殺戮機械が思い出に浸るとき 37
信じたくないこと。8機目の機動兵器にサーベルを突き立てながらシャムは涙が流れていくのを感じていた。
「死んじゃったの……本当に……消えちゃったんだ……アタシを残して……」
倒しても機動兵器はそれをカバーするように現れ、砲台への道を塞ぐ。グレネードで牽制しながら敵のパルスライフルの攻撃を干渉空間で避けてはなんとか道を開こうとするが、数に勝る敵に全身を阻まれていた。
『ナンバルゲニア中尉!急ぐんじゃない!我々が急行するまでなんとか耐えていればいいんだ』
通信でロナルドの第四小隊が向かってきているのがわかるが、それ以上にシャムには砲台のエネルギーチャージが気になっていた。
「今度撃たれたら誠ちゃん達が蒸発しちゃうよ!」
シャムの言葉にロナルドは口をつぐむ。シャムの直感は誰もが共通する認識だった。すでに30パーセントのエネルギーチャージが終わった砲台の砲身が青く不気味に光っている。
「俊平が死んじゃって、今度は誠ちゃん……みんな置いていってしまうんだね、私を」
ヘルメットに涙が滲んだ。シャムはそのまま叫びを上げて9機目の敵の頭部をレールガンで撃ち抜いた。涙はその間も絶え間なく流れていた。
『おいおい、勝手に殺すなよ』
「!」
突然の通信。それは聴き慣れた言葉の響きを放っていた。
「俊平!どこにいるの?うわっ!」
思いもかけない言葉にシャムは棒立ちになっていたところにインパルスカノンの直撃を受けそうになるが、機体は瞬時に反応してそれをかわした。
『大体クバルカ中佐の説明を聞いてなかったのか?俺はプログラムだぜ。肉体なんてものはただの入れ物さ』
シャムが呆然として操縦桿の手を離していた間にもシャムの機体は自分の意思でも持っているように次々と3機の敵機を屠っていた。
「もしかして……俊平はクローム・ナイトになったの?」
『ようやくわかったか。こいつのOSとは結構相性がいいみたいだな。処理速度も十分だし結構暴れられるぞ』
行く手を阻んでいた2機の機動兵器を撃破すると一気にクロームナイトは加速した。
『操縦はあとは任せた。俺は機動兵器のコントロールを奪う』
シャムは涙を拭って笑顔を作ると操縦桿をしっかりと握り締め、足のペダルを踏みしめて一気に敵艦に進撃を開始する。
「うん!おかしいね……嬉しいはずなのに……まだ涙が出てくる」
『バカ』
シャムはもはや砲台まで敵の妨害は無い。一気にシャムは砲台との距離を詰めた。強烈なGがシャムを襲うが今のシャムの障害ではなかった。
「お前が……全ての災厄の元凶なんだ!終わりにするんだ!こんなこと!」
シャムは叫びを上げると背中に吊り下げられた長砲身のレールガンの標準を砲台の砲身に定めた。
「これで終わり!」
叫びとともにシャムの長砲身レールガンが火を噴いた。砲身を貫かれた砲台は青い光を次第に弱めていった。
『見事だねえ……こっちは残りの機動兵器は無力化した』
「うん、残ったのも撃ってこないね」
シャムは笑顔で吉田の言葉にうなづく。
『それじゃあもう一人の俺に会いにいくか』
吉田の言葉でシャムはまだ事件が全て終わっていないことを理解しながらそのまま巨大な砲台の台座へと向かった。
デブリの中、インパルスカノンと言う牙を失った不気味な四角い箱がが見える。
「不気味だね」
『でかすぎだろまず……こうして接近されることを想定していないのか……作った奴の気がしれないね』
吉田の言葉のとおり全長1.5キロと言う長さはコロニーの破片と遜色のない大きさだった。シャムはそのまま標的にまっすぐ接近する。
『気をつけろよ……自動防衛装置はまだ生きてる』
シャムは静かにうなづくと砲台の端に取り付く。
「これだけ大きいと一体何をしたらいいのか……」
『そのまままっすぐ行けば機動兵器の射出口があるはずだ。そこからなかには入れる』
そのまま吉田が指し示すように機体を進めると言う通りのアサルト・モジュール一機が入れるような穴があった。
『魔女の婆さんでもいるのかね』
「誰それ、知り合い?」
『いやなんでもない』
吉田のたわいもない話を無視してシャムはそのまま砲台の内部へと侵入した。
明かりもなく、ただサーマルビジョンを通して周りにいくつかの熱源が通っていることだけはわかった。
『また発砲する気だな……ただ砲身が溶けているだろうから神前の馬鹿でも受け止められるだろ』
周りの熱源を探知したのか吉田の言葉がシャムのヘルメットの中に響いたと同時に砲台全体が大きく震えた。
「広い所に出るね」
『随分と余裕だな。シャムは神前をそれほど買っちゃいないと思っていたけど……』
「そんなことないよ。あの子はいい素質がある」
『さすがレンジャー教官殿。見立てがいいようで』
吉田の茶化す言葉を聞いているうちにクローム・ナイトは広い空間へと出ていた。
『気をつけろ。動力源に近いから自動防衛システムが作動している』
「そう簡単に行くとは思ってないよ、きっとってそこ!」
シャムの叫びと同時に銃弾の雨がクロームナイトに降り注ぐ。シャムは転がるようにしてそれを交わすとそのまま銃弾の雨が降ってきた元凶である自動防衛モジュールを狙撃した。
『まだいるぞ……いや、完全に囲まれた』
吉田の言葉のとおり今度は背後からレールガンの狙撃がクローム・ナイトのバックパックに命中した。
「うわ!」
思わずよろけつつ誘爆の可能性のある背部の動作系のシステムを切り離してなんとか体勢を立て直した。
『俺も焼きが回ったか……ここまで内部に防衛線を引いてくるとは思わなかった』
「俊平のせいじゃないよ。それに砲台の機能はもう無いんだから……勝負はもう付いてるよ」
シャムはそのまま目の前の防衛システムにサーベルと突き立てるとさらに背後にサーベルを一閃して背後の誘導弾を切り裂いた。
一瞬光がシャムの目に入った。その向こうにはレールガンを構える東和宇宙軍で制式採用されているアサルト・モジュール05式二機の姿があった。
『切り札を切りやがった……年貢の収めどきかね』
吉田の言葉が響くと同時に2機のアサルト・モジュールのレールガンの乱射が始まった。
シャムは黙って下を向いた。何も考えられず下を向いた。直撃弾がコックピットを襲う。
『シャム!寝てる場合じゃねえぞ!』
吉田の言葉が耳をおそう。ただシャムは思い出していた。
「こんなこと……前にもあった気がする」
そう呟くとシャムは思い出そうとしていた。
『前って……』
吉田がきっかけだった。シャムはかつてを思い出していた。




