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すきと~る -えっ!視えるの?-  作者: 守りの神殿
第5章 魔闘技会開幕
161/329

#21 完全攻勢

間に合った…


続きをどうぞ。

 合図の直後、俺は直ぐに地面を蹴り、移動した。


「っ!!どこに行きました!?」

エルトンは首を横に振りながら、俺の居場所を特定しようとしている。


残念ながら俺は地上(そこ)には居ないぞ、エルトン。


そう俺は強化を行うと同時に空中へジャンプしていた。

何故跳んだか…

それは人間が上下、特に上方向への対応を不得意としているからだ。

人間の目は横長で眼球も横に動き易い為、視野が横に広い。

その為、横への動きに対しては良い反応速度を示すらしい。

だが日常生活で上を注視しながら、何かをするという行動を人間はほとんど行わないのだ。

よって上方向は対応が鈍くなる。


予想通り、エルトンは視線を横に振るだけで上を見ようとしない。

そのスキに俺は『飛行』を使い、エルトンにスパイクの付いた足の裏を向けて急速落下を敢行。


『飛行』…これの特徴は「飛ぶ」ことではない。最大の特徴は「重力操作」だ。

多分この世界(スティア)では前者の意味でしかこのスキルは使われないだろう。

誰も「重力」という力を知らないはずだからな。

俺はこれが判った時、保持者(ホルダー)の『健体』と同時に発現したのはある意味当然だったと思った。

『健体』という環境適応能力が上がるスキルが無いと、身体が急激な重力変化に耐えられなくなるだろうからな。


さて、ここで俺が何故『飛行』を使用して攻撃を行ったかだが…

理由は予想が付くだろう。

そう重力で自重を上げて衝突の威力向上を図ったのだ。


そろそろ衝突すると思った矢先、エルトンが急に顔を上げた。


風切音で位置を特定したか。

だがちょっと遅かったな。

喰らえ!!


「くっ!!『グラウンドシフト』!!」

魔法によりエルトンが地面ごと(・・・・)後方へ移動する。


ドゴォン!!!!!!


そこに俺が地面を穿ち、轟音が会場に鳴り響く。

地面はひび割れて凹み、衝撃で砂が舞い上がった。


直撃は無くとも、衝撃波を受けたエルトンは大きく後退した。

俺は相手の体勢が崩れるのを見ると、すかさず間合いを詰めてがら空きだった横っ腹に回し蹴りを放った。


エルトンは俺の急降下攻撃とそれに伴う衝撃波を防御する為、両腕をクロスするように腕を目の前に掲げていた。

その為、腹に迫っていた蹴りを見逃したのだろう。

俺の蹴りはいい形で直撃した。


だがエルトンも流石と言えるな。

俺に最高(・・)の形で蹴らせなかったのだから。


そう、エルトンは当たる直前に蹴りの方向へ僅かではあるが跳んでいたのだ。

その為、完璧には威力が伝わらなかった。

そのせいだろう…身体が地面を跳ねるほどの蹴りを受けて苦しみながらも、すぐさま立ち上がってきたのは。


しかし、あばらの2、3本は確実に折った感触はあった。

エルトン本来の動きは出来なくなったはずだ。


「や~~~っ!!

トール選手、怒涛の攻撃!!エルトン選手、全く手が出せていません!!

最後の蹴りは良い具合に入りましたので、エルトン選手相当厳しいんじゃないでしょうか!!

どうでしょう、獣王様!!」


「そうじゃのう。

エルトンもあの攻撃に対して、威力を軽減する策を咄嗟に取ってはいたが、骨の2本くらいは折れておるやもしれん。

最悪の場合、骨が内臓を傷付けているということも予想されるのじゃ。

そう考えると、この試合早々に決着が着きそうじゃのう」


「やはり獣王様もエルトン選手が窮地に居るとお思いですね!!

さあ、エルトン選手この劣勢からどのようにしてトール選手に立ち向かうのか!!

皆さん、最後まで目を大きく見開いて観戦しましょう!!」


立ち上がったエルトンが魔力を放出し始めた。

予選の魔法でも使うつもりだろうか?


