#28 準決勝、あと2つ…
「1回戦の予想は分かったわ。その次にある貴方の試合はどうなると思っているのかしら?」
リーンは俺をからかった後、俺が試合をどう進めるか気になったらしい。
「ん?ん~…多分、転移合戦になるんじゃないかな?」
「む!?トールはエレインの転移場所は特定出来そうじゃが、エレインは特定出来るだけの能力は無いと思うのじゃが?」
「うん、まあ完全に特定する能力は俺も無いと思うよ」
「では、どうして転移合戦になるのですか?」
「まず、ティアもドミニクも俺を基準に話すのを止めようか。
魔法の現れる位置を特定する人間なんて今は俺だけだと思うぞ。次点で可能性があるのはリーンだな」
『完全解析』を持っている奴なんて、俺以外に居るわけ無い…よな?
「「「あ!!」」」
気付いたか…毒されているな、俺に。あ、自分で言ってて悲しくなってきた。
つーか、エルザもかよ!!
矯正してあげなくては…
「そうだった…訓練で魔法の相殺やらを普通に行ってくるから感覚が狂っていた。
あの時はオカシイと思っていたのだがな…」
ちょいとエルザさん!?
遠い目をしないで貰えますかね!?
「それで…トールは何故転移合戦になると思ったの?」
リーンさん流石です!!話を戻してくれましたね!!
「はぁ…
それはエルザの試合で本人が『心眼』について助言をしていたからだな。
『心眼』が経験や周りの状況等から異変を察知することが可能だということを理解しているのなら、転移時の魔法の揺らぎも判るはずだ。
反応は遅れるかもしれないが、恐らく転移後の攻撃は防がれると思う」
俺は疲れたような溜息を1つ吐くと、エレインの『心眼』について説明した。
「だが、トールは『隠蔽』でそれを隠すことが可能じゃろ?」
「そうです。私たちのように『隠蔽』が未熟ならば察知されると思われますが、トール様の転移位置をエレインが見破れるとは思いません」
「確かに、2人の言うことは正しい。だけどそれは俺が『隠蔽』を使ったらの話だろ?」
「つまり、使わないわけね。そして武器も相手に合わせて鎖大鎌で戦うと…」
流石リーンさん俺のことをよく判っていますね!!
「そうだ。一応言っておくが、危なくなったらちゃんと本気出すぞ。
今回は転移を多用した戦い方とあるスキルを戦闘で試してみたいんだよ」
「あるスキルとは何なのじゃ?」
「それは観てからのお楽しみにしておこうか。
ただ、今まで使ってこなかったスキルとだけ言っておくよ」
…
と、いう話をあの後していたんだけど…
さて、俺の思った展開になるかな?
「それでは、トーナメント準決勝戦第2試合、エレイン対トール!!試合開始!!」
開始と同時に転移か。エルザの時とパターンが一緒だな。
と言っても、転移場所は違うみたいだな。
俺は早速裏を取るように『転移』。
上空へと跳ぶ。
それと同時にエレインが俺の元居た場所の上空へと現れた。
「え、何処!?…!!」
ヒュン!!
お、驚いていたみたいだが、きちんと反応して避けたな。
空中で前転するように俺の大鎌を避けたエレインは、逃げる為に転移しようと試みていた。
しかし、そこへ大鎌を追従するように分銅がエレインへと迫る。
それはエレインの脇腹へと直撃。
『テレポート』は不発となり、分銅に吹き飛ばされてエレインは落ちて行った。
俺は分銅を引き戻して掴み、大鎌を手放す。
そして魔法で作った足場を蹴り、落ちたエレインを追うと同時にある魔法を発動した。
「『ジャイアントキリング』」
いや、番狂わせとか大物食いとかそういう意味じゃないですよ。
巨人を殺せる程の超大鎌を『闇魔法』と氣を混ぜて作ったからこのキーワードにしたんだ。
柄が通常の柄と鎖の長さを合わせて4m程あり、刃もそれに合わせる様な大きさに魔法で構成してある。
俺は一気に切断する為、それを右上から袈裟懸けに振り抜こうと試みる。
因みに『魔纏剣・闇黙』のように、盲目と沈黙の異常状態付与が出来る様になっているので、こんな大振りで避け易くても、かすれば大怪我に繋がり易いようにはなっている。
エレインは完全に避けられるかな?
