#10 インフェルノ
はい。途轍もなく遅れました。
理由はTOBの新作です。先週やっとクリアしたので、今回復帰しました。
アニメとの絡みが面白い作品でしたね。
さて、再開です。どうぞ。
明けて3日。
予告通り、9時に本選のトーナメントが発表された。
運営が決めたので文句は言えないが、俺の運の悪さをこれほど恨んだのは初めてかもしれない。
「駄目だろ…これは」
俺はトーナメント表を見た瞬間、天を仰ぎ、目を覆った。
「我等は全員ランクAかBの者と当たるが、トールは…」
「初戦からランクSとの対戦か…」
「しかも予選で圧倒的な勝利を飾った【破壊の穿孔】グレゴワールですか」
「見物ね~」
ティア、エルザ、ドミニクは俺に同情しているが、リーンに至っては完全に面白がっているな。
トーナメント第1回戦はこんな感じだ。
・第1試合:アラスター(ランクB)vs.ドミニク(ランクB)
・第2試合:ジャニス(ランクB)vs.ピーチ(ランクB)
・第3試合:クラディス(ランクA)vs.シビーユ(ランクS)
・第4試合:フロラン(ランクB)vs.ジゼル(ランクA)
・第5試合:プリシラ(ランクS)vs.レナエル(ランクA)
・第6試合:イザーク(ランクB)vs.クライド(ランクA)
・第7試合:ニコラ(ランクB)vs.カミラ(ランクA)
・第8試合:ティア(ランクB)vs.コートニー(ランクA)
・第9試合:エルザ(ランクB)vs.ベン(ランクB)
・第10試合:ドバイアス(ランクA)vs.リゼット(ランクC)
・第11試合:エレイン(ランクS)vs.ラウラ(ランクC)
・第12試合:ラナ(ランクA)vs.セレスト(ランクA)
・第13試合:セルマ(ランクA)vs.イーデン(マレノ王国騎士)
・第14試合:レオン(ゴート獣王国軍)vs.ユーイン(ランクB)
・第15試合:ロドルフ(ランクA)vs.エルトン(ランクC)
・第16試合:トール(ランクB)vs.グレゴワール(ランクS)
「普通こういう強い奴との対戦って決勝じゃね!?」
「どこの常識なのじゃ、それは…」
「どこって物語とか?」
「それは物語だからだろう。実質、物語でもそういう描写が無いだけで戦っているはずだぞ。
物語のように都合のいいことなどあるはずないだろう」
「それも…そうか」
確かにエルザの言う通りだ。
…待てよ、これってよく考えたら一種の厨二病じゃねーか?
「トール様、現実を見て下さい。そんなことを言っていると周りからオカシイ目で見られますよ」
ちくしょー!!やっぱり指摘された!!
しかし、この世界に厨二病が無かったことは幸いだったな。
もしあったなら、ドミニクの言った通りイタイ奴と思われてたはずだ。
…多分無いよね。先駆者が広めてないことを祈ろう。
「そんなことよりも、トールはどう戦うの?」
と、リーンが呆れながらも、話を切るように別の話題を振ってきた。
「ふむ、俺としては武術の修行相手にしたいところかな。あの人の戟の使い方は正直参考になる。
俺の十字槍も槍と名が付いているが、素材を加味すれば戟として使えなくもない。
そう考えると修行相手としてはもってこいと思っている」
「こんな強敵相手にも修行する気なのね…
負けるとは思わないの?」
「うーん、確かに油断をすると怖い相手なのは判っているんだ。ただ、トリスタン程の怖さは無いんだよ」
あれの強さを間近で経験したら、ほとんどの戦いは冷静でいられると思う。
なんかドミニクがめっちゃニコニコしてるが、それほどトリスタンのことを褒めたのが嬉しかったのかな?
「それは…そうじゃろうのう」
「私たちではまだ分からない次元の戦いをしていたからな。それを鑑みるとグレゴワールの力はまだ分かり易いな」
ティアとエルザも実際に感じているから、俺の言っていることには共感できるみたいだな。
まあ、それでもグレゴワールは危険だと思っているようだが…
「だろ。まあ、危険を感じたら奥の手でもなんでも使うつもりだから大丈夫だ」
「ホント、仕方のない人ね。
いいわ、油断の無いように戦いなさい。忠告したのに油断して負けましたじゃ、後がひどくなるから覚えておきなさいね!!」
「イ、イエス、マム…」
リーンさん、マジコエー!!
