#20 前哨戦
今回は6、7試合の状況説明です。
それでは続きをどうぞ。
「きーまったー!!
第2回戦第7試合、勝者はマレノ王国第3騎士隊副隊長【爆槍】のイーデンだー!!」
スゲーな…イーデンの安定感は。
ほとんどレオンに仕事をさせなかったぞ。
因みに俺は控室で一つ前の試合を観戦していた。
え?第6試合はどうしたって?
あれはすぐに終わったよ。
第6試合は【忍び寄る刃】エレイン(ランクS)と【レッドライン】ラナ(ランクA)の試合だった。
最初はこのランク帯の試合だから接戦で面白い試合が観られると思っていたんだ。
だが、実際は違った。
初手はラナが代名詞とも言える炎槍で突撃。
この時点でラナは避けられる可能性も考えて、警戒を怠ってはいなかった。
案の定、エレインは大鎌で炎槍を下からすくい上げるように絡め捕り、自分の横に槍を誘導した後、ラナの横を通り過ぎるように大鎌を振るう。
エレインの狙いは首。
ラナはきちんとそれが見えていたようで、大鎌の軌道から首が外れるように傾げて回避を行っていた。
この時は俺の眼から見ても攻撃は当たることは無い…そう思っていた。
エレインを包む魔力の状態を見るまでは…
俺がエレインを注視していた次の瞬間、大鎌がラナの首を通り過ぎた。
結果、ラナの動きはそこで止まり、倒れることとなる。
予想だにしなかった突然の出来事に会場は驚愕。
俺に至ってはエレインの魔法の使い方を見てニヤリと笑ったのを覚えている…面白い使い方を観られて嬉しかったのだ。
そのエレインがやったことといえば結構単純。
大鎌が通り過ぎる瞬間に通り抜ける方向を縦から横…つまりラナから見て前後から左右へ通り抜ける位置にエレインは転移したのだ。
結果、ラナの回避は意味を成さず、首を刈られることとなった。
いやー、こう客観的に観ると『転移』って結構チートだよな。
使い方次第で色々なことが出来そうだ。
という訳で、第6試合の結果はエレインの勝利。
ドミニクの試合に次ぐ短時間の試合となった。
そして、第7試合も先ほど終わっている。
対戦カードはイーデン(マレノ王国騎士)vs.レオン(ゴート獣王国軍)。
結果は先ほども実況が言っていた通り、勝者はイーデンだ。
試合内容がどういうものだったか…
序盤はレオンが1回戦で使っていた発勁みたいな技を、盾の上からでも関係なく何度も打ち込んでいた。
対して、イーデンは無理して攻め込むことはせずに盾で常に防御。
発勁が打ち込まれるたびに、クンッと一瞬盾を引くことで間合いを外して不完全な攻撃に変えていたのでイーデンへのダメージはほぼゼロに近かっただろう。
このままでは不利と悟ったか、レオンは一度大きく間合いを取る。
次にレオンが取った行動は速さを利用した抜き手の連続突きだった。
何故レオンがこの行動を取ったか…それは彼の装備の効果を利用する為だ。
レオンの手甲の前腕部分には、ロケットの羽根の様な物が四方についており、手甲に魔力を流すとそこに風の刃が形成される仕様になっている。
その為、抜き手で攻撃を行うと槍の穂先のように刺殺能力の高い攻撃が出来るようになり、かつ先ほどよりタイミングが捉え難い攻撃が出来る為、攻撃方法を変更したのだ。
結果、それは功を制し、次第に攻撃を捌けなくなってきたイーデンが追い込まれ始めた。
しかし、早々に意識を防御から攻撃に切り替えることでイーデンは一気に不利な状況を覆し始める。
手始めに行ったのは1回戦で使っていた盾を円錐状にする能力を使用すること。
そうすることで疑似的な二槍流となり、手数は増え、レオンの攻撃や速さを殺し続けることとなる。
試合の天秤はここでイーデンに傾いた。
レオンは攻撃方法に蹴りを加えるなどの変化を付けてくるも、槍の爆発カウンターを当てられたり、盾槍の攻撃で体勢を崩されたりと思う様に攻撃が出来ずに徐々に傷を負い始める。
そして決着の時、まず動いたのはレオンだった。
イーデンを中心に円を描くように走りつつ、徐々にその半径を縮めて間合いを詰めていく。
