#22 疑似精霊
なんか長くなった…
では続きをどうぞ!!
トーナメント第3回戦
・第1試合:ドミニク(ランクB)vs.シビーユ(ランクS)
・第2試合:プリシラ(ランクS)vs.セレスティア(ランクB)
・第3試合:エルザ(ランクB)vs.エレイン(ランクS)
・第4試合:イーデン(マレノ王国騎士)vs. トール(ランクB)
…
「とうとうランクSとの対戦ですね」
横目で見ると、ドミニクの顔が引き締まっているのが判る。
「分かってはおったが、緊張するのう」
ティアの顔は強張っている。
足下から聞こえる音は、緊張からくる苛立ちか?それとも武者震いか?
「私はどう戦う…」
先ほどからエルザは自問自答しながらブツブツと呟いているだけで周りの音が聞こえていないみたいだ。
予選で1度戦って敵わなかったのが効いているのかな?
3人とも日が変わり、現実を突きつけられて動揺が表に出て来たみたいだ。
「ちょっと!!皆、気負い過ぎよ!!
貴女たちは挑戦者。
相手に全てをぶつけるくらいで丁度良いのよ。
試合内容なんか気にせず、最初から決めに行っちゃいなさいな」
「ははは…リーンの言ったことはちょっと過激だが、気持ちはそれくらい強気に行かないと今みたいに雰囲気に呑まれるぞ。
戦うのだから勝ちに行きたいと思う気持ちは大事だが、思い過ぎて力が入り、硬くなるのは好ましくないぞ。
リーンが言ったように、いっそ自分の本気を受け止めてくれる相手だと思って全力でぶつかってみないか?」
今、全然関係ないが、よくよく考えたら俺以外全員女性だな。
「全力で」って言った後でなんだが、女同士の戦いってなんか言葉だけで凄そうなイメージが有るような無いような。
「ふう…そうじゃのう。確かに2人の言う通りじゃ!!」
ティアは溜息を1つ吐くと、そっと目を閉じ、次に目を開いた時には表情が一変して落ち着いた表情になった。
「…っ!!そうだな。こんなのは私らしくない。
挑戦者として思う存分やらせてもらおう!!」
エルザは自分の頬を叩き、気合を入れると先ほどとは打って変わって自信の溢れた顔になった。
「お2人とも気持ちの切り替えが早いですね。
しかし、確かにトール様とリーンさんのおっしゃることも尤もです。
私らしく、戦ってみたいと思います」
2人の変わり様に少しびっくりしたような表情を表したドミニクだが、それが緊張を解してくれたのか身体から硬さが消えていた。
「うんうん。それでいいのよ」
「だな。…っと、もういい時間だな
ドミニクとティアはそろそろ控室に行った方がいいんじゃないか?」
「そうですね。それでは行って参ります」
「うむ、行ってくるのじゃ。
応援たのんだぞ」
そう言うと、2人は俺たちから離れて控室へと歩いて行った。
さて、俺たちも時間が来るまで観客席で応援だな!!
…
~side ドミニク~
「さて皆さん!!とうとう今日で決勝進出者が決まりますよ!!
注目すべきは何と言っても、この3回戦進出者の8人中4人が同じパーティメンバーという状況です!!
ランクBの「日月」!!この内3人が今日ランクSに挑みます!!
既にトール選手はランクSという強敵を倒していますが、3回戦の相手もここまで勝ち上がってきた猛者!!
この4人がどのような戦いを繰り広げるのか…見物です!!
そして第1試合の対戦カードはドミニクとシビーユの対戦だ!!」
この実況者の方、日に日に興奮度合が増していますね…
これだけ興奮して頂けるのは有り難いこと…と思った方が良いのでしょうか?
私が小首を傾げて入場の案内を待っていると、会場から歓声が鳴り響きます。
対角線上を見てみると、対戦相手のシビーユが斧を肩に担ぎながら闘技場の中央へ歩いて入場している所でした。
シビーユが中央に着いた時に合わせて係員から
「それではドミニク選手入場をお願いします」
と、指示が出ました。
これはパフォーマンスの一環なのでしょうね。
私が指示に従い、闘技場の中央に歩き出すと、シビーユの時と同様に会場から歓声が鳴り響きます。
「よう。アンタはあのエルザの仲間だったね。
アイツとの戦いは面白かったんだが、途中で邪魔が入ったからな。
今日は面白い戦いを期待してるぜ!!」
中央で相対すると、シビーユが良い笑顔で挑戦的なことを言い放ってきました。
ならばこちらも…
「面白いかどうかは定かではありませんが、初めから全力で行かせて頂きますので、ご注意ください」
私はパーティーの皆さんに見せない、余所行きの笑顔を張り付けてこう言い放ちました。
「かっかっかっ!!
