「りんたろう」襲来!
一
バイトから帰ってくると不在届けが入っていた。内容を見てみると玉田倫太郎と書かれてあった。
「おじいちゃんがねぇ、おじいちゃんがねぇ、おじいちゃんが優太に暑中見舞いだって!」
おばあちゃんに電話すると、「おじいちゃん」を3回連呼した挙句、例年通りの暑中見舞いだと抜かした。新鮮味のあるような語気で元気はつらつとしながらしゃべるおばあちゃんにオレは苦笑いをしながら、「いつものサラダ油の詰め合わせでしょ?」と答えるとおばあちゃんはこちらを小馬鹿にするような笑いをした。
「さて、何でしょう? ぶっふふぉ」
相変わらず笑い声が汚らしい。食事で口をバカなカバさんみたいに開けながらクチャクチャと音を立てて食べるバイト仲間の四十万さんと同じくらい汚らしい。まあ四十万さんはこちらが注意をすると余計にクチャクチャ音を立てるというクソあまのじゃくだから、意識して汚らしくするよりは無意識のうちに汚らしい笑い声を上げるほうが幾分かマシだが、無意識のうちに「ぶっふふぉ」と口にしているのであればそれはそれで問題である。
「とにかく開けてごらんよ。そして手にとってごらんよ」
ごらんごらんと言われてもあいにく手にとる荷物は受け取っていないと言うとまたしても「ぶっふふぉ」と笑った。しかも今度は「ふぶっふふぉ」と、「ふ」を一つ付け足してまるでこれからポケモンのフリーザーを使って吹雪でも呼び起こすような笑い方をしたので、「明日受け取るから」と言って切ろうとすると、「楽しみにしてね」と楽しみを念押しされた。
翌日、荷物を受け取るとかなり厳重にガムテープを何枚も貼られていた上にビニールひもまでかけられていた。俺は面倒に思いながらハサミでジャギジャギ切っていくと中からいきなりブラジャーが飛び出した。余程使い古しているのかところどころに毛玉がくっついている。ばっちいブラジャーを払ってやると今度は下にブリーフが3枚重ねられていた。ご丁寧に3枚ともゴムの部分に「りんたろう」と書かれており俺は見るに耐えず視線をそらして吐き気をもよおした。
「届いたかい? 実はおじいちゃんがどうしても優太と一緒に暮らしたいって言っててねぇ。でも家のお墓がこっちにあるし現実問題無理な話だって何度言っても聞かないんだよ。ほら、おじいちゃんってウンコもらすのにオムツは見てくれがダサいからはかないって言う人でしょ? だからちょっとだけ優太のところに泊めてもらいたいのよ。その間におじいちゃん説得して連れて帰るからさ。優太には迷惑かけないようにするよ」
既にこのブラジャー1枚とブリーフ3枚の時点で迷惑をかけられているのだが、おばあちゃんは勝手に事を進めて電話を切ってしまった。そもそも暑中見舞いだって!とのたまっておいて、その中身がブラとブリとは一体どういう了見をしているのだろうか。しかもこれだけではなく着替え一式がぎっしりと詰め込まれてあったので俺の部屋の一角がシニアブルセラショップとなってしまった。その中でも際立っているのがあの「りんたろう」である。俺は「りんたろう」のあまりの存在感に視界を侵されることを心配して、新聞紙を「りんたろう」達の上に覆いかぶせてやった。