「ふ~…『フレイムアームズ』」

エルトンは両拳を胸の前で突合せて一つ息を吐くと、拳と脚に炎を纏わせる魔法を発動した。


ふむ、なら俺も使うか。


「『炎無』」

俺も…いや俺は武極・阿形とクロノブーツに無色の炎を纏わせた。


「な…に…私と同じ魔法!?」

エルトンは息苦しさと驚愕から顔を歪め、そして叫んだ。


「残念だが、それは間違いだ。

貴方の(魔法)より、俺の(魔法)が上だ。

感じで判るでしょう?」


「……確かに使われている魔力はそちらが圧倒的に上です。

だが、当たらなければ意味は無い!!」


「では、やってみましょうよっ!!」

俺はそう言うと、攻撃の為、一気に間合いを詰めに掛かる。

エルトンも俺の意図に気付き、直ぐにこちらへダッシュしてきた。


そして両者とも己の間合いに入り、格闘戦が始まる。


まず繰り出すは互いに拳。

エルトンは右、俺は左の拳が相手の拳にぶつかる。

金属の衝突音が会場に響き渡ると同時にエルトンの拳が後方へ弾かれる。

エルトンはガントレットの拳部分が破損したのを横目に、反動を利用して次に蹴りを俺に叩き込もうと動いていた。

俺は瞬間的にしゃがみ、繰り出された足を下から上へ叩くことでエルトンの股を潜り、背後へ移動。

そのまま攻撃を繰り出そうとした所で、蹴りでの慣性を利用した裏拳が俺に迫る。

だが、それは悪あがきにしか見えなかった。

スキだらけの軸足を俺は思い切り払う。

蹴りを繰り出したままの体勢で行った攻撃はそれにより無力化され、エルトンは一瞬空中に留まる結果となった。

その一瞬あれば攻撃は出来る。

俺はサッカー選手よろしく、先ほどとは逆の右わき腹をインステップキックで蹴り、再度エルトンを蹴り飛ばした。


今度は空中に居たことに加え、背中からの攻撃だった為に防御も出来ていない。

よって威力が減衰されることなく、全てをエルトンへ叩き込めた。

蹴りを喰らったエルトンは数十m先の地面に叩き付けられ、ダウン。


俺はこれで決まったと思ったんだが…


「な、な、なんと~!!

立ち上がった!!エルトン選手、立ち上がりました!!

誰もが決まったと思ったでしょう!!

しかし、エルトン選手諦めていません!!

ふらつきながらも立ち上がり、構えを取りました!!

そ、それよりも、獣王様!!

トール選手の方は何かが揺らいでいてよく分からないのですが、両選手とも手足から炎みたいなものが出ていますよ!!

どういう原理なのでしょうか!?」

実況が何やら俺たちの魔法についての解説を獣王に求めているみたいだが…

無視だ!!

手負いの獣程、油断は厳禁!!

集中!!


右手のガントレットは中破、またクロノブーツの特色である「脛部分に棘の形成」を使用していた為、チェインメイルが壊れて先ほど叩き込んだ場所のみ素肌が露出している。


ダメージも深刻だが、それでも立ち上がる精神は見習いたい所だな。

だが、手心は加えない。それが勝負だ!!


「くっ…はっ…『ボイド…アームズ』」

エルトンは苦しみながらも、魔法を繰り出す。

次の魔法は拳と脚に銀色の(もや)が纏われている。


『虚無魔法』か…

纏っている魔法を視るに、多分物質を消すことは出来ないはずだ。

出来るとしたら、魔法の消失。

まさか虚無まで出してくるとは…

魔法の潜在能力は今回のランクSに次いでありそうだな。


「『失撃(しつげき)』」

本当は『失斬(しつざん)』なんだが、ガントレットとブーツに纏うのでキーワードをそれ用に変えてみた。

効果は小太刀の時と変化点はほぼない。

斬ることが出来ない分、効果範囲が切断面ではなく攻撃を与えた表面だけになるのが主な変化点ではあるな。


「これも私の上をいきますか…

一体貴方は…」

何者ですか…と問いたかったのだろう。

だが俺に答えを求めたわけでもないはずだ。

お互いに探索者…仲間でない限り素性をばらすはずはないのだから。


その後は互いに無言。

しかし気合はどちらも十分に入っている。

そして何の合図も無しに互いが間合いを詰めに掛った。

いや合図はあった…「呼吸が合う」という合図が。

そう、まるで相撲の取組が始まる時のように…


最後の始まりはお互いに蹴りから始まった。

俺は右上段、エルトンは右中段。

狙いは違うが、お互いの思考はほぼ一致していた。

叩きのめす!!