イイね~。そんじゃ、俺様も全力で相手してやんよ!!」
シビーユは快活に笑うと、先ほどの空気から一変、やる気の溢れた闘気を私にぶつけてきます。
「それでは両者とも準備はよろしいですか?」
やり取りを見ていたかは知りませんが、審判がタイミング良く私たちに試合の準備が整っているかの確認をしてきました。
「おう!!」
「はい、大丈夫です」
私たちが審判に返答すると、審判は少し離れ試合開始の合図を出します。
「それでは、トーナメント第3回戦第1試合、ドミニク対シビーユ!!試合開始!!」
私は即座に『アイテムボックス』から5つの魔石を取り出すと、後方へジャンプしながらシビーユの方へと魔石を放り、キーワードを唱えます。
「頼みます。『疑似精霊』、『フォースホーク・ディメンションラビット・アクアドルフィン・スノウレオパルド・ダークオウル』!!」
この魔法は世界で初めてお父さんが開発し、私とトール様に引き継がれたものです。
この魔法は『錬金術』、『彫金』、『美術』、『以心伝心』、それに魔法のスキルがないと作成は不可能。
つまり、1人で作るのはほぼ不可能な魔法なのです。私たちは可能ですが…
作り方と使い方は
1.対応する属性の魔石:特大以上を『錬金術』で半分ずつに分解します。
魔石を卵だとすると半分にした状態は卵を縦に切断した状態だと思ってください。
この時、『魔力操作』が下手だと魔石が完全に分解されますので注意です。
また魔石の属性とこの後のシンボルを別の属性で刻むと魔法のレベルが下がるのでおススメしません。
加えて、属性等を同じにしておくと完成時の品質次第ではレベルが最大3つ上がるので別にするメリットは皆無と言っていいでしょう。
2.片方の魔石(以下、半魔石)の断面にシンボルを『錬金術』と『彫金』、『美術』で刻みます。
シンボルは獣でなくても構いません。が、シンボルの形で顕現するので基本獣を推奨します。
但し、刻めるのは魔法などのスキルがLv.7以上のスキルのみです。それ以下だと魔石の魔力が不安定になり、壊れます。
3.シンボルを刻んだ半魔石にもう一方の半魔石を重ね、『錬金術』で1つの魔石に戻します。
これで準備は完了です。
4.使用時は魔石に魔力を流し、キーワードを唱えることで『疑似精霊』が顕現します。
先に魔石へ魔力を蓄積することも可能ですので、事前準備しておいた方がお得です。
操作は『以心伝心』で行い、レベルが高いほど細かな命令が伝わり、最終的には疑似的な意思を持てるまでのものが出来ます。
因みに私の場合はまだ視覚同調と大まかな指示くらいしか出来ません。
この操作には『並列思考』が関わってきますので、レベルに応じて使用する数は考えないと操作出来ずに自滅するので注意です。
以上がこの魔法の説明です。
お父さんは『彫金』が苦手でしたので、好んでこれを使用しませんでしたが、私はまだまだ至らぬ所が多いので補助として『疑似精霊』を使用しております。
余談ですが、トール様が装備を作った後にこの方法でスキルレベルが10のスキルを付与出来ると知り、とても落ち込んでいました。
その出来事の次の日にこの国へ到着しましたので、この大会が終わったら全力で自らの装備を修正した上、私たちの装備も作って頂けるそうです。
楽しみですね!!
