麻雀狂いの四十万さん
十三
今日も四十万さんから麻雀のお誘いをかけられた。俺としては四十万さんと一緒に麻雀をするのは冬の寒い時期に暖房の効いた雀荘で打つくらいがちょうどいいのだが、四十万さんは麻雀の出来るハツカネズミとからかわれるほどとにかく性欲と共に雀欲も強い。麻雀の腕は強くないが、とにかくパイを握りたくて握りたくて硬いパイも柔らかいパイもどちらもにぎにぎしたい男、それが四十万さんなのである。
「今日こそ俺のチンイツかましてやるぜ」
四十万さんが言うと麻雀の役が卑猥に聞こえる。俺は四十万さんが毎回チンイツチンイツと連呼するたびに、チンチンとイチモツを掛け合わせた言葉にしか聞こえなくなる。時々、これは催眠術の一種かもしれないと錯覚してしまうことさえある。
「四十万、それロン。7700」
四十万さんは早速、バイトの先輩に振り込んだ。「あ、そう。別にイイよ。取り返すから」という風な気取った顔をしていたが内心はこのクソ野郎くらいに思っているに違いない。四十万さんは他の人に点棒を取られると最初は気取っているがだんだん険悪な顔になってきて、最後はイヤミだったり言い訳ばっかりしてゲームの場を汚すのだ。
「ちっ。ツモれないなー」
2ゲーム終えて、バイトの先輩が四十万さんからかっさらってダントツトップで、ドベはもちろん四十万さんである。四十万さんは以前まで役牌とトイトイくらいしか役を知らなかったが、チンイツが一度決まってからはチンイツのとりこになっていろんな役を覚えていった。しかし麻雀のとりこになったせいで、四十万さんは度々バイトの先輩からむしりとられていた。
「さて、オーラスだな。デカイ手あがらないと負けるぞ四十万」
バイトの先輩がけしかけて、四十万さんにチンイツを狙わせるように仕向けた。四十万さんはチンイツ以外の高い手を知らないので、まんまとその罠にハマって一色手を狙い始めた。四十万さんの捨て牌は露骨な切り方なので、俺はすぐにマンズのチンイツだと判断した。
「こい、こい、こい」
四十万さんはまるで念仏のようにこい、こいを連発していたが、バイトの先輩も四十万の欲しい牌を抑えるようにしてマンズを捨てずいたので、それに影響されてみんなマンズを切れずにいた。鳴いてチンイツへ持っていくならともかく自力で引くのはそれこそ至難の業なので、俺は今回も四十万さんのチンイツは不毛に終わると思っていた。
「ふはははははっ! ツモぉおおお! どうやら天は俺に味方したようだな!」
7巡目、突然電光石火のごとく四十万さんがツモあがりした。牌をこれでもかと叩きつけんばかりの叩きつけで四十万さんが自分の手をさらすと、見事なまでのチョンボだった。バイトの先輩に指摘されて、四十万さんがもう一度確認するとゲラゲラ笑っていた四十万さんがウソのようにちょんぼりとしてしまった。
「間違えました。すみません」
その後、バイトの先輩が軽くピンフをあがってゲームセットとなった。俺は心の中でダサい上にデブで不潔だからとっととくたばれ四十万!と応援してやった。