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殺戮機械が思い出に浸るとき 7

 朝と言うには遅すぎる時間だった。保安隊下士官寮の食堂。がらんとした空間が広がっている。

「どうするの?」

 じっと誠の顔を見つめながら眉間にしわを寄せながらアイシャがつぶやいた。

「どうするも何も……プラモでも作ります? 」 

「馬鹿か」 

 他に答えることが無くてぼけて見せた誠に隣の席に座っているカウラがつぶやいた。初春の日差しが窓からこぼれてくるのがすがすがしいが誠達の心は晴れない。一応は謹慎中の身の上である。そしてその間に吉田を探すように嵯峨には指示されているがまるで手がかりはない。

「探すって言ってもねえ……誠ちゃん。ヒントちょうだい」 

「僕が持っているわけが無いじゃないですか! 」 

 アイシャのとりとめのない言葉にただ答えるだけの誠。アイシャは先ほどから暇そうに首をねじりながら誰もいない食堂を落ち着き無く見回している。非番で寮に居る隊員の気配は確かにあった。それでも独身男子寮に似つかわしくない上に絡むとろくなことにならないアイシャなどに関わり合いにはなるまいと食堂に近づく人影は無かった。

「手がかり無しで人一人を捜す……しかもその人物は名の知れた傭兵上がり。人混みに紛れる名人だという……私達だけではどうしようもないだろ。仕方ないからおとなしくしているしか無いんじゃないか? 」 

「カウラちゃんは薄情ねえ。もしかしたら大変な事件に巻き込まれているのかもしれないのよ」 

 心配するような顔を急に作ってみせるアイシャ。そのバレバレの演技に誠はただため息をつく。

「ベルガー少佐。大変な事件に巻き込まれているなら、報告書を定期的に作成したりナンバルゲニア中尉のシミュレーションのプログラムをしたりは出来ないですよ」 

「誠ちゃんまで……。それは、吉田さんが優秀だからと言うことで良いじゃないの。それに今は遼北と西モスレムの衝突が迫っているのよ。おそらくそれ絡みで……」

「妄想もいい加減にしろ。たかが司法実働部隊の隊員がどうこうできる話じゃない」 

 ただただ大きくため息をつくカウラ。部屋はそのまま沈黙に包まれる。

「テレビでも見ようかしら」 

 さすがに飽きたと言うようにアイシャが立ち上がったが、その時食堂の入り口の扉が開いた。

 西園寺要の姿がそこにはあった。ニンマリと笑いながら誠達にゆっくりと近づいて来る。

「西園寺。何かあったのか? 」 

 この場のぬるい脱力感とは不釣り合いの不敵な笑みを浮かべる要にカウラはやりきれなさそうな表情でつぶやいた。

「なあに……仕込みに時間がかかってな」 

 それだけ言うと要はそのまま厨房の前のカウンターに向かって歩き出した。そのままポットとインスタントコーヒーを手にするとそのまま誠達の座るテーブルに置く。

「何……気味が悪いわね。そんなに気が利くなんて。コーヒー入れてくれるの? 」

「入れるのはテメエだよ。アタシの仕込みの話。聞きたくねえのか? 」

 いかにもやり遂げたような表情の要に首をひねるアイシャ。そのまま立ち上がるとカップを取りに立ち上がる。カウラはただ呆然とその有様を見ながら不思議そうな表情でどっかと腰を下ろす要を見つめていた。

「何を仕組んだ」 

 カウラの質問に素直に答える要ではない。にやにや笑いながら食堂に備え付けられた戸棚をあさっているアイシャの後ろ姿を満足そうに見ている要。しばらくすると不機嫌そうな表情でお盆に人数分のカップと砂糖とミルクを持ってアイシャが帰ってくる。その有様。十分話を切り出すまでの時間を貯めたと満足するように頷くとそのまま顔を突き出して口を開く。

「オメエ等には何も期待出来ねえからな。カウラは製造から八年。同じロットの連中は公務員ばかり。アイシャはまあ稼働時間が長いがつきあいの幅は……まあ誠とどっこいだ」

「ほっておいてよ」 

 あっさり切り捨てられたアイシャがめんどくさそうにカップにコーヒーを分けながらつぶやく。要はそれが満足できる反応だったというように嫌らしい笑みを浮かべながら話を続ける。