さて、私が顕現させたのは無属性の鷹、時空間属性の兎、水属性のイルカ、氷属性の豹、そして闇属性の梟です。
いずれも魔法スキルLv.7で作成していますので、同程度の魔法を放てるまでの威力は出せます。
合成魔法も私次第ではありますが、可能です。
なので、やってみましょう。
「全員合わせなさい!!『サウザンドニードル』!!」
『疑似精霊』に驚いて動きを止めていたシビーユを覆う様に千本の氷針を展開しました。
そして即座に射出。
シビーユは身体の魔力を高めて斧で防御の体勢を取るも、細かな針は隙間を縫って行き、数多くがシビーユに突き刺さります。
ちょっと不安なのでもう1回撃っておきましょう。
……良かった。効いてきたようですね。
流石に斧は落とさなかったようですが、膝を着かせることが出来ました。
何が起こったのか…何故魔力で防御していた身体に氷針のような軟な物が刺さったのか…そしてシビーユが膝を着いた理由は…
これは『疑似精霊』での合成魔法のおかげですね。
まず言っておきますが、私の力のみではまだこの魔法は出せません。
5つの属性を制御した上に『融合』させるとなると、魔力が圧倒的に足りないのです。
1人で使えば直ぐに倒れるでしょう。
さて、前置きはここまでにして魔法の説明に入りましょう。
まず重要なのはシビーユを中心とした空間の掌握です。『ディメンションラビット』がその役割を担い、針を配置する準備が整います。
次に『アクアドルフィン』と『ダークオウル』がその空間に魔力を通し、麻痺毒入りの水針を成形。これは『異常状態付与』が有る故の芸当ですね。
そして毒入り水針を『スノウレオパルド』が凍らせます。
最後にそれら全てを『フォースホーク』が強化して射出するという手順を踏んでいます。
よって氷針が刺さったのは強化されてシビーユの強度以上の威力で当たったから。
膝を着いた理由は麻痺になったからですね。
直ぐに麻痺したのは、細い氷針が体温で直ぐに溶けて体内に麻痺毒が侵入したことで一気に全身に回ったのが要因です。
但し、効き目はそこまで良くないようです。一応、一般のランクBが倒れるほどの強さはあるのですが…
それだけシビーユの『異常状態耐性』のレベルが高いのでしょう。
しかし、この好機逃すのは愚か者です。
私は即座に手を打ちました。
……そのはずでした。
気が付くと、『疑似精霊』は崩れ去り、私は四肢に傷を負っていました。
そして私は膝から崩れ落ちました。
次の瞬間、目の前にはシビーユ。
「悪いね。あまりにもヤバかったんで俺様も奥の手を使わせて貰ったぜ。
こんなギリギリの試合は久々だ!!短い時間だったがスゲー楽しめたぞ!!
きゃきゃきゃ!!誇れよ、ドミニク!!俺様に奥の手を出させたんだからな!!
んじゃ、また殺ろうなっ!!」
シビーユはそう言うと私の脳天に斧を叩き付けました。
私の記憶はそこで終わりです。
気付いた時には治療室のベッドに寝ていました。
枕元にはトール様…手をかざしているということは魔法を掛けて頂けたのでしょう。
どのくらい寝ていたのでしょうか?
シビーユの技のことついでに聞いてみましょう。
…
「トール様、ありがとうございます。
…私は負けたのですね。
どれくらい時間が経ちましたか?」
ドミニクは頭にかざしていた俺の手を掴み、胸へ寄せると俺を見てそう言った。
「ああ、負けたな。時間の方はそんなに経ってないぞ。
今は1試合目と2試合目の間だ。
前日や前々日とは違って時間に余裕があるから試合間のインターバルは長いらしいぞ。
さて、傷は無いが精神的には大丈夫か?」
「はい。ちょっとクラクラしますが、問題ありません。
むしろ自分がどのようにして負けたのか早く知りたい心境の方が強く、若干興奮気味です」
ドミニクはクスクスと笑いながらそう言うと、説明してほしそうに俺を見つめて来た。
「はっはっは!!
分かったよ。
じゃあ大丈夫みたいだから、皆の所に戻って説明するよ。
皆も聞きたいだろうしね」
呆れから来たものなのか安心から来たものなのかは分からないが、俺はドミニクの反応に笑わずにはいられなかった。
あっ、説明するにしてもエルザはもう控室に行ったかもしれないな…まあ、いいか。
流石に歩くのは辛いのではないかと、昨日のエルザの様にドミニクを抱えて治療室を出た俺たちは足早に皆の下へと戻った。
ドミニクが耳を赤くしながら俺の胸に顔を埋めていたのは見なかったことにしておくとしよう。
次回は一応シビーユ技の説明とティアの試合直前までの予定です。(前者メインです)