一方、俺の超大鎌完成と同時に着地したエレインは、体勢を崩しながらも超大鎌を振りかぶって迫る俺を見て即座に転移。
振り抜いた直後の硬直時に攻撃を加える為、俺を挟むように超大鎌の軌道とは反対側へと転移したエレイン。
その行為は予定通りに行われ、彼女は転移直後即座に俺の胴を薙いだ。その俺は切断され、消滅。
それと同時に俺の刃がエレインの首を後方から刈り取った。
怒涛の勢いで繰り出された技の数々。
俺が周りを見渡すと審判は呆けた顔で俺を見ており、観客に至っては状況が判らず全員沈黙。会場は静寂に包まれていた。
そして数秒後…それを壊したのはやはりあのバカだった。
「ど、ど、どういう状況ですか!?これはーーーー!!
じゅ、じゅ、獣王様、教えて下さーーーーい!!」
訳も分からず叫んだあの実況の声で全員が覚醒。
会場は堰を切ったように叫び声や何やらで急に騒がしくなった。
当然、審判も覚醒。そして…
「試合終了!!勝者、トール選手!!」
俺の勝利を宣言した。
会場が騒がしくて実況や解説は聞こえず、ここに居てもやることは無いので早々に退散。
さて、皆の所に戻って宿に帰るか。
明日は決勝だから、しっかり休もう。
しかし、今日の試合は俺がネタ武器だったせいか、ほとんど使い方学べなかったな。
今までの知見で学んだことを取り入れて自己流で訓練するしかないか。
ふう…さ、帰ろ。
…
宿屋へと戻ってきた俺たちは食事をしながら先ほどの試合について話し合っていた。
「へー、じゃあ最後のおかしな攻防戦は『分身』を使ったから起こったことなのね?」
「ああ、『ジャイアントキリング』を放った後、エレインが転移する直前に『分身』で分身体を作って転移した。
リーンが見えていなかったなら会場の誰も、俺が何をやったか分からなかっただろうな」
『分身』は氣と魔力を結構持って行かれるから、一度戦いの中で使ってみたかったんだ。
正直、ランクSがああも容易く騙されるとは思っていなかった。これは使い所によっては必殺技に使えるな。
「そうじゃのう。あの後、獣王の説明が不明瞭で結局「速さ」と結論付いた所を見ると、誰も分からなかったのじゃろうな」
ああ、あのバカが獣王を責め立てているのが目に視えるよ。獣王、絶対顔をしかめて困っていただろうな。
「トールよ、因みにだが分身体は何体くらい出せるのだ?」
「そうだな…現状では5体が限界だな。
まあ、氣と魔力があればいくらでも作れるから今後はこれ以上の数も作れるはずだよ」
「トール様、私も質問なのですが、分身体は攻撃などの戦闘行為は可能なのでしょうか?」
「出来るっちゃ出来るぞ。
分身体は外面だけでなく、『整体』で体の構成も俺と同じにしているから攻撃も可能だ。
ただ『罠術』若しくは上位の『罠使い』がないと攻撃などの精密操作は難しい。
まあ無くても魔力で動かすだけなら出来るがな。だが、これが無いと囮として使う以外、分身体には使い道はないだろうな」
「ならば…」
「はいはい、議論を白熱させるのはいいけど、トールは明日も試合よ。
もし決勝で勝ったら次は獣王。今日の疲れは残させないようにしなくちゃいけないわ。
だからそろそろ切り上げましょう?」
リーンが手をパンパンと叩き、皆の質問攻めが始まる前に制止してくれた。
そうだな、これ以上は長くなりそうだ。
体力的には大丈夫だが、精神的には少々疲れているから早く休めることに越したことはない。
リーンの言葉に他の3人も賛同したのか、アイコンタクトの後に1つ頷くと食事後の雑談を切り上げた。
その後は俺を癒す為に動いてくれて、風呂から上がった後にはマッサージをしてくれるなど至れり尽くせりだった。
俺はマッサージを受けたまま眠ったらしく、そこからの記憶が全く無い。
記憶には無いが、起きたら朝でとてもスッキリと目を覚ますことが出来たのは、皆のおかげなのだろう。
皆の優しさに報いる為にも、今日は優勝!!
さあ!!1ヶ月ぶりに本気、出してみようかな!!
次回、ついに決勝です。
この章もあと5、6話かな?
と宣言してみたり…




