#5 トールvsクリフ~再戦~
まずはクリフの成長を確認します。
それではどうぞ!!
「まずは前回のおさらいからだ。
当然凌げるようになっているよな!!『炎無』、『零氷』!!」
俺は開始と同時に抜刀し、右に『炎無』、左に『零氷』の『魔纏剣』を発動した。
そう、俺たちが旅に出る前日に戦った時の再現だ。
あの時は俺が圧勝したが、今度はどうかな?
「早速それかよ!!
いいぜ、やってやるよ!!『スプリット』!!」
俺の『魔纏剣』を見たクリフは即座に魔導剣のツインズを2つに分ける。
それと同時に、クリフが先手を取られまいと、剣と身体の強化を施し、間合いを詰める為に一気に駆けだした。
俺は迎え撃つためにクリフと同様に身体を強化。
そして挙動を隠すために、両方の『魔纏剣』を打ち合せて靄を発生させる。
これにより、俺の胸から下は目で確認することは出来なくなった。
「チッ…」
不満を表すクリフの舌打ちが俺の耳に届く。
クリフ…せめて最初くらいは感情を表に出すなよ。
精神的余裕が無いと思われるぞ。
それともその感情はブラフなのかな?
そんな俺の疑問を余所に、間合いに入ったクリフは右手の剣を振り上げた。
どうやら袈裟懸けに剣を振るうみたいだ。
だが手元が見えないのにそれは悪手だろう。
俺は『零氷』の刀身を一気に伸長させ、靄の中から串刺しを狙う。
だが…靄から刀身が出た瞬間、クリフがニヤッと笑うのが見えた。
やはり!!
さっきの感情はブラフ!!
ならば袈裟懸けに振るわれるはずの剣は…
俺がそう認識した瞬間、クリフの右の袈裟懸けが左手の突きへと変化した。
身体の連動を意識して突いたのだろう。
振るおうとしていた右手を引くと同時に、身を低くして『零氷』の刀身を掻い潜り、紙一重で回避。
その後、左右の半身を入れ替える形で、下へ向いた力を前へ進む力へと変化させつつ、左手の突きへと力を伝達。
それにより、突きは最高の形で俺を強襲した。
良い攻撃だ。
あの頃のクリフは確実に超えているな。
だが俺にはまだ視えている!!
『炎無』で突きを左へ流して軌道をずらした俺は、準備していた左足の蹴りにクリフを迎え入れ、そのまま蹴り飛ばした。
その勢いで数m転がるクリフ。
だが、クリフは勢いを利用して素早く立ち上がり、直ぐに体勢を整えて俺を見据えた。
先ほどの攻撃、クリフもただやられた訳ではない。
蹴りが当たる直前に、なんとか右腕の防御が間に合い、クリーンヒットを免れていたのだ。
よくあの勢いで防御が間に合ったものだと、対戦相手ながら感心してしまう。
きちんと防御面も修行している成果が出たんだろうな。
「くっそ!!届かねーか!!」
クリフは顔を歪め、悔しそうにそう言った。
「いやいや、前よりは断然動きが良くなっているぞ。
追撃が蹴りになったのがその証拠だ。
前までは小太刀で全部対応出来ていたからな。
予想だが、クリフの『剣術』レベルは9になっているとみた…どうだ?当たっているか?」
明らかに動きは最後に戦った時より良くなっている。
最後にステータスを視た時は『剣術Lv.8』だったから、その上の9にはなっていると思うんだが…
「正解だ。
お前がここを出発してからだったな、『剣術』に重点を置いた訓練を始めたのは…
レベルが9になったのは魔闘技絢爛大会に出席する前くらいだ。
おかげで試合を通してランクSの強さが分かるくらいにはなったな」
クリフはそう言い終わると、ツインズに先ほど以上の魔力を流し始めた。
どうやら再度先手を取りたいらしい…だが!!
「いやいや、やらせんよ。
今度はこっちから行かせてもらう!!」
さっきは先手を譲ったので、今度は攻めさせてもらうぞ!!
俺は小太刀を逆手に持ち変えつつ、身体への強化度合を上げてクリフの上空へと跳躍。
『立体起動』で空を蹴って急降下からの串刺しを狙う。
言っておくが、ふわりと放物線を描く様な跳躍じゃないぞ!!直角三角形を描く様な跳躍だ!!
その軌道でスピードのある急降下…前のクリフなら避けられないだろうが、今はどうかな?
