殺戮機械が思い出に浸るとき 36
コックピット内部の全方位モニターに映し出される宇宙空間。先の大戦で破棄され、胡州から東和に引き渡されたコロニーの残骸があたりを覆う。
『随分と視界が効かないもんだな』
続けて出撃してきた要の声に誠は静かにレーダー画面に目を移した。
標的の砲台はP24宙域で停止し、その周りに強い重力波を発生させていた。エネルギー充填と反動を抑えるための重力アンカーの影響だとすぐにわかった。
『予定通りにことは進んでいるな。あとはクバルカ中佐の読みでは……』
カウラの言葉に合わせるように砲台から機動兵器らしき機影が出撃したことをレーダーが捉える。
「迎撃は第四小隊ですよね」
『吉田少佐のコピーがシャムに気づかないことを祈るばかりだな』
砲台から出撃した機影は、まっすぐ砲台に突入しているロナルド率いる第四小隊に襲いかかるように見えた。一方、砲台の破壊を目標としたシャムの機影は大回りしてコロニーの後端の影を移動し砲台を目指していた。
「こんなに簡単に行くんですかね」
『なんだ?初弾くらいは簡単に受け止められると踏んでの余裕か?』
冷やかすような要の言葉に誠はとりあえず法術管制システムを起動させた。周囲の空間がまるで手に取るように頭の中で把握される。
『まだだ。インパルスキャノンのエネルギー充填にはまだ時間がかかる。ただ心づもりだけはしておくことだ』
カウラはそう呟くと誠の機体の後ろに付けた。それに対抗するように要も機体を誠の機体の後方に移動させる。
「お二人ともそれじゃあ僕が吹き飛んだら……」
『おい、吹き飛ばされるつもりか?オメエさんが吹き飛んだら遼北、西モスレムでの核戦争が起こるんだ。吹き飛ばされてもらっちゃ困るんだよ』
画像のない要の言葉に誠は静かにうなづいた。
『西園寺。ちゃんとアタシが後ろで支えるからな。神前吹き飛ばされてもいいぞ』
「クバルカ中佐。それを言わないでくださいよ」
『ああ、そうだった中佐との二段構えだった。神前、吹き飛ばされてもいいぞ』
要の残酷な一言に誠は苦笑いを浮かべた。
『こちらデルタ・ワン。まもなく敵影を捉える……それにしても本当にデブリが濃いな……』
ロナルドからの通信で状況はすべて嵯峨やラン、そしてオリジナルの吉田の予想した展開へと進んでいるように感じられて誠は安堵しながら遥か視界の彼方の砲台に思いを馳せた。
『ランちゃんこちらも順調。あと二つ大きめのデブリをパスしたら一気に距離を詰めるよ』
放題破壊目的のシャムの方も順調に進んでいるのが通信でわかる。すべては上手く進んでいた。うまくいきすぎるくらいに。
『ちょっと待て!』
フェデロの叫びがネットワーク上に広がる。
『なんだって……質量が小さすぎるぞ!』
『デコイか』
要とカウラの声に誠はようやく事態を把握した。
『敵は機動兵器三機、あとはデコイだ』
ロナルドはそう言うと苦々しげな笑みを浮かべて次々と標的を撃ち抜いてみせた。発射された散弾で残り21機の分のデコイが爆散した。
『シャムは?』
ランの言葉に誠は一気にシャムの移動していた空間を拡大してみせた。火線が次々と走り、そこで激戦が行われていることを知らしめていた。
『シャム!』
『大丈夫……ランちゃん。もう二機落としたよ』
通信をするのもやっとと言うようなシャムの状況にランは静かに目を閉じた。
『私達がフォローに……』
『今からじゃ間に合わねえ……やはり吉田のコピーだよ。一本取られた。敵の本命はシャムを待ち伏せしていやがった』
デコイを牽引していた三機の機動兵器を撃破したロナルドの第四小隊がシャムのフォローへと向かうがすでに砲台はエネルギー充填を開始していた。
『いきなりトラブルか。さらに何か起きるんじゃねえのか?』
『西園寺、不吉なことを言うもんじゃない』
要の言葉にカウラが唇を噛む。状況は明らかに暗転しつつあった。
『要ちゃんの予想は合ってるみたいよ、エネルギー充填速度が予想より30パーセント早いわ』
艦長代理のアイシャの言葉に誠はレーダのエネルギーチャージ画面を覗いてみた。確かに充填速度は予想を上回るペースだった。
『速射が可能なのかあるいは……』
