士に見える。
だが、表情は柔和であり、見るだけなら優しいおじいちゃんだ。
「おお、来たかレイモンド!!
「日月」の皆、改めて紹介しよう。
城で働く20名程の料理人を統括しておる筆頭料理長レイモンド・オカムラだ」
王様はその場で立ち上がると、俺たちを見渡し、丁寧にレイモンドさんを紹介した。
「陛下よりご紹介を授かりました、筆頭料理長のレイモンド・オカムラで御座います。
「日月」の皆様方、今宵の料理は如何だったでしょうか?満足して頂けたのなら幸いです」
レイモンドさんは深々とお辞儀をすると、微笑みを浮かべて俺たちに料理の感想を問い掛ける。
「「日月」のリーダーを務めております、トールと申します。
今日は美味しい料理をありがとうございました。
料理はどれも素晴らしく、とても満足した時間を過ごすことが出来ました。
代表してお礼を申し上げます」
俺たちは立ち上がると、お礼を述べ、全員でレイモンドさんに一礼した。
「これはこれは、ご丁寧に。こちらこそ美味しく食べて頂き、ありがとうございます。
エルザ様がいらっしゃいますので、今後もご縁がございましょう。
その時は腕によりをかけて料理をお作り致しますので、その際はよろしくお願い致します。
それで陛下、私をここへお呼びになったのは、「日月」の皆様に私を紹介する以外に何か理由があるのでしょうか?」
一通りお礼の言葉を交わし合ったところで、レイモンドさんは王様に呼ばれたことを思い出したのか、そのことを王様に問い掛けた。
「うむ、それはだな、トール殿があと1色でオーロラソースを制覇するそうなのだ。
だが残念なことに、このソースの詳細を知らずにここまで来たらしい。
詳細を知っている私が説明してもいいのだが、情報の欠落があってはいかん。
なので、レイモンドから説明してほしいのだよ」
「なるほど。
それでは僭越ながらオーロラソースについてのご説明させて頂きます。
少々長くなりますので、食後のお飲物を頂きながらお気楽にお聞き下さい」
レイモンドさんはそう言うと、食後のコーヒーを配るようメイドたちに指示を出した。
その配膳が終わると、「コホン」と1つ咳をし、オーロラソースについて話し始める。
レイモンドさんが話した序盤の内容はソースの材料に関することだった。
とは言っても、主となる物しか教えて貰えなかったがな。
弟子でもないのに教えて貰えるとは俺も思っていない。
さて話を戻そう。
オーロラソース全色に関係して使われている材料…
それはなんと!!スライムの肉だ。
正式には、魔力水と言うらしい。
スライムの核…まあ魔石だな。
それが浸かった水が時間と共に魔力水へと変化するらしいのだが、それを人間が作ろうと思っても何故か出来ないらしい。
その為、魔力水が欲しい場合はスライムから採取するしかない。
ただソースに使用されるのは普通、つまり無属性の魔力水なので材料は比較的手に入れやすい。
まあ採取場所が魔の森なので、希少な変異種の属性スライムから属性付魔力水を取って来なくていいだけマシというだけだがな。
また値段は採取場所が魔の森なのである程度の値段はするとのこと。
そう考えると青のソースを使っていたあの屋台は結構儲けていたんだろう。
レイモンドさんが次に説明してくれたのは色についてだった。
色は全部で7種類あるが、俺が食べたのは青、黄緑、紫、赤、橙、黄の6色。
最後の1色についてはまだ知らなかった。
なので、レイモンドさんに最後の1色を教えてもらう。
教えて貰った最後の1色…それは藍色だった。
これについては文句を言いたい。これこそ醤油味にしろよ!!…と。
何故、紫なのだ…
こんな思いもあり、どんな味なのか教えて欲しかったが、「初めて食べたという喜びが無くなるので秘密です」とやんわり断られた。
まあ料理人としては、お客に満足感を与えたいという心情があるのだろうな。
俺も藍色がどんな味なのか楽しみにしながら、その時を待っているとしよう。
さてレイモンドさんが色について説明していた中で、継承に関しての制限も少しだが説明してくれた。
何と!!1人2色までしか受け継いではいけないし、継承してはいけないことになっているそうだ。
何故そんなルールを作ったのか…
これは初代ツバメのお宿の主人の心意気が成せるものと言っていいだろう。
このオーロラソースは旅の人…のちにツバメのお宿の主人と親友となったジュン・オカムラの話からインスピレーションを受けて作ったものらしい。
であるならば、オーロラソースを食べる人にも旅をしてもらい、その地域の名物としてオーロラソースの印象を植え付けたい…初代はその思いを弟子に話していたそうだ。
そんな思いがあり、初代は2色という限定を付け、様々な人…友人や弟子に伝えた、とレイモンドさんは語っていた。
制限を付けているにも関わらず、今に残っているんだ…初代の思惑は成功しているな!!
因みにこの旅人、ジュン・オカムラはクリフが目指している『武人』の保持者だったらしい。
この情報はクリフも初めて知ったらしく、「全色制覇してやるぜ!!」と謎の意気込みを見せていた。
多分、コレクター魂がうずいたんだろう。クリフはジュン・オカムラのファンらしいからな。
もう1つ因みに…
レイモンドさんのオカムラの姓は、ジュン・オカムラの性を頂いて付けているとのこと。
レイモンドさんの先祖が初代の1番弟子だったらしく、ソースを受け継ぐと同時に、機会があれば友の性も受け継いでほしいと言われたらしい。
初代はジュン・オカムラが子供を作らずに亡くなったことを知り、せめて友の名を残したかったのだろうとレイモンドさんは語っていた。
その1番弟子の血統が研鑽を重ね、孫の代くらいに王城で筆頭料理長の座に着いた。
それと同時に当時の王様から性を名乗ることを許され、オカムラの性を付けたらしい。
そしてその努力は今でも続いており、レイモンドさんの息子もこの城で副料理長を務める程の力量とのこと。
その話を聞く限り、この城の食事事情は当分安泰だろうな。
閑話休題
「凄い物ですね。このオーロラソースの歴史は…」
「はい、材料や歴史についてはここまでです」
「ん?ついて…ということはまだ何かあるんですか?」
俺はその事実に若干驚き、レイモンドさんにそう問い掛けた。
「はい、ここからは陛下もあまり内容を知らない話となります。
トール様は全色制覇まで、あと1色という所まで迫っていますので、最後の説明をした後、私からお願いが御座います。
これは私の栄誉に関わる話でもありますので、是非ともトール様にはこの話を受けて頂きたい…
そういう思いで今から説明致しますので、どうか最後までご清聴をお願い致します」
レイモンドさんは何かを決意した目を俺に向け、一礼した後、最後の説明を始めた。
次回はソースの大ボスの情報です。