クリフの頭上まで来た俺は予定通り空を蹴り、急降下。逆手の小太刀を振り下ろす。
結果は…
残念、失敗だ。
俺の小太刀は目標を見失って地面を突き刺しており、当のクリフは少し慌てながらも後ろへと跳んで回避に成功していた。
それどころか、クリフは回避する為に離れた間合いを瞬時に詰めて、俺に斬りかかろうとしている。
ちょっと舐め過ぎていたと内心で反省した俺は、クリフの右の横薙ぎを『炎無』で防ぐ。
それと同時に左手の『零氷』を順手に持ち直し、お返しに横薙ぎでクリフの右わき腹を狙った。
クリフは左の剣を右脇の下から通してそれを無理矢理防御。
剣を振り抜けず、腕をクロスしたままのクリフは、攻撃に転じることが難しいと感じたのか、ケンカキックを放って俺を遠ざけようと試みる。
だが俺がそれを難なく膝で受け止めた。
クリフは即座に考え方を変え、蹴り飛ばすのではなく、俺を利用して自分が跳躍する方を選んだ。
再度間合いを取る形となったが、クリフは俺を休ませたくないのか、またも即座に間合いを詰めて来た。
そこからは膠着状態に移行。お互いに決めてに欠ける攻撃が続く。
だが、クリフはギリギリで、俺は余裕を持って相手の攻撃を防いでいるので、精神的には俺の方が優位ではある。
それにクリフは『魔纏剣』の効果で常に熱さと寒さに曝されているので、体力の消耗も俺より多いはずだ。
このまま持久戦を続ければ、勝つのは確実に俺だが…そんな結末は俺も、そしてクリフも望んではいないだろう。
俺はこの膠着状態を終わらせる為に、一度大きく後方へ跳躍し、『魔纏剣』を解除して納刀した。
「ふう…やっとかよ…」
クリフが1つ大きく息を吐くと、待ってましたとばかりにニヤッと笑った。
「ん?待たせて悪かったな。
ちょっとお前との戦いが楽しくてな…止め時を見失っていた」
「嬉しい事言ってくれるねぇ…」
「フッ…
ああ、それと1つ忠告だ。
今回は俺も大会の時よりも成長したって所を見せるからな。
覚悟しておけよ」
「…おいおいマジかよ!!
アレの先と戦えるのか!!くぅ~!!ワクワクしてきたぜ!!
…ん?それなら…だ。
アレ以上のものを出すなら、やる前にちょっと周りに忠告しとかないとヤバいな。
ちょっとだけ時間貰うぜ、トール。いいよな?」
俺はその言葉に無言で頷き、了承。
それを見たクリフは観客に向けて言葉を発した。
「聞け!!今、俺たちの戦いを観ている奴らに告げる!!
これからトールがある技を使う!!それは魔闘技絢爛大会で周囲に影響を与えた技以上のモノらしい!!
この技への対処方法は腹に思いっきり力を入れること!!
それを怠った者は例外なく気絶する!!騎士隊の奴でさえだ!!
10秒与える!!思いっきり腹に力を入れろー!!」
クリフが全体を見渡しながら、身振り手振りで忠告を行う。
10秒か…俺も余裕を持って準備出来るな。
俺は魔力と氣を高めつつ、心の中でカウントダウンを行う。
あと5秒…4…3…2…1…
「んじゃ、クリフ…行くぜ!!」
「来い!!トール!!」
「『疾風』『迅雷』!!」
俺は風と雷の『魔人衣』を同時に発動した。
ここまで来るのに苦労したよ。
なにせ大会から練習してきて、同時発動出来るようになったのはこれとあと1通りだけなんだから。
一度、火と水の反属性を混ぜようとした時は身体の中で魔力と氣が暴れて大変だったなぁ…
それはそうと、この『魔人衣』だ。
身体の色のパターンは肌が薄めの緑になっており、目はエメラルドグリーンと淡い黄色のオッドアイ。髪は黄色になっている。
そして技の特徴だが、風の『魔人衣』は空気の層を纏っていることだ。空気と一体化していると言ってもいい。
その為、空気抵抗は影響せず、俊敏性が上昇。ついでに言えば、空気層を足場にして立体起動も容易い。
また、攻撃時は圧縮空気を拳と同時に放つなどの多様な攻撃ができ、防御時は風で攻撃の受け流しや空気層での威力の減衰を行うことが出来るようになっている。
雷の『魔人衣』に関しては、風がバランス型なら雷は超攻撃型と言っていいだろう。
『身体能力向上』のおかげもあり、神経の伝達速度を雷で上げても身体への影響は無いに等しいので、準雷速のスピードが出せる。
それに加え、雷並の電流を攻撃に乗せることが出来るので火傷と麻痺の効果が攻撃時に付加できるのも優れものだ。
まあ、一般人が喰らえばそんなことは関係無く死ぬだろうが…
と長々と説明したが、この2つが今回、俺の使った『魔人衣』である。
今回は2つが合わさった状況なので、良いとこ取りをしていると思ってもらって構わない。
そう考えると、正直クリフが目で俺を追うことは出来なくなるだろう。
それをどう克服してくるのか…ああ、楽しみだ!!
一撃で終わってくれるなよ、クリフ!!
次回、決着です。




