#19 手に入れた力
なんか俺が1週間に1回更新出来てる…
続けられるように頑張ります!!
「お、始まるようじゃぞ」
ティアが闘技場の中心に居るエルザを指さし、そう言った。
「本当だな。エルザの相手もランクAか。
どんな戦いを観せてくれるのかな?
ティアみたいに油断しなければいいけど…」
と、俺は冗談を交えてエルザに対する心情を誤魔化す。
「トール!!」
ティアもそんな俺の心を読んでか、笑いながら冗談に絡んできた。
そんなじゃれ合いで待ち時間が過ぎ、エルザの試合が始まった。
~side エルザ~
ティアは無事勝ち進んだか…
私の相手もランクA…ティアに遅れを取る訳にはいかないな。
「それでは、トーナメント第2回戦第5試合、エルザ対ドバイアス!!試合開始!!」
ドバイアスは【疾風の盾】という二つ名持ちだったな。
特徴は盾職とは思えぬ速さと高レベルの『盾術』。
どうやって相手の防御を抜こうか…
奥の手は数が少ないから見せたくはないのだが…
考えるよりも、まずは動いてみるか。
相手が待ちの状態から動こうとしないから、先ずは一当て!!
行くぞ!!
私は全身に回す魔力量を上げて身体を更に強化。
盾を前方に掲げてそのまま突進を敢行した。
それに対し、ドバイアスは動かずに接敵の時を待つようにその場に留まっている。
そしてそのまま盾同士がぶつかることになる。
衝突の瞬間、鋼同士がぶつかったような甲高い音はしなかった。
代わりに、重く短い音が衝撃波のように会場に広がり、観客は悲鳴に似た声を上げることになる。
衝突の結果はドバイアスが動くことは無く、私も無傷で引き分け…
と言いたいところだが、これだけの攻撃で一歩も引いてない所を見ると私の負けだと思ってしまうな。
ドバイアスの足下が若干凹んでひび割れていることから、衝撃を上手く逃がしたのだと見て取れる。
ドバイアスが攻撃動作に入ったので、私は即座に後ろへ跳躍。
振るってきた剣を難なく回避した。
「ふぉー!!
お二人とも最初から流石の戦いですね!!」
「そうじゃな。
エルザの強化度合や衝突時の盾使いも上手かったが、ドバイアスの威力の逃がし方もそれ以上に注目したい所じゃ。
じゃが、まだまだ序盤。
面白い戦いが観られることを祈りながら、今は観戦に集中しようではないか」
私が言うのもなんだが、この実況者と解説者は試合観戦に集中し過ぎなのではないかと思う…
おっと、そんなどうでもいいことは置いておくとして…
ふむ、盾が上手いので剣の方を注視していなかったが、盾程使い方が上手いとは言えないな。
私の攻撃が通らず、相手も攻撃を当てることが出来ない…これは長期戦になるか?
いや、それでは駄目だ。私がドバイアスの防御を抜けないという証明になってしまう。
これで一撃勝負になると相手がどういう技を持っているか分からない分、私が若干不利になる。
今の内に勝負を決めに行く方がまだ勝機はあるはずだ!!
私は再度、盾を前方に掲げて突進を行う。
違うのはここからだ。
「『トライデントスパイク』!!」
盾に杭を3本逆三角形の配置で生成して破壊力増強を図る。
力を集中させる為に盾の中央に大きい杭を作ることも考えたが、1点の攻撃では受け流されると考えた。
そこで今回の魔法だ。
力の損失を許容することで、点の攻撃をなるべく面の攻撃になるような魔法にして範囲を広げてみたのだ。
これで捌くことは難しくなったはずだ。
さあ、喰らえ!!
私の放った攻撃がドバイアスの盾にぶつかった…はずだ。
手応えが軽い!!