それが頭の中に占められていたのだ。


最初の一撃は互いに防御。

だがエルトンのみガントレットとグリーブは破損してしまう。

エルトンは衝撃による苦しさゆえに、動きを一瞬止めた。

それが命取り。

俺は右足を振り子のように戻しつつ、同時に左足を蹴り出す。

なんか漫画で似たような技があったな…確か双竜脚(そうりゅうきゃく)だったかな?

俺が放ったそれはエルトンの側頭部にヒット。

エルトンの頭は(えぐ)れ、蹴りの威力はエルトンを数m吹き飛ばした。


「トール選手のキックがエルトン選手の頭を捉えたー!!

これはエルトン選手、起き上がれるのか!?

しかしトール選手の最後の一蹴り、私には一瞬だったので振り抜いた足しか分かりませんでした!!

獣王様、どのような攻撃だったのでしょうか!?」


「ふむ、これは結構単純じゃ。

連続で回し蹴りを放ったのじゃよ。

まあ、難易度は桁違いじゃが…

まずは右足で回し蹴りを打ち、防御されたと同時に戻しながら左足で再度回し蹴りを打つ。

言うのは簡単じゃが、身体の安定性や速度、威力など諸々を考えると相当な鍛錬が必要じゃ。

エルトンは最後、何をされたのか判っておらんのではないかのう」


「試合終了!!勝者、トール選手!!」

お、獣王の解説が終わると同時に判定が出されたな。


ふう、今回は1回戦みたいに収穫があまり無かったな。

まあ久々に格闘戦が出来て楽しかったし、スキルの練習が出来たのは良かった。

もうちょい『飛行』は有効活用した方がいいな。

瞬間的に加える重力によっては攻撃の速度や威力が上がるはずだ。


さて、皆の所に戻るか。





 「「「「お帰り(なのじゃ・なさい・なさいませ)」」」」


「ああ、ただいま」


「トール、今回は何か試したの?

本気ではないにしても、容赦はしていない感じだったわ」


「リーン、よく見ていたな。

今回は『飛行』の使い勝手を試してみたんだよ」


「『飛行』?トールは最初跳んだがあの時使ったのか?」

やっぱり、エルザも『飛行』って言えばイコール「飛ぶ」って思っているな。


「いーや、その後。落ちる時に使ったんだ」


「落ちる時じゃと?」

「…私たちとは認識の齟齬がありそうですね。

トール様、説明をお願いできますでしょうか?」

ティアは首を捻っているが、ドミニクは違和感に気付いたみたいだな。


俺は『飛行』に関する能力を皆に説明した。

物理の先生、尊敬するわ…説明ムズ!!


「ふーん、重力操作ねぇ…」

リーンは俺の言葉を噛み締める様にゆっくりと理解して行っているみたいだ。

質問をしてきたら答えてあげる感じでいいかな。

思考を遮るのは止めておいたいいだろう。


「重力?…重力…う~ん、分からんのう」

「有用性は若干判ったが、理解は…」

ティアとエルザには理解してもらえなかったか。


「…駄目ですね。(わたくし)たちは地面に立っているのが当たり前。

固定概念が邪魔をしているのでしょうか?」

ドミニクは常識を疑いだした。

お前はニュートンか!!


「まあ、そんなに深く考えない方が良いぞ。

そもそも、『異界学』がないと理解出来ない現象なのかもしれないしな」

重力の知識は地球…異世界の知識だからな。

判らなくても仕方ないだろう。

でも不思議だよな。俺がこっち(スティア)に来た時、なんでスキル欄に『異界学』がなかったんだろう?

神様が与えたく無かったのか、俺自身が地球の科学きちんと理解していなかったのか…

多分、後者だな。…考えていて悲しくなるからもう止めよ。


「さて、もう今日はここでやることは無いんだ。

宿屋に戻って明日に備えよう!!」

俺は皆の思考を半ば強引に区切らせた。


明日は勝ち抜いたら、3回戦と準決勝の2試合ある。

それに全員ランクSと当たるんだ。

英気は養っておかないと!!


俺たちは早々に宿屋へ戻ると、その後はいつも通り過ごして就寝。


そして翌4日、決勝の出場者が決まる厳しい試合の幕が上がる。

次回はドミニクの試合です。


ちなみに今回2個ほど漫画の戦い方を参考にしましたが、分かった人は凄いです。(最初のジャンプと技名)

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