#Ex04 Backstage-エキシビション-
今回はほぼ会話文です。
それでは続きをどうぞ!!
~side リーン~
「さて、アイリーンさん!!
向こう側へ声が聞こえなくなった訳ですが、両者の戦いどうなると思われますか!?
お二方には聞こえないので、辛口目にお願いします!!」
「いきなり難しいこと言うわね…
まあ、結果から言うと獣王…ハーゲンが負けると思うわ」
私がそう言うと、会場がどよめいた。
中にはブーイングがあったのだけれど、贔屓していると思われたのかしら?
「なんと!!理由を聞いてもよろしいですか!?」
「ええ。ハーゲンが負ける理由はね、トールが本気を出すと言ったからよ」
「は!?それだけですか!?
それだけで獣王様が負けるというのは、些か強引過ぎると思うんですけど…
それに本気とは決勝で出したあの魔法のことですよね!?
獣王様が言っていたことが確かなら、勝つ見込みもあると思うのですが…」
「ああ、あれね。あれは元々ドミニクの技なのよ。
それをトールが改良して使っただけだから、あれがトールの本気という訳ではないわ。
トールの本気は別。
皆が誤解しているから言うけど、彼の本領発揮される戦闘はハーゲンと同じ格闘での近接戦闘よ」
「な、な、なんですとー!!」
『ワシはお主を倒し、アイリーンを第2の妃に迎える!!
アイリーンはワシのじゃー!!』
『うるせー!!じじぃ!!リーンは俺の女だ!誰がテメーなんかに渡すかよ!!』
『あーもう!!エキシビション戦始め!!』
「はっ!?何か面白いことが聞こえたと思ったら試合が始まりましたよ!!
ど、どっちから話せば…
あーっと両者激突!!同時に吹っ飛ばされたー!!
少しの間、状況が動きそうにないので女性の奪い合いの話に行きましょう!!
当事者のアイリーンさん、先ほどの獣王様とトール選手の発言はどう思われますか!!」
「…えーと、答えなくちゃ…はぁ、駄目なのね。
答えるからその泣きそうな顔と会場のブーイング止めなさい!!」
この実況者殴りたいわ…それに観客も物好きが多いみたいね。
しかし突然大きな声が聞こえたかと思えば、ハーゲンは何バカなこと言っているのかしら!?
アンネという素晴らしい奥さんが居るのに、まだ私を娶るとかバカなこと言い続けているのね。
でも許してあげましょう、私は。
トールのあんなに真っ直ぐな言葉を聞けたんだから…
「はぁ…率直に言えば、私が愛しているのはトールよ。
ハーゲンは論外ね。彼が探索者時代にも言い寄られたことがあるけど私より弱かったし、断っていたわ」
あの時はしつこかったわね。嫌になって何度も殴ってやったっけ…
「ふぉ~!!皆さん聞きましたか!!
獣王様は眼中にないらしいですよ!!
愛されていますね~、トール選手!!」
「ちょっと!!そっちを強調しないでよ!!
私が嫌な女みたいじゃないの!!」
言っていることは間違ってないけど、順番がおかしいのよ!!
「あーっと、試合が動きました!!
残念ながらこの話題はここまでの様です!!」
この子勘が鋭いわね…
自分の旗色が悪くなると決まって話を逸らしているわ。
話術と合わせるとほとんどの人が振り回されそうね。
私も話に入るスキを消されてしまったし…
はぁ、仕方ないけど仕事をしましょう。
「あとで覚えておきなさい。
兎も角、両者が再度ぶつかったわね。今度はハーゲンが先制っと…
なっ!?」
私がちょっと『威圧』で脅したらこの子「ひっ!!」って声を上げたわ。これで懲りてくれればいいのだけど…
それよりも!!
流石、トールね!!まさかあの状態から腕を折りに行くとは思わなかったわ!!
「え?何かあったんですか!?
獣王様が攻撃を繰り出したと思ったら、いきなり後ろへ飛びずさりましたよ!!
教えて下さい、アイリーンさん!!」
確かに、一般人からしたらそういう風にしか観えないわね。
「あれはハーゲンが繰り出した拳を避けたトールが、腕を折りに行ったのよ。
それをハーゲンは一瞬で感じ取り、後方へ跳ぶ勢いで腕を引き抜いたの。
普通だったらあそこからハーゲンの連撃が始まるのでしょうけど、トールはその繋ぎの間を見切って攻撃を仕掛けたわ。
しかも最小限の動きで…正直、目の前であれをやられたら私でも回避出来るかどうかっていうところね。
あれを回避したハーゲンも流石と言えるわ」
「なんと!!あの一瞬でそのような攻防が!!