『カウラちゃんもなかなか鋭いわね。計算では予想より威力が50パーセントでかいわよ』
「え?」
誠はアイシャの言葉に呆然として振り返った。青ざめた表情のランがじっと誠を見つめているのが分かった。
『シャム!間に合わねえのか!』
『ごめん!無理だよ!』
六機目の機動兵器の胴体にサーベルを突き立てながらシャムが叫んだ。21対1でなんとか互角に戦っていること自体、シャムの腕前ならではというところなのにそれ以上を求めるのは誠にも難しい話だった。
「死ぬんですかね、俺」
誠は干渉空間を展開しながら呟いた。要もカウラも黙っていた。
「西園寺さん、カウラさん。死ぬのは俺一人でいいですから離れてください」
『馬鹿言うな!部下を見捨てられるかよ』
『そういうわけだ。射線上にいれば多少の砲撃威力の低減くらいの役には立つ』
「二人共!」
誠は自然とヘルメットの下から涙が流れていくのを感じていた。目の前の空間がピンク色に染まり、曖昧だった干渉空間が数キロにわたり明らかに分厚い質量を持って目の前に展開される。要とカウラは誠の機体に寄り添うようにしてその光の中で敵の砲撃を待つ様子を見せていた。
『エネルギーチャージ。継続しています』
パーラの言葉で明らかに予想時刻より長くエネルギー充填を行っていることが分かる。
「耐えてみせますよ……」
『震えながら言うんじゃねえよ』
要が皮肉めいた調子でつぶやく。誠はさらに神経を集中して空間の層を厚くしていく。背後ではランもまた黙って干渉空間を展開していた。
『発射されました!』
パーラの言葉と同時にP24宙域に光が走る。誠は黙って伸びてくる火線を見つめ続けていた。
衝撃、反動、続いて全身を痺れるような光の点滅が覆い尽くした。次の瞬間、機体の全システムが停止し、コックピット内部を覆っていた宇宙の輝きが消えた。
『おい、神前!』
要の叫びで彼女が生きていることを誠は知った。
「耐え抜いた……」
誠はすぐさまシステム再起動のスイッチを押すと同時に尻のあたりにヌメっとした感覚が走るのを感じていた。
『パーラ、耐え抜いたのか?』
そんなカウラの問いにパーラはそのままP24宙域の画像を再生した。砲台の発泡と同時にピンク色の空間が砲台を包み込み爆縮するのが確認できる。
『なんだ?神前の仕業か?』
「僕には……そんな芸当はできませんよ」
脱糞をバレないように誠はゆっくりと呟いた。
『何かが空間転移した形跡があります……いったい誰が……』
パーラが呟くと突然シャムの表情が凍りついた。
『嫌だよ!俊平!』
7機目を撃破しながらシャムが叫ぶ。誠の再起動したコックピットで再生された画像の中で巨大な砲台の砲身に突入するアサルト・モジュールの姿が見て取れた。
胡州の旧式のアサルト・モジュール零式が砲身の目の前で爆散する様子が映し出される。
『なんで?あいつが?』
『西園寺康子か……現在『信太』を旗艦とする摂州州軍が進行中だ。彼女なら『信太』からあそこまで吉田の機体を跳躍させるくらいの芸当はできる』
カウラの言葉に要は母のぽわわんとした顔と鋭い目つきを思い出して苦笑した。
『パーラ、識別ビーコンは出てたのか?』
どこまでも冷静な調子でランがつぶやく。
『はい、……確かに……吉田少佐でした』
パーラが自分の言葉を確かめながらつぶやく。
『体当たりなんてはやらねえのにな』
要はそれだけつぶやいてモニターの中で上を見上げた。
最悪の出来事の中でもパーラの言葉に反論をするはずのシャムだが、相変わらず劣勢な戦いを強いられていて通信を入れる余裕もない有様だった。
『目標ですが再びエネルギーチャージを始めました。予想発射時間は三分後!』
『あちらの主砲の損傷は?』
アイシャの問いにパーラは首を横に振った。
『おい、次弾も予測オーバーの威力か?今度こそジ・エンドだな』
『西園寺。最後まで諦めないことだ』
カウラの言葉に少しばかり腰を揺らしながら誠はうなづいた。もうこうなれば脱糞も糞もなかった。精神を集中させて目の前に再び干渉空間を展開した。
『5パーセントは威力が低減していると思うぞ』
「わかりました」
気休めにもならない威力低下の予測をするランの機体をモニター越しに見ながら誠は苦笑した。




