#12 エルザの消化不良
今回は短めです。
~side エルザ~
「それでは、トーナメント第1回戦第9試合、エルザ対ベン!!試合開始!!」
ティアは勝った…ならば、私も勝たねばな。
相手の武器はスネークソードに『風魔法』…というか、それよりも眩しい頭が目に付くな。
…いかん、いかん。
集中せねば!!
「来ないのかな?
では、こちらから行かせてもらう!!」
私が動かないのをいいことに、ベンは得意の中距離からスネークソードを伸ばして攻撃してきた。
「『ラミネート』」
スネークソード使いとの対戦は初めてである為、まずは流さずに受けてみることにした。
きぃん…
…ん?
軽いな。衝撃がほとんど伝わって来なかったぞ。
お、連続攻撃か!?
鞭のようにスネークソードを振り始めたな。
きぃん…きぃん…きぃん……
よ、弱い。これがスネークソードの威力なのか?
『ラミネート』の積層を1つも壊せていないじゃないか!!
魔法を使ってないとしてもこれがランクB?
もしや……こいつの戦い方は異常状態を利用しないと本領発揮が出来ないタイプなのか?
「ベン選手、流れるような連続攻撃ですね!!エルザ選手、動けません!!」
「違うのう。あれは動けないのではなく、動かないのじゃ。
おそらく様子見じゃろう。初見の相手じゃからか、それとも武器の動きを見ているのか…
どちらにしてもエルザが動くのはこれからじゃな」
「なんと!!駆け引きなのですね!!
それでは今後に期待して観戦を続けましょう!!」
簡単に言ってくれるな!!
武器の威力が弱くても、不規則な動きの中に突っ込んで行くのは勇気がいるんだぞ!!
ふ~…落ち着け、エルザ。
動かなければ勝利はないんだ。
先ほどの予想、当たっているかどうか攻めて確かめてみようではないか。
万が一、外れていた時は臨機応変に、危ない時は一時離脱すればいい。
それでは準備だ。
『身体強化』と『アクセル』への魔力供給を増加…よし。
接近時の対応イメージ…よし。
何も問題は無い。準備は出来た。
では、行くぞ!!
盾を前面に掲げ、一気に『一撃必殺』で最高速の体当たりを敢行。
この体当たりは結果的にベンの意表を突く形となる。
何故なら、ベンが連撃を叩き込む為に足捌きを疎かにしていたからだ。
「なにっ!?」
ベンの驚愕の声を聞きつつも、私はその身を低くしつつ加速。さらに距離を縮める。
3m…2m…1m…
激突の瞬間、私は盾をさらに突き出した。
「喰らえ!!」
盾で殴る形となった攻撃は、金属音を響かせながら激突した。
金属音…そうベンは咄嗟に盾と身体の間にスネークソードを張り、直接的な接触を防いでいたのだ。
しかし、それはベンにとっての悪手だった。
そう、私の攻撃が下から潜り込むような攻撃だった為、ベンの身体が宙に浮いたのだ。
この好機逃すものか!!
私は剣を掲げ、剣先をベンへと向けた。
そして攻撃魔法を発動する。
「『ブレイズスラスト』!!」
剣先から一筋の炎がボッボッボッと空気を突き破りながらベンへと向かう。
宙に浮いて体勢が崩れているベンは、『ウィンドウォール』とスネークソードを前面に展開して防御しようと試みていた。
数瞬後、魔法が『ウィンドウォール』に激突。
その瞬間、闘技場に盛大な爆発音が鳴り響いた。
これは訓練時にトールに教えて貰ったことだが、火と風の魔法は攻撃魔法としてとても相性が良い…らしい。
なんでも火が空気中の酸素を取り込み燃えることから、空気を利用する『風魔法』は『火魔法』の威力を上げてくれるとのこと。
それが理由で今回は不幸な事故が起こったと思われる。
防御の為に発動した『ウィンドウォール』…これには空気が圧縮されており、そこに高熱の炎がぶつかった。
結果、一気に『ウィンドウォール』を燃やし尽くし、大爆発を起こしたのではないか…
はぁ、言っててイマイチ要領を得ないな。
正直、これは私も予想外だったのだよ。
基本、私は『地魔法』で魔法を防御するのでこの現象を初めて見たのだ。
以前からあのようなことは起こっていたのだろうか?
こんなに危険なら城で魔法を学んでいた時に聞いているはずなんだが…
む、爆発の煙が晴れてきたか。
ベンは…闘技場の端で倒れているな。
動いている所を見ると気絶はしていないが、力が入らないくらいダメージを負っているみたいだ。
何度も起き上がろうとしては地に伏せる行為が繰り返されている。
「エルザ選手の魔法がベン選手の『ウィンドウォール』に阻まれたと思ったら大爆発を起こしましたよ!!
その余波を受けてベン選手は大ダメージを負ってしまいました!!
なんか色々予想外の展開が起こっていますが、獣王様どういうことなんでしょうか!?」
「すまんのう。ワシにもよう分からんのじゃ。
基本的に『ウォール』系の魔法は攻撃を阻む効果を持つのじゃが…
その効果を発揮出来ずに『ウィンドウォール』が破壊された。
それどころか防御の魔法が使い手を襲うなど…
ワシにはエルザが放った魔法の効果としか思えん」
あらゆる戦いを経験してきた獣王でもこのような現象を見たことがないのか。
あとで皆にも聞いてみた方がいいな。
「…ベン選手、試合続行不可能!!
試合終了!!勝者、エルザ選手!!」
追撃しようかと思っていたんだが…
審判の判断の方が早かったみたいだな。
「あーっと!!ここでベン選手ダウンの判定!!
何度も起き上がろうと試みていましたが、遂には起き上がれず!!
またも「日月」が勝ち上がったー!!このパーティー3人目の2回戦進出だー!!」
これ以上ここに居る意味はないな。トールたちの下へ戻るとしよう。
しかし、勝ったとはいえ、納得のいかない結末になってしまったな。
…
「ただいま」
「おー、お帰り。2回戦進出おめでとう。何て言うか災難だったな…相手が」
「戻ったかエルザ。最初の突進は見事だったぞ」
「エルザさん、おめでとうございます。あの爆発で怪我はありませんでしたか?」
「おめでとう。エルザ、最後の爆発狙ったの?
獣王も言うように、私もあんな現象知らないんだけど…」
リーンもあの爆発は予想外だったのか。
俺の仮説はあるが、このパターンもしや…
「うむ、ありがとう。
トール、それは言わないでくれ。私も不本意だったのだ。
ティア、あれは私も上手くいったと思っている。あの後ベンが浮いたのは予想外だったがな。
ドミニク、私に怪我は無い。私の魔法が多少爆発の指向性を誘導したみたいだ。
リーン、あれを狙ってやったのなら私はあの時、構えを解かなかっただろう。
私もあのようなことになるとは思っていなかったよ。
トールはあの現象が起きた理由、判るか?」
やはり俺が説明することになるのか。
「ティアに続き、エルザもか…」
「ん?ティアも何かあったのか?」
「ああ、我の試合でな……」
ティアが自分の試合の説明を始めた。
その間に俺は仮説の情報でも整理しておこうかな。
次の話を繋げると少し長くなったので分割しました。
説明回は2、3日後に投稿します。