それもそのはず、ドバイアスは私の突進に合わせ、力に逆らわずに後ろへ跳んでいた。
その行為により衝撃が吸収されて手応えがおかしくなったみたいだ。
まさか、ここまで簡単に往なされるとは思わなかったな。
ああ…これでは駄目だ。
このままでは負ける。
だから、もう形振り構わない!!
「『ディープミスト』!!」
予選でティアが使用した魔法と同じもので濃い霧を発生させて一時的に私の姿を隠した。
そして『隠蔽』で気配を消す。
奴の得意な『風魔法』で霧が吹き飛ばされる前に一気に準備を整える!!
『風魔法』で足場を作り、闘技場の上空に駆け上がる。
私が所定の位置に着いたと同時に、霧が魔法により吹き飛ばされて視界が晴れた。
ギリギリだったな。
さあ、行くぞ!!
私は剣を真上に放り投げ、頭上に足場を作る。
そして、くるりと頭が地面に向くように回転。
次いで、真下に居るドバイアスに向かって盾を構え、足場を蹴ることで急降下を行う。
締めに魔法を発動…
する前にドバイアスが『ウィンドランス』を放ってきた。
だが、少し遅かったな。
それが到達する前に私の魔法は完成する!!
「広がれ!!『フォートレス』!!
そして我が身を押せ!!『フォローウィンド』!!」
闘技場の壁際まで覆う金剛鉄の壁が展開され、その下の空間が一瞬にして影に覆われる。
先ほど放たれた『ウィンドランス』は壁に衝突すると同時に無力化されて消滅した。
その壁はドバイアスを押し潰す為、どんどん加速しながら落ちて行き、間もなく目標へ到達する。
そして衝突の時…
空気を切り裂く音の中に、一つ鈍い音が鳴り響いた。
ドバイアスが壁を受け止めたのだ。
ドバイアスの足下はどんどんひび割れていき、地面が凹み始めている。
それでもドバイアスは膝も着かず立ち続けたままだ。
くっ!!魔力が尽きそうだ!!
早く倒れろ!!
壁が急にドバイアス側に進み始めた。
後で聞いた話だが、この時ドバイアスは徐々に押され始め、膝を着いたらしい。
また腕の力も限界になってきており、頭でも盾を押さえながら弾かれないように耐えていたそうだ。
そしてこの攻防も決着の時を迎える。
私の魔力がほとんど無くなり、魔法が解けたのだ。
同時にドバイアスも限界を迎えたのか、盾と兜は両方とも耐えきれず割れて地面に落ちた。
この攻防、結果は引き分けに終わる。
しかし、どちらかが倒れたわけでもない。
まだ試合は続いている。
私の武器は今は盾しか無い。
ドバイアスは鞘に納めていた剣を抜き私に斬りかかってくる。
私はそれを何とか受け流し、その振り下ろされた力を利用して盾を地面へ突き立てる。
そしてなけなしの魔力を使い、盾を足場にしてジャンプ。
もしもの為に放っておいて正解だったな。
私は落ちてくる剣と同じ高さまで来ると、剣の柄に掌底を放つタイミングで『気功術』の氣を掌から放ち、真下にいるドバイアスに向けて剣を打ち出した。
斬りかかったまま体勢を崩していたドバイアスは私を目で追っていた為、顔を上へ向けていた。
そこに剣が直撃。ドバイアスは串刺しとなり、そのまま地面へと倒れていった。
私は空中で無茶なことを行ったツケとして、地面に叩き付けられることになるも、意識だけは飛ばさずに何とか立ち上がることが出来た。
「試合終了!!勝者、エルザ選手!!」
立ち上がると同時に聞こえてきたのは試合終了の宣言だった。
何とか勝てたか…
身体への損傷は軽微だが、魔力が無くて意識を保つのがやっとだ。
実況や解説が何か色々言っているが、分からない程疲れているみたいだ。
早々に戻るとしよう。
そうして私はフラフラになりながらも、何とか自分の足で闘技場を後にすることが出来た。
…
「皆、エルザを連れ帰ったぞ」
俺は今、エルザをお姫様抱っこしている。
と、同時に『魔力譲渡』も緩やかに継続中だ。
「おお、お帰りなのじゃ。エルザ、大丈夫かのう?」
「無理はしちゃだめよ。魔力の欠乏は辛いからね」
「『アイテムボックス』からお飲物でもお出ししましょうか?