…あれ!?トール選手が武器を抜きましたよ!!
こうなると先ほどの発言と違ってくるのですが、どうなんですかアイリーンさん!!」
「多分、ハーゲンを試すんじゃないかしら?
ここから皆の見たこと無いモノが観られると思うから楽しみにしておきなさい」
かく言う私も、まだトールのあの技はみたこと無いから楽しみなのだけれど…
「は?っは!?はー!!」
面白いわねこの子…「は」だけで疑問と驚きと二度見を表したわ。
疑問の「は」は私に対するものだろうけど、次の「は」はトールの小太刀が金色に輝いたのを観て驚いたから発したようね。
最後の「は」は見間違いかと目を擦ってもう一度観たら見間違いじゃなく驚いたと…
「アイリーンさん!!アレ何なんですか!?金色に光っていて眩しいくらいですよ!!
それに、とんでもない威圧感があるんですが!!ここに居ても若干息苦しいですよ!!」
「それはそうよ。あのハーゲンでさえ及び腰になっているのよ。
何の鍛錬も行っていない貴女が対応出来る訳ないじゃない。
お腹に力を入れて気を張りなさい。それで多少は楽になるはずよ。
ほら、ハーゲンも気合を入れて何とかトールの斬撃を回避したじゃない。
気合を入れなさい、気合を」
観客には悪いけど、この子に仕返しが出来た気分だわ。
トール、良くやったわね!!
「わっかりましたー!!ふんっ!!
あ、本当だ、少しだけ楽になりました!!
それでは実況を再開したいと思います!!」
「遅いわよ。その間に戦況が動いてしまったじゃない。
仕方ないから端的に説明すると、トールの放った高速二連撃がハーゲンの防具を切り裂いたわ。
それに危機を感じたのかハーゲンが切り札を切るみたいね」
「なんと!!ということは…キターーー!!
獣王様の二つ名の元になった大技、『緋炎剛体』だー!!
そして…獣王様の攻撃がトール選手を襲う!!
しかし、それを寸でのところで避けるトール選手!!」
何度見ても派手ね、『緋炎剛体』は。
ハーゲンが『火魔法』を鍛え上げて辿り着いた一つの結晶なだけあって、それに見合う効果を発揮しているわ。
スピード、パワーがさっきとは桁違い。
なのに、それを相手にして反撃できているトールはやっぱりおかしいわね。
アレ、普通のランクSなら避け続けるか防ぎ続けることくらいしか出来ないはずなんだけど…
「あーーっと!!ここでトール選手が大きく間合いを取った!!
私には分からなかったが、獣王様にスキが出来たのか!?」
「そうね。5分も本気で動いたから疲れが一瞬出たみたいよ」
「なるほど!!やはりスキが出来ていたのですね!!
しかしこの5分間、会場全体が呼吸を忘れたのかというほど静まり返っていましたね!!
それほど見応えのある戦いだったのは間違いないでしょう!!
あれ!?トール選手、武器を収めましたよ!!
どういうことでしょう、アイリーンさん!!」
「最初に言ったじゃない…トールの戦いは格闘戦からが本気だって。
来るわよ、トールの本気が」
遂に観られるのね、楽しみだわ。
その瞬間、会場の空気が震えた。
私にでさえ重く感じられるほどの『威圧』が会場を支配する。
「会場の全員に告ぐわ!!
さっきよりもお腹に力を入れて意識を保ちなさい!!
周りで余裕のある人は気絶しそうな人をぶっ叩いてもいいから気付けしなさい!!
係員は結界のレベルを最大まで上げて!!」
私は勢いよく立ち上がると、大声を出して注意勧告を行った。
間に結界があるから死人はでないでしょうけど、最悪ここにいる一般人は全員気絶するくらいの『威圧』だったわね。
私に感謝しなさいよ、トール。今日の夜はヒドイからね!!
「ふ、ふ、ふぃーー…何とか楽になりました~。
アイリーンさん、的確な指示ありがとうございます!!
しかし、トール選手のあの姿は一体何なのでしょうか!?
真っ赤です!!