ここでレオンは魔力をその場に残すように走ることで、自分の気配を分散させて位置を不明確にするように動いていた。
同時に砂煙を上げ、それを風でイーデンの方へ流して視覚を奪うという技も使い、感覚を奪うという変化球で攻撃の準備を整え始める。
だが、ここでレオンは失敗を犯した。奪うのは視覚や魔力探知能力だけでは不十分だったのだ。
レオンが攻撃を仕掛けようと踏み込んだ矢先、その一瞬の停止時間を衝いてイーデンが槍を胸に突き出した。
そう、イーデンは五感の一つ、聴覚を使って音で位置の把握を行っていたのだ。
一定の速さで走る音、それが踏み込むという動作で変わった…その間をイーデンは衝いた。
突き出された槍は胸当てに当たると爆発を起こし、レオンを吹き飛ばす。
それでもレオンは2、3回転後に起き上がって顔を上げた。
そこで眼前に投槍された槍が迫り、そのまま突き刺さって爆発。
そこでレオンは倒れ、イーデンの勝利が決まった。
…
「トール選手、闘技場の準備が整いました。
入場して頂きますが、準備はよろしいですか?」
俺が前の試合を振り返っていると、試合のお呼びが掛った。
「はい」
短く返事を返すとそのまま立ち上がり、闘技場に向かう。
「さあ、本日最後の選手が只今入場してきました!!
エルトン選手とトール選手の試合が間もなく開始されます!!
エルトン選手は第1試合、奇策を用いてランクAを倒すという番狂わせを行いました!!
対してトール選手も今大会の注目選手であった【破壊の穿孔】グレゴワールを倒し、勝ち上がって来ております!!
先の展開が予想出来ないこの戦い、私も非常に楽しみで堪りません!!」
この実況者は最後の試合になるとおかしくなるのか?
私情が多くなってきてるぞ。
「トール君でしたね。
貴方は1回戦、槍を使っていたみたいですが…
私とは本気で戦う価値もないと思っているのですか!?」
ん?ああ、そうか。
相手から見ると俺の武器は1回戦で使用した十字槍のみと思われている訳か!!
予選でも使用したのは苦無のみ。
そりゃ、舐めていると見られても仕方ないな。
「あ~、あの時は自分の修行の為に槍を使いましたが、今回は本来の武器を使いますよ。
まあ、今回も修行という意味では変わりませんが…」
俺は腕を曲げ、拳をエルトンに見せつける様にかざした。
「ランクS相手に修行!?それに本来の武器に、今回も…
まさか!!相手に合わせて武器を変えているのですか!!
正気ですか!?バカですか!?もしくは、バカにしているのですか!?」
おお!!捲し立てるように質問してきたな。
イケメンは怒ってもイケメンである…憎々しいなー、もう!!
「正気ですし、バカにもしていません。
まあ、このようなことをすると相手がどう思うかはだいたい判っているつもりですよ。
ですが、俺は強くなる必要があるんです。
強くなる機会があるのなら利用するのは当たり前ですよね?
それに俺は現にグレゴワールさんを破ってここにいる。
つまり、ここにいる資格は得ている訳です。他者に責められる謂れはありませんよ」
「…確かにその通りですが、この大会を修行の場にする人は普通いませんよ。
はぁ、気勢が削がれそうです。
ですが、油断していい相手ではないことは1回戦の戦いで証明されていますね。
貴方が修行というのならば、私が勝ってここを修行の場とした貴方を後悔させてあげるとしましょう!!」
エルトンがニヤリと笑いながら挑発してくる
「出来るものなら」
俺もニヤリと笑い、挑発を挑発で返す。
俺たちが軽い舌戦をしていると、審判が近づいて来ているのが横目で見て取れた。
「それでは両者とも準備はよろしいですか?」
俺たちの視線を遮るように間に立った審判がそう問いかける。
俺たちは頷くことで肯定の意を返答。
それと共に俺たちの気配が強まる。
そして…
「それでは、トーナメント第2回戦第8試合、エルトン対トール!!試合開始!!」
戦いの火蓋は切られた。
次回で第2回戦が終了します。