エルザさんは何かご要望はありますか?」
3人ともエルザを労いつつも、2人はニヤニヤしながら口元をヒクヒク動かすという表情の高等技術を行い、1人は微笑ましく笑いながら甲斐甲斐しく世話を行っていた。
さて、何故こんなことになっているかと言うと…
試合を観ていた俺がエルザの状態に気付いて迎えに行った所、エルザは俺を見て安心したのか俺の方に倒れて来たのだ。
エルザを受け止めた俺はエルザの状態を鑑み、安静にさせる為にお姫様抱っこをし、回復の為に今まで『魔力譲渡』を行っていた。
「ああティアにリーン、トールのおかげで魔力はほとんど回復した。もう大丈夫だよ…だからそんな顔しないでくれ。
頼めばやってくれるはずだから…
そしてありがとう、ドミニク。そうだな…さっぱりしたものが飲みたいかな」
「畏まりました。それではオレンジジュースをご用意いたしますね」
「してもらえるのは良いのだけれど、シチュエーションがね~」
「うむ、我もそう思うのじゃ」
ドミニクはエルザの要望に応えるように飲み物の用意を始め、憧れのある女性陣は単純な抱っこに否定的で難しい表情を浮かべている。
「エルザそろそろ降ろすぞ」
俺は2人に若干呆れながらも、エルザを隣の席に降ろして今回の試合について話し始めた。
「しかし、あの土壇場で昨日発現したばかりの『気功術』を使うとは思わなかったぞ」
そうエルザの『気功術』は前々…それこそマレノ王国を出発した頃から練習していて、昨日やっと発現したのだ。
以前考えていた、補助ありでの『気功術』修業は時間が掛かるものの、有用なことが判ったのは嬉しい出来事だった。まあ、現段階で発現したのはエルザのみだがな。
しかし、それを実践でいきなり使うエルザ…怒っていいのか誇っていいのか。
「んぐっ!!
仕方ないだろう!!ドバイアスの防御力が異常なほど高かったのだから…
たとえ氣を一部にしか纏えず、ちょっとしか放てないような熟練度だとしても、あれは急遽考えた私の奥の手だったのだ」
ドミニクからもらったジュースを飲んでいたエルザはむせながらも、俺に反論してきた。
「今回は試合だったし、決まったから良かったものの、分の悪い賭けはあまりするのは好ましくないわよ。
探索者は生きてこそ…なんだからね」
リーンはエルザが重く感じないように明るい声を出しているが、その表情は若干憂いを帯びていた。
元ギルドマスターとして多くの探索者と関わってきた故の経験則。そして最悪の現実。
それがこの一言に詰まっているような気がした。
「そう…だな。リーン、ありがとう。胆に銘じておくよ」
エルザは謝ることをしなかった。
ここで謝るとその場の反省のみになり、忠告を拒否しているようにも聞こえる。
だから、お礼を言って忠告を受け入れる言葉にしたのだろう。
段々と「仲間」になってきている…そう実感出来ることを俺は嬉しく思った。
「あら、随分と早く準備が整ったようですね。
皆さん、次の試合が始まるみたいですよ」
確かにドミニクの言う通り、選手が準備を終えて闘技場の中央に居るな。
あれだけ壊されれば闘技場の修理も慣れてきたのか?
まあ、試合の総括は夜にでもやることにして、今は試合観戦に集中するとしますか。
次は合間の戦い。出来ればトールの試合まで行きたい(願望)