うん、油断せずに行こう。
…
「ご連絡致します。
本選出場の皆様、10時より第1試合を開始しますので、出場選手の方は控室の方に移動をお願い致します。
また、試合の予定を早める可能性もございますので、次の試合の出場選手も同時に移動をお願い致します。
最後にそれ以降の出場選手に関しましては自分の前の試合まで自由行動して頂いて結構です。但し、自分の前の試合が始まりましたら、控室の方に待機をお願いします。もし、遅れた場合は失格になりますのでご注意願います。
以上で連絡を終わります」
皆と話していると、このようなアナウンスが闘技場に鳴り響いた。
「時間のようですね。それでは私は行って参ります」
「おう、皆に言えることだが油断せず、冷静にな」
「勢いを付ける為に圧勝してきてもいいのじゃぞ!!」
「ティア、余りプレッシャーを掛けるな。ドミニク、自分のテンポで戦えばいいからな」
「戦いはどれだけ自分に有利な状況に持ち込めるかよ。よく考えて動きなさいね」
試合に行くドミニクに、俺、ティア、エルザ、リーンの順で短い激励を行う。
ドミニクは頷くと、踵を返して控室の方に向かって歩いて行った。
さて、俺たちも観戦の為に観客席に行きますか!!
…
~side ドミニク~
「さあ!!いよいよ始まりますよ!!
闘技場の中心には本選第1試合目の選手が向かい合い、両者今か今かと開始の合図を待っております!!
初戦の対戦カードは「デュアルアーム」のアラスター対「日月」のドミニク!!
同じランクBということで拮抗した面白い試合が見られるのではないかと私は思っております!!」
「それでは両者とも準備はよろしいですか?」
本選からは審判が常駐するようですね。まあ、離れていればこの広い闘技場内で危険な目に合うことはほとんど無いでしょう。
「構わん。始めてくれ」
「問題ありません」
私たちがそう言うと、審判の方は頷いて私たちから一定の距離を取りました。
「それでは、トーナメント第1回戦第1試合、アラスター対ドミニク!!
試合開始!!」
闘技場全体に試合開始の合図を示す為、審判は頭上に上げた手を振り下ろしました。
事前情報でアラスターの大弓が脅威なのは判っています。
距離を取られないようにしなければ…
まずは機動力を奪いましょうか。
「『身体強化』、『アクセル』」
『身体強化』はトール様から教えて頂きました。以前までは『パワー』を使用していましたが、細胞の存在などを考慮したこの魔法は以前よりも魔力を上手く全身に流せ、より強化されるので重宝してます。まあ、イメージを確かに『パワー』を使用すれば『身体強化』と同じ効果を得られるのですが、長年使い続けたのでイメージとキーワードが関連付けられており、『パワー』では上手く発動しません。
と、余談でしたね。
魔法を発動した後、私はアラスターの足を狙いに切り込んで行きました。
「む、早…!!」
私がアラスターへあと5歩程度まで接近した時、瞬時に『隠蔽』で姿と足音を消しました。見られていたので気配の残滓はあるでしょうが、それが逆に混乱を増長させたのでしょう。私を見つけるために注意が散漫になって、視線が定まっていませんね。
アラスターの意識を反らした私は、そのまま直進して足の中でも防御の薄い太ももを深く斬りつけ、そのまま脇を通り抜けて瞬時に間合いを取ります。
「ぐぁっ!!しょ、正面だと!?」
太ももに傷を負ったアラスターは、斬られた箇所を押さえて膝をつきました。
しかし、流石にランクBともなると相手から目線を外すのが危険だと分かっているのでしょう。
膝をつきながらも瞬時に身体を私の方に向け、弓に矢を番えていました。
「させません!!『ラーヴァシュート』!!」
矢を射らせるわけにはいきません。
間髪を与えず、私は直径30cm程の溶岩の球を射出して一気に勝負に出ます。
危険を察知したアラスターは転がり、溶岩の熱に当てられながらも魔法をギリギリ避けました。
そして何を思ったのか矢を十分に引かずに、しかし狙いは十分に不安定な体勢から一矢射ってきたのです。
多分牽制の為だったのでしょう。
しかし移動も満足に出来ず、攻撃も儘ならない今、アラスターに止めを刺す準備が出来ました。
私はその矢を見切り、最小限で避けると共に魔法を発動します。
「『我、願う。火と水と闇と時空間を司る者よ、周囲の熱を還元し、彼の者を灼熱の黒き炎で焼き尽くしたまえ』!!
