#3 最後の試験
ちょっと短いかも?
12の月30日
俺は昨日の疲労が抜けぬまま、マハムートの探索者ギルドへやって来た。
今、俺たちの目の前に居るのはここのギルドマスターであるイェルク・ヘプケンだ。彼が蛇獣人で目が鋭いこともあり、怒っていないのにも関わらず変に委縮してしまうのは人生経験の少ない男子高校生の仕様だと思ってもらいたい…
「まさか、【彩の舞姫】が今注目されている「日月」のパーティに入るとは…本当に現役に戻るのですね」
「お久しぶりね、イェルク君。それとその名は言わないでとお願いしていたはずだけど…」
「もう…いつまでも子ども扱いしないで下さいよ。それに、二つ名があるってことは名誉なことなんですよ。復帰したんだから我慢して下さい」
うーん、イェルクさんとリーンの話が盛り上がってるのはいいんだけど、気になることが2つ程あるね。
「えーと、イェルクさん…話に割って入って申し訳ないんですが、【彩の舞姫】と俺たちが今注目されているってどういうことですか?」
「ん?知らないんですか?【彩の舞姫】とはアイリーンさんの二つ名ですよ。数多くの属性魔法を用い、スネークソードで舞うように敵を屠るところからその名が付けられました。因みに二つ名はランクがBかA若しくは有名になると、他の探索者などから意見を取り入れてギルドが二つ名を認定します。ああ、「日月」の皆さんもランクBなので試験に通れば、そろそろ機会が巡ってくるかもしれませんね。
そして、貴方たち「日月」が注目されているのは当たり前ですよ。自分たちが何をやってきたのかよく思い返して下さい」
マジか…二つ名ほぼ確実に付けられること決定してんじゃん!!意見を取り入るんだろ!?俺どんなことやってきたっけな?…一番目立ったのでリッチ退治か?どうか変なのが付きませんように!!
「もう!!二つ名とかの話はもういいでしょ!!それよりも…」
困惑している俺を見て助けてくれたのか、それとも自分の二つ名の話を止めてほしかったのかはしらないが、確かに本題とは違う内容なので話を切り替えさせてもらおう。
「そうでした。今回イェルクさんをお伺いしたのはここでの試験についての話を聞きたかったからなんです。私たちが受ける試験内容を教えてください」
「そうですね。しかし、その前に全ギルドの総意としてお詫びをさせて下さい。今回、フェックスでのマリナの対応、誠に申し訳ございませんでした」
椅子から立ち上がったイェルクさんが深々とお辞儀をしてきた。
「5都市のギルドで「日月」の試験を考案している際に嘘を付き、ましてや死に直結するような依頼を出すなどギルドマスターとして許されません!!依頼主が依頼主だっただけに処罰がどの程度のものになるかは不明ですが、何らかの罰がマリナには下されるでしょう。そして、「日月」の皆様には謝罪金が支払われることになっています。ここでの試験が終わるまでには用意できると思いますので、少々お待ち下さい」
そう言ってイェルクさんは再度お辞儀をし、ゆっくり頭を上げると溜息を付きながらソファーに座った。
「えー…何と言いますか、あまりマリナさんを責めないであげて下さい。確かに虚偽を行ったことは間違ってますが、トリスタンが行った行為も力を使った恐喝だったんでしょう。結果論ではありますが私も生きていますし、トリスタンから今回の件に関して相応のモノも貰ってますので、これ以上私から何か言うことはありません。
そして謝罪金に関しては了解致しました。ここで断るのもギルドの面子に関わるでしょうし、謹んでお受け致します。今回の試験終了時に再度面会を求めますので、その時に受け渡しをお願いします」
…うん?何か変な応え方したかな?イェルクさんの鋭い目が大きく開かれてるぞ。
「…受け応えが一般の探索者とは違うので驚きましたよ。おほん、それでは本題に戻りましょう。
今回の試験についてですが、「日月」の皆様には明日の新の月1日より5日まで開催される「魔闘技絢爛大会」、通称「魔闘技会」に出場して頂きます」
雰囲気を変える為に軽い咳払いをしたあと、イェルクさんが今回の試験を発表した。
しかし、「魔闘技会」とは何だ?皆知ってるのか?
「内容をご存じの方も居るとは思いますが、一応説明させて頂きます。
「魔闘技会」とは簡単に言うと魔法、武術それらに関係する技術を全て用いて1番強い者を決めようという大会です。予選のルールは大会ごとに変わるので当日確認するまで分かりませんが、本選のルールは単純で1試合20分間であらゆる手段を用いて対戦相手を倒した者が勝者となります。また、先ほど「あらゆる手段」と言った通り、毒などの薬品を用いても問題にはなりません。この大会は己の強みを示す大会ですので、毒などへの対応力も個人の強みと見做なすそうです。因みに、闘技場には不死結界が2重3重に張ってあるのでどんな戦いをしても問題はありません。
説明は以上となりますが何かご質問はありますか?」
良かった…俺が問うまでもなく説明してくれた。というか、説明を聞いた限りだと「魔闘技会」ってイコール「安全な殺し合い」じゃね!?
「…そうですね。「魔闘技会」が結構物騒な大会だとは分かりましたよ…ハハ。まあ、出場しても問題は無さそうなので出場するメンバーと試験の合格ライン、そして報酬の話をさせて下さい」
「はい。出場者は先ほども申した通り「日月」の皆様全員なのですが、アイリーンさんは実力が十分に御有りなので除外させて頂きます。
試験の合格ラインは本選トーナメント出場で文句なしの合格、予選敗退の場合は戦い方の内容をギルドの評価員がランクBとして問題ないか確認して決められます。
最後に報酬ですが、優勝が100万モル、2位で50万、3位で25万、4位以下は10万、予選落ちでも試験を合格した場合は1万モルとしています。試験不合格の場合は残念ながら報酬は無しになりますので頑張って下さい。
以上ですが、何かご質問は?」
「いいえ、特にはありません」
「それでは手続きはこちらで全てやっておきますのでこちらの書類に各人お名前の記入をお願いします。明日は2の鐘までにマハムート中央闘技場に行って頂き、受付でカードを提示すれば入場出来ますので遅れないように行動して下さい」
…
書類への記入が終わると俺たちはギルドをあとにして明日の準備に取り掛かった。
その日は各自で武器の整備や基本戦術の確認、そして強敵などと戦う際の奥の手を準備していた。
目標は本選出場などと弱気なことは言わず、全員が優勝を狙っている。もちろんパーティメンバーと戦う可能性もあると示唆した。だがティア、エルザ、ドミニクの3人ともが俺と戦うことになった場合、遊ばずに本気で戦ってほしいとお願いをしてきた。彼女たちは手加減されることが嫌だと、そして俺の居る高みを感じてみたい…だからもし戦うことになっても手加減をしないでほしいと言ってきた。
俺はそれを快く承諾した。彼女たちの意思が本物だったからだ。ここで渋ってちゃ男と言えないでしょう!!
「さて、本気を出すならアレの完成を急がなきゃな…つっても1ヶ月少しずつ隠れて特訓したが、まだ完成度は50%に届いたくらいだし、この大会期間じゃ完成度は80%になれば良い方だよな~。でも本気度を示すならコレが一番分かり易い。一丁、頑張りますか!!」
…
そして年が明け、新の月1日
「日月」が初めて表舞台に立つ、第300回魔闘技絢爛大会が今始まろうとしていた。
次から戦いが多くなるはず?




