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野草のじいさん






 おじいちゃんがおばあちゃんのパチンコ好きはどうにかならないもんかと相談してきた。確かにおばあちゃんはこの1週間で3日もパチンコに行っているので相当なパチンコ好きである。というより完全に中毒である。しかしお酒を毎日あおっているおじいちゃんはアルコール中毒なので、他人のことをとやかく言える立場にない。


「別にパチンコを完全にやめろというワケじゃないんだがな。でもパチンコ以外に何か楽しいことを見つけてやればパチンコをやめるかもしれん」


 俺はそれも一理あると思い、おばあちゃんが好きそうなことを考えてみた。しかしいくら考えてもおばあちゃんで連想するものと言ったら、ゴキブリ嫌い、老眼、矢吹丈の3つ以外出てこなかった。甘いもので釣っても短期的に気を紛らわすだけだし、スカイツリーで釣っても、「電車が混んで大変だったわね、もう来なくていいわね」とやはりこちらも短期的である。好きな食べ物はカニだが、長年連れ添った妻に毎日カニを食べさせられるような甲斐性は玉田倫太郎にはない。倫太郎は毎日「りんたろう」をはいて、今日も将棋でドミノ倒しに夢中なのである。


「いっそオレがパチンコだったらなあ」


 おじいちゃんはドミノ倒しをしながらおばあちゃんのことを考えるあまりにオレがパチンコだったらとワケの分からないことを口走り始めた。おじいちゃんがパチンコになったら、「あら驚いた。あなた、パチンコ台になったのね」と言いながらおばあちゃんはおじいちゃんのリーチ見たさにどんどんお金を投入していくだろう。そして、「全然当たらないじゃないの。このジジイ!」とボタンを強打して、3時間後には矢吹丈である。何にせよおじいちゃんがパチンコになってもイイことは一つもない。


「そうだ、野草でも摘んでみれば喜ぶかもしれない」


 どこから引っ張り出してきたのか知らないが、いきなり「野草」という単語が出てきて俺は少し驚いた。パチンコへ行く回数を減らす打開策として、野草が役に立つならこれほどリーズナブルな打開策はない。野草ならそこら辺にいくらでも生えている。


「早速行こう。おばあちゃんきっと喜ぶぞ」


 俺が、「一人で行くんじゃないの?」と聞くと、「誰が独りで野草を摘みに行くと言ったんだ」と何故か少々イライラした口調で返された。それでも俺が行くことを渋っているとおじいちゃんは鼻息を荒くして俺の服のえりを引っ張り始めた。


「おばあちゃんを悲しませる孫と近所で評判になるぞ」


 脅迫しながらえりをいつまでも引っ張っていたので俺は観念しておじいちゃんのお遊戯に付き合うことにした。おじいちゃんはこの前届いた荷物の中からペシャンコになった麦わら帽子をポンポン叩いて俺によこした。いつのものだか分からないほどホコリっぽい臭いがしている。俺はさっさと野草を摘んで終わらせたくなった。


「ただいまー」


 野草をいくつか摘んで帰ってくるとちょうどおばあちゃんもパチンコから帰ってきた。今日はどうやら勝ったようで顔がずっとほころんでいた。


「おい玉子、お前のためにこれ摘んできたぞ」


 野草の本を読みながら炎天下の中、1時間半かけて何種類かの食べられる野草をチョイスした。おじいちゃんは、「これを見たらきっと玉子はあたしも野草を摘みに行きたい!って言うに違いない」と何故か自信満々に話していた。


「何これ? 草? きったないわよ」


 おばあちゃんの反応は至極自然な反応だった。ダイヤモンドならともかく、そこら辺に生えてる草で女性がときめくワケがない。「もしかしてこれってオニユリ? あ、カラスノエンドウとセイヨウタンポポまである! すごく美味しそう!」と言うワケがない。おばあちゃんなら何でも喜ぶと思っているのであればおばあちゃんを見くびりすぎである。


「調理なんてしないわよ。食べるなら自分でやってね。あたし食べないから」


 おじいちゃんはその言葉に腹が立ったのか、普段台所に立たないくせに無理やり立って採ってきた野草の調理を始めた。俺とおばあちゃんが惣菜を食べている中、おじいちゃんは調理した野草を食べていた。おじいちゃんの表情に笑みはなかった。



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