ソフトクリーム
十二
おじいちゃんはソフトクリームが大好きで、しかもスイーツ店に売っているような舌触りが軽やかなものではなく、駄菓子屋に売っているようなもったりとした昔ながらのソフトクリームが好きなのである。今日はおじいちゃんが酒と一緒に人数分のソフトクリームも一緒に買ってきた。
「あれを食べながら将棋を打っていると不思議と頭の回転が速くなるような気がするんだよ」
それほどボードゲームで頭の回転が速くなりたいのであればまず酔いどれ気分を覚ましてシラフで打てば済む話である。酒を飲みまくったくせに、「糖分を欲してるんだよね、脳が」と本末転倒なことを抜かすのであればおじいちゃんには結局ドミノおじいちゃんになる以外道は残されていないのである。
「おい、ここが正念場なんだ。玉子ぉ、アイスくれ」
昼食後におじいちゃんはおばあちゃんに言って買ってきたソフトクリームを持ってこさせた。オセロで既に俺がカドを2つも取っているのにおじいちゃんはまだ諦めようとしない。もはや勝負が付いている状態なのに、頭の中を整理したいのか糖分をものすごく欲しているような貧乏ゆすりをし始めた。
「まだまだ逆転の目はあるはずだ」
おじいちゃんのソフトクリームの食べ方はとても肉食的で、口を大きくあんぐり開けるとソフトクリーム全体を口内で包み込んでしまう。時には頭をピストンしたりする捕食という言葉がふさわしいような卑猥な食べ方を何十年も続けている。俺はそれを見る度に注意してやりたくなるのだが、おじいちゃんはウンコをもらしてもおむつがダサいからはかないというほどの頑固者なので結局言っても聞かないだろうと放置している。
「だぁー! 負けた負けた! やっぱカドとられたら勝てんわ」
おじいちゃんは何を今さらというような言い訳をして最後にソフトクリームをごちそうさました。そして負けてイラついていたらしく、昼からいきなりおばあちゃんにビールをよこせと言い始めた。おばあちゃんはニコニコした顔をして一言、「晩御飯の時に出してあげるから」とあしらった。おじいちゃんはガックリうなだれて、「夕食までの辛抱だ、夕食までの辛抱だ」と腕立て伏せをしながら強く自分に言い聞かせていた。