髪も皮膚も真っ赤に染まっております!!アイリーンさん、アレが何か分かりますか!?」
「貴女、魔人って後天的に生まれた種族だって知ってた?」
「へ?知りませんよ。何ですか、いきなり」
「私も聞いた話だけど、理論だけは学者たちが立てていたらしいのよ。
でも、その理論が難しすぎて検証が出来なかったの…今まではね」
「え…という事は、トール選手の今の状態がその証明という事なんですか?」
「ええ…と言いたい所なんだけど、ちょっと違うわ。
アレはそれの上位。魔人は魔力の除去が不完全で髪などに定着しているのに対して、トールの技は自分で制御出来るようになっているわ。
だからトールの種族が変わることは無いの」
「へ~そうなんですね!!
あれ!?では、魔力を完全に制御出来ているトール選手ってとんでもなく強いんじゃないですか!?
だって魔人の高い魔力適応性を考えると、それ以上の魔力を身に宿して制御しているトール選手って…」
「とてつもなく強いわ…それは貴女も観客の皆も体感したでしょ?」
でもね…それと同じ強さを持つかもしれない魔物がトールの予想だと居るらしいのよ。
古代竜…
私も聞いた時は驚いたけど、ドラゴンはトール曰く魔力で出来ている幻想種らしいわ。
皮に包まれた魔力体。牙や肉などは全て魔力で作られている。だから皮しか取れないのだと…
私がギルドマスター時代に偶然迷宮で火竜を討伐出来たというパーティーが居たわ。
でも、持って帰って来たのは皮のみだったらしい。
あの時は何故だとギルド全体で首を捻っていたのだけれど…トールの予想が正しければそれも納得がいくわね。
ただそれが正しいと、ドラゴンというものは途轍もなく危険な存在と言えるのよね。
だって魔力体だから物理攻撃では傷らしい傷は負わず、魔法自体にも耐性があるはずだから同属性の魔法だと無効化されるはずだしね。
上位の古代竜に至っては、全てが無属性で魔力の塊と予想されるともトールは言っていたわ。
だから染まり易い。周りの火属性の魔力を取り込めば火に傾き、水属性を取り込めば水に傾くと…
正しく、今のトールとほぼ同じ状態ね。
あのトリスタン・ヒューイットも詳しくは書いてなかったけれど、倒すのに苦労したと日記に書き記していたらしいわ。
いつか必ず戦う日が来る…準備は万全にしておかないとね!!
でも、その予想を古代竜の皮の魔力の通り易さから導き出したトールって相当頭が良いのかしら?
それとも発想の良さ?
本人は「日本の文化の恩恵だよ」と言っていたけれど…どれだけ異世界は凄いのかしら?
一度行けるものなら行ってみたいわね。
「何と!!それならば今の状況にも納得です!!
いつの間にか踏み込んだトール選手が獣王様を一撃で吹っ飛ばしております!!
何とか防御した獣王様も左腕が上がらず、火傷も負っている様子…もうボロボロです!!」
「あら?トールの動きが止まったわね。
……ふーん、なるほどね。
全員聞きなさい。小声で分かり難かったから私が説明するわ。
彼らは己が持つ大技の撃ち合いで勝負を着けるみたいよ。本選でやっていた延長戦の方法と一緒ね」
「キターーー!!なんと盛り上がる展開!!
審判が合図を出すようですね!!皆さん、静かに動向を見守りましょう!!」
そして審判が狂ったような声で開始の合図を行う。
ハーゲンが『緋牙咬』を先んじて放ち、その後トールが『チャリオット』を放つ。
ハーゲンの技は両腕を牙に見立てて相手を食い千切る技なんだけど…
先ほどのトールの攻撃を見るに、当たる前にトールの技で蹂躙されそうね。
…ほら、やっぱり。
「決まったーーー!!エキシビションを制したのは【心滅の無限者】トール!!
係員さん、観客の声援を届けたいので結界を早急に解除して下さい!!
アイリーンさん、今日は的確な解説ありがとうございました!!
次回も泣き落としに行くので、よろしくお願いしますね!!」
「そんなこと言われて来るはずないじゃないの!!」
私はイルメラの頭を叩き、思いっきりツッコミを入れてやった。
イルメラは頭を前の実況台に打ち付け呻いている。
はぁ…
トールの決着とは違って、何とも締まらない終わり方だったわね。
今回で5章が完全に終了です。
【募集(2度目)】
トールの時も行いましたが、ティア、エルザ、ドミニクの二つ名を募集します!!
作者自身も考えてみますが、今のところ全く案がありません。
4月1日まで募集しますので案がございましたら、ご提案お願いいたします!!
次回の6章は4/15~29の間で始めたいと思います。
待っていて頂けると幸いです。
ではでは…
早く話をまとめてストックを作らねば!!