「その点、アタシは裏社会でのコネがある。確かに叔父貴はいろんなコネがあるが、すべての世界を知ってるわけじゃねえ。もしそうならこれまでのアタシ等の苦労は半分くらい無駄だったことになるからな。そう考えるとアタシの昔のコネを使うっていうのが一番だと思うんだ」

「疎開の向こう側のアウトローか……信用できるのか? 」

 アイシャからコーヒーの入ったカップを受け取りながら渋い表情を浮かべるカウラ。要はまだ平然として見つめてくるカウラをにらみ返す。

「相手は電子戦、情報戦のプロだ。ネットでその動向を捜すのはまず無理。こちらが捜していると分かればひねくれ者の旦那のことだ。いくらでも妨害工作をしてくる。その点実際に足を使える人間を揃えておけば相手は物体だ。さすがの旦那も蒸発するってことが出来る訳じゃないだろ? 」 

「そう言えば昔液化出来るサイボーグの出てくるアニメがあったような……」 

 茶々を入れるアイシャを要は怒りの表情で睨み付ける。

「そんなことは無理だから大丈夫ですよ。でも……今は正規任務の部隊員ですよね、西園寺さんは。そう言う裏の世界の人ってそう言う立場とかで人を見るんじゃ無いですか? 」 

 誠の質問に機嫌を直した要が懐からカードの束を取り出した。

「地獄の沙汰もなんとやらだ。どうにか話を付けてみせるよ」 

「さすが財閥。凄いわね」 

 珍しく嫌みのない調子でアイシャが見たこともない特典付きと思われるカードを手にとって感心したように眺めていた。

「金はあって困るもんじゃねえ」 

 突然要はそうつぶやいた。カウラの表情が曇る。

「現金?」

 カウラの言葉に要は心底あきれ果てたという表情でカードをちらつかせてみせる。

「もらう人間はみんな後ろ暗いところのある人間だぞ。それ以前に租界から出られ無いようなヤバイ人間もたくさんいるんだ。そいつにカードを渡してどうなる? ただの樹脂製の板をもらって喜ぶのは赤ん坊だけだ。現金、しかも米ドルじゃないと受け付けないな」 

「米ドル? それじゃあ大変じゃ無いの。最近は換金規制でそう簡単には手に入らないわよ」 

 うんざりした表情のアイシャの肩を要が叩いた。

「だから手分けして換金するんだ。幸いアタシのカードはそれなりに信用がある。銀行一つ頭十万ドルとして……大手を十件も回れば十分だろ」 

 『十万ドル』という言葉を簡単に言う要に誠はただ薄ら笑いで答えるしかない。

「コーヒー飲んだらさっさと準備しろよ。今日の夕方までに現金を作って夜には連中に会うからな」 

 要は一気にコーヒーを飲み干して立ち上がる。誠達はただ呆れてその様子を眺めていた。

「先ほどの様子じゃ目星はついているとして……もう連絡はしたのか? 」 

「まあな。返事を待ってても無駄だ。こう言う連中は興味があるときはすぐに食いつくが、無ければ何年待っても反応はねえもんだ」 

「それでその何処の馬の骨ともしれない連中ににいくら使うのかしら……」 

 手を広げて金の計算をしていたアイシャを要が睨み付ける。アイシャはただにこやかな笑みを浮かべると誤魔化すような調子でコーヒーを飲み干す。

「さっさと準備しろよ! 」 

 要はそのまま食堂を出て行った。誠達は彼女を見送ると当惑しながら顔を見合わせた。

「そんなに簡単に手配できるのか?それなりに裏の世界に通じた人間が」 

 カウラの心配そうな表情。

「全くそれにしても本当にすさまじい金持ちね。軍人やる必要なんて無いじゃないの」 

 アイシャもただ呆然と机の上に散らかっているカードを手にとってはまじまじと眺めている。

 誠は何も出来ずに状況を見守っていた。どうやら大変面倒な状況に落ち込みつつある。いつものことながら誠にはため息をつくことしかできなかった。


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