『インフェルノ』!!」
この魔法、私ではまだ無詠唱では発動出来ません。周囲の熱の変換や異常状態を加速させる闇の付加が思った以上に難しいのです。
今回は相手を追いつめていた為、余裕を持って発動出来ました。
これを受けた者は、高熱によって焼かれる痛みでほとんどの人は気絶するか死にますが、アラスターはどうでしょうね。
「がぁぁぁいっっっ!!おぉぉぉ!!かぁぁぁぁ!!」
思った以上に耐えますね。5秒くらい痛みを耐え抜いているような悲鳴が出ていますよ。
出来ることなら早めに倒れるか、声が聞こえなくなりませんかね。
これのコントロール意外に大変なんですよ。周囲も寒くなる一方ですし…
ドサッ!!
あ、倒れましたね。それでは魔法は止めましょうか。流石にキツイです。
ただし、一応構えておきましょう。油断は駄目だと話し合ったばかりですしね。
動かなければ審判が来て確認するでしょう。
「アラスター選手!!…返事は無いようですね。
試合終了!!勝者、ドミニク!!」
1分経っても立ち上がらない為、審判が確認に来ましたが、反応はありませんでした。
やはり、何気に緊張していたのでしょう。審判のコールが聞こえた瞬間、大きなため息が出てしましました。
「し、試合終了~!!試合時間は10分、いえ5分もなかったでしょう!!息吐く暇もなく勝負を決めたのはドミニク選手の黒い炎!!
それに焼かれるアラスター選手の声が耳から離れてくれません!!夜中トイレに行けなくなったらどうしてくれんだ、このアマー!!
…おほん。さて、アラスター選手ですがご安心下さい。
彼の怪我は結界内で精神ダメージに変換され、結界を出ればあら不思議!!傷1つない状態で復活します。まあ、気絶はしたままですが…
また、万全の治療設備がありますので、後遺症など一切残りませんので皆さん大丈夫ですよ。泣かないで下さ~い!!
ともあれ、第2回戦に進んだのはドミニク選手です!!皆さん勝者に盛大な拍手を!!そして心に刻め!!メイドさんを怒らせるなよ!!
さて、獣王様。実況や解説が出来なかった分、先ほどの試合について伺いたいと…」
そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか…
やりすぎましたかね?しかし、勝負なのです。仕方がありません。
さて、もうここに用はありませんね。皆様の下に戻りましょう。
…
「ただいま戻りました」
「おかえり。速攻で勝負を決めたな」
「我の助言を参考にしたのじゃな。流石ドミニクじゃ」
「あそこまで圧倒的だと、ドミニクに当たったあいつは不運だったとしか言いようがないな」
「あの容赦の無さは尊敬に値するわね。でも、相当魔力を使ったでしょう?ゆっくり休んだ方がいいわよ」
ドミニクの戦い方に実況や観客は怯えていたが、戦いの中では相手を不利な状況に追い込むのは常套手段なので、特別残酷な手法では無いと思う。むしろ、もっと翌日に疲れを残さない戦い方を考えた方がよかったのではと思うくらいだ。
「ええ、少し疲れたので休ませて頂きます」
詠唱ありの魔法をあれだけ維持してたら、そりゃ疲れるわな。
「そう…じゃあトール、ドミニクに肩を貸してあげなさい」
「は?」
リーンは何を言ってるんだ?
「い、いえ、そこまでしていただかなくても…」
「いいのよ。頑張ったんだから今だけでも甘えちゃいなさい。
トールもこれくらいの労いなら問題無いでしょう?奴隷のケアは主人の務めよ」
「ま、まあ、皆に文句が無いのなら肩くらい全然使ってもらっても構わないが…」
嫉妬されて後から一方的に責められるのは嫌だしな。
「ええ文句なんて無いわ。それに私たちも後でやってもらうしね」
リーンが笑顔でそう言うと、ティアとエルザもニコニコ笑いながら頷いていた。
さいですか。
「そういうことなら…
ほら、ドミニク横に来いよ」
「あ、え、で、では失礼して」
若干狼狽えながらも、ドミニクは俺の隣に座り、肩に頭を乗せてきた。
その後、少ししてドミニクが寝入ってしまった。見た目では分からない程、疲れていたんだろう。
身動きが取れなくなったが観戦には問題なかったので、今だけゆっくり寝かせてあげることにした。
この時、リーンの何か意図のありそうな含み笑いを見ていれば、この状況に不振を抱いたかもしれないが、俺は気付くこと無く観戦に集中していた。
リーンの計画はこの時着々と進行していたのだ。
一応、一人一話の間隔でやります。途中の試合は決め手や勝因などを書いて簡略化します。
 




